232 / 263
温泉と故郷と泣き叫ぶ豆
呼ぶ声をたどり 2
しおりを挟む
なんだかんだと食事が済みまして、そろそろお暇をという話になったのです。が、問題がありました。もう夜なんですよね。
私は夜目が利きませんし、移動手段も徒歩しかないのでどうするかはエリックの判断に任せました。
エリックは描いてもらった町の地図をじっと見つめたあと、小さくため息をついていますね。
「夜間は動かないほうが良さそうだ。俺はいいから、アーテルに部屋を用意してほしい」
「へ? いやいや、大丈夫ですって。野宿平気なたちでして」
嘘です。体がバキバキになってよろよろしました。出来ればベッドが欲しいですが、エリックを一人にさせる危険と天秤にかけるまでもありません。
「そこの椅子でもつなげて寝たらどうだ」
ロブさんもそう言ってますが、明らかに面倒そうです。提案を蹴れば、じゃあ、出てけと言いだしそうな感じですよ。
「使えそうな部屋はもう空いてないの。子供たちのこともあるし、そうしてもらえると助かるのだけど」
マルティナさんは困り顔です。VIP対応をするべき来訪者に雑な対応というのもシスターとしては困るんでしょうね。
「そこらへんの床でいいですよ。朝、勝手に出ていくので」
「こっちはなんとかするから気にしないでいい」
「そう? じゃあ、お任せするわ。
子供たちもそろそろ眠いみたい」
おそらく大変であろうマルティナさんにお手伝いを申し出ましたがお断りされました。代わりに他の大人が手伝わされていましたけどね。微妙に暇でなんとなーく眺めているとロブさんが近寄ってきました。
「……本当に人手はいらないのか」
「いらない。巻き込む心配をするほうが面倒だ」
「申し訳ないんですが、あたしたちは殺傷力が高すぎて調整が難しいんです。人質とかにとられないようにしていただくのが一番良いと思います」
口は悪いけど人の好さそうなロブさんにお断りしました。まあ、そこからの後ろから刺される危険もなくもない、という考えもあるんですけどね。そのあたりは言う必要もないでしょう。
ロブさんは我々の主張に全力で引いてたので悪いことは考えていないようでしたから釘差しも必要なさそうですし。
「そ、そうか。じゃ、頑張れよ」
引いておきながらも立ち去り際にそう言ったりするのが、ロブさんの人の好さですかね。まあ、人が良くないと足手まといと言われそうな人たちを連れていたりしないものです。
逆に守るもののために手を汚すのもいとわないというのもありそうですけどね。
疑い深いとは思うのですが、場合によりエリックすら敵であるという状況なので。
エリックがどこかで諦めて譲ったりしないかだけが本気で心配です。災厄の正体の想像がついてきただけに危ういんですよ。
「なに?」
エリックをじーっと見上げていれば、怪訝そうな表情で見下ろされました。それから少し何か考えるように少し眉を寄せて、ぽんぽんと頭を叩かれました。
「大丈夫」
あたしの心配が透けていたようです。それにしてもこれほど信用ならない大丈夫もあまりありませんね。
「そういうことにしておきます」
でも、言い争うのも不毛です。だから、こういう可愛くない言い方になるのです。気を抜くと闇落ちと死亡フラグの落とし穴があいていることをそろそろ自覚していただきたい。
さて、とりあえずは邪魔な我々は壁際によることにしました。お子様たちはいつもと違う環境で寝付けなさそうでバタバタしております。
「子供は元気ですね……」
おねむでも限界まで頑張るのが子供ってもんですが。夜は病人&けが人のひとたちも自分たちの部屋に引き上げていくそうで、ロブさんやその他の男性はそちらの手伝いもあれこれしているようです。
誰もこちらには注意を払っていない状態です。秘密の話には向いているタイミングかもしれません。
「ディレイはどこから始めたいですか?」
「ジャスパーをどうするか迷っている。あれは人質になるか?」
