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ピクニックの姿をした女の戦いIn中庭2

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「では、我々はここで」

 会場は中庭です。先日、夜に訪れた時とは様相が違いました。日よけのパラソルの大きいものが立てられその下にテーブルと椅子が置いてあります。それがいくつもあって、参加者と給仕の人でいっぱいです。

「盛況ね」

 呆れたようなリリーさんの言葉通りです。こちらに気がついたのかエルさんが、手下、いえ、配下のメイドさんたちを連れてやってきます。
 相変わらずしゃっきりとしたお姿で、威圧感あります。ちょっと腰が引けます。

「ステラ様は既にお越しです。こちらへ」

 挨拶等はあっさり省略され、案内されました。同じ場所に留まっていると人が群がってくる感じもしましたので、良かったですよ……。
 悲喜こもごもな視線がちょっと痛い。
 総合的に品定め的です。お披露目であった宴がユウリの一件で、機能してなかったので、ある意味お披露目でもあるのでしょうね。

 男性相手は先日のお茶会で終了なんでしょうか。終了であってほしいです。

「おやまあ、ずいぶんと大人しくなったねぇ」

「ご無沙汰しています。マント、ありがとうございます」

「よく似合うね。そこまで黒いものはなかなか使えないから、仕立屋も喜んでいたよ」

 ステラ師と和やかに会話しながらその隣に座りました。円卓なので、どこに座っても良いようです。あたしの隣にリリーさんが座っています。
 そして、あたしの後ろにローゼさんという配置になりました。大変過剰戦力な気がします。

 なお、カリナさんは教会関連の人が集まる予定の席に移動しています。ほっとしたような顔して去って行ったんですけどね。遠目からでも囲まれているのがわかります。同じくらいの年のお嬢様方でしょうか。

「だから、同席した方がいいって言ったのに」

 リリーさんが苦笑しています。

「大丈夫ですか?」

「あれくらい平気なはずなのよ。ここらで度胸つけてもらいましょう」

 鬼畜です。

「さて、殿下方がいらっしゃった」

 立って迎えるのが礼儀らしいので、あたしもそれに準じます。ただ、皆が頭を下げているところで突っ立ってろというのが、しんどいです。
 いっそ座ってて良くないですか?

 姫君は今日は四人いました。一番上は今年十歳で一番下が三歳だったと聞いたんですが、一番下の子がいません。お熱でもだしましたかね?
 代わりに前回いなかった子が一人追加されてます。いったい何人いるんでしょう?

「今日は皆が気軽に楽しめるようにピクニックというかたちとした。楽しんで欲しい」

 年長の妃殿下にさくっとご挨拶いただいてピクニックが始まりました。どう考えてもあたしの知っているピクニックではありません。
 なにかこう、お茶会ですよね。

 お茶菓子はワゴンで運ばれてきます。だいたい一口で食べられそうなフィンガーフードですね。甘いのから食事っぽいものまで揃っています。
 飲み物も炭酸系から、珈琲っぽいものまで色々です。厨房の皆様、頑張りましたね。
 この季節に集めるのが難しそうな花もあちこちに飾られていますし、気合い入り過ぎて申しわけない気がしています。

 こちらから挨拶に行く前に姫君が、カリナさんのところに突撃していっているのが見えました。よっぽど気に入ったんですね。
 お付きの人が大慌てで追っています。

「うーん。あの子、子守で就職するかも。一の姫君と六の姫君が反抗期で手を焼いているって愚痴聞いたのよ。うちも反抗期中だから気軽に言えるのかしら」

「おや、キリルとはまだ揉めてるのかい?」

「そっちはお互い礼儀正しく、他人行儀。構い過ぎるのがダメだと言われちゃね。
 ジュリアの方よ。今日も家として参加するように父様が言ったらしいんだけど。断られたらしいわね。ただでさえ忙しいのに抜けられないって」

「真面目な娘だから仕方ないね。リナやヴィオナはどうしたんだい?」

「そうね。遅いわ」

「裏方でもやっているのかね?」

 そんな話を聞きながら、給仕の人が入れてくれたお茶を一口。ヒューイさん調合の特製毒消しを事前に飲んできました。ちょびっとは毒を消してくれるそうです。
 ただし、麻薬に似たなにかなので常用禁止。やけに甘ったるくてあまり飲みたい感じではありません。それでも今回用の1回分しか用意してくれませんでした。
 本命のお薬はそちらではなかったので、いいんですけど。本命は痛み止めとか女性に必要な薬、一式ってところです。リリーさんががっつり叱られておりました。そこら辺を用意するのは大人のたしなみのようです。

 というわけで、ちょびっとずつ味見はできます。

「妃殿下たちのところに行かなくてもいいんですか?」

「あちらも挨拶だの面倒なのがあるだろうからね。こっちもおいでなすった」

 ……おや。いつの間にか行列が。
 主要な貴族家の奥方様から、息子がと売り込まれました。一部、兄弟についても売り込まれました。
 愛想笑いも引きつってきますね。

 付き添いのお嬢様方は、あたしの反応を見ているし、気が気ではありません。いや、その、どなたも気に入ってませんからっ! とはっきり言うと角が立つ……。
 うちの息子のなにが気に入らないのとか言われると困るんですよ。それ以前に、顔と名前が一致しません。
 お茶会で会ったようなんですけど。

