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おまけ
遺伝とそうでないところと突然変異 2
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少年はリューと名乗った。15才というがその年にしてはやや小柄に思える。急にググっと伸びる家系と主張していたので、本人的にも何か思うところがあるのかもしれない。
雑用をやる、というのは頼むための方便でもなく、実際になにかするということだったらしい。
彼は日常のことはある程度、自分でできるらしい。
そして、手ぶらと言いながら腰に一つ鞄をもっていたようだ。拡張収納できる鞄と言っていた。その時点で、彼の生まれが相当な金持ちが確定である。
そこに着替えなど用意していたらしい。
テイルだけのときにこっそり滞在費として銀貨を二枚ほど渡してきた。断ろうかと思ったが、なにかあったとき用に預かっておくことにした。この田舎で銀貨を使うことはあまりないが、全く使わないわけでもない。
2,3日も立つ頃には彼は少しずつ身の上を話してくれるようにはなった。
五人家族で、妹が二人いること。15で成人なのだからと最近、家を出たばかりであること。妹たちが生意気可愛いということ。両親については微妙に濁していた。
優しいけど、なにかに没頭するとそれだけになる父と優しいけど、仕事が忙しすぎる母がいるらしい。
テイルの家族については聞いてこなかった。
ただ、魔女って本当? とは聞かれた。
テイルは魔法を使うことはなく、まじないと薬草を煎じるだけである。時折、煎じた薬を村に持っていき食料などと交換していた。
足りているとは言えないが、二人だけで食べていくには困らない程度ではあった。
リューが逗留して四日目、食料が足りなくなった。二人でなら週に一度程度で済むが、もう一人増えれば当然消費も増える。
その結果、村への買い出しに向かうことになったのだ。
問題だったのはそれだけではなく、リューもついてきたことだった。なにもないと言っても荷物持ちだからと押し切られたのはテイルも想定外だった。
テイルにとって村はあまり良い場所ではなかった。
悪意とまではいかないが、おまえはこちら側の生き物ではないという態度が透けている。いないと困るので表立ってそういうものがいないだけだ。
いつもの店で薬を納品し、次の依頼を受けるまではいつも通りだった。連れている少年に興味津々といった視線はあるが話しかけはしなかった。
違ったのは店を出た後だった。
「さすが魔女だな。得体のしれないものも手懐ける」
声をかけられテイルはげんなりした。
この村に若い男というべきものは5人いる。そのうちの一人、村長の末の息子だ。次の村長は俺だと言っているが、その兄のほうが継ぐことはほぼ確定している。その前提で隣町の町長の血縁の娘が嫁いでいるのだ。
まあ、いうだけ言わせておこうという雰囲気なのは、迂闊に指摘して外に出ていかれては困るからだろう。
労働力としての若い男は大切だ。
「手懐けるなんて言い方しないでください。手伝ってくださるだけです」
そうそうと言いたげにリューが頷くのがやけに子供っぽく見える。話をしている時は落ち着いた声で淡々と言うからギャップがすごい。
「子供みたいだな。そういうのがいいのか」
「お手伝いしてくれますし、頼りになります」
だからそこで、ほんと!?と言いたげにぱっと顔を明るくするのではないとテイルは思う。ああ、なにかこう庇護欲が、お姉さんが可愛がってあげるわぁという開けてはならない扉が開きそうになる。
テイルの葛藤を知らずか、リューはご機嫌である。
「そんな小さくひょろいのにか?」
「薪わりもお手の物でしたね。料理も上手で」
どちらも両親に教わったのだとか。
見た目と物腰と全く合わない特技である。
「あ、そう言えば、村長はいますか?」
「へ? ああ、父ちゃんははいるけど、なに?」
「森での狩りを許可してもらいたいのです」
「テイルがすんのか?」
「いいえ。彼が」
「大丈夫か?」
彼はリューを心配そうに見ていた。口は悪いが、そんなに悪いやつでもないのだ。ただ、ちょっと単純なところがあるだけで。
「弓を貸しましたが、それなりにはできそうです」
テイルはそこは嘘をつくことにした。リューが持っていたのは、銃だ。テイルでも実物は見たことがなく、驚いてしまった。こんなところに銃などが出回ることはない。それを直す技術も弾丸を補充することもできないからだ。
結局、弓矢のほうがましだったりする。
「今は家にいると思うぞ。ついていこうか?」
「いいえ。大丈夫です。ありがとうございました」
彼も用事があったのだろう。店に入っていった。
「彼はウェラ。まあ、会わないと思うので覚えなくてもいいですよ」
リューは首をかしげて、にっと笑った。
