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おまけ
(異界へ)帰省
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結婚相手の両親どころか家族に挨拶をする日が来るとは思わなかった。
エリックはなんだか逃げ出したくなってきた。
アリカの両親は退魔師、らしい。魔導師とは違い悪さをする魔物みたいなものを懲罰する役目で母方の血筋は千年は続いていると聞いた。
え、初耳とアリカも驚愕していたが、そのあたりの知識もまとめて失くしたかららしい。どうりで母方の実家が立派なわけですねと納得していたが鈍すぎないだろうか。
「……顔色悪いですけど、大丈夫ですか? 少し休んでからにします?」
アリカは自分の家に帰るだけなのだから、特に緊張もない。そのせいかエリックの様子がおかしくて驚いているようだった。
「お姉ちゃん、結婚の申し込みするくらいに緊張するイベントなんですから当たり前じゃない?」
「え、結婚してるけど」
「結婚しました報告でしょ?」
「……おおっ! な、なんでしょう。私も緊張してきました。うちの親、怖くないですよ。母さん怖くないですって。父さんは、まあ、嫁にやらないとか言いだすタイプなのでご安心ください」
「どこをどう安心しろと」
「いうだけなので」
物理でなんかしてこない、という主張らしい。エリックは別な意味で頭が痛くなった。
そういえば、両親も退魔師だ。それも相当の実力者と聞く。あちこちに呼ばれて出張が多かったらしい。おかげで弟がぐれましたと重々しく言っていた。そのぐれた弟ともちゃんと会うのかと思うとさらに気が重くなった。
一応は黙ってついてきているヒューイがエリックの肩を叩いた。励ましている風だが、視線が泳いでいるところを見ると笑うのをこらえているようだ。
「なにかあったら、母さんがなんとかします。
母さんはディレイのこと気に入ってますので大丈夫ですよ。まあ、気に入り方が話の分かる魔法使いきたっ! なので別な意味で不安ですが」
「俺も久しぶりに話のわかる魔導師だと思った」
「……ツイ様、まずいそうなのは全廃棄させてくださいね。
一回くらい日本が滅びそうなやつ生成させそうです」
「それな……」
ややうんざりしたような声でツイが相槌を打っている。そう、ツイもなぜかついてきていた。
誰も何も言わないのであえてエリックも何も言わなかったが、隠しても神威は零れている。歩いたあとになにか浄化されてるようだが、そこは大丈夫なのだろうか。
それともこれが普通なのか異界に来たばかりのエリックにはわからない。
そして、ふと気がついた。
退魔師として、神の使者として記憶のないアリカがそこに気がつくことはないだろう。経験の少ないアリアは判断できないだろうし、ディランはエリックと同じ立場だ。
ディランが少しだけ困ったように見上げてきたので、同じことを気にしているようだ。
ただ、ヒューイは全く気にしてもいないようだった。肝の据わり方が違う。
「……気にするな。たぶん、言っても変わらない」
「そうそう」
「えぇ?」
エリックとヒューイのいいようにディランはいやそうに顔をしかめる。こればかりは仕方ない。人ならざる者は人の都合に合わせない。
ディランは残念ながら、そういうものと付き合うことになるのだ。
そうして歩いているうちにぴたりとアリカが止まった。
「……さて、我が家につきましたよ。
ツイ様なんかしました? 地下鉄乗ってバス乗って着く家なんですが、徒歩でつくのおかしすぎます」
「空間を空けて短縮したよ。
最近、小技が使えるようになったんだ。多用すると怒られるけどね」
ディランが驚いたように見上げてくるが、エリックはそっちの方は気がつかなかった。異界の知らない地だからこそ気がつきにくいとは思う。しかし、魔法的揺らぎは感じなかった。
この世界固有のなにかのように思えた。
「私、あとで次元の神様にお会いしなきゃいけないってのに、なんで怒られるようなことするんですか……」
「こんな目立つ集団、公共交通機関にのせる気だったほうがおかしいと思う」
