推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

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冬の間

姉について/あーちゃんって結婚するの?

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姉について


「あーあ、ついに結婚しちゃった。帰ってこないよ? いいの?」

 彼方は誰に言うでもなく呟いた。今日のリビングには、父と母、それに兄もそろっている。ついでに最近やってきた子犬と子猫もハムスターもいた。
 そろってしげしげと絵を見ている。
 謎の小包が玄関にあったので、遺物かと思ってみんなに連絡した結果だった。実は、ツイ様が彼方に連絡を忘れていただけらしい。

「このにやけた顔見て言える?」

 彼方の言葉に母から真顔で返された。
 確かにと思う。

 異界からやってきた絵は二枚。一枚目は、現地の結婚式と思われる場面。幸せそうに微笑んでいるのは絵画的表現かもしれない。
 姉はこんな顔しない。

 もう一枚は、一枚目よりも荒いデッサンに色を付けたようなもの。こっちのほうが生き生きとしていた。
 大好きな人に横から抱きつくの図。相手のちょっと困惑したようなでも、優しい表情が意外だ。
 姉は澄ました顔のふりして、目元が緩みまくっている。口元をどうにか微笑程度で済ませているが、にやにやする少し前のような顔に見えた。
 なお、家族だからわかるが知らない人にはわかりにくい程度には取り繕っているが、にじみ出る雰囲気がデレデレ。

 この絵描きは腕がいいかもしれない。彼方はそんなことを思った。写真がまだ存在しない世界なので、絵で残すのだろうけどこっちのほうが暖かくていい気がする。

「しかも、どう見ても大事にされてるじゃない」

「なんかちょっと印象が違う」

 兄がぱらぱらと単行本の方をめくっている。
 彼方ももう少し尊大というか、俺様的ななにかと思っていた。姉を見る目はとても優しい。
 姉は変わってないというわけではなく、ずいぶんつやつやにもなっている。激務にぼろぼろとこぼしていた頃よりもずっと穏やかそうで、楽しそうだ。

 だから、まあ、良かったような気もする。

「父さんは認めないからな」

「はいはい。孫でも見ればころっと変わるのよ。うちの父さんもそうだった」

 母の重々しい言葉に父はぷいっと顔を背けた。
 母方の祖父は長いこと父の存在を認めなかったらしい。今は、仲良し、ということになっている。母の見えないところで嫌みの応酬くらい可愛いものだろう。
 彼方は巻き込まれたくないので子供のころから見なかったことにしている。

 母方の血縁は面倒だ。従兄が急に来てはアリカをどこに隠したとか言いだしたりしたし。それも三人も。
 その血統と性質は垂涎の的で、ある意味ラスボスの店長がいなければいろいろ危うかった。でも、店長を兄にはしたくない。
 あの偽石油王は、裏表が激しすぎるし、ドS過ぎて姉には合わない。

 義理と恩はあるけどセクハラで帳消し、みたいな。むしろマイナス。

 その意味では、異世界行ってよかったな、あーちゃん、である。好みど真ん中の男付きなんだからご褒美だろう。

 姉について、思い出すことはある。

 あのね。かなちゃんには教えてあげるの。

 とびきりの笑顔のはずが、あ、これ、聞いちゃダメなやつ、と気がついても遅い。弟とはそんな扱いである。

 あれは夢なんかじゃないの。
 いたの。確かに、そこにいたの。

 あたしが忘れてもかなちゃんは憶えていてね。

 あれは疲れて、心のどこかをおいてきてしまったように、今なら思える。

 どこか変わったところのある姉ではあった。ふと目を離すと消えていたり、なぞの生物を捕まえていたり。
 あるいは、機嫌が悪かった。

 その間のことを彼方が聞いた事がない。

 姉の能力について聞いたのはずいぶんあとになってのことだった。高校にも入れば、家業の手伝いという嫌な仕事が加わり相当荒れた自覚はある。
 あーちゃんは、いいの? そんなことを聞いたのは、自由そうな姉を妬んでのことだった。

