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眠り姫
王都は大変です
しおりを挟む執務室にて。
「余は引退する」
「は? ふざけたことを言い出しますね。余はなんて言い出したって威厳は増えません」
「そうだそうだ。面倒を押し付けて逃げるのは反対ですよ」
「いっそまとめて、隠居せぬか?」
「「それな」」
「……儂、そんな悪いことしたかのぅ。帝国から喧嘩吹っ掛けられてなんとかやり過ごしてこれをどうにかしろと。宰相が裏切るとか考えもしなかったのじゃが」
「あれは行き過ぎた忠誠心でしょうね。どうあっても来訪者には留まってもらわねば困ると。帝国への圧にはちょうどよいでしょう」
「謹慎させておるが、いつ戻していいのか。
仕事が、ブラック労働になって過労死しそうだ」
「そこはリリー嬢の判断になりましょうな。あの方もしばらく王弟殿下の対応でかかり切りでしょうし、まだ先でしょう」
「……愚弟をそろそろ売り払うか」
「婿の適齢期も過ぎた男をどこに?」
「娼館」
「……そ、それはさすがにどうかと思うのですが」
「末息子で甘やかした母上が悪いのだ。一時的に平民暮らしをさせてもよかろう」
「そういうの十代か二十そこそこで済ますことではないでしょうか」
「いっそ、ゲイル殿に絞められたら反省しそうな気がしますな」
「王族なんて何とも思ってないくせに、リリー嬢と婚家が困ると大人しくしているから」
「ともかく、あれは他力本願ではなく、われらが処理せねば」
「……いえ、ご家族の問題はそちらで解決してください」
「ですです」
「え?」
「我らは臣下ですから。王族の方の相手なんてとてもとても」
「そうですとも。不敬罪などと言われるのはこまりますからな」
「裏切者!」
「まあ、愚痴くらいは聞きますよ。陛下」
「そうです。苦手なのはわかりますが、どうにか克服してください。ついでに第一王子も矯正してください」
「あれは、婿に出すので強制的に再教育になる」
「そろそろ決めるんですね」
「うむ。そして隠居する」
「……無理でしょうね」
「隠居する」
「努力目標があるのはいいことです」
騎士団詰め所にて
「……雰囲気が暗すぎて辛い」
「寡黙なティルス先輩って怖い。あの人は軽薄くらいがちょうどよかった」
「シュリー先輩もよりだんまりで怖すぎる」
「来訪者の子に振られたとか聞いたんだけど、あの人たちを振る猛者なの。あの子」
「独身女性垂涎、極上の結婚相手、全部振ったのがすげぇと逆に感動する。
来訪者ってなんなの? と反感を持っていたうちの妹も手のひらクルーしてた。恋愛結婚素敵とキラキラしていてうっと言葉に詰まった」
「まだ結婚してないし。してないよな?」
「婚約していることにはなったようだけどな。
あれを奪うのはほぼ絶望的だろうなぁと俺は思うね。あのおっかない魔導師がそれを許すわけがない」
「どちらかというと彼女のほうが惚れ込んでるだろ……。温度差で風邪ひきそうなくらい」
「……ま、悪い奴じゃないから彼女の心配はいらないと思うんだが」
「うちの先輩方はどうすんのかね?」
「本気だったのだろうか?」
「ティルス先輩は、たぶん、執着すると思うなー。
ほら、魔導師嫌いで、自分に興味のない女が好みだから」
「……心底、めんどくさい人だ」
「シュリー先輩は恋情なんて言わず、忠誠だのを捧げちゃいそうな危ない感じ」
「あー、わかる」
「ほんとにどうするんだろうな……」
「ま、人の恋路の邪魔はしない。それと八つ当たりはされたくない」
「ほんとなー」
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