113 / 263
地下倉庫には秘密が?
しおりを挟む本日、56日目です。
今日も今日とて書き取りでちょっと飽きてきたのは否めません。ついでに言えば、昨夜のことで全く寝た気がしません。
あれどうにかなりませんかね。
ふぁあとあくびを二人でかみ殺しているところが、似たもの師弟ってことでいいでしょうか。
そんなこんなで、昼食後にふと思い出しました。
「そういえば、食料庫開けるっていってませんでしたっけ?」
お茶を飲みながらでしたが、ゲイルさんに苦虫をかみつぶしたような顔をされました。お茶が苦かったわけではありません。きっと。
「師匠が逃げるなんてな……」
「あれ、逃げたんですかね?」
「そう思う。もっともらしい理由をつけているが、あの人、家事全般苦手なんだよな。大貴族のお嬢様育ちで弟子時代、生活全般を金で解決したって伝説が」
「……すごい伝説ですね。あんなふわふわしたものを編んでそうな外見して」
「弟子には料理人つけて教えたという斬新な伝説もある」
ある意味、正しいです。その弟子が、新入りに教えると思えばエリックが、料理がきちんとしているのもわかる気がします。
そして、リリーさんは憶えなかったんですね……。師匠と弟子というより祖母と孫が一緒に住んでいるみたいな感じだったんでしょうか。
「じゃあ、開けるか」
「わかりました」
ダイニングにあるテーブルやイス、その他を部屋の隅に片付けて、気が進まない地下の食料庫の開封です。
ユウリがいなければ開けてもよかったんだけどとゲイルさんは言ってましたけど。魔導師のみ、あるいは、同門の者以外には見せたくないんだそうです。
床に敷いてあった絨毯らしきものも引っぺがします。床の模様とそっくりに作ってある布を絨毯と呼ぶかはさておいて。なんでも認識阻害みたいな呪式がひっそり組み込まれていたそうな……。知ってたら気がつくけど、知らなかったら見つかりにくいようなものらしいですよ。
それを外すと取っ手らしきものがありますね。指を入れるようなへこみといいますか。
その取っ手を引いてすぐに食料庫というわけではないそうです。その下にもう一つ扉がありました。
茶色の木製の扉にはなにかプレートが叩き込まれてます。めり込んでいるので、叩き込んだのは間違いないかと。
「師匠の雑さなのか、時間がなかったのか、わからないがこれで起動させるとかどうなんだと俺は言いたい。
アーテルは真似をしないように」
「はい」
出来る気もしません。
これだから感覚で生きてる奴らはという副音声が聞こえた気がするのはきっと気のせいです。
さてプレートからは不協和音しか聞こえません。
耳を押さえても聞こえてくるのです。
「嫌な時は目を閉じる。見たものを音として認識しているだけだから。
こりゃ、どこか歪んでるな。前はそんなことなかったんだが」
言われたように目を閉じたら音が消えました。今までの感覚とはやっぱり違いますね。
「目覚めよ(パビィル)」
ばきっという音がして、扉ごと消滅しました。
「は?」
ハモりました。衝撃的です。ぽっかり空いた階段だけが見えました。もちろん真っ暗です。
「そのまま、再封印しません?」
「いや、そりゃ、まずいけどな」
とても迷った末に、武装して挑むことになりました。この世界にはダンジョンはないらしいので、いきなり発生していることはなさそうなんですけど。
ゲイルさんの手持ちの武装は地味なトレンチコートでした。くたびれたオリーブグリーンのそれに、なぜか、最後に一ついいですかと聞いてくる某刑事を思い出します。
うちのかみさんがとか言い出しそうにはないですけどね。
それとは別に見たことのない棒のようなものを持ち出してきました。
「杖、ですか」
「灯りとまあ色々仕込んである。密室で使うには向いてないが、ないよりはマシ、と思う」
フレンドリーファイアとか心配しなきゃいけないでしょうか。現実的にその場にいる全てに影響を与えるのが魔法ってものでしょうし、範囲攻撃で仲間だけを外すのは難しいでしょう。
あたしはエリックからもらったケープを羽織りました。
ゲイルさんがちょっと驚いたような顔をしていたんですが。そういえば、前のときはぎっくり腰で寝込んでいたのでこれを着ていたのを見ていなかったような気がします。
「あいつにとっちゃ、ただのモノか。一応、一門の魔導師の証なんだよ。それ」
「大事じゃないですか」
確かに師匠にもらったとか言ってました。
でも、想定を越えての貴重品でしたよっ! なんで、簡単に使わないからやる、なんですかね?
