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しあわせなじんせい
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「天使様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃない。いきなりなんてこと言いだすんだ」
天使様の表情は渋いが、耳まで赤い。
怒らせたというわけではなさそうで、でも、嬉しくはないようだ。同じ次元に生きてないものに愛されても困ってしまうのはわかる。
「ええとよく懐いたペットのようなものと思っていただければ」
「俺の人格が、疑われるからそういういい方しない」
天使様は、ああ、本当に本気かと呟いて小さく頭を振っている。
「珈琲が飲みたい」
「十時まで朝食出してるところあるらしいので、行きましょう」
「……一人だけすっきりした顔して」
「はい?」
聞こえたけど、聞こえないふりをした。
なにか腑に落ちたのは確かで。そうだったのかと思うと胸の奥がポカポカしてくる気がしている。
「なんでもない」
微妙な距離感のまま、遊園地の中のカフェに向かうことになった。
運よくモーニングメニューには間に合い席に着く。
キャラクターのパンケーキと飲み物のセットはこの時間限定の品だ。無言というより思考に埋没するように黙っている天使様。
もぐっとパンケーキを食べてもあまりおいしくなかった。
もうちょっと、楽しくなる予定だったのにと肩を落としそうになる。しかし、それもこれも元彼がダメなのだ。
……まあ、それを言うならさっさと電話に出て処理しなかった私も悪くもある。後回しにしていたのは、対応してはいけないという勘が働いたのだと思うことにしておくが。あの様子なら家にまで張りこまれそうでそれはそれで気が滅入る。
それに仕事先も知られているわけで。
会社に話して、どこかに人事異動してもらおうかな。いっそ実家から遠いほうが……。
そんなことを考えながらもパンケーキをたいらげる。味は普通というと怒られそうだが、普遍的普通の良さがある。
アイスティーを飲みながら天使様に視線を向ければ目があった。
ものすごく見られてる。
「……あの、天使様」
「だから、零だって言っているでしょ。
で、なに?」
「そんなに見られると照れます」
「そんなにみてた?」
「二十分くらい」
ちらりと時計を見れば席に座ってそのくらい経過していた。その間、ずっと見ていたとは思わないが話を盛ってみた。
え。そんな?と慌てた様子なのがやはり可愛らしい。
「零は、とても可愛いですね」
「周囲にビビられる怖さがあると自認しているんだけど」
「かっこいいですよ?」
「……ダメだ。なにを言ってもダメになる」
「なにがダメなんですか?」
「俺の決意をダメダメにしてくる」
首をかしげるしかない。いったい何を決断していたのか私にはわからない。
ただ、私にとっては良くないことであったように思えた。
「なんで、俺だったんだ。
他にもいるだろ。ほら前にあった会社の人とか」
「ただの同僚です」
「相手はそんな感じじゃなかったけど」
指摘されて思い返せば、好意的、だったような気がする。僕のことも覚えてないんですからとがっくりしていたので、ごめんねと謝ったこともある。
「応じる気はありません。結婚とかもういいので。
この先の人生、一人で楽しくやっていくので、天使様もお気になさらず。推しに対する愛が普通に愛情なだけで何も変わりません」
「いやいやいや。気にするから。
普通に幸せな人生するはずだから。予定が狂う」
「では、予定通りに遂行しますので予定を教えてください」
「…………。
それはむり」
「それなら、私は勝手にいたしますので」
このような言い合いしたくないのだけど。
「死ぬほど幸せにしてやるとかいってくれたのに」
この場合、天使様が、というわけでもないでしょうけどね。
天使様は苦い表情で黙ってしまいました。
「わかった」
「お判りいただいて良かったです」
正直ほっとした。一人で楽しくやっていくだけなのでほっといてくれという主張は、天使様のお仕事として問題があるかもしれないと思ってはいたのだ。
ここは曲げるつもりはなかったけど。
「有給の残りつぎ込む」
「はい?」
「常時いるのは無理。引き継げない仕事もあるから。最初は一年くらいは融通してもらうけど、それまでは月一くらい」
「あのなんの話」
「藍里を幸せにする話」
どこから出してんですかその大きな手帳と突っ込むべきだろうか。
いや、私を幸せにする話がなんで有給とか言う話に? というか天使って有給の概念あるの? 人事があるくらいだから普通の会社なの?
