推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

文字の大きさ
161 / 263
眠り姫

起こしにきてください5

しおりを挟む
「……うん。見えてない」

 カリナさんの露骨な独り言が現実逃避に見えます。ちらっと向けられた視線で、なにしてんの?と問いただされたのは気のせいとして処理したいです。
 カリナさんは教会にいたようです。以前、来たときに通された応接室にいましたから。円卓が特徴的なその場所は簡易会議などでよく使われるそうなと言ってましたし。
 絶賛、会議中でした。現在、十人ほどの男女が席を埋めています。その末席に青い顔のままカリナさんが座っていたのですけど。

 一瞬、エリックのところに行こうかと思ったんですよ。一回行けたから次も可能だろうと。しかし、ですよ。あの人も触れる霊体というものに興味を持つと思ったんですよ。主に研究対象的に。
 そこにラブはきっとない。

 カリナさんが一番安全に決まってるじゃないですか。ローゼのところだとユウリがもし見えたりしたらとてつもない修羅場化します。あちこち折衝しているらしいリリーさんにお手を煩わせるのは避けたいですし。

 少々挙動不審だったカリナさんを気にしてか隣に座っている女性が怪訝そうな表情をしています。

「どうかしましたか?」

「いえ、なんでも」

 そつなく答えたカリナさんの目が据わっているような気がするのは気のせいでしょうか。
 現在の議題というのはなんでしょうか?

「カリナよ。おぬしはどう思う?」

「穏便に済ませたい、というのが来訪者の意思ですし、それを曲げる気はないと思います。
 正直、大事なものが害されない限りかなりの譲歩を引き出さるでしょう。もちろん、対等の取引が望ましいでしょうけど、彼女は教会にも魔導協会にも甘い対応をするのではないでしょうか」

 ……淀みなく個人的評価をされてしまいました。
 もちろん、国を荒らすなんてしないわよね? という圧を感じます。ちゃんとシスターなのだなと思いましたね。孤児院のことをか色々考えてはいるのでしょう。

「大事なものを害された場合は?」

「殲滅くらい覚悟されては? 即闇落ちしますよ」

 あんまりな評価ではないでしょうか。至極当然なことを言ってる風の顔ですけど。
 まあ、確かにその傾向は否定しません。

「ほっとけばいいんです。こちらには多少の恩義を感じているはずですから、焦る必要はないでしょう」

 婚姻許可証の件でしょうか。あれは本当にどう扱っていいのかわかってないんですけど。
 今でもほんとに結婚したっけ? という気分になります。心の準備というものがですね……。事前にその雰囲気があっても回避したような気がするので、そこも微妙です。

「ふむ。静観せよと」

「はい」

「この機にわれらの庇護下に置けばよいのでは?」

「魔導協会の失態でもありましょう」

 ……うーむ。意見が割れてますね。ふむふむと混沌と化していく会議を見守ります。教会のスタンスはこういう感じなのですね。
 カリナさんはさらに意見を求められるでもなく置物と化しています。とんとんと指で机をたたく音に気が付きました。

『なんで。ここにいるの?』

 丸い文字で小さな紙に書かれていました。

「避難中です」

 厳かに告げたはずが、怪訝そうな視線がやってきました。

「ヒューイさんが解剖だの霊体の検証だの言い出しまして」

 カリナさんが急にうつむきました。肩が少々震えているので、笑いの発作でも起きたのでしょう。あたしも他人事ならわらいますねっ!
 幸い、カリナさんには注意が向いていないのかばれてないようですけど。

「あたしがいない間、なにかされてませんよね?」

『ど、どーかなー』

 動揺が見られる字ですね。不安にしかならないんですけど。やっぱり戻ったほうが良いですかね?
 葛藤している間に会議は変な方向に捻じれていってました。
 教会に囲っちゃえばいいじゃん、ってなんですか。聖女として擁立し、保護するとか良さげに言ってますけど政治利用する気満々じゃないですか。

「どこも変わりませんね」

 身もふたもなく言えば魔導協会がおかしいって話ですけど。魔導師もあたしの知識利用を全く隠しもせずきらっきらした目で見てきますからね……。利用目的があるというのは一緒なんでしょう。
 対等に交渉しようぜっ! という気概がある分ましです。
 ただ、こちらも問題がないわけでもなく。与える知識はちゃんと考えなきゃいけないんですよね。好奇心で化学兵器に類似したもの平気で作って、うきうきして試しそうな恐怖しか感じませんよ。
 力はあれど、世の中を預けるには不安な人たちです。