 姉のその力が現れたのは、祖母の知り合いと会ったことが引き金だったらしい。祖母はそれをずっと悔やんでいたようだが、早いか遅いかと言う違いしかないだろうということらしい。
 異界と関わる能力は、神の眷属でも少ないらしくなにもなければゆくゆくは眷属として迎える、そんな話もあったらしい。

 それゆえに封じずにいたが、ちょくちょく異界と繋がってはどこかへ行ってしまうことになった。なにかを捕まえたり、危ない目にもあったらしい。
 封じていないが故に目立つため、魑魅魍魎のたぐいにも興味をもたれ、ちょっかいを出されたこともあるようだ。

 そして、十歳のある日、帰ってこなかった。

 彼方はそれを憶えている。慌てたような両親と祖母、そして、知り合いという青年。警察に届けるでもなく、誰かに相談するでもなく、違和感があった。
 三日後、姉は帰ってきたが、その間、兄と彼方は完全に放置された。

 帰ってきた当日は完全にふて腐れたような態度の姉が、翌日にはぼんやりしていたのがひどく恐かった。
 何かを、失ってしまったように。
 それは何事もなかったように振る舞うように言い含められた事よりもずっと、恐ろしいことのように思えた。

 そこから数年、姉の情緒は常に不安定で、夜を怖がるようになり、お化けや幽霊、妖怪の類の話も泣くようになった。
 最初は面白がって話をした彼方もすぐにやめた。
 両親に怒られたわけでも、兄に実力行使されたからでもなく。
 ただ、心底、恐怖を覚えていると理解したから。

 悪い事したなと彼方は今でもおもっている。
 家業で付き合いのあるイキモノに会うようになってから余計に。

「まあ、あーちゃんが幸せならいいけどさ」

 むしろ付き合わされるほうが大変なのではないだろうか。愛想つかされないといいけど。
 そっちのほうが彼方には心配である。一応、愚弟といわれつつも世話になった弟としては、お祝いの一つも送ることにはした。

 それの苦情がやってくるのはもう少し先のこと。

――――――――――――――

樋口家の人々

樋口 凪
 アリカの父。両親が特殊で、人外じみた能力を持っているが使用することは滅多にない。
 ツイからの依頼で国内外あちこち出張していることが多い。部下に色々任せられるようになって家にいるようになったら、逆に子供たちが家を出て行くような年頃だった。
 家に残った彼方をかまってはうざがられる。孫がとてもかわいいらしい。

樋口(貴谷) 楓子
 アリカの母。家業が魑魅魍魎と戦うことだったので、武闘派。全くの素人だった凪にイライラしながら、つきあっていくうちになぜか結婚していた。
 恥ずかしいので家族の前ではいちゃいちゃしない。外では平気。
 何かと実家の家業の付き合いがあり、現在も家を不在がち。

樋口 宗一郎
 アリカの兄。ツイの依頼で日帰り範囲内の仕事を請け負っている。また、母方の家業の手伝いもしているので、わりとどっぷり人外の世界に浸っている。
 奥さんはその中で知り合ったので、理解はある。息子にめろめろ。
 特別でありながら、普通の生活を送っているアリカに対しては少々複雑な気持ちがある。

樋口 彼方
 アリカの弟。普通の会社勤めの傍ら、母方の家業にたまに駆り出される。その最中に絵里と知り合うが姉の友人とは知らない。
 少々、ぐれたときに制裁された経験上、姉には頭が上がらない。
 父に最近、構われてちょっとうざい。うざいが、時々一緒に料理したりお菓子を作ったりしている。

樋口 ヒトエ
 アリカの祖母。人外。ツイの眷属をやめて以降、人と同じように年を取り人として亡くなった。
 異界へと繋がる道を作れる以外、特別な能力を持たない。素質として持っていたものが子供たちに引き継がれていった。
 アリカに小さい頃から力の制御方法を教え込んでいた。が、アリカ本人は忘れている。


――――――――――――――
あーちゃんって結婚するの?