 ……興味なさ過ぎかもしれません。これが仕事っていうなら頑張りますけど。常連さんを憶えるのは得意だったのです。今は、拒否感が先に来ます。

 その中で印象に残ったのが、やはりティルス母と妹でしょうか……。
 妹が、ユウリ信奉者で、あたしがユウリと結婚するのと思い込んでいたっていう。ローゼを睨みっぱなしで、困りますね。
 その母はおっとりとした感じな振りしてこちらから言質とろうとしてきました。怖い。魔導師なのに家に迎え入れてあげるんだから感謝するわよねと疑わない感じがとても、怖い。
 隣のリリーさんがぴきぴききてました。

 それに比べて癒されたのはシュリーの母ですよ。控えめにうちの息子が役に立っているでしょうかと聞いてきました。姉もおしとやかそうな感じではありました。回想上、木登りをしていたお嬢様とは思えません。
 穏やかに真面目な仕事ぶりについて褒めておきました。

 他の護衛のひとについてもフォローしますけど。まあ、それなりに真面目ですよね。例外がティルスなだけで。なぜ、あの人あんなに不真面目なんでしょう。

 そんなお話が一通り終わった頃にはぐったりしましたよ。あたし、病み上がりなのっ! と全力で主張したいです。

 というのにですっ! 次は教会の人たちですよ……。カリナさんが姫君を抱えながらよろよろやってきます。
 最初はきっちりした格好だったはずですが、乱れが目立ちます。

「ご紹介します。王都支部のエディ教会長です。こちらは、ミュスリ副協会長、ヨリス様です」

 三名様ご案内です。
 教会長さんが長身で、副協会長がぽっちゃりで、ヨリス様が中肉中背な感じでした。年齢がわかりにくいのですが、三十よりは上でお婆ちゃんと呼ばれるにはまだ早い感じでしょうか。

 そして王都でも支部。そういえば、本部ってどこにあるんでしょう。魔導協会のは北の方にあることだけは知っていますけど。

「ヨリス様はこの国においての教会のまとめ役なの。でも役職は付いてないから。秘密ね」

 こそっとカリナさんが耳打ちしてくれました。
 教会も色々あるんですね……。
 表面上、穏やかにご挨拶いただきました。表面上……。

「よければ、聖地巡礼とかしませんか? 観光地としても有名ですし、良ければこちらを」

 観光ガイド風なパンフレットをいただきました。主なお話は、副協会長が請け負っているのか優しげに言ってくださるんですけどね。
 国外ですね。

「いつでもおいでください。来訪者の手記なども預かっておりますので、読まれても楽しいと思います。言葉は我々もわからないので、翻訳などしていただけると嬉しいですね。色々再現した料理やものもご用意いたします」

 あ、これ、勧誘ってやつ。と、露骨にわかります。

「まあ、ミュスリ、そうがっつくものではありませんわ。それでも、一度は教会にお越しくださいね。お渡ししたいものがありますの」

 支部長さんはおっとり上品に言っておりますが、押しが強いのは一緒ですね。
 なんですか、教会の人はあたしを常に勧誘する義務でもあるんですか? カリナさんに視線を向ければ、両手を合わせて拝まれていました。
 ごっめーんっ! むりーっ! ってあたりでしょうか。

 この世界でも拝むってあるんですね……。

 リリーさんに視線を向けると苦い顔で肯かれたので、行くこと自体は止められない感じでしょうか。

「日程が合いましたら、お邪魔します」

 曖昧に誤魔化して返答します。行きますとは言えません。

「では、我々はこれで」

 それで良しとされたのかさくっとお帰りでした。ヨリス様、ほとんど話しませんでしたね。カリナさんも連れて行かれたので、結構団体様な感じです。

「お姫様連れ回して良いのでしょうか」

「子供の意図はわからないけど、大人としては教会との友好をアピールしたいから放置してるんじゃないかしら。
 少し前の色々で拗れてるのよ。逆にほっとしてるんじゃないかしら」

「教会にも貴族の子は入ることはあるが、だいたいは厄介払いか、つながりを求めてだからね。信頼関係については脆い」

 教会も色々ありますね。
 一応、これで義務は果たしたことになります。妃殿下への対応は帰りまでにお話すれば良いということだったので、お姫様たちとご一緒することにしました。
 ……いやぁ、どの方が好みですの? なんて、一瞬囲まれて青ざめたからですけど。

 いや、だから、あたし、既婚なので。
 言えたらいいんですけどね。ああ、旦那様、いったいどこでなにしてるんだか。リリーさんもローゼさんも教えてくれません。
 唯一、ちょっと寝込んだらしいってことを聞いたくらい。あとは、十日もたたずに王都を去るらしいということ。

 本来の予定を超過していて、魔導協会から警告がきたらしいんですよね。
 あの場所に登録した魔導師が不在だと国内の防衛にも支障をきたす、らしいです。今まではそうだと言われていましたが、実際、そうなるとは誰も思ってなかったらしいですよ。
 なので、魔導協会内ではそれなりにばたばたしているそうです。

 どこかで一回くらい、会えないでしょうか。……可能な限り冷静にお話し出来そうなところで。また会えないとか思うと自分の理性を信用出来ません。

「あのね、お話してほしいの」

 小さな姫君のおねだりなどを聞いて、穏便に終了しました。水面下はどうかはわかりません。リナさんもヴィオナさんも途中から参加していたらしいですけど、あまり話は出来ませんでしたね。
 やはり別途お茶会は必要でしょうか……。
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