「……自力で何とかしそうなんですけど。軍馬ですよね。それからなんか馬具にあれこれしてませんでした?」
ついでに馬車のほうも色々な機能がありそうですが、説明されていません。あたしが引くと思っているのでしょうね。間違いはありません。必要なものを詰めているつもりが、調子に乗ってあれこれ入れ始めるのはどの分野の魔導師でも同じと思いました。
一点豪華主義もいますが、その豪華が突き抜けてます。
「馬具には防御に特化したとか言っていたな。ただ、ジャスパーは大型種だから普通に蹴られたら怪我をする」
「ですよね……。悪いですけど、後回しでもよいのでは?」
薄情な飼い主で申し訳ないです。連れまわすほうがきっと危険。と言い訳します。なにせあたしの乗馬技術などへっぽこですし、エリックも普通に乗るのが何とか程度です。
エリックは気が進まなそうですが、同意をしてくれました。これがユウリなら華麗に乗り回しそうです。しかし、魔導師としては破格の運動能力といってもたかが知れています。
「教会から行きますか」
「それだとエルアとカリナが危ないかもしれない」
「先に確保必須ですか。地図見て話しましょうか」
せっかく書いていただいたのですし。
この町もフェザーの町と同じような形をしています。広場を中心に道が蜘蛛の巣みたいな形で広がっています。
領主館はこの町の中にはないのもフェザーと一緒ですね。これは他の領地でも同じで一番近い町とは馬車で十分くらいのところにでーんと立ってるのが普通だそうです。領地が発展すると町の規模が大きくなって呑まれることもあるんだとか。
グルウの町はそこまで大きくなく、領主館へは20分くらいかかりそうなくらい遠いんですが。
「こっち先に行きます? 話を通しておいたほうが良い気がしますが」
「その気があったら先に案内を寄こすだろ」
エリックは苦笑とともに言われましたが、どういうことですか? 首をかしげるあたしに説明してくれたところによると。
お忍びというのは、一般国民の皆さまには知らせない、という意味であったそうです。つまり、領地を通過する領主には既に通告済み、そのうえで関与しないという誓約を取った、らしいです。
な、なんだって! と叫びそうになりましたが、マルティナさんにガチギレされそうなので自重しました。
「言ってください」
「師匠が気がつくまで黙っているようにと言ってたんだが、全く、気がつかなかったな」
「階級社会に生きておりませんのでわかりません」
ふてくされてしまいますよ。わかりますよ。VIPが旅行中に不慮の事故やトラブル起こしたときの対応をしてもらわないと困るからですよね。でも、言ってもいいじゃないですか。なんですか、その暗黙の了解。
新婚旅行と浮かれてここまでは何も考えてなかったあたしが悪いんですか。
エリックに拗ねるなといわれて一応気を取り直しましたけどね。ほんと特別待遇というのは……。
「じゃあ、ここにも知らせが来てるってことですね」
「そう思う」
「それなら、ある程度まではお目こぼしいただけると期待できそうですかね。
教会にはカリナさん経由で全バレしてると思うので」
教会にはそこまで隠す気がなかったんです。ただの婚約者の故郷にいって墓参りするイベントですよ。隠すほうが怪しいですからね。
油断を誘おうとかちょっと考えたりもしましたね。ちゃんと罠を用意してもらわないと困りますし。
何もしてないやつを殴るのはさすがに来訪者の権力でも難しそうですから。
ただ、カリナさんやエルアさんまで来るとは思ってなかったんです……。
「な、なんですか」
じーっとエリックに見られましたよ。薄っぺらい策略が漏れてますか。最初から、殴るつもりで来てるってこともばれましたか?
ふぅとため息をつかれて、俺のことは俺のことだと釘を刺されました。
あ、はい。そうですね。先走りましたね。
でも、反省はしませんよっ!
