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温泉と故郷と泣き叫ぶ豆

あなたをさがして 1

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 ちょっと準備があるというロブさんに先に家を出ることを告げて外に出てきました。
 外は当たり前のように真っ暗なので魔法の明かりを用意します。あーちゃんも微発光してますが、足元までは確認できるほどではありません。
 念のため、家の周りに変なものがないかは確認しておきます。マルティナさんが外出しているとは考えにくいですが、子供が変なところに行くことはありますからね。
 そうやって動いているあたしの後ろをふよふよとあーちゃんはついてきているわけですが、急に目の前にやってきました。

「置いていかないの?」

「ロブさんですか? 変な死亡フラグ立ちそうなので連れていきますよ」

 あーちゃんは何か言いたげでしたけど、ここで単独行動とられるのも困りますし。なにかあったときに色々面倒そうなんですよ。

「周囲に異変はなさげですね。やっぱりマルティナさんとお子様一名もなんかあった系ですか」

「巻き込まれたのか当事者かわかんないね」

「そうですね……。さて、どっちにいますかね?」

 気を取り直して、エリックがいそうな場所を確認しておきます。
 ちゃんと機能しているようで、反応がありました。おそらく町のほうでしょう。

「あっちですね。微妙に動いているみたいなので、どこかに放棄されたってこともなさそうです」

「よかったけど、GPS付ける奥さんとかどうなの」

「あたしもついてますが」

「どっちもおかしいからいいのかしら」

 その暴言、否定しにくいんですよね……。用意してきたのエリックですし。しかも、上手くできたらしくご機嫌でした。
 軽くスルーすることにして、扉を見ていたらすぐにロブさんが出てきました。なぜかぎょっとしたように半歩下がられましたけど。

「行きますよ。時間の勝負とまではいきませんけど、時間経過で悪化する可能性があります」

「わかった」

 ロブさんが短く答えてついてきてくれるのは、軍人だからですかね。面倒な説明がなくて結構なことですが、ある程度の説明はこちらから振らねばないという問題が。
 正直、あたしも事態を把握してないですし、どこから言ったものか……。
 そんなことを考えながら歩いていたら。

「置いていくと言われるかと思った」

 ぼそりとロブさんに呟かれてしまいました。

「騒がれると面倒ですし、子供とマルティナさんを確保したあとの安全を守っていただきたいのですよ」

「それは確保するが、なにがどうなってるんだ?」

「よくわからないのについてくるっていいましたね」

 しかもロブさんもがっちり武装しております。荒事になるの確実と予想してないとしませんよ。それにしても長剣二本持ちですか、中々多才のようでとうっかり観察してしまいました。

「マルティナもいないし、魔導師もいない、そのうえ、来訪者がこそこそ出かけていくなんて不審の極みだろ」

 あたしはその指摘に肩をすくめました。もっともな話です。あたしとしては寝起きでそこまで冷静に確認できるというのが羨ましいですね。
 あたしなんて寝起きで、うーん? ん-? なんか変な気がする? と無駄な時間を多少費やしてしまいました。

「それで結局、どこに行くんだ」

「あっちのほう」

 あたしは先ほど確認した方向をさしました。暗くてよく見えませんが、長く住んでいるロブさんにはわかるでしょう。たぶん。

「町、でいいのか?」

「多分そっちだと思いますけど。潜入方法はご存じありませんか?」

「抜け道はあるが、俺がいなかったらどうするつもりだったんだ?」

「魔導師の魔導師らしいところが本領発揮ですね」

 あたしの前に立ちふさがったことを後悔するがいいというやつですね! 壁でも塀でもぶち破ってやりますよ。
 まあ、それは最終手段で穏当にするつもりはあるんですよ。でもあまり期待しないでほしいってやつでもあってですね。こういう言い方に。

「……俺が道案内する」

 おやおや、呆れられてしまいましたね。なお、あーちゃんも同じ顔をしています。

「気をつけて。普通のふりしてるけど、お姉ちゃん、ブチ切れてるから」

「そうか」

 こそこそと二人でやってますが、気にしません。事実です。でも、なんかもやっとしたので、もっとやる気を出してもらうエサを用意しますよっ!

「どうでもいいので、きりきり働いてください。場合により特別報酬はずみます」
 
 どこかに定住するなら金銭で買えない信用とか必要な場合もありますから、この場合保証人的ななんかをすることになりそうですけど。
 で、ロブさんがそれに返答する前に、背後がガサガサっと音がしました。風の音とかではないですね。
 え? なぜ?

