推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

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冬の間

今も昔もちょろかった。

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 気がついたら薄暗い森の中にいました。
 なぜにここに?とおもいましたけどそれより、馴染みあるふよふよ感に戦慄を覚えました。え、魂どこか抜けてる? え、ここどこ?
 見回せば、子供と大人が一人ずつ、手をつないで歩いています。なぜか二人ともうなだれてます。
 以前も見た記憶がありますね。この状況。
 ぼそぼそ話をしているようなのでつつっと近寄っていきます。

「すみません。本当に申し訳ございません。うっかり人間かなぁって疑問に思ってしまって、しかもそれが効くとか魔導師って人外なの?」

「知るか……。いいか、絶対に名を呼ぶなよ」

「はい。ええとお兄ちゃんでいいかな」

「……そうだな。それでいい」

「では、あたしはあーちゃんということで。よくわかんないけど、ここにいて子供だからいろいろわかんないんです」

「無理があるぞ。その黒い髪で、黒い目で。この世界には滅多にいない」

「うへぇ。なんか変えられません? その魔法的何かで」

 ……。
 以前はぼんやりとしていた顔がよく見えました。片方が間違いなくあたしです。やだなぁ。

「期待するな」

 とか言いながら髪をふわりと撫でて色替えをしていきます。金髪です。思い出したように眉もそっとなぞっていくあたり、よく気がつきますね。
 そして、多分、この大人の人。
 どう考えてもあたしの知っている人です。

 以前の夢を見たときもなんかそんな気がしていたのですけど。なぜ思い出せなかったのか。
 おそらくは頭突きがダメだったんでしょうね。そして、これ、誰からの視点を見させられているのでしょうか。
 あたしの記憶ならあたしから見たものしか知らないと思うのに。

「似合います?」

「かわいい」

 今ならわかりますよ。なんか面倒そうな言い方だなと。可愛くないとか似合わないとかいうと怒りだしそうだからめんどくさいって思ってるのが。本当にそう思ってるなら自発的に言うんですから……。
 しかしながら、子供のあたし。それがわかってません。
 わかりやすくパッと表情が明るくなり、ご機嫌になっています。ちょろい。ちょろいですよ……。
 地面に崩れ落ちそうです。

「ところで、どこに向かってるの?」

「近くの町だ。詳細を言っても意味はないだろ」

「わかった。ところでお兄ちゃん」

「なんだ」

「歩くの早くてきついからゆっくりして」

 彼は虚を突かれたように黙って、さらに立ち止まりました。

「それは悪かった」

「うむ。許してつかわす」

「どこの言葉だよ」

「時代劇っぽい何か」

 祖母の趣味です。そういえば時代考証がなんとかと言っていたので、もしやそのくらいから生きていたのではないかと疑い出したところです。
 時代劇とはなにかという話をしながら、二人は森の外へと出ていきました。

 残念ながらあたしは森の外には出られないようなんですよね。ふっと意識が遠くなって。


「……さみしい」

 お一人様のベッドで起床です。本日、95日目。王都にやってきています。以前通り、公爵家のお屋敷に住んでます。まあ、昨日からなんですけど。
 少々予定を超過したのは怒られましたけど。いや、その、体調がね。ということになってます。ああそう、とリューさんから冷たい視線を向けられたので色々バレてると思います。
 リューさんに身代わりをしないと言われると困るので、ご機嫌を窺っていく所存です。

 さて、問題ありの夢を見ました。おかしな夢だったなぁと処理したいですね。本当に。
 何か言われるまでは黙ってることにしますけど。それにしてもちょろいなあたし。知ってたけど。

 うーんと伸びをして、ベッドを出ていきます。今日は予定があります。ユウリに文句をつけに行くというやつが。
 諸悪の根源はツイ様のようですが、その口車に乗ったユウリの理由を聞いておきたいところです。なお、これにはエリックも付き添ってくれるそうです。未だに信用されていない感が半端ないですよ……。
 なお、ローゼも同席するようなので似たようなものですかね。