「ほんとアーテルは、俺のことになると見境ないな」
「それは、申し訳ありません」
重すぎる愛です。やや狂信っぽいのが自分でもあれですが。
あとヤンデレ気質も出てきてましてほんとに申し訳ないという感じです。自重しますけどね。漏れてないといいなぁとほんとに思います。
「俺も人のこと言えないか」
「はい?」
「もし、アーテルに傷でもつけたら、相手が無事でいると思わないほうがいい」
……。
斬新な脅迫ですね。不要な被害を出したくなければ、無傷で大人しくしていろということですか。俺が心配とかいうより効果が見込めると思ったんでしょうね。間違ってないです。
エリックに不要な殺生させたくありませんし、襲撃者も不幸だなと割り切れもしません。
それにあたしの場合、心配と言われても大丈夫で押し切りそうですからね。死亡フラグを折るのと多少の傷では比較するべくもありません。
「はぁい」
疑惑の眼差しを受けましたけど、笑って誤魔化すことにしました。その瞬間の行動までは予想できません。
さらに言われそうな予感がしたので、急いで話を元に戻します。
「で、教会を襲撃でいいんでしたっけ?」
「孤児院のほうに滞在だと想定できるから、そちらから。昔と構造は違っているが行けばわかるだろう。
それに、ここが気になる」
手元には孤児院の地図もあります。一階の部分なんですが、あれこれ描いて謎の隙間が発生したらしいです。マルティナさんも首をひねっていましたね。でも部屋の数もあっているそうです。距離も歩数換算ですが間違っていないそうですし。
住んでいても案外、気がつかないものですね。
「隠し扉とか? わくわくしますね」
地下に謎の施設がとかあるんでしょうか。わー、ぞわぞわしますね……。人体実験とかしてないでしょうね?
「前は扉があった、気がする」
「……わー」
即フラグ回収とかいらんのです。
「行ってみればわかるだろう。静かに潜入、だからな?」
「はぁい」
あたしの能力で可能だと思ってるんでしょうかね。この人。とは言いませんでした。それを何とかするのはエリックなのです。あたしはついていくだけの簡単なお仕事です。
しばし、エリックは地図を見て考え込んでいるようでした。潜入についてはあたしが口出しするようなことはありませんね。
あたしがしたのはエリックが地図を雑に片付けようとしたのをまとめなおしたくらいでしょうか。
そのころにはもう部屋は静かでした。子供たちは部屋の片隅でくっついて寝ていますし、マルティナさんはお疲れのようで子供たちのそばで爆睡中。
ロブさんたちも今は二階に上がって言っているようで誰もいません。
静かです。
あたしは気になることを切り出すか迷い、聞くことにしました。あとで衝撃の真実とかツライので。
「ところで、お兄ちゃんの件なんですが」
「……言いたくない」
エリックは迷った末にそう答えてくれました。知らないと言われなかっただけましでしょうか。
「そうですか。まあ、困っている兄弟がいたら、助けなきゃいけない気にはなりますね」
仕方ないと手を貸す程度には兄弟仲は良いです。ただ、これは今までの年月や付き合いの重みの末のことです。
急に弟が出てきても同じことを言えるかというと別ですね。
ということをエリックに言うのは酷な気がしました。
生まれなかった弟から呼ばれて動揺しないタイプでもありませんし。
それより最悪なものも想像してそうで、嫌になります。
エリックのお母さんは妊娠中で、それもそろそろ生まれそうというところでした。そこで事故にあってなくなっています。
それが事故ではなく故意のものであったならば話は違うのです。そして、お腹の子供がもし生まれてしまっていたら。
いっそ、死んでいてほしかったと思うあたしはひどい人間なのでしょうね。
でも災厄に乗っ取られるほうがマシとは言えません。生まれてからずっと乗っ取られたままであった弟を助けたいとしたら。今まで狙われていたエリック自身を差し出すしかありません。
やりそう。ものすごく、やりそう。
自分はもういいやとか思いそう。秒も迷いそうにないんですよっ! こ、これが、故郷に帰ったら死ぬという折れない死亡ぐラグの原因!?
……でも、この仮定には謎があるんです。今まで使っていたエリックの弟(仮)の体があるのだから新しいのは必要ないはずなんです。別の器が欲しくなるときって言うと元々のほうが壊れそうだからっていう気がしちゃうんですよね。
それに、生まれていなくて、死体であったということもあり得えますし。
「まあ、出来る限り、しましょう。それでだめなら、誰にもどうにもできません」
本気でまずいときは、採算度返しで、肉体を滅しておきます。誰がどういおうが、乗っ取らせませんよっ! き、嫌われるかもしれないけどっ! 泣きながらしますよっ!
しかしまあ、災厄を片付けるのはユウリのミッションじゃなかったでしたっけ?
