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来訪者が言うには
しおりを挟むパンケーキにはハチミツ! と主張するユウリに提供したのですが。
ユウリがたっぷりかけたい、くまみたいにかけたいと主張して、クルス様が迷惑そうにしていました。
……出さなきゃ良かったですかね?
高級品なので微妙に困るんですよ。砂糖よりハチミツの方が高いんですよね。
「けちくさい」
「帰ってからやれ」
はちみつの使用量を制限されてとてもご機嫌斜めなユウリとそれを馬鹿にしたような表情で見ているクルス様という構図。
……まあ、稼ぎがよいのはどう見てもユウリの方です。存分に帰ってからやればよいと思います。
本日の朝食はパンケーキだけではなく、ソーセージと茹で野菜の残りとフルーツをつけときました。おしゃれな感じに聞こえますが、パンケーキを積んだのでどこもおしゃれ感はありません。
若い男の人の胃袋ってどうなってんでしょうね? 細そうに見えるのにどこに入っていくんでしょう?
見てるだけでお腹いっぱいになります。
それに少々ぷにってきた気もしますし、少し控えめにしましょうか……。
「もっといいもの食べてるだろ?」
「最近、毒味だなんだと冷たいものしか食べてない……。つらい」
「ああ、前から言われてたんだから諦めるか自分で作るかだな」
クルス様は軽くスルーしていきました。同情一切無し。地位があがるとそんなもんなんですかね?
ユウリはぐぬぬと唸っております。
朝食が終わる頃には、帰るまでにパンケーキくらい作れるようになると決意を固めていました。……誰が教えるっていうんです?
クルス様にどうするんです? と視線で問うて見ましたが、そっと逸らされました。
洗い物くらいはするとユウリが張り切ってました。……お皿が割れなくて幸いです。微妙にはらはらしたのですが、本人は満足そうなのですよね。
なんでしょう、お手伝いした子供を褒める気分でお礼を言っておきました。ユウリは嬉しそうでしたけど、クルス様にはなにやってんの? みたいな表情をされてしまいました……。
……確実に何か、絆されていっている気がしてとても恐ろしいです。これが主人公補正ってやつでしょうか。
さて、そんな一幕はさておいて、来客があっても日常はあるわけで、洗濯とか掃除とか色々あります。
めんどくさいと言いながらもお風呂の準備とかしてあげるクルス様ってやっぱり人が良いですよね。
薪割りなどはユウリにやってもらうつもりらしいですけど。ついでにストックを増量してもらおうと考えていそうですが。必要だからするけど、嫌みたいなんですよね。あたしも薪割りを試したのですが、すぐに止められました。
そんな危なっかしいことをされるくらいなら、自分でやった方がマシとまで言われましたね……。
自分の分の洗濯機を回してから裏手にいくと爽やかな汗を流しながらユウリが薪割りをしてました。
いつぞや見たクルス様もそうでしたけど、暑いのか腕まくりしてボタンをいくつか外しているので無駄に色気溢れてます。
……。うん、主人公、他の女性ならばたばたと倒れていったでしょうね。あたしもちょっとわぉとか思いました。
観賞用としてはありでしょうか。
「無駄にイケメン」
ぼそりと呟いてしまいました。うーん、良い筋肉ですね。腹筋割れてそうですよ。
クルス様はもうちょい細身で腹筋割れてるとかさなそうですけど、腰のラインがこう……。
「へぇ」
思ったより近くで聞こえた声にぎくりとしました。後ろめたいことはないはずなのになんでしょうね。びくびくするのは。
クルス様も、そりゃいますよね。説明とか色々していたでしょうし。ユウリを放置とかしないと思います。
前髪が邪魔なのか今はピンで留めてますね。眉をひそめているのがはっきりわかります。
「やっぱり、ああいうのがいいんじゃないのか?」
……。なんでしょうね。端々にユウリに対する警戒心を感じますよ。
近づく女性皆おちていくみたいな男ですから、仕方ないのでしょうか。それでもなにか、あたしの好きを疑われているようで良い気分はしませんね。
昨日のアレはなんだったのか……。そんな軽いものではありませんでしたよね。あの眠り姫って。
「あたしにだって好みはありますよ」
たとえば、そこの絶妙なタレ目の人とか。
最近ちょっと髪が伸びてきてちょっとうねうねしているなと思ってます。天然のウェーブついてる感じで、今までと印象が違いますけど、これも良いと思います。
でも、なんか色気担当みたいな気怠げな感じがするんですけど。退廃的? っていうんですかね。面倒そうに髪かき上げる仕草が最近のあたしのお気に入りです。じっと見ると怪訝そうな顔されてしまうので、ちらちらっと。
……まあ、ばれてると思いますけどね。
「好みって?」
追及するんですか?
