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冬の間
おいしく召し上がりました?
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ぱたりと閉じた扉の音が、やけに耳につきました。
ちょっと待っててと言われまして先にエリックのお部屋にお邪魔しているわけです。ベッドの縁に腰かけて、室内用の靴をぽいぽいっと脱いでおきます。ちゃんと並べおきましょう。
以前とあまり変わってない室内は、微かに煙草の匂いがします。
幽体のときは匂いというのはわからなかったのですっきりとしたような苦い匂いが懐かしく感じるくらいです。
幽体でやらかしたのはほんの数日前で。
至近距離の寝顔に身もだえたのは記憶に残っているというか。思い出すとなにか叫びたくなるこれってなんでしょうね?
ぱたりとベッドに伏してプルプルして耐えますけど。
あ、無理。色々無理。考える時間がある分、死にそうです。そして。ここが現場というのがさらに……。
扉の開く音にがばっと身を起こせたのは、取り繕いたいという気持ちからでしょうね。大人しく待ってましたよと、そんな顔をしていたはずなんですが不審そうに見られました。
……ばれてる。きっとバレてるのでしょうねー。遠い目をしたくなります。
慰めるようにちょっと撫でられましたけど、逆にいたたまれません。床を見つめていたら、左手に触れられました。
エリックの冷たい指先が薬指とその指輪をたどります。
「くすぐったいです」
指先にキスを落として、離してはくれたんですけど。
気がつくとエリックが跪いていたりしたのです。な、なにかデジャヴ感あります。
手のひらにぽいっと落とされた箱。まえにもこういうのありましたよ。驚いてエリックを見れば、なんだか床の方見てます。照れてるんでしょうか……?
「ありがとうございます。開けていいんでしょうか」
「気に入るといいんだが」
箱の中は指輪でした。シンプルな銀色、艶消しのもので裏側にも細工一切なしでした。
意外ですが、どういう理由の指輪なんでしょうか。嬉しいのですけど、困惑するところもありまして。
今までもらったの実用品ばかりでした。純粋な装飾品って初めてで、嬉しいんですけど戸惑うというか。
「結婚指輪というのも必要なんだろ?」
あたしのしばしの沈黙でなにか気がついたのか、そういわれました。
そっか、結婚指輪。そっか。
……。
あたし、今日、死ぬの?
「買わない人もいますけど、あたしはとても嬉しいです。
でも、どこで知ったんですか? あ、ユウリですね。そんなこと言い出したの」
ばたばたとしたい衝動をどうにかやり過ごして、冷静さー、冷静さはどこにいるかねーと内心呟きながら返答しましたよ。
どこなの。平常心。君をずっと探しているんだけど、見つかる気がしないの。
推しと生活している以上、常に放浪の旅に出ているのかもしれませんね。今すぐ帰ってくるのです。ここで失敗すると後々まで響きそうです。
「そんなところだ」
あれ? なんか、微妙に歯切れが悪いですね。微妙な肯定。
言い出したのはツイ様かもしれませんね。結婚情報誌送るとか言い出してましたから。
エリックはそれ以上追及されたくないのか特別感もなくさらっとあたしの指にはめてます。なんかありそうですね。これ。
「ぴったりくっついたんですけど」
「それは金属の性質で、特殊な効果はない」
「そうですか。あとでお店教えてくださいね。あたしも用意します」
そこで首を傾げられました。
中途半端な知識だけ与えるのやめてほしいですね。あの野郎どもと思ったのは、奥底に仕舞っておきます。
「一緒に買ったりしますけど、相互に用意するものなので。指輪が嫌なら他の物を送ることもありますから、そっちでもいいですけど」
できればお揃いがいいんですけど、指輪をつける習慣がなさそうなので無理にはお願いしません。
そういえば、婚約指輪のお返しもしてません……。収入もできたことですし、借金返済および、貢ぐことができます。
うきうきしてきますね。
まあ、問題はなにを貢げばいいのかわからないところですけど。
「それなら少し考えておく」
「はい。お待ちしてます」
ほんの少しの沈黙。
視線があえばすっと目を細められました。もう一度、指先にキスされて。
「これで、俺の」
だ、駄々洩れな色気しまってくださいっ!
そう言いださなかったあたし偉い!
「あたしはモノじゃありません。
少し前からあなたの奥さんで、その前からずっと好きでしたよ」
知ってる、なんて軽く言われて押し倒されたのはちょっと納得がいきません。
「エリックは、どうなんですか」
「魔導師は、本当の名前はよっぽどの相手にしか明かさないし、呼ばせない」
……へ?
反芻しましょう。
名前を聞いたときにあっさり言いませんでしたか? だから、他人の前では呼ぶなと言ったんですか。
「もしかして、最初から、だったんですか」
「たぶんな」
曖昧に言われて抗議する前に口がふさがれました。少し温度の低いそれに触れているとようやく取り繕っていたものがぐずぐずと崩れ落ちていきます。なんか、どうでもよくなってきたような……いやいや!それよくないっ!
聞きたいことが増量してるんですけどっ!
どうにか話を聞こうとしてもあとでと言われるだけで、取り合ってもらえませんっ!
というかどこ触ってっ! 手際よく脱がさないでっ! そ、そこダメですっ!