私は夜目が利きませんし、移動手段も徒歩しかないのでどうするかはエリックの判断に任せました。
エリックは描いてもらった町の地図をじっと見つめたあと、小さくため息をついていますね。
「夜間は動かないほうが良さそうだ。俺はいいから、アーテルに部屋を用意してほしい」
「へ? いやいや、大丈夫ですって。野宿平気なたちでして」
嘘です。体がバキバキになってよろよろしました。出来ればベッドが欲しいですが、エリックを一人にさせる危険と天秤にかけるまでもありません。
「そこの椅子でもつなげて寝たらどうだ」
ロブさんもそう言ってますが、明らかに面倒そうです。提案を蹴れば、じゃあ、出てけと言いだしそうな感じですよ。
「使えそうな部屋はもう空いてないの。子供たちのこともあるし、そうしてもらえると助かるのだけど」
マルティナさんは困り顔です。VIP対応をするべき来訪者に雑な対応というのもシスターとしては困るんでしょうね。
「そこらへんの床でいいですよ。朝、勝手に出ていくので」
「こっちはなんとかするから気にしないでいい」
「そう? じゃあ、お任せするわ。
子供たちもそろそろ眠いみたい」
おそらく大変であろうマルティナさんにお手伝いを申し出ましたがお断りされました。代わりに他の大人が手伝わされていましたけどね。微妙に暇でなんとなーく眺めているとロブさんが近寄ってきました。
「……本当に人手はいらないのか」
「いらない。巻き込む心配をするほうが面倒だ」
「申し訳ないんですが、あたしたちは殺傷力が高すぎて調整が難しいんです。人質とかにとられないようにしていただくのが一番良いと思います」
口は悪いけど人の好さそうなロブさんにお断りしました。まあ、そこからの後ろから刺される危険もなくもない、という考えもあるんですけどね。そのあたりは言う必要もないでしょう。
ロブさんは我々の主張に全力で引いてたので悪いことは考えていないようでしたから釘差しも必要なさそうですし。
「そ、そうか。じゃ、頑張れよ」
引いておきながらも立ち去り際にそう言ったりするのが、ロブさんの人の好さですかね。まあ、人が良くないと足手まといと言われそうな人たちを連れていたりしないものです。
逆に守るもののために手を汚すのもいとわないというのもありそうですけどね。
疑い深いとは思うのですが、場合によりエリックすら敵であるという状況なので。
エリックがどこかで諦めて譲ったりしないかだけが本気で心配です。災厄の正体の想像がついてきただけに危ういんですよ。
「なに?」
エリックをじーっと見上げていれば、怪訝そうな表情で見下ろされました。それから少し何か考えるように少し眉を寄せて、ぽんぽんと頭を叩かれました。
「大丈夫」
あたしの心配が透けていたようです。それにしてもこれほど信用ならない大丈夫もあまりありませんね。
「そういうことにしておきます」
でも、言い争うのも不毛です。だから、こういう可愛くない言い方になるのです。気を抜くと闇落ちと死亡フラグの落とし穴があいていることをそろそろ自覚していただきたい。
さて、とりあえずは邪魔な我々は壁際によることにしました。お子様たちはいつもと違う環境で寝付けなさそうでバタバタしております。
「子供は元気ですね……」
おねむでも限界まで頑張るのが子供ってもんですが。夜は病人&けが人のひとたちも自分たちの部屋に引き上げていくそうで、ロブさんやその他の男性はそちらの手伝いもあれこれしているようです。
誰もこちらには注意を払っていない状態です。秘密の話には向いているタイミングかもしれません。
「ディレイはどこから始めたいですか?」
「ジャスパーをどうするか迷っている。あれは人質になるか?」
「……自力で何とかしそうなんですけど。軍馬ですよね。それからなんか馬具にあれこれしてませんでした?」
ついでに馬車のほうも色々な機能がありそうですが、説明されていません。あたしが引くと思っているのでしょうね。間違いはありません。必要なものを詰めているつもりが、調子に乗ってあれこれ入れ始めるのはどの分野の魔導師でも同じと思いました。
一点豪華主義もいますが、その豪華が突き抜けてます。
「馬具には防御に特化したとか言っていたな。ただ、ジャスパーは大型種だから普通に蹴られたら怪我をする」
「ですよね……。悪いですけど、後回しでもよいのでは?」
薄情な飼い主で申し訳ないです。連れまわすほうがきっと危険。と言い訳します。なにせあたしの乗馬技術などへっぽこですし、エリックも普通に乗るのが何とか程度です。
エリックは気が進まなそうですが、同意をしてくれました。これがユウリなら華麗に乗り回しそうです。しかし、魔導師としては破格の運動能力といってもたかが知れています。