 部屋着として用意されているワンピースに着替えて、身支度を整えます。そのあとは朝食まで自由時間になっています。今は以前と違って食事などは部屋で食べることになっています。
 体調がよくないという建前で用意してもらっていますが、入れ替わりを気づかれないために会う人数を制限してい結果です。リューさん本人が言いだしたことだというのにお出かけしてきたらしいですけど。
 カリナさんが教会から全然帰ってこないので、心配して様子見に行ったらしいんですよね。ローゼがにやにやしながら報告してきましたし。

 他人のコイバナはとても楽しい。当人は鈍いので、難攻不落でしょうけど頑張っていただきたいですねっ!

 さて、何事もなく朝食も済ませやってまいりました王城です。

 同行者はローゼのみです。リリーさんは本家へ泊まり込み中で不在です。というかですね。ゲイルさんがいるので、こっちの屋敷には泊まらないようです。ここ、男子禁制は未だ続いているので。
 ……つまりは、エリックも出入り禁止なわけです。婚約者でも節度ある付き合いをとか言われると真顔になりましたけどね。

 カリナさんは王子を避けているようで、お留守番です。逃げると追いかけられそうですけど、そこわかってなさそうなのですよね。いやぁ、楽しみです。
 一応、困っているから嫌がっているに変わってきたら、介入する気満々ですが、今のところ静観しています。

 今日はユウリへの面会と先に通達しているので、他の用事が横入りすることはありません。面会後にあるかもしれませんが、そこは応相談です。

「ローゼはおうちに帰れてます?」

「お仕置き期間中だから、帰ってないの」

「今度は何をやらかしたんです?」

「……はぁ」

 なぜかローゼにじーっと見られてため息をつかれました。
 知らない間にあたしもなにかされてましたか?

「説明してないのね。こんなこと言える立場ではないけれどお手柔らかに」

「え? ええっ!」

 あたしがそんな怒るようなことしでかしてるんですか? 行くの嫌になってきたんですけど。だって、今日はエリックもいるわけで。現地集合は悪手でしたかね。

「たぶん、あたしより怒る人がいるのでそっちを止めるのに必死になりそうです……」

「あ、そうね。うん。がんばりましょう」

 なぜ、我々が振り回されてるんでしょうね。
 何とも言えない表情で見つめあっちゃいましたよ。

 気を取り直してユウリの執務室に向かいます。実際に入るのは初めてなんですよね。画像的には知ってますが、その通りなのでしょうか。作画の都合で省略されたり変更されたりしてる可能性もありますし。わくわくしてきますね。
 以前お茶会の帰りには直進した道を曲がり、立ち止まってしまいました。

「……あれ?」

 小さくローゼが呟いた声が妙に遠い気がしました。
 エリックがいて。それだけではなくて、フュリーもいました。立ち話を和やかにする関係ではありません。
 一方的に言い募るのはフュリーのほうで、エリックは少し困ったような顔をしています。そのあたりは本編と同じで落ち着いたような気がしますが。

 うん。
 ここは牽制一択です。

「お待たせしました」

 なにも気がついていない風にエリックに駆け寄ります。そのまま抱きついてやりますよ。ふふふっ。
 勢いつけすぎたのかちょっと倒れそうになったのは、見なかったことにします。

「そこまで助走つけられると無理だ」

 ぎゅっと抱き返されて、耳元でささやかれたのは色気のかけらもない苦情でした。

「気がついてましたか」

「そろそろ来ると注意を向けていればわかるだろ。
 嫉妬でもした?」

 からかうような声が、耳元をくすぐります。そのまま小さく可愛いなぁとか言わないでください。いや、もう、死ぬ。真っ赤になりますねっ!
 というか牽制すべしという意思がばれてますよっ!