「……目立たない恰好のつもりが……」
アリカの視線がヒューイに止まった。
「ですね……」
「タクシーでも拾ったらよかったんだよ。
ブラックカードがある」
「先言ってください」
アリカはそうツイに文句をつけている。
それを放っておいて、エリックは家の方を見た。周囲と同じようなつくりの家に見えたが、庭がやや広いようだ。
むこうの世界でも見た車と似たようなものが二台駐車してある。
そして、家全体を囲むように薄い膜が覆っていた。他の家にはない特徴であろう。
「ほら、家の前で騒がない」
「誰のせいかと」
ぶつぶつと言いながらアリカは家の呼び鈴を鳴らそうとした。
しかし、呼び鈴を鳴らす前に扉があいた。
「表が騒がしいと思ったら」
「あ、ただいま」
「おかえりなさい。
いらっしゃいませ。異界からのお客様。歓迎します」
その言葉に応じるように魔素のようなものが揺らいだ。薄い膜が家の入口の部分だけぽっかりと穴があく。
アリカはなにも気がつかないようだった。アリアはちょっと不思議そうに見ていたが、問うほどきにしてはいない。ディランが驚いていて、ヒューイはおやおやと小さくつぶやいていた。
「どうかした?」
「なんでもない」
エリックは言わないことにした。
家が少しばかり不思議でも、別におかしくはないだろう。魔導師の家だって大抵なにかあるのだ。
「お邪魔します」
神妙に言葉を返せば、アリカの母は振り返った。
「きれいな声ね」
怪訝そうな娘からの視線に答えずアリカの母は微笑んだ。
室内にはアリカの家族がそろっていたようだった。
エリックはアリカの兄弟とは顔見知りだ。実物ではないにしてもそれに近いものに会っている。
母の方とは手紙のやり取りがある。しかし、彼女の父とは全く交流がない。
視線があって会釈したが、どう声をかけるべきかわからなかった。
頼りになるはずのアリカは兄に苦情を言っている。
「絶妙に座りにくい席取りしないでよ。兄さんはそっちいって」
「わかったよ。ああ、これが、アリア。
小さい頃のアリカ、そっくり、そっくり?か?」
「違うみたい。生意気なので、弟よ、苦労しろ」
笑顔でアリアを弟に押し付けた。
「昔からアリカは生意気だった」
「大人しかった妹に向かってなにを言うの」
「野蛮、の間違いでは?」
「あらぁ、お姉さまにそんな口きいていいの?」
「ほら夫の前だぞ」
「くっ。
野蛮でも生意気でもありませんでしたからね!」
「可愛い生き物だった」
もちろん、10才なアリカには野蛮なところも生意気なところもあったがそこはスルーすべきだろう。家庭の円満のために。
「……そ、それは過分な評価です」
「仲が良くてよいね」
言葉は優しそうで、温度が氷点下だった。
「まあ、座りたまえ」
「はい」
なにかを察したのか、エリックだけではなくアリカも大人しく席に着いた。
アリカから両親の紹介とエリックの紹介をする。そして、どうすればいいかなと言いたげに見られたが、エリックのほうもこういう場にいたことがない。
「初めまして。会えてうれしいよ。会うことなんてないと思っていたからね」
「絵も良かったけど、実物も素敵ね。アリカが元気そうなのもあなたのおかげだと思うわ」
「ありがとうございます」
神妙に答えておいたが、アリカの父からの不満であるという雰囲気は消えることはない。むしろ、気に入らんという風である。
これが、娘は嫁にやらんという男親かとエリックは知った。
「そうだ。手土産があるんだよね。
異界の魔道具。こっちで動くかはわからないけど、母さん欲しいって言ってたでしょ。話は通してあるからこっちに置いていていいって」
「まあ」
「君が作ったのかね」
「はい。音を繰り返すだけのものですが、構造がわかりやすいもののほうがいいかと思って」
習いたてのころのように、基本に忠実に作ったのはそれはそれで新鮮だった。
「分解してもよいかしら」
「分解と組み立て方はこちらに」
おそらくそうなるだろうから、エリックは最初からその想定で作っている。エリックも同じように異界の道具をもらったら構造を知りたくて分解するだろうから。
「……もらったものすぐ壊す話すするのどうかと思うよ。母さん」
「そうだぞ。音も鳴らしてない」