混乱を極める私を天使様はいじわるそうに笑って。
「責任取って今世は幸せにするから、死後もよろしく」
そう言うことになりました。
色々、棚上げし、遊園地を楽しみそこからが怒涛の日々。
その翌日、実家に行って、結婚前提のお付きあいをしていると報告。しばらく国内にいないので挙式は先に写真だけとその月のうちに写真撮影。なお、入籍については手続きが煩雑なので後回しという話になり。
よく両親が了承したものだと思うのだけど。妹様が一年前のことを覚えていたらしくその時に助けてもらった人と言えばあっさりと了承された。
道場にも報告に行けば手荒い洗礼をあっさりいなしていたあたり天使様って、人外とおもったり。
元彼については案の定、ストーカー化してしまい警察のお世話になっている。その際、過剰防衛について話をされてしまったのだが、ちょっとした失敗だろう。
掴みかかられたので、うっかり投げ飛ばしてしまった。投げた先がアスファルトなのだから骨くらい折れる、かもしれない。低木な街路樹に投げとけばよかったとちょっと反省している。
無事、半年後からの長期休暇をもぎとった天使様は二年ほど下界に滞在し新婚生活を満喫。その後は出張が多いという設定で、時々遊びに来ることになっている。ちょっと寂しいが、お仕事だしと思っている。私も仕事ばかりで遊んでくれないと拗ねられたこともあったのだから。
そして、40年後無事に天界についたときには少しほっとした。
「しあわせになれた?」
「ええ、この先も幸せだと思いますよ」
「どうかな。責任が重い」
「これから先は二人の責任でしょう」
これからは天使様と秘書として楽しくやっていく。
「……大丈夫じゃない。いきなりなんてこと言いだすんだ」
天使様の表情は渋いが、耳まで赤い。
怒らせたというわけではなさそうで、でも、嬉しくはないようだ。同じ次元に生きてないものに愛されても困ってしまうのはわかる。
「ええとよく懐いたペットのようなものと思っていただければ」
「俺の人格が、疑われるからそういういい方しない」
天使様は、ああ、本当に本気かと呟いて小さく頭を振っている。
「珈琲が飲みたい」
「十時まで朝食出してるところあるらしいので、行きましょう」
「……一人だけすっきりした顔して」
「はい?」
聞こえたけど、聞こえないふりをした。
なにか腑に落ちたのは確かで。そうだったのかと思うと胸の奥がポカポカしてくる気がしている。
「なんでもない」
微妙な距離感のまま、遊園地の中のカフェに向かうことになった。
運よくモーニングメニューには間に合い席に着く。
キャラクターのパンケーキと飲み物のセットはこの時間限定の品だ。無言というより思考に埋没するように黙っている天使様。
もぐっとパンケーキを食べてもあまりおいしくなかった。
もうちょっと、楽しくなる予定だったのにと肩を落としそうになる。しかし、それもこれも元彼がダメなのだ。
……まあ、それを言うならさっさと電話に出て処理しなかった私も悪くもある。後回しにしていたのは、対応してはいけないという勘が働いたのだと思うことにしておくが。あの様子なら家にまで張りこまれそうでそれはそれで気が滅入る。
それに仕事先も知られているわけで。
会社に話して、どこかに人事異動してもらおうかな。いっそ実家から遠いほうが……。
そんなことを考えながらもパンケーキをたいらげる。味は普通というと怒られそうだが、普遍的普通の良さがある。
アイスティーを飲みながら天使様に視線を向ければ目があった。
ものすごく見られてる。
「……あの、天使様」
「だから、零だって言っているでしょ。
で、なに?」
「そんなに見られると照れます」
「そんなにみてた?」
「二十分くらい」
ちらりと時計を見れば席に座ってそのくらい経過していた。その間、ずっと見ていたとは思わないが話を盛ってみた。
え。そんな?と慌てた様子なのがやはり可愛らしい。
