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ピクニックの姿をした女の戦いIn中庭1

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 本日、73日目です。
 想定を越えて活動禁止期間が長かったですね。ようやく床払いってところです。
 平和に色々手紙を魔法で送ったり、ツイ様に黒い手紙の相談をしたり、借りてきてもらった本を読んだりとしていましたね。
 執事探偵の最新刊までたどり着きました。どこが探偵といつも呟きたくなりますが、格好いいですセバス。お嬢様とか言われたいっ!

 ……こほん。その他、持ち出し禁止のはずの以前の来訪者の手記の写しなどを見てました。だいたい日本語。油断したのか色んな愚痴が書いてありました……。なかなか、趣深いといいますか。その内容から考えるとあまり古い人はいないようです。とは言ってもあたしよりは50年は前そうな人もいましたけど。

 そして、変な手記を残さないように気をつけようと思いました。死後閲覧されるとか、死にたくなります。もう、死んだら燃してと思いますけど、きっと後生大事に保存されるんです。だって、戦国武将のお手紙だって大事に残ってるじゃないですかっ!

 まあ、あたしは平和でした。
 どうも風の噂によるとエリックは熱出して寝込んだらしいですね。自業自得、とも思いましたけど、ツイ様の様子が変だったのでなにかしたんじゃないかと疑ってます。話しときましたよと伝えた翌日あたりに聞きましたからね。介入したでしょ? と問い詰めては目を逸らされて知らないな言われましたよ。黒です。黒。ギルティ。
 その隙間にフラウがめんどくさいとローゼさんのぼやきが入り、疑惑が色々渦巻いてます。え、看病とかあたしがしたいくらいですけどぉ? 寝込んでいる身の上ではできませんけど。

 完全復活の今日。
 いきなりのピクニックスタート予定です。王妃様と子供たち+主要貴族家の奥様とお嬢様たちと合同の開催です。それって、かなり規模の大きいお茶会って言わない? と思いましたが、ピクニックと言い張られたそうです。以前お約束した、と言われると断れぬとリリーさんが嘆いていました。

 こんなことになったのは、どうあっても個別にお茶会を開催するには日程の都合が付かなかったんですね。寝込んでいるうちのどこかで勝手に設定されていたお茶会たちが、全部キャンセルになりましたから。勝手に、というところが頭が痛いです。
 教会の人とも会う日取りもなくなってしまい、偶然を装って教会の女性の神官たちが合流とそういった政治的な場になるそうですよ。

 ピクニックの姿をした女の戦いIn中庭、です。

 リリーさんが遠い目をして、なぜこんなことにと呟くくらいですから。私は政治力低いのよ。とぼやいてもおりました。……まあ、魔導師としては別格でしょうけど、王城常駐の女性たちとやり合うには経験が足りてないんでしょう。
 魔導師相手の交渉などとは全く違うでしょうから。
 実家のほうも主力だった公爵夫人は今、国外の外遊につきあっているそうで戦力不足は否めずだそうです。代わりに王家がこちらよりとは聞いていますが。

 カリナさんは胃が痛いと呻いていますので、どうなんでしょうね……。
 ど、どこかに政治力の高い娘さんはいらっしゃいませんかっ!? という状況に見えます。

 なお、今日に関しては魔導協会は一切、人を出さないそうです。代わりにステラ師も参加とか。魔導協会の人より公爵家の人としての出席させたいようです。

 魔導協会は目立ちたくないし、刺激したくないのよ。とリリーさんは言ってましたけど。
 交渉決裂やむなしでもあるそうですけど、一応、穏便に済ませたくもあるそうで。

 今日は、というべきか今日もと言うべきか給仕も含めて男子禁制です。
 なので、見た目は華やかなはずですけどね……。

 そして、あたしも華麗にドレスアップ中です。色々な痕は消えていて本当に良かったです。
 護衛役として戻ってきたローゼもご一緒にと思ったら、断られました。普通に男装してます。
 カリナさんも教会の人としての出席なので、教会の正装です。
 リリーさんは、家の色や柄が決まっているらしく選びすらしません。

 現状、並べられたドレスに困惑しているんですよ。

「……どれがいいんでしょう?」

「好みでいいわ」

 こちらの好みを考慮されたのか、胸元は隠されるようなものばかりです。ウェストも絞るというよりはゆったり系のエンパイアドレスみたいなのが入ってきました。
 柄も無い方が良いと思われたのかレース、リボンや造花で飾られていたりします。以前のような今の流行で揃えましたという感じではありません。
 特別、他の家の柄がというものもなく、逆にシンプルさが際立っています。

