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効果:少しだけ自制心が減ります

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配達1と2の間の話です。




 待ち合わせの場所は森の入り口だった。
 時間より前だというのにゲイルと見慣れない男がいるのが見える。荷馬とは別に馬がいたが、おそらくゲイルが連れてきたのだろう。
 徒歩で帰るには町は遠すぎる。

「遅かった、な」

 エリックに気がついたようにゲイルは手をあげたが、一瞬動きが止まった。
 配送業者には違いはわからなかったようだ。

「時間通りだ」

 ゲイルは相互の紹介と取り決め、契約書の写しを確認し、お互い一枚ずつ持つことを確認して帰らせた。

 見えなくなってからようやく、ゲイルは切り出した。

「それ出してくるって、ここ、そんなに危なくなった?」

「予備がない」

 そう言えばゲイルは脱力したように肩を落とした。
 本当はまだ別にあるが、武装として使っていただけあって穏当な効果はついていない。出力を上げるのに特化したこれが一番ましであるというのは笑えない。

 人にかける魔法の効き具合は人により違うが、エリックにはすこし効きすぎる。同様の効果が見込める魔動具でも同じだ。
 それはいつもなら問題はないと気にも留めないものだった。

 しかし、今は感情の揺れ幅が大きいと感じるようになった。効果が変わったわけではなく。彼自身の感じ方が変わってしまったのだ。

 彼がはっきりと気がついたのは、先週、町に行った時だ。抑えがたい衝動が、魔法を使うことを躊躇させ、コートを破損させてしまった。人相手に魔法は強すぎるのだから、さっさと魔銃で拘束でもしておけば良かったのだ。

 魔銃で殴るとかねーわ、などと知り合いには言われたが、町中を火事にするわけにもいかない。普通に使うには距離が短すぎた。
 よく忘れられていると思っているが、彼は魔導師である。通常、後方支援であり、前線になどいかない。
 さらに解析のほうが得意とあっては荒事には関わる必要など本来はない。

「協会から借りたのあるだろ」

「抑えがきかない感じがする。脱いでも継続するとか意味がわからない。継続時間が長すぎる」

「そりゃあ破損して効果切れたら困るだろうからな。なんかあったの?」

「別に」

 他に言いようがない。

 破損した結果借りたコートも良くなかった。来ている間ならともかく脱いだあともしばらく持続するなど聞いていない。

 自制が効かないというより、いつもより気が大きくなっていたように思える。大丈夫、という位置を踏み間違えた。一度ならともかく二度ともなれば、おかしいと思える。
 その結果は、彼女の少しだけ警戒したような態度に表れている。いつものようにしているようで、手の届く範囲を外れた。ほんの少し、距離を取ろうとしていることが多い。それは無意識のようで、指摘するわけにもいかない。
 いや、言えば余計にひどくなるだろう。

 自業自得であり、明らかに距離を取られないだけましなのだろう。なぜ、あんな余計な事を言ってしまったのか彼自身でもわからなかった。

「なんか、機嫌悪い?」

「詮索するな」

 肩をすくめたゲイルにいらっとする。

「わかったわかった。早く案内しろよ。家に行くのは始めてなんだ。リリーが育ったところだとしか聞かないし」

 それで、わざわざ来るのだから暇としか言いようがない。リリーはあまりここには来たくないといっていた。遊び相手もいない寂しい時代だからと言っていたがどこまで本当なのだろうか。
 色々やらかした痕跡をゲイルに知られるのが嫌なのではないだろうかと疑っている。

 ゲイルとリリーは長い付き合いだ。子供の頃からの約束を守った、ということになっているが、当初ゲイルは乗り気ではなかった。
 師匠の孫娘に手出しするなんて無理などとのらりくらりと逃げて、リリーに外堀を埋められた。
 今は特に不満はないらしい。そうでなければ、十年以上も一緒に暮らしていないだろう。

「陰気な魔窟、なんて言ってたが、変わってない?」

「今は違うな。少なくとも人が住む場所にはなっている」

 代わりに気ままな時間は減ったが、不満はない。そこに自分でも驚いている。
 自堕落な生活は悪くはなかったが、今の方が良いと思えるのは彼女がいるからだろう。

 彼女は勘違いしているようだが、気に入りの場所を明け渡したのはゲイルが来るからではない。

 このソファ、座り心地がいいですね、なんて、笑いながら拳一つも空けないような距離で隣りに座るから。
 期待してしまった。
 この先も隣りに座ってくれるのではないかと。
 思ったより微妙に避けられているのが堪えていたのだろう。

「偏屈な魔導師の住処らしからぬ場所になったってわけか。ま、開けられない部屋は一杯あるんだろうけど。倉庫あるって聞いたけど、開けた?」

「鍵を探すところからと聞いて諦めた」

「合い鍵作ろうか」

「次に先送りしてやろうと思うからいらない」

 ゲイルは笑うが、地下に広がると言われた時点で、なにかを諦めた。
 開けていいことはないだろう。処分に困るようなものしか出てこないだろうし、必要なモノであったとして今までなくても困らなかったのだからいらないものだ。

 この時には先送りに出来ない面倒なものがあったとは彼は知らなかった。
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