推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね

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理由1

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 最近減っていたのに吸う機会が増える予感しかない。
 ぼんやりと紫煙の行方を視線が追う。そこに意味はない。そう言えば、少し特徴的な匂いを彼女は嫌がることもなかった。そういえば、ユウリも煙草というわりに嫌な匂いじゃないと言っていたことがあった。

「早く帰らないかな」

 誰かにいて欲しい気持ちはあるが、それがユウリでなければいけない理由はない。むしろ、さっさと出ていって欲しいくらいだ。

 昨日の出来事は既になかったことにしてしまいたい。可能であるなら、ユウリが来る前に戻らないだろうかとさえ思う。
 思わず思い出しかけた色々を記憶の底に沈める。幸いと言ってよいかは全くわからないが、彼女もそれについては触れたくないのかいつも通りだった。

 うやむやにしてしまった眠り姫の解呪条件についても知られることは時間の問題のような気がする。ゲイルが面白がって説明を始めそうな気すらしてきた。

 本当にユウリにも余計な事しか言われていない。昨夜も寝る前に、気まずいから俺がいる間は襲ったりしないようにと真顔で言われてどう答えていいかわからなかった。

 否定すればするほど疑われるようなものだと直感したので黙ったのだが、正解だったかわからない。
 なにを言われたのかを彼女にも知られたくない。

 朝は朝でなにが、結婚して、だ。
 そんなこと考えた事もない。
 それなのに、それでもいいかと思った。昨日までとは別な意味でおかしい。

 捕まえておきたいという言葉の意味さえ違っている。
 側にいればなんとなく、満足していた。少々の欲求は自分の感情と隔絶していて、退けるのは容易だった。
 今ははっきりと違う。そのくらいじゃ、足りない。どこかで歯止めをかけられるかは少し自信がなかった。

 独占欲というより、焦燥感に近いそれはユウリの存在で悪化している気がした。

『連れて行かないよ。面倒そうじゃないか』

 あっさり言われたそれを。

『あたしは、ここにいたいんです』

 はっきり言われたそれを。

 なぜ、信用出来ないと思っているのか自分でも不可解だった。

「最悪」

 こうなってくると問題があるのは自分自身で、原因を理解していないということに他ならない。
 彼女とユウリが二人で話すだけで嫌だというのはとても狭量に思える。今なら、ゲイル相手でも嫌だと思いそうでため息が出た。

 なにかユウリにまつわることで、傷ついたことはあっただろうか。たぶん、そのままにしてしまったから今、こんなにも不安になってきている。
 おそらく、自分に取って当たり前過ぎて、見逃して、気がつかない間に傷ついたこと。

 ユウリと会った頃には恋人などはいなかった。ただ古い付き合いの兄弟弟子を紹介したことはある。
 フラウと呼ばれる彼女は付き合いが長い部類にはいる。十年来のつきあいで、妹のようで、ずっといるのだと思っていた。
 それが、あっさりとユウリに恋をしてついて行ってしまった。思い出せば苦い気持ちの残骸がある。

 好きだったんだと今なら振り返ることができる。

「……これか……」

 無意識に、忘れようとしていたのか近頃は動向さえ知ろうとはしていなかった。そうなるくらいには、傷はあった、と。
 認識していれば、ユウリとの付き合いは難しくなっていただろう。

 なんとなく、ユウリが好きじゃないの原因はこのあたりだったのだろうか。今となってはよくわからなかった。

 ユウリが現れなければ、気がつくこともなかったに違いない。ユウリに困惑と諦めの表情で、見られるのは少しだけ罪悪感がある。
 知り合いと縁遠くなる理由が女性がらみが多いとは知っていた。困るよねと軽く言うわりにかなり気にしていたことも。

 人のごとのように聞いていたそれの当事者になるとは想像もしていなかった。
 誰も得をしないどころか傷ばかりが増えていくようなこと。

 ため息をついて、煙草を吸い込む。少し冷静になれたような気がして、ユウリの様子を見に行くことにした。
 薪割りくらいできるだろと放置してきた。少し悪かったと思っている。