「え、手?」
テイルの手にリューは文字を書く。
「すきなの?」
そう書かれた気がした。
「なに言うんですか。付き合いが長いだけですよ。なんか、兄弟みたいな」
でもなとテイルは思った。このまま、この村にいるなら結婚相手とされてしまうのではないだろうか。
若い娘というのもこの村にはそんなにいない。テイルを入れれば4人だ。妹はまだ小さいので結婚相手ともならないだろう。
「……ないな」
他の4人もない。
テイルは未婚でいい。血を継ぐなら妹に期待だ。そもそも魔女というのは、血統だけで選ばれない。
良い目か良い耳を持たねばならない。
「さて、村長のところに行こう」
リューは少し不満そうにテイルについていった。
リューは村長にはやはり気味悪そうに見られたが、狩り自体は許可された。
その翌日、リューは銃の手入れをしていた。手入れの仕方も父親から教えられたらしい。ますます謎な人である。獲物を捌くのは母様のほうが得意という話もなんだかな、である。
ある程度手入れが終わり、銃弾の確認をしながらリューは森について尋ねてきた。
「森の奥には何がいるかって?」
「なんか、あるよね? 洋館みたいなの」
「あるけど、入ってはいけないという話だよ。
良くないものが、道をたどってきてしまうから道すら作ってはいけない」
「それなら浅いところで狩りをするよ。
ウサギとかおいしいな」
「……可愛いなくらいのニュアンスで言わないで」
「鹿とか困るでしょ。熊はいる?」
「奥に入るらしいけど、滅多に出てこないわ」
「良かった。イノシシくらいなら頑張る」
「ウサギでいいわ。おいしいもの」
うっかりお願いしたら、リューはほんとに狩ってきそうな気がした。しかし、テイルは狩られたウサギを見て妹が泣きだすということは予想できなかった。
可愛いウサギさん食べるの?という訴えに無情に食べると言ったリュー。
そして、加工済みのお肉を食べておいしいと笑顔になった妹。
どっちがひどいんだろうか。
テイルは無言で食べた。肉をいつも食べれるわけでもないのだから感謝していただくものである。
なお、皮は売る予定だった。
そうして、さらに一週間過ぎ去り。
「……迎えが来ない」
ぼそりとリューが呟いた。
「本当に来るの?」
「来るよ」
確信をもって彼は告げる。
「でも、来ないってことはなんかあると思うよ。この村」
「なんかって?」
「わかんないけど、なんか。
あの洋館、怪しくない?」
「近づいてはいけないって言われてるし、何か出てきたらどうするの?」
「殺せばいいじゃない」
テイルが驚いてリューを見れば、彼はいつもの通りだった。
雑用をやる、というのは頼むための方便でもなく、実際になにかするということだったらしい。
彼は日常のことはある程度、自分でできるらしい。
そして、手ぶらと言いながら腰に一つ鞄をもっていたようだ。拡張収納できる鞄と言っていた。その時点で、彼の生まれが相当な金持ちが確定である。
そこに着替えなど用意していたらしい。
テイルだけのときにこっそり滞在費として銀貨を二枚ほど渡してきた。断ろうかと思ったが、なにかあったとき用に預かっておくことにした。この田舎で銀貨を使うことはあまりないが、全く使わないわけでもない。
2,3日も立つ頃には彼は少しずつ身の上を話してくれるようにはなった。
五人家族で、妹が二人いること。15で成人なのだからと最近、家を出たばかりであること。妹たちが生意気可愛いということ。両親については微妙に濁していた。
優しいけど、なにかに没頭するとそれだけになる父と優しいけど、仕事が忙しすぎる母がいるらしい。
テイルの家族については聞いてこなかった。
ただ、魔女って本当? とは聞かれた。
テイルは魔法を使うことはなく、まじないと薬草を煎じるだけである。時折、煎じた薬を村に持っていき食料などと交換していた。
足りているとは言えないが、二人だけで食べていくには困らない程度ではあった。
リューが逗留して四日目、食料が足りなくなった。二人でなら週に一度程度で済むが、もう一人増えれば当然消費も増える。
その結果、村への買い出しに向かうことになったのだ。
問題だったのはそれだけではなく、リューもついてきたことだった。なにもないと言っても荷物持ちだからと押し切られたのはテイルも想定外だった。
テイルにとって村はあまり良い場所ではなかった。
悪意とまではいかないが、おまえはこちら側の生き物ではないという態度が透けている。いないと困るので表立ってそういうものがいないだけだ。
いつもの店で薬を納品し、次の依頼を受けるまではいつも通りだった。連れている少年に興味津々といった視線はあるが話しかけはしなかった。
違ったのは店を出た後だった。
「さすが魔女だな。得体のしれないものも手懐ける」
声をかけられテイルはげんなりした。