本気で、モノとしかおもってませんよ。あれは。
ゲイルさんは苦笑して、脱ごうとしたあたしの手を止めました。
「でも、使わないよりも使った方がいい。俺もしまい込んで出してない。虫食いとかなってないといいが。
起動方法は、きいてなさそうだな」
「着るだけじゃ、駄目なんですか?」
「いつもはいいけど、効果が増える。代わりに魔素喰うけど。まあ、いいか。そこまで危険ではないと思う、たぶん」
たぶん。ですか。
なんとなく顔を見あわせて微妙な顔になりますね。
いざ、地下食料庫に潜入です。
階段で十段くらいで下につきました。
湿気もかび臭さもありませんでした。ただ、ひんやりしています。壁も床も石でしたけど、見た限りでは大きく壊れた所も罅も入ってないようです。
室内に入るとぼんやりとした灯りもつきました。
「空っぽだな」
「そうですね」
何にもありませんでした。棚もなにも。
ゲイルさんは首をかしげています。壁や床を丹念に見ていきますが、特に異常はなさそうなんですよね。うーん、気のせいなんでしょうか。
鳥肌が立つのは寒いせいな気がするんですけど。
「なんか、ある気がする」
壁をどごっと蹴ってますね。
……うん、なんか、こう、前々から感じてましたけど。魔導師(物理)って感じがします。
え、魔法使わないの? ってところで、やることが。
「お、隙間出来た。扉があるんだな。取っ手は」
「開けない方がいい気がするんですけど」
いやぁな予感と申しますか。昔食料庫として使われていた、というのがやはり不吉と言いますか。
なにか、沸いてませんかね?
「へ?」
遅かったみたいですけどね。わらわらと描写しない方がいいモノが、現れましたよ。ほんのわずかな隙間を埋め尽くすように無数の足が。
この世界の奴らは紫色をしていました。
しばらくナスは見たくありませんね。
「ま、まずいっ」
慌ててゲイルさんが閉めても無駄でした。なにか、体液が飛び散ってより惨状が悪化した気がします。
ゲイルさんはそれを引きつったような表情で見ていますが、悲鳴をあげないだけマシな気はしますね。
あたしは姉ちゃん、無表情が恐いと言われた境地に至っているのであまり動揺はしませんが。飲食やってるとお会いする機会の多い害虫さんたちです。いやぁな記憶も蘇ってきますね。
ふふっ。毒殺なんて生ぬるい。
可憐に悲鳴をあげるとかおまえら男かっ! という怒りもこもってます。あたしを盾にするな。
「そうですね、どうして差し上げましょうか。どいてくださいますか?」
「え、あ、はい。どうぞ」
おや、ゲイルさんはなにをそんなに諦念したような顔なんでしょうね?
不思議とどうすればいいのか、わかるんですよ。どこが世界と繋がっているのか、なんて意識する必要はありません。
ただ、お願いすれば良いんです。
「滅せよ。
塵芥のごとく消え去るが良い」
心底からの願いですね。
少し困ったような、面白がるような笑い声が耳をかすめます。
『わかったわ』
扉ごときれいさっぱり消えましたね。
向こうの部屋もなにもないように見えます。塵一つなくお綺麗なものです。
「……なんか、やばいことしたような?」
尋常じゃない疲労感だけはあります。
「おう、言い逃れ出来ないレベルでの奇跡で害虫駆除したな」
「中身、見えなくて良かったですね?」
ああ、やっぱりあの声、最初に聞いた詩神の声でしたか。暇なんでしょうか……。それともそれほど、渾身のお願い、だったんでしょうか?
「そう思っておく」
扉の向こう側のさらに向こう側にまた別の扉がありました。普通のそれを開けるかどうかは勇気がいりますね。
「明日にでもします?」
「先延ばしにしてなにかやってきたら嫌じゃないか?」
そうですね。
諦めて扉を開けようとしました。鍵がかかってましたね。押しても引いても駄目なので、たぶん。
「魔法で開けるとカウンターかけてくることもあってだな、鍵を探すのがいいと思うんだが」
「現実的じゃあありませんね」
「そうだよな。どうするかな……」
と言っていたら、逆にガチャガチャという音がしました。
ゲイルさんと思わず顔を見あわせます。
「おや?」
顔を出したのは、受付さんでした。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!
チャらら森山
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。
お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる