上 下
74 / 263

魔導師と弟子(予定)

しおりを挟む

「……へー、そりゃすごいな。で、俺は関係ないでいい?」

 昨日のことを説明した結果、棒読みでゲイルさんに返されました。

「そもそも、どの呪式実行したわけ? 最初に使う魔素によって潜れる深度が違うって最近、知ったんだけど」

 クルス様と思わず顔を見あわせてしまいました。
 言うの?
 気まずそうに顔を背けられたのですが、ちらりと見える耳が赤いんです。何を思いだしたんですかっ!

「黙秘する」

 黙ることにしたようですね……。ゲイルさんはなにそれ、みたいな顔ですけど。口を開きかけてユウリに視線を向けました。
 ユウリはそれの説明をされていないのかどこが揉めているのかわかってないみたいです。すぐに興味ない顔でそっとオムライスを抱え込んでますけど、誰もとりませんよ。やらん、みたいな態度が少しばかり不安になります。
 強引に連れて行かれたりしませんよね? 食料係として。

「まずいやつなわけね。そりゃこの家に落ちてても仕方ないか。そんで、リリーのメモから発生したと。
 ということはうちの一門に所属することになるのか。前代未聞だな」

「保護されるのと同じでは?」

「同じではないな。ようこそ、ヒトならざる世界へ」

 ゲイルさんの芝居がかった口調のそれにまずい選択をしてしまったのではないかという気になります。
 ゲイルさんは一度、あたしたちを見回して少し考え込んだようでした。
 ほんのわずかな沈黙。なんだか困ったような人たちをみているような目線なんですが、どうしてですか。

「お嬢さんは俺が鍛えておくから、ディレイは英雄を送っていくこと」

「え?」

 ゲイルさんが鍛えるって? え?
 送っていくって?

 困惑したような表情のあたしとぽかんとしたような顔のユウリ。それから、クルス様はものすっごい嫌な顔してました。あれはなかなかない感じです。

「ディレイに任せると心折れるぞ。基礎みっちりやった上での感覚優先だ。リリーは天性の才に任せた力業」

「よろしくお願いします」

 要するに二人とも人に教えるの向いてないんですね。弟子もとってない理由はそこら辺にあるんでしょうか。

「俺もそろそろ弟子取れとか言われてるから、これで言い訳が出来る」

「……俺は不満なんだが」

「嫌いにはなりたくないので……」

 ぼそぼそと主張しておきます。師弟関係ってのはやっぱりこう、違う気もしますから。
 ゲイルさんはげらげらと笑ってますね。クルス様はちょっと自覚はあるのか黙っちゃいましたけど。

「こういうものはあまり近すぎるとうまく行かないよ。あといると邪魔。口出ししてくるだろ?」

 ……なにか見透かされていたんですかね。
 少々恥ずかしい気がします。
 そして、あっさりさっくり、第三者によりユウリを送っていくことを決められてしましました。

 クルス様は何か言いたいことがあったようですが。飲み込んでため息をつかれてしまいました。

 なお、この話し中にユウリはぺろりと平らげていました。どこに入っていくんでしょうね?

「教会への連絡はリリーか師匠が戻ってから打ち合わせした方がいい。折衝はあちらの方面の仕事だし、魔導協会もいまさら取られるのは良しとしないだろう」

 これで文句ない? とでも言うように締めくくってました。
 当面の予定として言えば、クルス様はユウリと一緒に王都まで送るか、その後の色々につきあうと。
 あたしはゲイルさんについて修行ってところでしょうか。その間に師匠とかリリーさんが来てくれればよいのですが。
 で、根回しが終わったら国へ報告ということになりますか。

「俺はなんにも聞いてないから、そういう設定で」

 ユウリがそんな主張をしていました。ああ、そういう建前ですか。……本気で、聞いてなかったような気もしますけど。

「まあ、王都に帰るまではよろしく」

「……俺は、不満なんだが」

 再び主張されてますけどね。そう言ったって外堀埋められちゃいますよ?
 おそらく、魔導協会も領主様も誰かつけて安心したいでしょう。うちはちゃんとしましたよって主張したい。
 それもそこそこ信用がおける実績のある人物とかなるとクルス様が外されるとは思いません。

 わかってるんですけどね。普通の顔を維持するのってけっこう大変です。

「見返りは用意しとくよ。肩書きとか理由とかは必要だろ」

 その心底気に入らない、みたいな態度で肯くとかどういうことですか。クルス様。

「さてと俺にはこの強行軍はしんどかったので、そろそろ休ませて欲しい。
 っていっても部屋空いてないんだろ。ソファで適当に寝るから毛布とか出してきて欲しいんだけど」

「え、はい。じゃあ、準備してきます」

「よろしく。こっちは言い聞かせとくから」

 いったい、なんの話をするんでしょう?
 ユウリは苦笑しながら手を振ってます。

「おまえはダメ」

 クルス様は何か言う前にゲイルさんに釘刺されてます。

「一人でも大丈夫ですよ?」

 あたしも言っておきました。ものすごいショックを受けたような表情が珍しいですね。
 これまでの傾向からいってなんかされちゃいそうな感じがするので、今日はもうお断りです。明日もきっとお断りでしょうけど。

 装甲は相変わらず紙なので、全力で回避するしかないんですよね。その気になったら、流される自信しかありませんよ。どうなんでしょう、その都合良い感じとは思うので、やっぱり回避一択です。

 だいたい、いつもあたしがやられてばっかりというのもですね。
 少しばかり魔が差したとしか言いようがありません。

「すぐ戻ります」

 立ち上がって、肩に手を置いて、耳元で囁いてみます。
 ……思ったより恥ずかしいですね。

 クルス様はびしっと固まってしまったのですけど、やり過ぎましたか?

「すぐいちゃつくのやめない?」

 ユウリがげんなりしたような顔をしてました。そ、そこまでですか? ねえ、そう見えます?
 わかんないような顔をして逃げることにしました。なお、自制心は優雅に遊びに出かけたようです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢の兄に転生したので、妹を聖女に生まれ変わらせます

平山和人
恋愛
名門貴族のカイトはある日、この世界が乙女ゲームの世界であることに気がつく。妹のクロエは主人公を事あるごとにいびる悪役令嬢として登場する。そして、彼女はどのルートにおいても断罪の運命をたどり、最後は悲惨な結末を迎えるのだった。 そのことを回避しようとカイトはクロエの悪役令嬢化を阻止し、妹を聖女として育て、数多の死亡フラグをねじ伏せていくのであった。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

【完結】聖女召喚に巻き込まれたバリキャリですが、追い出されそうになったのでお金と魔獣をもらって出て行きます!

チャららA12・山もり
恋愛
二十七歳バリバリキャリアウーマンの鎌本博美(かまもとひろみ)が、交差点で後ろから背中を押された。死んだと思った博美だが、突如、異世界へ召喚される。召喚された博美が発した言葉を誤解したハロルド王子の前に、もうひとりの女性が現れた。博美の方が、聖女召喚に巻き込まれた一般人だと決めつけ、追い出されそうになる。しかし、バリキャリの博美は、そのまま追い出されることを拒否し、彼らに慰謝料を要求する。 お金を受け取るまで、博美は屋敷で暮らすことになり、数々の騒動に巻き込まれながら地下で暮らす魔獣と交流を深めていく。

処理中です...