 ほんとになんだってあんなに好戦的なのか。穏やかそうな魔導師すら倫理観がどこか足りてないのが魔導師クオリティ。
 その点はエリックですら信用できません。むしろ逆に危ないほうっていう。
 思わず遠い目をしてしまいます。うちの旦那様のラスボス感ときたら……。

 なんとなく、その後はカリナさんに憑いたまま過ごしてしまいました。安定の普通感に安心したかったんですよ。
 時々、胡乱な視線を感じましたが気にしません。

 さて、カリナさんもお城の方に戻ってきました。途中、王子に引き止められたり、姫様たちにつかまったりしてましたね。なお、王子には全く見えていないようです。お姫様たちはじっとみて首を傾げられたので、見えてる可能性ありです。
 ほかは特別見えている風ではなかったですね。
 途中、シュリーやティルスにも遭遇したのですが全く反応なし。正直、安心しました。いやー、見えたらどうしようかと。解呪を試されるのは遠慮したいです。
 なお、ローゼの様子を見に行くようお願いしたところ、同じ部屋にいたユウリにびくっとされました。
 残念ながらローゼには見えてなかったようです。

 そのままあたしの体の部屋を戻ってもらいました。

「おかえり」

「……ただいまです」

 ヒューイさんにお出迎えいただきました。とても微妙な気持ちになりますね。半日ぶりだね、わがボディ。室内の花の量が増えてるので死体感ましましだねっ!
 ……ほんとなんでなの。
 ヒューイさんだけでなく、リリーさんもいました。
 リリーさんは見えるみたいなんですが、目を細めてうーんとか唸られましたね。遠くのよく見えないものを見るような表情。な、なぜですか。ヒューイさんが割と見えてるのに!

「リリーは感知系が絶望的。センスの良さでも補えない致命的さ」

「な、なによっ! なんかこの辺にいるのはわかるわっ!」

 ……そこいませんけどね?
 カリナさんもヒューイさんも何とも言えない表情してますけど。ああ、チベスナ顔っていうんですかね?

「ついでに器用さもかわいそう」

「うるさいわね。必要ないの」

「魔道具、調合全般×」

 意外な弱点というべきでしょうか。ぐぬぬとなっているリリーさんを見るのは初めてですね。

「……それで、責任の所在はどうなったんですか?」

「え?」

 きょとんとした顔で聞き返されました。リリーさん、聞こえてもいないんですね。
 少々面倒ですが、カリナさんに通訳をお願いしました。
 あたしを質問攻めというか無限ループに放り込んだ元凶の子息は謹慎となりました。要するにあたしをトロフィとしたレースから外されたということですね。
 起床後の謝罪という形で決着はかなり軽い気はします。

「好意を持つ相手がいることを隠していたというところを突っ込まれての痛み分け」

 などと言われてましたけどね。
 おまえら、言ったら即悪評仕立て上げるだろうが、という信用のなさを恥じるべきです。物理的妨害だってしそうです。現状を考えれば偏見でもなかったわけですし。
 ショッピングじゃないんだからこの中からお好きなものをどうぞ、なんてできません。

「そもそも縁談しに来たんじゃないんでいう必要ないじゃないですか」

「そうなんだけど。目を覚まさせた相手を認めるということは押し通したわ。
 解呪の試みを解禁するのは三日後ね」

「は?」

「極秘な話なので忘れてほしいんだけど、完全な形の眠り姫は別格で解呪条件が厳しいのよ。本気で嫌がらせで作ったんじゃないの? ってくらい。だから、他の誰かが解呪のために触れることも無理ね。たぶん、見えるのは別の理由が作用してるんじゃないかしら?」

「ゲイルさんが言ってたのと違うような……」

「うち直系だから。外に出せないような、夫にも言えないような逸話が残ってる」

 リリーさんが遠い目をしていますが、今、さらっと重要情報を言ったような?

「直系って?」

「あら? 言ってなかった? あれ作った魔導師の直系子孫よ。ブロンディの森の屋敷に済んでたの」

「……そーですかー」

 因縁めいてますね。
 まあ、直系ならばあれほど眠り姫の蔵書があったのは頷けます。最初のは起こるべくして起こった事故ですよね。
 今回はユウリのせいでしょうけど。あとで問い詰めてやりますよ。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…

宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。 いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。 しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。 だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。 不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。 差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、 彼女は“自分のための人生”を選び初める。 これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

処理中です...