「そうね。試運転しましょ」
魔道具を起動すれば小さな音が鳴る。
世界が違っても無事、起動した。予想通りではあったがエリックはほっとした。動きませんというのはどうにもばつが悪い。
この世界と向こうの世界では魔素が類似している。魔法となれば動かすのは少し手を加える必要はあるが、基本的な構造の魔道具であればそのままでも運用できる。
一緒に持ってきた他の魔道具は動いていないので、短縮した部分が補えていないのだろう。
「この音は?」
しばし、繰り返す音楽を聞いていたアリカの父がエリックに尋ねる。
「アリカから教えてもらいました。家に伝わる歌だとききました」
「機能してるわね……。
こっちに定住しない? 色々便利だし、新しい魔法もあるし、楽しいわよ」
「母さん、そう言う話しない。
いきなり同居を打診する姑みたいだから」
「はいはい。
向こうが居づらくなったら、考えておいて。お母さん頑張っちゃうから」
「頑張らなくていいし、向こうにもちゃんと基盤あります。生活できてますので、どうぞご心配なく。そもそも、あたしはこっちで妖怪相手に戦うとか嫌なの」
「そうね。
こっちにいたらそうなるから、向こうのほうがいいわ。
うちの本家がうるさいったら。襲ってこないと思うけど、なにかあったら加減なく撃退していいから。自業自得よ」
「そうだな。アリカが安全に生活するのはこちらにいないほうがいい」
「……不穏な情報流すのやめてくれない?」
「一週間無事に過ごすといい」
「嫌なフラグ立てしないで!」
エリックはなんとなく察してしまった。
おそらく平穏とは無縁の一週間になるだろう。
「ちゃんと守るから」
「いや、その、嬉しいけどなんだろうな。
異界で魔法の試し打ちしたいって感じがするなぁ」
「そんなことない」
アリカはエリックの思いを見透かしたようではあるが、違うと言い張ることにした。
実はちょっとだけある。
色々試したいことは考えてきているのだ。おそらく、アリカの母には協力を仰げるはず。言葉にしていないが、彼女はいい笑顔をしている。
「……はぁ。ほどほどにしてよ」
アリカは諦めたようにため息をつく。
予想通りの怒涛の一週間を過ごすことになるのだが、それはまた別の話。
エリックはなんだか逃げ出したくなってきた。
アリカの両親は退魔師、らしい。魔導師とは違い悪さをする魔物みたいなものを懲罰する役目で母方の血筋は千年は続いていると聞いた。
え、初耳とアリカも驚愕していたが、そのあたりの知識もまとめて失くしたかららしい。どうりで母方の実家が立派なわけですねと納得していたが鈍すぎないだろうか。
「……顔色悪いですけど、大丈夫ですか? 少し休んでからにします?」
アリカは自分の家に帰るだけなのだから、特に緊張もない。そのせいかエリックの様子がおかしくて驚いているようだった。
「お姉ちゃん、結婚の申し込みするくらいに緊張するイベントなんですから当たり前じゃない?」
「え、結婚してるけど」
「結婚しました報告でしょ?」
「……おおっ! な、なんでしょう。私も緊張してきました。うちの親、怖くないですよ。母さん怖くないですって。父さんは、まあ、嫁にやらないとか言いだすタイプなのでご安心ください」
「どこをどう安心しろと」
「いうだけなので」
物理でなんかしてこない、という主張らしい。エリックは別な意味で頭が痛くなった。
そういえば、両親も退魔師だ。それも相当の実力者と聞く。あちこちに呼ばれて出張が多かったらしい。おかげで弟がぐれましたと重々しく言っていた。そのぐれた弟ともちゃんと会うのかと思うとさらに気が重くなった。
一応は黙ってついてきているヒューイがエリックの肩を叩いた。励ましている風だが、視線が泳いでいるところを見ると笑うのをこらえているようだ。
「なにかあったら、母さんがなんとかします。
母さんはディレイのこと気に入ってますので大丈夫ですよ。まあ、気に入り方が話の分かる魔法使いきたっ! なので別な意味で不安ですが」
「俺も久しぶりに話のわかる魔導師だと思った」
「……ツイ様、まずいそうなのは全廃棄させてくださいね。
一回くらい日本が滅びそうなやつ生成させそうです」