都内某所にて女子会

「あーちゃんが結婚」

「ねー」

「意外というか、そうきたかというか。海外に追いかけてくバイタリティについては認めるけど」

「え、そう? 案外保守的っていうか、好きなひとのためにそこまでするって感じはなかったかなぁ」

「一時期、本気で仕事が煮詰まって、彼氏と揉めて、ぶち切れてたからなぁ。それもあって、でしょ? 好きな人と遠距離とか無理だよ。仕事辞めて正解」

「あー、あの国産石油王が邪魔か。どーみても、どー考えても、あーちゃんこと好きだったよね。性的に」

「そうそう。付き合いが高校からってあーちゃんが大人になるの待ってたって感じでしょ。意地悪だけど、愛はあった気がする」

「通じてないどころか、めんどくせえと思われてたけどね。あれは、相性が悪いってやつじゃない? まあ、私もいやかな。あれはきっとめんどくさい。顔はいいけど」

「そうそう。顔はいい」

「体も良くない?」

「わかる。腹筋割れてるよ。あれは。そのプラス補正をマイナスにさせる偏屈さと捻くれた性格!」

「ついでに冷酷とか言っておいた方がいいんじゃないの? ま、ともあれ、あーちゃんの結婚に乾杯!」

「かんぱーいっ!」

「かんぱーい……。でも、どこで見つけてきたんだろ」

「わかんない。二次元ならわかるけど。普段、漫画なんて読まないのにあのド嵌りにはびっくりしたなー」

「熱く語られたのも意外っていうか。本人はそんな気ないって思ってたみたいだけど、ガチで恋してたようにしか見えん。酔っぱらった時とかぽろっとね。ああ、なんで、この世界にはクルス様がいないのかと」

「ねー。あたしは、眼鏡がいいけど。あとチャライの。あれを落として振ってやりたい」

「あーちゃんのおかげと言うべきか我々もなかなかにマニアックになっちゃったし。今度、アニメになるんだけど、悔しがるかな」

「帰国してくるかもよ? そのとき、旦那さん連れてきてくれるといいけど」

「生で見たいわ。甘く笑うちょっと前みたいな写真送って来やがって。
 すぐにおまえに笑うんだろ。リア充め」

「あれ、彼氏欲しいの?」

「私は推しに貢ぐのが忙しいからいらないけど、なんか、いいなぁって。この機会に誰か探してみるかなー」

「あたしは仕事してたいかな。キャリア、大事」

「ふぅん?」

「彼氏持ちさんは余裕ですね? そっちこそどこで知り合ったの?」

「……う、うーん。夜に襲われたところを助けてもらったんだけど、ええとその」

「なにに襲われたのよ? え、最近、そんなに物騒なの?」

「あーちゃんの弟、なんだよね」

「は?」

「はぁ!?」

「最近、知った。あーちゃんはうちのかわいくない弟とか言ってたけど、イケメンだった……。似てないから全然気がつかなかったし、お家にお邪魔したときにあれ、この家ってと気がついた感じ」

「で、お姉ちゃんの友人とは言ったの?」

「言ってない。どーしよ」

「なんか、それもそれで気まずいわね。あーちゃんに相談してみたら?」

「そうしようかなぁ。別れたら相当気まずいよねぇ」

「がんばれ」

「振られたら痛飲しよう」

「なぜ、振られる前提」

「その方が気楽でしょ。さて、それはさておき、あーちゃんの前途にもう一回かんぱーい」

―――――――
アリカの近い方の友人。全員顔見知りであわせて出かけることもあれば、予定が合う人だけ遊びに行ったりもする。

友人1 伊織
 中学からの付き合い。社畜と言うよりワーカホリック。趣味は海外ドラマや映画を見ること。聖地巡礼と称して海外旅行に行く方。

友人2 うた
 高校からの付き合い。うーちゃんと呼ばれている。二次元と2.5次元の狭間を生きる腐女子。かつて、おまえの推しはすぐに裏切って死ぬとアリカに宣言したことがある。

友人3 絵里
 伊織の幼なじみでいつの間にか混じっていた。最近彼氏が出来たらしい。
 昔から怪奇現象に悩まされていた。アリカに定期的にあってたりしたころにはぱたりと被害が止まっていた。

友人4 桜花
 アリカのご近所の幼なじみ。イケメン好き。でも店長は好みではないらしい。応援上映があるんだっ! と今回は参加せず。少々、天然系。
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