 久しぶりにモスグリーンを選びました。シンプルなAラインで、袖と裾に赤白金でなにかの植物が描かれています。クリスマスカラーですね。
 着替えの前にお化粧をしておくことにします。着物みたいなガウンを着て、化粧台に向かいます。

 現在、ほぼすっぴんメイクというやつです。かなり念入りに自然に、そして、ちょっとお疲れ風に作られています。
 元々の印象とはだいぶ異なるでしょうね。いわゆる清楚系というのを目指してみました。実体とはかなり異なります。他の集まりではちょっと背伸びして大人な振りしてるぞ系で攻めてます。

「はい、出来た」

 どうしても筆で塗る口紅だけはうまく行かずリリーさんにお任せしています。スティック型のようなものはまだないようなのですよね。

「ありがとうございます」

 準備完了といつものようにケープを手にしようとしてリリーさんに止められました。

「今日はダメ」

「どうしてです?」

「素の来訪者として招待されているから、ってところ。それから、それもちょっと綻びが出来てるってお祖母さまが言ってた。少し修理に出すから。あ、明日には戻すわ」

 確かにちょっとくたびれた感はあります。洗濯とかしちゃ駄目だったでしょうか。
 諦めてリリーさんに渡します。なんだかほっとしたような顔されたのですけど。

「で、代わりにこっち。お祖母さまが用意してたみたい。正式に渡すのは後日だから、今日だけね」

 同じような形ですが、印象が異なります。黒地に金の縫い取りがして重厚さを感じますね。重そうに見えてとても軽いです。しかし、呪式らしきものはどこにも描いてありません。

「軽量化と汚れ防止、破損防止と簡単な自動修復程度で済ませているそうよ。どうせ、どこかの誰かが、他のものを用意するだろう、って。それから所属はまだ入れてないから大丈夫」

 ……そ、そうですね。エリックの魔導具も過剰な気もするのですが、あれも愛情表現のような気もするので黙って受け取ってます。
 普通のものではなく、実用品なら断られないだろうとでも思ってるんでしょうか。

「さて、兄弟や息子、果ては孫まで押し売られるのを回避するお仕事が始まるわよ……。飛び火で、カリナの実家にも相当縁談が持ち込まれてるらしいわ。あなたも気をつけなさいね」

「えー、やだー、実家なんて存在しませんよー」

 半笑いでカリナさんは応じてます。教会に売られることがないと良いのですが……。
 教義に神官の結婚についてなにか書いてはないので、基本本人の裁量にまかされているそうですし。
 色々積まれたら売られるかも?

 今、金欠らしいですから。

「え、なぜに同情的にみられてるのっ!?」

「良い金ズルに売られないといいですよね」

「そーね。既成事実には気をつけて」

「えーっ!」

 今更、カリナさんは青くなってます。まあ、何かあったらお助けしますけど、自衛する方が良いに決まってます。

 入り口の扉の前でローゼさんが呆れたような顔をしてます。基本的に話しかけない限り返答はしないと言われているのです。お仕事中なので。
 未だにユウリとのことを聞けていません。ええ、お仕事に関係ないので、と真っ赤な顔でお断りされてます。ちっ。可愛いじゃないですか。

 一度くらいはユウリと揃っているところを見ないと未練が残ります。あと、副官の眼鏡氏。お近くで見たい。
 他の登場人物は、王都では無理そうなのですよね。ティルス、シュリー、フラウ以外は既に王城にも城下にもいないようなので。各地を巡っている間にナンパして連れてきたので、用が済めば地元に帰りますよね。
 何かの縁があれば、会う事もあるでしょう。

 ……で、でも、可能ならコンプリートしたい。あとでリスト作ろうかな。会いたい人リスト。

「さて、行きましょうか。護衛がものすっごい鬱陶しいけど、巻くようなことは考えないでね。チェンジくらいは訴えてもよいわよ」

「はい?」

「あの王子様風と真面目そうな人のセットなの。私は挨拶程度で済んでるけど、アーテルは無理じゃないかな」

 カリナさんもそんなことを言い出してます。
 そ、それってま、まさかっ!