……いっかい、理性ぶん投げました。
おいしく食べたのはどちらか、というのは、微妙なところでしたね。
ちょっと待っててと言われまして先にエリックのお部屋にお邪魔しているわけです。ベッドの縁に腰かけて、室内用の靴をぽいぽいっと脱いでおきます。ちゃんと並べおきましょう。
以前とあまり変わってない室内は、微かに煙草の匂いがします。
幽体のときは匂いというのはわからなかったのですっきりとしたような苦い匂いが懐かしく感じるくらいです。
幽体でやらかしたのはほんの数日前で。
至近距離の寝顔に身もだえたのは記憶に残っているというか。思い出すとなにか叫びたくなるこれってなんでしょうね?
ぱたりとベッドに伏してプルプルして耐えますけど。
あ、無理。色々無理。考える時間がある分、死にそうです。そして。ここが現場というのがさらに……。
扉の開く音にがばっと身を起こせたのは、取り繕いたいという気持ちからでしょうね。大人しく待ってましたよと、そんな顔をしていたはずなんですが不審そうに見られました。
……ばれてる。きっとバレてるのでしょうねー。遠い目をしたくなります。
慰めるようにちょっと撫でられましたけど、逆にいたたまれません。床を見つめていたら、左手に触れられました。
エリックの冷たい指先が薬指とその指輪をたどります。
「くすぐったいです」
指先にキスを落として、離してはくれたんですけど。
気がつくとエリックが跪いていたりしたのです。な、なにかデジャヴ感あります。
手のひらにぽいっと落とされた箱。まえにもこういうのありましたよ。驚いてエリックを見れば、なんだか床の方見てます。照れてるんでしょうか……?
「ありがとうございます。開けていいんでしょうか」
「気に入るといいんだが」
箱の中は指輪でした。シンプルな銀色、艶消しのもので裏側にも細工一切なしでした。
意外ですが、どういう理由の指輪なんでしょうか。嬉しいのですけど、困惑するところもありまして。
今までもらったの実用品ばかりでした。純粋な装飾品って初めてで、嬉しいんですけど戸惑うというか。
「結婚指輪というのも必要なんだろ?」
あたしのしばしの沈黙でなにか気がついたのか、そういわれました。
そっか、結婚指輪。そっか。
……。
あたし、今日、死ぬの?
「買わない人もいますけど、あたしはとても嬉しいです。
でも、どこで知ったんですか? あ、ユウリですね。そんなこと言い出したの」
ばたばたとしたい衝動をどうにかやり過ごして、冷静さー、冷静さはどこにいるかねーと内心呟きながら返答しましたよ。
どこなの。平常心。君をずっと探しているんだけど、見つかる気がしないの。
推しと生活している以上、常に放浪の旅に出ているのかもしれませんね。今すぐ帰ってくるのです。ここで失敗すると後々まで響きそうです。
「そんなところだ」
あれ? なんか、微妙に歯切れが悪いですね。微妙な肯定。
言い出したのはツイ様かもしれませんね。結婚情報誌送るとか言い出してましたから。
エリックはそれ以上追及されたくないのか特別感もなくさらっとあたしの指にはめてます。なんかありそうですね。これ。
「ぴったりくっついたんですけど」
「それは金属の性質で、特殊な効果はない」
「そうですか。あとでお店教えてくださいね。あたしも用意します」
そこで首を傾げられました。
中途半端な知識だけ与えるのやめてほしいですね。あの野郎どもと思ったのは、奥底に仕舞っておきます。
「一緒に買ったりしますけど、相互に用意するものなので。指輪が嫌なら他の物を送ることもありますから、そっちでもいいですけど」
できればお揃いがいいんですけど、指輪をつける習慣がなさそうなので無理にはお願いしません。
そういえば、婚約指輪のお返しもしてません……。収入もできたことですし、借金返済および、貢ぐことができます。
うきうきしてきますね。
まあ、問題はなにを貢げばいいのかわからないところですけど。
「それなら少し考えておく」
「はい。お待ちしてます」
ほんの少しの沈黙。
視線があえばすっと目を細められました。もう一度、指先にキスされて。
「これで、俺の」
だ、駄々洩れな色気しまってくださいっ!
そう言いださなかったあたし偉い!
「あたしはモノじゃありません。
少し前からあなたの奥さんで、その前からずっと好きでしたよ」
知ってる、なんて軽く言われて押し倒されたのはちょっと納得がいきません。
「エリックは、どうなんですか」
「魔導師は、本当の名前はよっぽどの相手にしか明かさないし、呼ばせない」
……へ?
反芻しましょう。
名前を聞いたときにあっさり言いませんでしたか? だから、他人の前では呼ぶなと言ったんですか。
「もしかして、最初から、だったんですか」
「たぶんな」
曖昧に言われて抗議する前に口がふさがれました。少し温度の低いそれに触れているとようやく取り繕っていたものがぐずぐずと崩れ落ちていきます。なんか、どうでもよくなってきたような……いやいや!それよくないっ!
聞きたいことが増量してるんですけどっ!
どうにか話を聞こうとしてもあとでと言われるだけで、取り合ってもらえませんっ!
というかどこ触ってっ! 手際よく脱がさないでっ! そ、そこダメですっ!
……いっかい、理性ぶん投げました。
おいしく食べたのはどちらか、というのは、微妙なところでしたね。
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