「なに!?」

「ほんとか?」

 はい?
 さらに背後から声が聞こえてきたんですけど。

「どーゆーことですか?」

「黙って静かに遠くからついてこいとはいったんだが」

 頭が痛そうにロブさんが言ってますが、そういう問題じゃありませんからね!
 気が進まないままに声のしたほうを見れば下っ端さんが五人ほどいらっしゃいました。ええ、こちらも武装済み。

「あーちゃん、気がついていた?」

「あれ? お姉ちゃん気がついてなかった?」

 顔を見合わせてしまいましたね。
 認識の齟齬がありました。おお、思ったよりもずっと周りが見えてませんね。すーはー深呼吸をして落ち着きを……むりですね。
 理性が焦りとかそういうのを全力で抑えてるので、その他がおろそかになっております。

「今から帰れとはいいませんが、危ないことになっても助けませんよ。もう後で覚えてなさいねっ!」

 最後はロブさんに向けて言いましたよ。恩着せがましく恩を押し付けてやりますよ。
 結局、団体様で町まで向かいました。にぎやかなことで。

「困ったときに伝令役とかいるだろ」

「別に、怒ってはいません」

 ロブさんは後方にいた五人についてそう言いわけしてきました。すこしばかりきまり悪そうですが怒ってはいないんですよ。
 手があるに越したことはない、という考えは間違っていないでしょう。相手が魔導師でなければ。

「ただ、本当に、危なかったらさっさと逃げてくださいね。手助けは期待しないでください。
 想定外の怪我とか責任もてません」

 遠足くらいの軽さでついてきている五名様に釘を刺しておきます。ロブさんもなんでこんな人たちを連れてきたのか問いただしたいですよ……。
 案の定、ん? みたいな表情で見返されました。

「そこは報酬に上積み」

「優秀な技師に義足とかでもいいぞ」

「墓には勇敢に戦ったとのこしてくれ」

 ……。
 いや、ほんとに、割りきりが良いというべきなんでしょうか。死線を超えてきた兵たちはちょっと箍が外れているんですかね……。ロブさんはふざけているなと釘差ししていますけど。

「悲壮感はないわね」

 あーちゃんは呆れたように言っていますけど、同意です。気がまぎれるのは良いというべきでしょうか。
 一人で黙っているとこう色々考え出してしまってですね……。

 帰りたいと言われたときに、手を引いておけばよかったと思いますね。あ、甘えられるイベント!? と真っ白になっている場合ではありませんでした。思い出すたびにフリーズするので丁重に記憶の底にしまったのも間違いですね……。
 判断を盛大に間違いました。

 無理をさせるようなことをしたのです。いっそ、死亡フラグの話をしておけばと後悔の海に浸っていたいのですが、現状それは許されないんですよね。

「重いため息」

「こうなったら、元凶をさっさとぶっ飛ばしてですね、新婚旅行の続きを楽しむんです」

 あーちゃんははいはいと軽い全く心のこもってない合いの手を入れてくれました。大事ですよ。
 ……まあ、この次に行くところはもう領地なのですが。領地行ってそれから魔導協会の本拠地に行く予定。
 予定が未定になりかねない現状を早く何とかしないと。

 そんなこんなで町の門の前までやってきました。ほどほどに背のある柵が町の周囲を覆っています。みっしりとしたものではなく、牧場とかで見そうな隙間の空いた感じのやつですね。
 簡単に超えられそうですが、正攻法でないと警報が鳴る仕組みになっているそうです。夜間の出入りは基本的に禁止です。
 昼間は切ってるので入り放題らしいので、それもどうなんだろうと思いますけど。

 門をちょっといじると切れるってのもどうなのかと……。

「どうなんです。それ」

「マルティナから教えてもらった。なんでもシスターに伝わる秘伝」

 信頼関係があるのか、それとも口が軽いのか、警戒していたのか、わかりませんね。警報を切って、別の場所から潜入することになりました。
 よいしょっと乗り越えるのを潜入といいたくないのですが……。墓地の裏に出ましたよ。え、幽霊とか出る? むしろ、あーちゃんが幽霊?

 そう思いつつ教会に近づいていくと変な音が聞こえてきました。小さい、けれど、耳につく音。近寄りたくなくて思わずあたしは立ち止まってしまいます。
 それに気がついたあーちゃんが振り返りました。

「なに?」

「その、変な音聞こえません?」

「あ、確かに」

 耳鳴りのようなノイズキャンセラーのような微妙に耳に刺さる音。
 あーちゃんも顔をしかめますが、ロブさん以下5人は首をかしげています。つまりは、これはあたしたちにしか聞こえないということで。

 ふっと魔法の明かりが消えました。
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