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おまけ

遺伝とそうでないところと突然変異 4

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 銃声の聞こえた場所はそれほど遠くなかった。
 膜に対して攻撃した場合に薄く白いものが見えるのだが、空中にそれが残っていた。

 中心には黒い穴が一つあった。今まで検証では穴が開くことはなかった。魔素を集めている時点で徐々に反応しているらしい。どうしても呪式の起動から魔法の発動はタイムラグがある。

 どうして穴が開いたのか、という答えは近くの木に刺さっていた。

「弾丸。
 リューでしょうか」

「魔弾だからそうだろう」

 木から取り出した弾丸をエリックは眺めていた。中の呪式をみているようだ。
 アリカはそちらではなく膜のほうに注意を向けた。じわじわと穴が埋まっていく。

「修復機能付きみたいですよ」

「一々直しに来るのも面倒だからそうなるだろうな。
 魔弾の外装は早さ、中身が遅延のようだ。
 膜が硬くなる前に打ちぬいて、周囲からの修復を遅くさせると穴が残る、ということだろう。
 魔銃は考えてなかったな」

「人が通れそうなほどの穴はできそうにないですね」

 アリカがエリックを見上げる。
 機嫌が良さそうだとアリカが気がつくのと彼が表情を消すのは同時くらいだった。なんでもありませんと言いたげだが、何か悪いことを考えついたに違いない。
 アリカは荷物を取りに行くと言ったエリックを見送った。二人で行けば場所がわからなくなるという主張はもっともだった。しかし、なにか隠し事を責められるのが嫌だったように思えてならない。

 その予想は大方当たっていた。

「……やけに大きい荷物あると思ったら」

「使わないほうがいいが、試し打ちもしてみたい」

「建前だけでいいですよ」

 本音が物騒すぎる。ここ数年平和だったので、合法的に物騒な代物を試す機会はなかった。
 見た目は猟銃。中身はカスタムされた魔銃である。反動を減らして、消音効果あり、威力増加というあたりまでは外装の呪式から見て取れた。見えない部分には何が仕込んであるのかアリカは知りたくない。
 聞くと話は長くなるのでマニアな連中でやってくれ、である。

「散弾を用意するから少し待って」

「……ほんと、もう」

 こんな事態だというのに楽しそうである。

 早さと遅延の魔弾は散弾効果もあって人一人が通れそうなくらいの穴はあいた。

「これが空いてるのは一時間くらいだな」

「じゃ、エリックは留守番しておいてください」

「なぜ」

「もし閉じたら開けてくれる人いないと困るからですよ」

 エリックはそこは全く考えていなかったようだ。愕然としたような表情が珍しい。
 その間にアリカは穴に指を入れた。違和感はない。いきなり別なところに飛ばされるような二段階トラップはなさそうだ。

「行ってきますね」

「俺が行く」

「ダメですよ。この穴の維持、あたしじゃできないんですから」

「それはそうだが」

「早く見つけてきます。時間がかかりそうなら一度戻りますよ」

 アリカはそう言って中に入った。



 扉が叩かれたのは、昼過ぎのことだった。

「お客さんなんて、熊かしら」

 テイルはそう言いながら壁にかけたなたを手に取った。実際、あったのだ。来客と思ったら野生生物ということが。
 その時は幸い鹿であったが、奴らもそれなりに怖い。

「熊?」

「冗談よ」

 人間のほうがよりたちが悪いということはこの少年に言うべきではないだろう。

 人間が、この森の奥に来ることはほとんどない。魔女の住処というのはそれなりに恐ろしいらしい。
 それでもくるのは、後ろ暗い薬を頼むか、魔女と言えど女と侮るようなやつだ。

「どなたですか?」

 扉を開けた先にいたのはそのどちらでもなかった。
 旅装の女性である。
 テイルはその女性をまじまじと見た。村の人ではない。
 程よく使い込まれた旅装。やや疲れたように見えるが、元々の肌艶は良さそうだった。つまりはここら辺では見かけないような人。

「うちの息子がお邪魔してませんか?」

 テイルの観察が終わるのを待っていたかのように、彼女はそういった。

「お姉さんでは?」

 彼女は若くはないが、15の息子がいるような年にはテイルには見えなかった。

「よく言われますが、母です。
 リュー、探したよ。なんで、こんな遠いとこまでやってきちゃったのよ」

「知らないって。
 あ、その人、ほんとに母だからそのナタ片付けてくれる?」

 リューは手慣れたようにテイルの手からナタを手放させた。

「帰るよ。お父さんも来ちゃったから、早く戻らないとおうちが大変」

「うん。じゃ、準備する」

 あっさりと話がまとまっている。テイルは置いてけぼりの気分で改めて来客に視線を向けた。

「保護していただきありがとうございます。
 お礼として、こちらを」

 そう言って彼女は小さな袋をテイルに渡した。思ったより重い。

「こんなにいただけません。滞在費はすでにいただいています」

「そこはちゃんとしたようですね。でも、迷惑料として受け取ってください。面倒なことの2、3引き起こしたりしたでしょ?」

「え。ま、まあ。では、ありがたく」

 確かになにもなかったというわけでもない。村で絡まれることもあったし、愛想が良すぎて気に入られ過ぎたことも。

「森の奥に一人暮らしというのは、大変でしょうね」

「妹と一緒なので、それほどでも」

「それなら寂しくはありませんね。
 リュー、行ける?」

「急かさないでほしいんだけどっ! 忘れ物なし! 大丈夫!」

 テイルは少し笑う。リューも母親の前では少し態度が違うらしい。

「では、お邪魔しました」

「お邪魔しました」

 神妙にリューがそう言ったことい違和感があった。

「また、来てね」

「今度は、君が来て」

 リューはそう返した。
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