この村に若い男というべきものは5人いる。そのうちの一人、村長の末の息子だ。次の村長は俺だと言っているが、その兄のほうが継ぐことはほぼ確定している。その前提で隣町の町長の血縁の娘が嫁いでいるのだ。
まあ、いうだけ言わせておこうという雰囲気なのは、迂闊に指摘して外に出ていかれては困るからだろう。
労働力としての若い男は大切だ。
「手懐けるなんて言い方しないでください。手伝ってくださるだけです」
そうそうと言いたげにリューが頷くのがやけに子供っぽく見える。話をしている時は落ち着いた声で淡々と言うからギャップがすごい。
「子供みたいだな。そういうのがいいのか」
「お手伝いしてくれますし、頼りになります」
だからそこで、ほんと!?と言いたげにぱっと顔を明るくするのではないとテイルは思う。ああ、なにかこう庇護欲が、お姉さんが可愛がってあげるわぁという開けてはならない扉が開きそうになる。
テイルの葛藤を知らずか、リューはご機嫌である。
「そんな小さくひょろいのにか?」
「薪わりもお手の物でしたね。料理も上手で」
どちらも両親に教わったのだとか。
見た目と物腰と全く合わない特技である。
「あ、そう言えば、村長はいますか?」
「へ? ああ、父ちゃんははいるけど、なに?」
「森での狩りを許可してもらいたいのです」
「テイルがすんのか?」
「いいえ。彼が」
「大丈夫か?」
彼はリューを心配そうに見ていた。口は悪いが、そんなに悪いやつでもないのだ。ただ、ちょっと単純なところがあるだけで。
「弓を貸しましたが、それなりにはできそうです」
テイルはそこは嘘をつくことにした。リューが持っていたのは、銃だ。テイルでも実物は見たことがなく、驚いてしまった。こんなところに銃などが出回ることはない。それを直す技術も弾丸を補充することもできないからだ。
結局、弓矢のほうがましだったりする。
「今は家にいると思うぞ。ついていこうか?」
「いいえ。大丈夫です。ありがとうございました」
彼も用事があったのだろう。店に入っていった。
「彼はウェラ。まあ、会わないと思うので覚えなくてもいいですよ」
リューは首をかしげて、にっと笑った。
「え、手?」
テイルの手にリューは文字を書く。
「すきなの?」
そう書かれた気がした。
「なに言うんですか。付き合いが長いだけですよ。なんか、兄弟みたいな」
でもなとテイルは思った。このまま、この村にいるなら結婚相手とされてしまうのではないだろうか。
若い娘というのもこの村にはそんなにいない。テイルを入れれば4人だ。妹はまだ小さいので結婚相手ともならないだろう。
「……ないな」
他の4人もない。
テイルは未婚でいい。血を継ぐなら妹に期待だ。そもそも魔女というのは、血統だけで選ばれない。
良い目か良い耳を持たねばならない。
「さて、村長のところに行こう」
リューは少し不満そうにテイルについていった。
リューは村長にはやはり気味悪そうに見られたが、狩り自体は許可された。
その翌日、リューは銃の手入れをしていた。手入れの仕方も父親から教えられたらしい。ますます謎な人である。獲物を捌くのは母様のほうが得意という話もなんだかな、である。
ある程度手入れが終わり、銃弾の確認をしながらリューは森について尋ねてきた。
「森の奥には何がいるかって?」
「なんか、あるよね? 洋館みたいなの」
「あるけど、入ってはいけないという話だよ。
良くないものが、道をたどってきてしまうから道すら作ってはいけない」
「それなら浅いところで狩りをするよ。
ウサギとかおいしいな」
「……可愛いなくらいのニュアンスで言わないで」
「鹿とか困るでしょ。熊はいる?」
「奥に入るらしいけど、滅多に出てこないわ」
「良かった。イノシシくらいなら頑張る」
「ウサギでいいわ。おいしいもの」
うっかりお願いしたら、リューはほんとに狩ってきそうな気がした。しかし、テイルは狩られたウサギを見て妹が泣きだすということは予想できなかった。
可愛いウサギさん食べるの?という訴えに無情に食べると言ったリュー。
そして、加工済みのお肉を食べておいしいと笑顔になった妹。
どっちがひどいんだろうか。
テイルは無言で食べた。肉をいつも食べれるわけでもないのだから感謝していただくものである。
なお、皮は売る予定だった。
そうして、さらに一週間過ぎ去り。
「……迎えが来ない」
ぼそりとリューが呟いた。
「本当に来るの?」
「来るよ」
確信をもって彼は告げる。
「でも、来ないってことはなんかあると思うよ。この村」
「なんかって?」
「わかんないけど、なんか。
あの洋館、怪しくない?」
「近づいてはいけないって言われてるし、何か出てきたらどうするの?」
「殺せばいいじゃない」
テイルが驚いてリューを見れば、彼はいつもの通りだった。
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