「あー、悪いけどそれ部屋でやって。自分たちの部屋で」

 ……ギャラリーがいました。そうでした。今、すっぽーんとどっか消えてました。箍が外れているというか、今までの反動というべきか。
 見ればエリックもちょっと気まずそうです。
 仕方ありません。少し離れましょう。

「残念ながら、二人きりはいけませんと言われてるんですよ。なので、外で思いっきり見せつけるつもりです」

「……ユウリと同じ主張してる。同じ人種? まさかの?」

 ローゼが愕然としていますね。まあ、二人きりはいけませんと言われても守り気はさらさらなくて勝手に帰宅しているわけですが。本当に身代わりやってくれるリューさんには頭が上がりません。今回の件が終わった後でお礼の品を用意しなければいけないと思います。
 途中で何かご希望のものをあげると身代わりどころじゃなくなりそうなので。魔導師ってそういうところある。

「だ、だれ?」

 フュリーは目を見開いていましたね。
 ちょっとエリックを見上げて、動向を確認します。ええ、嫌がっている素振りでもあれば強制連行します。
 少しばかり困っているという眉を下げてる感じがちょっと可愛い……じゃなくって。

「知らないの? 城内で話題の来訪者様」

 ローゼが代わりに答えてくれました。意外そうですけど、たぶん、以前ユウリにお願いしたことの結果だと思います。
 フュリーには会いたくなかったんですよ。

 まあ、眠り姫中に遭遇したのは不幸な事故ということで。相手からは認識されてませんし。

「え。どうして、ディレイとそんな仲良さげ?」

「えっと。本当に知らないの? 情報閉鎖でもされてたの?」

 ローゼが困惑してます。まあ、噂に疎くてもそこかしこで話されていたでしょうから、知らないというのはおかしいと思うんでしょうね。

「ユウリのお使いであちこち回ってて、来訪者がいるというのは知ってたけど。
 あ、あと、魔導師と恋仲……」

 フュリーの少年めいた顔立ちのせいか眉をキュッと寄せられると睨まれている感があります。本編でのアレコレから推測するに考え込んでいる時の癖のようなのできにしませんけど。
 ただ、にこっと笑っておきます。
 おや、なぜローゼが両腕をさすったんでしょうね? 喧嘩売られたとか思ってませんよ。やだなー。

「こんなところでなんだけど、こちら、フュリー。ユウリの直属になるのかしら。
 で、こっちの来訪者がアーテル。魔導師だから、くれぐれも、くれぐれも怒らせないように」

 ……。
 二度言われた。そこまで好戦的なつもりはないのですけど。

「じゃ、私たちはこれで」

 ローゼがあたしの背を押していきます。え、この場を離れなさい(物理)ですか。それほどまずい顔してます?
 ぐいぐい押されて先に扉の前まで来てしまったんですけど。
 なお、エリックはフュリーに引き止められています。ええ、服をつかまれる系の物理で。さすがに煩わしそうにしてますね。

 フュリーとなにか言い合って、振り払ってしまいましたけど。
 二人とも同じような表情だったんですよね。
 痛みを隠し損ねたような、もの。引き結ばれた唇が、いつもと違うのですよ。機嫌が悪いときのむっとしたものでも、言いたくないことを主張するときのものでもなく。
 話はもうないと言いたげにエリックはフュリーを置いてこちらに来たのですけど。

 それが心配になってエリックを見上げてもぽすっと頭を撫でるだけで終わってしまいました。

「存分に甘えてもよいですよ」

「大丈夫」

 そういわれましたが、次に戻ったときには存分に甘やかすことにします。まあ、なにをしたら甘やかすことになるのかわかりませんけど。

 ローゼは扉を叩いて、すぐに扉を開けていました。無作法なそれにあたしが驚いているとローゼが駆け込んでユウリの首根っこ掴んでました。

「ユウリっ! 逃げ出そうとしないっ!」

 ……。
 ぶれませんね……。
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