「それな……」
ややうんざりしたような声でツイが相槌を打っている。そう、ツイもなぜかついてきていた。
誰も何も言わないのであえてエリックも何も言わなかったが、隠しても神威は零れている。歩いたあとになにか浄化されてるようだが、そこは大丈夫なのだろうか。
それともこれが普通なのか異界に来たばかりのエリックにはわからない。
そして、ふと気がついた。
退魔師として、神の使者として記憶のないアリカがそこに気がつくことはないだろう。経験の少ないアリアは判断できないだろうし、ディランはエリックと同じ立場だ。
ディランが少しだけ困ったように見上げてきたので、同じことを気にしているようだ。
ただ、ヒューイは全く気にしてもいないようだった。肝の据わり方が違う。
「……気にするな。たぶん、言っても変わらない」
「そうそう」
「えぇ?」
エリックとヒューイのいいようにディランはいやそうに顔をしかめる。こればかりは仕方ない。人ならざる者は人の都合に合わせない。
ディランは残念ながら、そういうものと付き合うことになるのだ。
そうして歩いているうちにぴたりとアリカが止まった。
「……さて、我が家につきましたよ。
ツイ様なんかしました? 地下鉄乗ってバス乗って着く家なんですが、徒歩でつくのおかしすぎます」
「空間を空けて短縮したよ。
最近、小技が使えるようになったんだ。多用すると怒られるけどね」
ディランが驚いたように見上げてくるが、エリックはそっちの方は気がつかなかった。異界の知らない地だからこそ気がつきにくいとは思う。しかし、魔法的揺らぎは感じなかった。
この世界固有のなにかのように思えた。
「私、あとで次元の神様にお会いしなきゃいけないってのに、なんで怒られるようなことするんですか……」
「こんな目立つ集団、公共交通機関にのせる気だったほうがおかしいと思う」
「……目立たない恰好のつもりが……」
アリカの視線がヒューイに止まった。
「ですね……」
「タクシーでも拾ったらよかったんだよ。
ブラックカードがある」
「先言ってください」
アリカはそうツイに文句をつけている。
それを放っておいて、エリックは家の方を見た。周囲と同じようなつくりの家に見えたが、庭がやや広いようだ。
むこうの世界でも見た車と似たようなものが二台駐車してある。
そして、家全体を囲むように薄い膜が覆っていた。他の家にはない特徴であろう。
「ほら、家の前で騒がない」
「誰のせいかと」
ぶつぶつと言いながらアリカは家の呼び鈴を鳴らそうとした。
しかし、呼び鈴を鳴らす前に扉があいた。
「表が騒がしいと思ったら」
「あ、ただいま」
「おかえりなさい。
いらっしゃいませ。異界からのお客様。歓迎します」
その言葉に応じるように魔素のようなものが揺らいだ。薄い膜が家の入口の部分だけぽっかりと穴があく。
アリカはなにも気がつかないようだった。アリアはちょっと不思議そうに見ていたが、問うほどきにしてはいない。ディランが驚いていて、ヒューイはおやおやと小さくつぶやいていた。
「どうかした?」
「なんでもない」
エリックは言わないことにした。
家が少しばかり不思議でも、別におかしくはないだろう。魔導師の家だって大抵なにかあるのだ。
「お邪魔します」
神妙に言葉を返せば、アリカの母は振り返った。
「きれいな声ね」
怪訝そうな娘からの視線に答えずアリカの母は微笑んだ。
室内にはアリカの家族がそろっていたようだった。
エリックはアリカの兄弟とは顔見知りだ。実物ではないにしてもそれに近いものに会っている。
母の方とは手紙のやり取りがある。しかし、彼女の父とは全く交流がない。
視線があって会釈したが、どう声をかけるべきかわからなかった。
頼りになるはずのアリカは兄に苦情を言っている。
「絶妙に座りにくい席取りしないでよ。兄さんはそっちいって」
「わかったよ。ああ、これが、アリア。
小さい頃のアリカ、そっくり、そっくり?か?」
「違うみたい。生意気なので、弟よ、苦労しろ」
笑顔でアリアを弟に押し付けた。
「昔からアリカは生意気だった」
「大人しかった妹に向かってなにを言うの」
「野蛮、の間違いでは?」