「数日、様子見してたけど、昼間は固定みたい」

「うわぁ……」

 ティルスとは会いたくないんですよ。シュリーだけで、いえ、その主張もまずいですね。なにかリンゴンなる鐘が聞こえた気がします。
 あたしは人妻なんですって。言えませんけど。いったら、エリックが抹殺されそうなので絶対言えません。世を儚む前に世の中道連れにしそうなあたしがそこに残りそうです。うふふ。

 ……ヤンデレの資質は十分ございますので、開花しないように気をつけたいです。

 なお、現状で言えば、恋人な状態でも引き離されるが一番穏便な予想で、間違っても祝福はされないだろうと。最良で黙認。各所とそれなりに交流後、根回ししてからの公表みたいな感じにもっていきたいそうですね。
 まあ、ダメなら諦めて国を出て、と言われてます。いるだけでオッケーみたいな国はいくらでもあると。
 なにか禁断って感じですね。後世で変な脚色付いてお披露目されないといいんですけど。

 まあ、うわあという気分は隠して、普通に挨拶してからお願いしますねと作り笑顔で対応しましたけど。

「そういえば、申請の書類はどうなったんですか?」

 ふと思い出したように聞いたのですが、これはリリーさんの指示です。誰かが聞いている、見ている状況でその話題を出すこと。
 ついでにティルスではなくシュリーの反応も確認しておきます。
 少しだけ眉を寄せてますね。

 廊下なのでそれなりに人がいます。ええ、仕事とかたまたま偶然通りかかった風を装ってあたしを見物ってやつです。見せ物ですねぇ。

「担当者不在だのでのらりくらりと回避されてるのよね。仕事する気あるのかしら?」

「お忙しいんですね。冬が始まる前に帰りたいです」

「そうね。居心地の良い家でゆっくり過ごすのも良いものよ」

「孤児院の荒れっぷりを直すの手伝ってね」

「それは、ご相談の上で」

 という決められた通り、流れるように会話していきます。これっぽっちも王都に残る気がない意志表示として必要とされたようです。
 特定の誰かに言ったって黙殺されると考えてるようですね。あたしもそう思います。

 鳥は鳥籠に。餌だけあげておけば良い声で鳴くだろうと思ってるような感じなんですよね。今までの来訪者の手記でも初期は自由がないだの、必要以上に歓待されて困惑するだの書いてあったんですよ。
 そこから、相手方の要求が色々あり、先に貢がれた手前断り辛くずるずると居着いて、のようなパターンが多いみたいです。

 俺、最強系の人たちはそもそも手記など残しておりません。そっちはそっちで、痛い目見ているようです。

「どこに戻られるんですか?」

「フェザーの町に。魔導師にはとても居心地がよいですよ」

 ティルスの問いににっこり笑って返しました。ええ、魔導師にはここは居心地が悪い。来訪者という肩書きがあるから時々冷ややかな視線を投げられる程度で済んでるみたいですから。

 一瞬、うっと黙ったのはなぜでしょうね? 怒りでも滲んでました?

「新しいもの好きなのよ。領主様も良い方だし、ちょっと変わってるけど」

「そうですね。早く、帰りたい」

 あの森の怖い怖いお屋敷でも、なんだか懐かしい気がします。ただし、戻るとツイ様が直接コンタクト取れなくなる弱点が……。メールというのもなかなか言いたいこと全部伝わるわけでもありません。

「ここはお気に召さない?」

「向こうとの生活が違い過ぎて、少し性に合いません。歓迎してくださっているのはわかってますけどね。慣れない事ばかりで、失敗しないかと心配です」

 儚げと念じました。ええ、念じましたとも。素のあたしなら性に合わないし、というか、好きな人と一緒ならどこでもーと言い出しますね。

「大丈夫ですよ。そんなことを言う人がいれば、私に言ってください」

 ばちんとウィンクが飛んでくるところが、ティルスらしいですね。王子だな。
 曖昧に笑って誤魔化すことにしました。ここは頬でも赤らめてうつむいた方が良かろうと思ったんですけどね。
 ひっそり拳をぎりぎりと握りしめてましたよ。殴りたい。

 そして、本物の王子様には全くお会いしてないですよね。歓迎の宴以降、全然。ただ、見舞いのお手紙と小さな花束、それからクッキーの詰め合わせをいただきました。
 礼状を書いたらそれに返信という形で文通? みたいな状況が成立しつつあります。異界についての質問に返答するというものは、一応、リリーさんに見せた上で返信しています。

 視線を感じて見ればシュリーがどこか心配げに見てきています。あら。こっちは純粋に心配させたようです。
 下心ない分、ちょっとの罪悪感があります。

 そんなにチョロくて大丈夫かね? 君。と思うところです。
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