いいですけどね。あたしは。
にこりと笑って見上げるとクルス様は別の所を見ているようでした。好都合です。
「ここの魔導師みたいな人ですよ」
……クルス様を絶句させてしまいました。もう少し遠回しに言えば良かったでしょうか。誤解の余地なく伝えた方が良いと思ったんですけどね。
「なにしてんの?」
ユウリは聞こえてなかったのかきょとんとした顔でこちらを見てました。汗がキラキラしている感じがしますね。
さすが、主人公。少女漫画ではないんですが、なんであんなにきらっきらしてるんでしょう?
「なんでもありませんよ。手伝いますか?」
一旦、クルス様は放っておきましょう。ユウリの側に行けば、あたしとクルス様を見比べて首をかしげました。
「あっちはほっといていいの?」
肩をすくめれば、ユウリは呆れたようにため息をつきました。そのあとにクルス様を呼んだのですが。
「というわけで、僕はアーテルちゃんとお話しするから」
どういうわけかは不明ですが、このままお風呂の小屋の裏手で話をすることになりました。
一応、二人で話すことにはなったのですが、クルス様に警報の魔動具を渡されました。
不快なことがあったら容赦なく押すようにと念押しされたのですが。ユウリが微妙な顔をしてましたね。それなら、いれば、とか言い出してましたけど。
聞かれるのも微妙なのですよね……。
本当は見える場所に居て欲しかったのですけど、やんわりと断られました。外にはいるということでちょっとは安心します。
「……信用の度合いが微妙」
「昨日は見える範囲にいても良いという態度だったんですけどね」
「さっき変な事言ったんじゃない?」
「ユウリの方が良いのではないかと言われて少々腹が立ちまして、いつも言わないことをいいましたね」
内容までは伝える必要はないでしょう。
ユウリも眉を寄せてクルス様が消えた方を見ています。
「それは、あいつが悪い。俺もないって念押ししてるんだけどな」
「過去の実績を感じますね」
ユウリに大変気まずそうに身じろぎされました。本人が悪気はないのは知ってますけど、実績は実績です。
少しだけ、無言になりました。
話のついでにお湯も沸かしてお風呂の準備もしていますので、露骨に気まずい空気というわけでもありません。なにも言うことがなくても火でも見てれば間はもちますからね。
微妙に近いなと距離をじりじりと離しているとユウリに見咎められました。
「そんなに嫌?」
「嫌いなんじゃないんですよ」
それ以前の問題です。
「怖いんです」
よく知っていて、初めてあったという点ではクルス様と同じなんですけどね。
初対面が大変よろしくありませんでした。あの壁ドンとか駄目だと思いますよ。
謝罪されたので蒸し返しはしませんけど、安全と誤魔化せるくらいには距離は欲しいです。
ユウリには地味にひっそり、距離を取ってます。拒否するときっと困ることになるでしょうからそこは見ない振りを……。
そうでもないと2人きりというのは厳しいですね。
広いところですし、なにかされるとも思えないんですけど、怖いんです。
「そっか。ごめん」
軽い言い方でしたが、距離は取ってくれたので少し安心します。
腕が届かない距離って良いですよね。話しにくいですけど。ひそひそ話とは無縁です。
「どこまで知ってんの?」
「昨年の11月とかそのあたりまでですね。どこまで覚えてるんですか?」
「んー、自分が誰だったかは忘れたな。他はこの世界のこととか現代知識的なヤツ」
「無双とかチートとかできそうなんですか?」
ユウリは、思わずといった感じで吹き出してました。
やりたいかなーって思ったんですが、違いましたかね? すでにハーレムはやってるのでチーレムってものですかね。
「むりむり。俺なんか、都合の良い御神輿みたいなもん。旗振り役。目立つ張りぼて」
なにか色々な苦労があるようですね。軽く乗り越えてきたように思えるのですが、実際は描かれていない隙間があるんでしょう。
「俺は災厄をなんとかするというお仕事があるから、こんな地位にいるつもりなかったし、目立つ気もなかったんだよね」
「……ああ、そっちが本筋だったんですか」
あたしがいなくなってから第二部とか始まってるじゃないですか。見れなくて無念です。むしろ、登場人物になってませんよね? ちょっとどころじゃなく恥な気がするんですけど。嫌ですよ、あんな登場って。
「どんな風に伝わってんの?」
「既刊20冊の漫画ですね。最初に国境の小競り合いに巻き込まれたじゃないですか」
「んー、遠いな。なんだったかな」
「……時系列ごとに書いて渡しますね。日本語は覚えてます?」
「そこは大丈夫。文章の方が伝わりやすいか」
「コマ割りしても良いですけど。なんか頭に思い浮かんだので」
「は?」
うーん。なぜか、鮮明に思い出せます。
一巻から揃ってますね。あ、ドラマCDも思い出せるんですね。脳内で自動再生されるとかどうなんでしょう。
クルス様いないしなぁ……。
作り替えられる前には出来なかったことです。チートぶっ込まれましたかね?
「全部、思い出せるようになったようですよ」
ユウリは呆気にとられたようなぽかんと開いた口が印象的です。
それでもイケメンはイケメンなんですね。
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