 風呂の小屋の裏手に戻ればユウリは真面目に薪割りをしていた。
 動かないと体が鈍るというタイプなのだから、嬉々としてやっていたような気がしないでもない。

 もうしばらく放置すれば、しばらくやらなくていいなと過ぎったのは確かだ。必要だからするが、他に誰かがやってくれるならそれがいい。
 全自動ならしなくてすみますよと彼女は悪い顔で囁いてきたこともあった。正直かなり揺らいでる。

 もう少し時間を潰してこようかと考えた頃に彼女が姿を姿を見せた。

 朝にもう一度、彼女と話をするけど、いい? とユウリに確認を取られたことを思い出した。あくまで軽く、世間話しかしないよとでも言いたげで、嘘をつけと言いたくなった。

 今のところ国内の来訪者は彼女一人で、前世の記憶などと言い出しているのはユウリ一人で。
 おそらく、二人にしかわからない話をするのだろう。

 ユウリが前世の記憶があるんだと言いだしたのは、ずいぶん前だったようだ。

『この世界とは違うところ。秘密だよ』

 その頃はあまり興味がなかったので、軽く受け流したように思う。それから妙に気にされるような態度だった気がする。
 たぶん。

 正直、あまりおぼえていない。
 昨日言われて、前も言ったよね!? おぼえてないの? と驚愕されていたが、いわれたような……程度の記憶しか残っていない。

『たぶん同じ場所から来たから、話しておきたいんだよね。勝ったら、話してもいい?』

 ゲームの盤を眺めているふりをしながら、ユウリはそういいだした。彼がそれを怒らないか伺うようにしながら。

 勝負に関係なく、話をすればいいと言えば、意外そうな顔をされた。
 そこまで独占したいように見えるのかとなにか納得のいかない気分にはなる。そして、手加減をしないことにした。

 彼女はユウリを見ているようで、誰かを捜すように頭を動かしている。少し首をかしげて、改めてユウリを見て驚いたように目を瞬かせていた。
 視界から外れているような位置にはいなかったはずだが、見えなかったらしい。近寄って声をかけようと思った。

「無駄にイケメン」

 呆れたような、声が聞こえた。ユウリに対する評価としては珍しいどころではない。全く興味が無いから逆にユウリが興味を持つことまで想像できた。

「別に悪くはないのだけど、なんか違う」

 彼女は独り言のように呟いて小さく首を振った。

「へぇ」

 彼女はびくりと震えて、あからさまな作り笑いを浮かべた。
 なにか、後ろめたいことがあるらしい。

 わるくない、ねぇ?
 なんだか、面白くなかった。

「やっぱり、ああいうのがいいんじゃないのか?」

「あたしにだって好みはありますよ」

 彼女はにこりと笑って、なぜ下から上まで見られた。
 あからさまに値踏みをされたような気がして、気まずい。同種の視線を向けたことは、なくもない。

「好みって?」

 失言というのは、言った後に気がつくものであると思い知る。

「ここの魔導師みたいな人ですよ」

 さらりと、告げて、つまらなさそうに視線を逸らした。いつもは赤くなりそうな言葉だというのに全く興味もないようだった。

 この反応に覚えがある。リリーが、ゲイルに激怒しているときに、とても似ている。

『あら、結婚記念日を忘れていても、しかたないわよね。あなたがいればいいのだもの』

 あれは柔らかい声のはずが、雪山のように冷え切っていたように思う。
 あれを許してもらうためにゲイルは大変苦労していた。まず、半年は帰ってこなかった。探しに行くからと頼み込まれて店番をしたのはどのくらい前だっただろうか。

 あれはものすごく、怒っている。

 多少、怒っているときは今までもあった。それはどちらかと言えば、不安や心配に起因しているよう思えた。
 今回は絶対、違う。

『だから、ないっていってるでしょ!』

 くらいの気持ちはこもっている。
 どうやって、機嫌を取るべきなのか、あるいは放置した方が良いのか、全くわからない。

 ひとつ、わかったことは。

 ……今、俺が好みって言われなかった?

 彼女の顔を見れる気がしなかった。
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