「教会から行きますか」
「それだとエルアとカリナが危ないかもしれない」
「先に確保必須ですか。地図見て話しましょうか」
せっかく書いていただいたのですし。
この町もフェザーの町と同じような形をしています。広場を中心に道が蜘蛛の巣みたいな形で広がっています。
領主館はこの町の中にはないのもフェザーと一緒ですね。これは他の領地でも同じで一番近い町とは馬車で十分くらいのところにでーんと立ってるのが普通だそうです。領地が発展すると町の規模が大きくなって呑まれることもあるんだとか。
グルウの町はそこまで大きくなく、領主館へは20分くらいかかりそうなくらい遠いんですが。
「こっち先に行きます? 話を通しておいたほうが良い気がしますが」
「その気があったら先に案内を寄こすだろ」
エリックは苦笑とともに言われましたが、どういうことですか? 首をかしげるあたしに説明してくれたところによると。
お忍びというのは、一般国民の皆さまには知らせない、という意味であったそうです。つまり、領地を通過する領主には既に通告済み、そのうえで関与しないという誓約を取った、らしいです。
な、なんだって! と叫びそうになりましたが、マルティナさんにガチギレされそうなので自重しました。
「言ってください」
「師匠が気がつくまで黙っているようにと言ってたんだが、全く、気がつかなかったな」
「階級社会に生きておりませんのでわかりません」
ふてくされてしまいますよ。わかりますよ。VIPが旅行中に不慮の事故やトラブル起こしたときの対応をしてもらわないと困るからですよね。でも、言ってもいいじゃないですか。なんですか、その暗黙の了解。
新婚旅行と浮かれてここまでは何も考えてなかったあたしが悪いんですか。
エリックに拗ねるなといわれて一応気を取り直しましたけどね。ほんと特別待遇というのは……。
「じゃあ、ここにも知らせが来てるってことですね」
「そう思う」
「それなら、ある程度まではお目こぼしいただけると期待できそうですかね。
教会にはカリナさん経由で全バレしてると思うので」
教会にはそこまで隠す気がなかったんです。ただの婚約者の故郷にいって墓参りするイベントですよ。隠すほうが怪しいですからね。
油断を誘おうとかちょっと考えたりもしましたね。ちゃんと罠を用意してもらわないと困りますし。
何もしてないやつを殴るのはさすがに来訪者の権力でも難しそうですから。
ただ、カリナさんやエルアさんまで来るとは思ってなかったんです……。
「な、なんですか」
じーっとエリックに見られましたよ。薄っぺらい策略が漏れてますか。最初から、殴るつもりで来てるってこともばれましたか?
ふぅとため息をつかれて、俺のことは俺のことだと釘を刺されました。
あ、はい。そうですね。先走りましたね。
でも、反省はしませんよっ!
「ほんとアーテルは、俺のことになると見境ないな」
「それは、申し訳ありません」
重すぎる愛です。やや狂信っぽいのが自分でもあれですが。
あとヤンデレ気質も出てきてましてほんとに申し訳ないという感じです。自重しますけどね。漏れてないといいなぁとほんとに思います。
「俺も人のこと言えないか」
「はい?」
「もし、アーテルに傷でもつけたら、相手が無事でいると思わないほうがいい」
……。
斬新な脅迫ですね。不要な被害を出したくなければ、無傷で大人しくしていろということですか。俺が心配とかいうより効果が見込めると思ったんでしょうね。間違ってないです。
エリックに不要な殺生させたくありませんし、襲撃者も不幸だなと割り切れもしません。
それにあたしの場合、心配と言われても大丈夫で押し切りそうですからね。死亡フラグを折るのと多少の傷では比較するべくもありません。
「はぁい」
疑惑の眼差しを受けましたけど、笑って誤魔化すことにしました。その瞬間の行動までは予想できません。
さらに言われそうな予感がしたので、急いで話を元に戻します。
「で、教会を襲撃でいいんでしたっけ?」
「孤児院のほうに滞在だと想定できるから、そちらから。昔と構造は違っているが行けばわかるだろう。
それに、ここが気になる」
手元には孤児院の地図もあります。一階の部分なんですが、あれこれ描いて謎の隙間が発生したらしいです。マルティナさんも首をひねっていましたね。でも部屋の数もあっているそうです。距離も歩数換算ですが間違っていないそうですし。
住んでいても案外、気がつかないものですね。
「隠し扉とか? わくわくしますね」
地下に謎の施設がとかあるんでしょうか。わー、ぞわぞわしますね……。人体実験とかしてないでしょうね?
