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第3章 仲間
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しおりを挟む「なあ、あれからソルの居所は分からないままなのか?」
ケイパーは通路を行く男性士官に声をかけた。
彼は艦の副官の補佐をしている。ケイパーとはパイロット訓練時の先輩、後輩にあたり、内部でも外部でも情報にも詳しく、聞けば許される範囲で話してくれた。
男性士官は足を止めると。
「何も情報は入ってきていないな…。もう、諦めろ。ソルは生きちゃいないだろう」
「だって、あいつ…。自分であっちにいったってのに?」
「さあな。そこは分からんが…。知り合いがいたか知らんが、連合のガキなんか手に入れたって使い道もないだろう? 生きていたとしても、どっかの辺境の星で労働でもさせられているさ」
「ちっ、ひでぇこと言いやがる…」
それでケイパーは士官の元を離れた。これ以上情報は得られない。
だいたい、見習い整備士が一人いなくなった所で痛くも痒くもないのだ。詳しく探る事もないだろう。
けれど、ソルと関わりのあったものは皆、心配していた。エッドは勿論、整備士のハンスに同じ時期に入った少年兵達だ。
自分でも出来る範囲で探って見たが、どうやってもソルの行方は知れない
あいつ。自分で行ったんだよな…。
あの時、離陸した機体のコックピット内から、一瞬だけ見えたソルの瞳が忘れられない。ケイパーを認めた途端、迷いの色が浮かんだ様に見えた。
昔、あいつの言っていた士官先はもしかして──。
過去のソルとのやり取りを思い出した。
二年前。連合に入隊届けを出すのにソルは躊躇っていて。どこかに行き先があると濁したのだ。
まさかと思った。どうせ戻ってくると思っていれば、案の定、その日の夜遅く肩を落とし戻ってきて、そのままブラシノス連合へと志願した。
何をもったいぶってんだと思ったけれど…。
あの時。ソルを連れて行った帝国の男と会うつもりだったのでは。
いったい何処で知り合ったのか。
なんにしても会って話さなければ何も分からない。
連絡くらい、寄こせってんだ。
ケイパーは船窓の外に広がる宇宙に目を向けた。
+++
同じく、遥か彼方の惑星で一人の壮年の男が配下のものを振り返っていた。
エドガー・フォン・ファーレンハイト。エテルノ帝国の現皇帝だ。
「あれの行方は掴めたか?」
「いえ…。それが、医院の焼失と共にその先の情報が全て紛失してしまい…」
「三年も前の事故だ。死んだと信じ切ればいいだけだが…。息子二人共に行方が知れんのはな」
自分の放った刺客に追われる途中、息子のひとりが交通事故を起こし、その際の爆発に巻き込まれ死んだ。
ただ収容された遺体は損傷が激しく、当時診察に当たった医師の判断でそのまま直ぐに埋葬されたのだった。
何処に埋葬したのかは、医師でなければ分からない。その医師は医院諸共、連合軍との戦火に巻き込まれ死亡し、医院は廃墟と化した。
どうしても遺体を探し出し、確実に死亡したのは兄の子だと確認したい。自身の身が病に侵され始め、余計にその思いが強くなったのだ。
しかし、その道は閉ざされた。
病の影が覆う白い顔。今年、五十一才となる。それ程年を重ねている訳では無いのだが、年齢以上に老けて見えた。
それは兄と同じ症状でもあり。
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男は窓辺に佇み外の景色に目を向けた。
枝に落ちきれず残った枯れた葉が、吹く風に揺れている。ここ惑星フィンスターニスには僅かだが四季があるのだ。
「弟の方の死亡は確実です。一緒にいた母親の死亡が確認されておりますので…」
「兄がもし生きていれば幾つになる?」
「二十歳前後かと」
男は苦笑する。
「私には男の後継ぎが一人もできなかった。皮肉なものだ。兄の子でなく私の子として生まれてくればよかったものを…」
「陛下…」
「もう良い。下がれ」
「は…」
家臣は恭しく頭を垂れると古めかしくも豪奢な部屋を退出した。
石造りの壁。優雅な彫刻を施した天井。意匠を凝らした刺繍が縫い取られた布張りのイス。その一つ一つが長い年月を経てここにある。
長く積み重なった歴史。これからも絶やす事なく次へ繋げて行かねばならない。
それは私の血でなくてはならないのだ。
兄の血など一滴も残してやるつもりはない。選ばれたのは兄クリストフではなく、この私なのだから──。
+++
日々の慌ただしさに追われる中、ふと連合軍で過ごした日々を思い出す。
今の様にドックに篭もって端末の前で作業をしていると、よくからかいに来た。陽気でお調子者。負けず嫌いの──。
ケイパー。元気にしているだろうか。
止まった手にゼストスが声をかけて来た。
「どうした? 何か問題発生か?」
「ううん。…ちょっと昔を思い出してた」
「昔?」
「連合軍にいた時、仲の良かった奴がいて…。いつもバカな事ばっかり言う奴だったけど、いい奴だったなって…」
「パイロットなのかい?」
「テストパイロットだったけど…。今はどうだろう? もしかしたら、正式なパイロットになっているかも…」
「そうか…。なら、戦場で会うかも知れないんだな?」
「もしかしたら…」
するとゼストスが少し考える様にしてから。
「なあ…。ソル。俺からアレクにこっちを主にするように頼もうか? パイロットでいれば、いずれその彼を討たなければならな時が来るかも知れないだろう?」
それは、ずっと思ってきた事でもある。
広い宇宙ではあるが、戦場は限られている。敵対していれば、いつかすれ違う事もあるだろう。
それでも──。
「…いいんだ。覚悟は出来てる」
「そうか」
ゼストスは気遣わしげに見ていたが、それ以上何も言わなかった。
ケイパーとはまた必ず会う。
そんな気がしてならなかった。
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