「あらぁ、お姉さまにそんな口きいていいの?」
「ほら夫の前だぞ」
「くっ。
野蛮でも生意気でもありませんでしたからね!」
「可愛い生き物だった」
もちろん、10才なアリカには野蛮なところも生意気なところもあったがそこはスルーすべきだろう。家庭の円満のために。
「……そ、それは過分な評価です」
「仲が良くてよいね」
言葉は優しそうで、温度が氷点下だった。
「まあ、座りたまえ」
「はい」
なにかを察したのか、エリックだけではなくアリカも大人しく席に着いた。
アリカから両親の紹介とエリックの紹介をする。そして、どうすればいいかなと言いたげに見られたが、エリックのほうもこういう場にいたことがない。
「初めまして。会えてうれしいよ。会うことなんてないと思っていたからね」
「絵も良かったけど、実物も素敵ね。アリカが元気そうなのもあなたのおかげだと思うわ」
「ありがとうございます」
神妙に答えておいたが、アリカの父からの不満であるという雰囲気は消えることはない。むしろ、気に入らんという風である。
これが、娘は嫁にやらんという男親かとエリックは知った。
「そうだ。手土産があるんだよね。
異界の魔道具。こっちで動くかはわからないけど、母さん欲しいって言ってたでしょ。話は通してあるからこっちに置いていていいって」
「まあ」
「君が作ったのかね」
「はい。音を繰り返すだけのものですが、構造がわかりやすいもののほうがいいかと思って」
習いたてのころのように、基本に忠実に作ったのはそれはそれで新鮮だった。
「分解してもよいかしら」
「分解と組み立て方はこちらに」
おそらくそうなるだろうから、エリックは最初からその想定で作っている。エリックも同じように異界の道具をもらったら構造を知りたくて分解するだろうから。
「……もらったものすぐ壊す話すするのどうかと思うよ。母さん」
「そうだぞ。音も鳴らしてない」
「そうね。試運転しましょ」
魔道具を起動すれば小さな音が鳴る。
世界が違っても無事、起動した。予想通りではあったがエリックはほっとした。動きませんというのはどうにもばつが悪い。
この世界と向こうの世界では魔素が類似している。魔法となれば動かすのは少し手を加える必要はあるが、基本的な構造の魔道具であればそのままでも運用できる。
一緒に持ってきた他の魔道具は動いていないので、短縮した部分が補えていないのだろう。
「この音は?」
しばし、繰り返す音楽を聞いていたアリカの父がエリックに尋ねる。
「アリカから教えてもらいました。家に伝わる歌だとききました」
「機能してるわね……。
こっちに定住しない? 色々便利だし、新しい魔法もあるし、楽しいわよ」
「母さん、そう言う話しない。
いきなり同居を打診する姑みたいだから」
「はいはい。
向こうが居づらくなったら、考えておいて。お母さん頑張っちゃうから」
「頑張らなくていいし、向こうにもちゃんと基盤あります。生活できてますので、どうぞご心配なく。そもそも、あたしはこっちで妖怪相手に戦うとか嫌なの」
「そうね。
こっちにいたらそうなるから、向こうのほうがいいわ。
うちの本家がうるさいったら。襲ってこないと思うけど、なにかあったら加減なく撃退していいから。自業自得よ」
「そうだな。アリカが安全に生活するのはこちらにいないほうがいい」
「……不穏な情報流すのやめてくれない?」
「一週間無事に過ごすといい」
「嫌なフラグ立てしないで!」
エリックはなんとなく察してしまった。
おそらく平穏とは無縁の一週間になるだろう。
「ちゃんと守るから」
「いや、その、嬉しいけどなんだろうな。
異界で魔法の試し打ちしたいって感じがするなぁ」
「そんなことない」
アリカはエリックの思いを見透かしたようではあるが、違うと言い張ることにした。
実はちょっとだけある。
色々試したいことは考えてきているのだ。おそらく、アリカの母には協力を仰げるはず。言葉にしていないが、彼女はいい笑顔をしている。
「……はぁ。ほどほどにしてよ」
アリカは諦めたようにため息をつく。
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