「前は扉があった、気がする」
「……わー」
即フラグ回収とかいらんのです。
「行ってみればわかるだろう。静かに潜入、だからな?」
「はぁい」
あたしの能力で可能だと思ってるんでしょうかね。この人。とは言いませんでした。それを何とかするのはエリックなのです。あたしはついていくだけの簡単なお仕事です。
しばし、エリックは地図を見て考え込んでいるようでした。潜入についてはあたしが口出しするようなことはありませんね。
あたしがしたのはエリックが地図を雑に片付けようとしたのをまとめなおしたくらいでしょうか。
そのころにはもう部屋は静かでした。子供たちは部屋の片隅でくっついて寝ていますし、マルティナさんはお疲れのようで子供たちのそばで爆睡中。
ロブさんたちも今は二階に上がって言っているようで誰もいません。
静かです。
あたしは気になることを切り出すか迷い、聞くことにしました。あとで衝撃の真実とかツライので。
「ところで、お兄ちゃんの件なんですが」
「……言いたくない」
エリックは迷った末にそう答えてくれました。知らないと言われなかっただけましでしょうか。
「そうですか。まあ、困っている兄弟がいたら、助けなきゃいけない気にはなりますね」
仕方ないと手を貸す程度には兄弟仲は良いです。ただ、これは今までの年月や付き合いの重みの末のことです。
急に弟が出てきても同じことを言えるかというと別ですね。
ということをエリックに言うのは酷な気がしました。
生まれなかった弟から呼ばれて動揺しないタイプでもありませんし。
それより最悪なものも想像してそうで、嫌になります。
エリックのお母さんは妊娠中で、それもそろそろ生まれそうというところでした。そこで事故にあってなくなっています。
それが事故ではなく故意のものであったならば話は違うのです。そして、お腹の子供がもし生まれてしまっていたら。
いっそ、死んでいてほしかったと思うあたしはひどい人間なのでしょうね。
でも災厄に乗っ取られるほうがマシとは言えません。生まれてからずっと乗っ取られたままであった弟を助けたいとしたら。今まで狙われていたエリック自身を差し出すしかありません。
やりそう。ものすごく、やりそう。
自分はもういいやとか思いそう。秒も迷いそうにないんですよっ! こ、これが、故郷に帰ったら死ぬという折れない死亡ぐラグの原因!?
……でも、この仮定には謎があるんです。今まで使っていたエリックの弟(仮)の体があるのだから新しいのは必要ないはずなんです。別の器が欲しくなるときって言うと元々のほうが壊れそうだからっていう気がしちゃうんですよね。
それに、生まれていなくて、死体であったということもあり得えますし。
「まあ、出来る限り、しましょう。それでだめなら、誰にもどうにもできません」
本気でまずいときは、採算度返しで、肉体を滅しておきます。誰がどういおうが、乗っ取らせませんよっ! き、嫌われるかもしれないけどっ! 泣きながらしますよっ!
しかしまあ、災厄を片付けるのはユウリのミッションじゃなかったでしたっけ?
1
お気に入りに追加
982
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません
たろ
恋愛
処刑されたエリーゼ。
何もしていないのに冤罪で……
死んだと思ったら6歳に戻った。
さっき処刑されたばかりなので、悔しさも怖さも痛さも残ったまま巻き戻った。
絶対に許さない!
今更わたしに優しくしても遅い!
恨みしかない、父親と殿下!
絶対に復讐してやる!
★設定はかなりゆるめです
★あまりシリアスではありません
★よくある話を書いてみたかったんです!!
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
私と一緒にいることが苦痛だったと言われ、その日から夫は家に帰らなくなりました。
田太 優
恋愛
結婚して1年も経っていないというのに朝帰りを繰り返す夫。
結婚すれば変わってくれると信じていた私が間違っていた。
だからもう離婚を考えてもいいと思う。
夫に離婚の意思を告げたところ、返ってきたのは私を深く傷つける言葉だった。
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる