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フェザーの町は平穏です

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フェザーの町 ある酒場にて

「……で、あの家に1人とか大丈夫だろうか」

「どうあっても戻れないなら、仕方ないよ。あ、ビールください」

「あ、私もおつまみ。適当に盛り合わせで」

「茹で野菜盛り合わせ」

「……揚げ物やめたんだ?」

「この年になるとついた肉が落ちない。体操して肩こりなおったけどな。伝承に聞くらじお体操とかいうの。本当に出来るのな」

「身に刻み込まれているとか言われてるあれ? 今度、教えろよ。どうにも体力の低下を感じる」

「エルアのとこのシスターなんてったっけ。そっちに教えるように言っとく。しばらく同行するんだろ?」

「まあ、仕方なしに。帰ってきたら怒られるね」

「……どうにかする気ゼロだ。かわいそうなカリナちゃん。魔導協会からも暇人送るけどな。変な事ばっかり教えそうでなぁ」

「ちびっ子が吾輩、言い始めた。今、空前の吾輩ブーム。あと髪の色を虹色に染めるのもブーム」

「カオス。なんで、ここイロモノばっかり集まってくんだよ」

「土地柄? あ、おねーさん、こっちビールまだー?」

「よく飲むな」

「ゲイルは飲まないのか?」

「俺、二日酔いとかで戻ったら、白い目とかじゃ済まない」

「……若い娘さんの軽蔑のまなざしは刺さるね。娘くらいと思えばなおさら」

「まあ、あれで結構いってそうなんだが、聞くのも恐いからきかない。たぶん、ディレイより上だぞ。それなりに社会経験済みの物わかりの良さが、ちょっと恐い」

「え。二十代そこそこにしか見えないけど」

「あれは周りをよく見ている。どう振る舞った方が利益があるかとか警戒されないかとか、考えてそう。
 ただなぁ。ディレイが絡むと途端に駄目になってるから、あれもどうかと」

「確かに。前見た感じだとディレイの方も取り繕ってるけど、あれも駄目だな。駄々漏れ。しかも無自覚。絶対、やらかしてくる。それなのに留守番させたほうがもっとまずそうっていう現状が嫌」

「……どーなのそれ。安心出来る情報どこにもないけど。ついでに、もう既にやらかした事だけは伝えておく。いやぁ、早かったな。さっさと捕まえた」

「げっ。なんか、やたらと構ってるのそれか。今まで距離感あったのに、急に詰めた感じしたから。眠り姫でやらかしたせいかと思ったわ」

「え? なにそれ、聞きたくない。あー、僕は関係ありませーん」

「ま、表沙汰にしないで済むならそれに越したことはないんだけどな。ちなみに印が六つ出た」

「……ほんとさー、エルアのとこの神様なに考えてんの?」

「それこそ神のみぞ知る。だよな。全く、教会長が頭抱えてた。そこまでのものがやってくるとか思ってないぞ」

「あー、おねーさん、ビール追加ーっ!」

「あれ? これ、新作?」

「ああ、なんでもパンから衣つくるんだと。カツレツとか言ってたな」

「へ? パン? さくさくしてるけど。なんでゲイル知ってんの?」

「店主に教えたの俺。ついでに言うと異界からの知識」

「わー。文化侵略。ま、いいか。おいしい。ジャガイモとか衣つけてあげようぜ」

「……そっちの生まれてってなんでそんなにジャガイモ好きなんだ?」

「他に食べるモノがない」

「今は色々流通してんだろ」

「お金がないと結局、ジャガイモ喰ってる。バターとかつっこめばそれなりに喰える」

「……なんか、南の方でお金がないとオートミール喰ってるってのと同じような事言ってる。あれも砂糖とミルク入れれば喰えると言ってた」

「ここだと水で溶いたパンケーキだな。うっすーいチーズを巻くと悲しい気持ちが蘇る」

「……うまいモノ喰おうぜ。ところでサラダの薄いひらひら、最近の流行?」

「それもピーラーという道具が」

「おい。止めろよ」

「試作品作ったら勝手に量産された。いやぁ、予想外。今度はくっつかないフライパンってのを要求されている」

「地味に油塗れよ」

「鍋を磨きたくない料理人に大人気の予感がするから鍋に応用したい」

「あ、試作品もらうよ。うん、レポート出せばいいんだよな」

「……駄目だ。便利道具が地味に広がっていく……。それにしても食感が面白いな」

「まあ、自活できる収入源があればどこでもやってけるだろ」

「思ったより気に入ってるんだ?」

「弟子だからな。それなりに責任は持つ」

「へー」

「リリーがヤキモチ焼きそうだ」

「……黙っとけよ。めんどくさいから。だいたい、何であんなに嫉妬深いのか。俺のどこがもてるのか」

「それな。僕の方がもてる」

「で、なんで二回も離婚されたんだろうな。この先は独身のほうがいいぞ。資産は大事だ」

「エルアはどーすんだよ。若い子に好かれてるとか」

「え、やだな。お父さん扱いでしかねぇよ。ってなんでため息」

「いやー、チャンスをことごとく潰してきた鈍さが再来したなと」

「そうそう。なんで、鈍いのかと」

「え? ええ!?」

「ま、嫁に行かれてから後悔しろよ」

「それな」



フェザーの町 ある宿屋にて

「あーあ、寝ちゃった」

「お疲れのようでしたからね。あまり寝られていないようですし」

「あ、なんか森の家に1人で取り残されてって話を聞いた。それからちょっと不眠ぎみとか。さすがにあれは恐い」

「……曰く付きなので、幽霊くらいでそうですね」

「ギュンターさんも幽霊信じてるなんて意外」

「いえ、最近、そのような本を読んだのですよ。一人また一人と減っていく住人、犯人は……というホラーでして」

「……。話さないであげてね。本気でびびってたからね」

「承りました。まあ、それだけでもなさそうですが」

「そういえば、買い物に行きたいって言ってたから、そのくらいの時間あるよね?」

「なんとかしましょう。思ったよりちゃんとしていたので、安心しましたから」

「私と同じくらいのように見えるのに、異界ってすごいのね」

「……カリナさんはもう少し頑張りましょう。いざとなればシスターの服で誤魔化してください」

「え。その匙を投げました的発言。仕方ないじゃない。物心ついた頃に教会に放り込まれたんだから」

「普通はそのくらいでもある程度教育されるものなんですよ。エルアさんも自由にさせていたというところも悪いですけどね。いつか、家に帰すなんて全く考えてないでしょう」

「そう、それでなぜか縁談がくるのがおかしい」

「貴族社会全体が再編中といった感じですからね。婚約解消で、教会が怒り狂っているって聞きましたけど、本当ですか?」

「予約あった挙式が全部キャンセルされて、預かり金のみの収入になればぶち切れるでしょう? それも一件や二件じゃなくて、数十件。向こう、数年の予定が白紙!」

「それは頭が痛いですね。どこからぶんどりますか?」

「違約金請求中らしいわ。相手変えてでも式あげろという怨念を感じるっていうの?」

「だいたいの使い道がわかってるからいいんですけど、そうでなければ強欲って感じですね……」

「それは否定しない。それもあって英雄殿には多額の寄付を期待しているわけ。華やかに挙式してもらって寄付とか寄付とか」

「……ずいぶん、教会に染まってますよね。王都では猫かぶってください」

「出来る限り無口になるわ」

「そうしてください。彼女を一人にさせないように、お願いしますね。どこか危なっかしいですし」

「それはもちろん。メイド服くれたら」

「……手配しておきます。そちらの作法も教える必要がありましたね。明日も楽しそうです」

「え、ええっ!?」

「早くお休みください」

「ちょ、ちょっとまってぇ」

「明日は早いですよ」

「良い笑顔が恐すぎる……」
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