「零は、とても可愛いですね」
「周囲にビビられる怖さがあると自認しているんだけど」
「かっこいいですよ?」
「……ダメだ。なにを言ってもダメになる」
「なにがダメなんですか?」
「俺の決意をダメダメにしてくる」
首をかしげるしかない。いったい何を決断していたのか私にはわからない。
ただ、私にとっては良くないことであったように思えた。
「なんで、俺だったんだ。
他にもいるだろ。ほら前にあった会社の人とか」
「ただの同僚です」
「相手はそんな感じじゃなかったけど」
指摘されて思い返せば、好意的、だったような気がする。僕のことも覚えてないんですからとがっくりしていたので、ごめんねと謝ったこともある。
「応じる気はありません。結婚とかもういいので。
この先の人生、一人で楽しくやっていくので、天使様もお気になさらず。推しに対する愛が普通に愛情なだけで何も変わりません」
「いやいやいや。気にするから。
普通に幸せな人生するはずだから。予定が狂う」
「では、予定通りに遂行しますので予定を教えてください」
「…………。
それはむり」
「それなら、私は勝手にいたしますので」
このような言い合いしたくないのだけど。
「死ぬほど幸せにしてやるとかいってくれたのに」
この場合、天使様が、というわけでもないでしょうけどね。
天使様は苦い表情で黙ってしまいました。
「わかった」
「お判りいただいて良かったです」
正直ほっとした。一人で楽しくやっていくだけなのでほっといてくれという主張は、天使様のお仕事として問題があるかもしれないと思ってはいたのだ。
ここは曲げるつもりはなかったけど。
「有給の残りつぎ込む」
「はい?」
「常時いるのは無理。引き継げない仕事もあるから。最初は一年くらいは融通してもらうけど、それまでは月一くらい」
「あのなんの話」
「藍里を幸せにする話」
どこから出してんですかその大きな手帳と突っ込むべきだろうか。
いや、私を幸せにする話がなんで有給とか言う話に? というか天使って有給の概念あるの? 人事があるくらいだから普通の会社なの?
混乱を極める私を天使様はいじわるそうに笑って。
「責任取って今世は幸せにするから、死後もよろしく」
そう言うことになりました。
色々、棚上げし、遊園地を楽しみそこからが怒涛の日々。
その翌日、実家に行って、結婚前提のお付きあいをしていると報告。しばらく国内にいないので挙式は先に写真だけとその月のうちに写真撮影。なお、入籍については手続きが煩雑なので後回しという話になり。
よく両親が了承したものだと思うのだけど。妹様が一年前のことを覚えていたらしくその時に助けてもらった人と言えばあっさりと了承された。
道場にも報告に行けば手荒い洗礼をあっさりいなしていたあたり天使様って、人外とおもったり。
元彼については案の定、ストーカー化してしまい警察のお世話になっている。その際、過剰防衛について話をされてしまったのだが、ちょっとした失敗だろう。
掴みかかられたので、うっかり投げ飛ばしてしまった。投げた先がアスファルトなのだから骨くらい折れる、かもしれない。低木な街路樹に投げとけばよかったとちょっと反省している。
無事、半年後からの長期休暇をもぎとった天使様は二年ほど下界に滞在し新婚生活を満喫。その後は出張が多いという設定で、時々遊びに来ることになっている。ちょっと寂しいが、お仕事だしと思っている。私も仕事ばかりで遊んでくれないと拗ねられたこともあったのだから。
そして、40年後無事に天界についたときには少しほっとした。
「しあわせになれた?」
「ええ、この先も幸せだと思いますよ」
「どうかな。責任が重い」
「これから先は二人の責任でしょう」
これからは天使様と秘書として楽しくやっていく。
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