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振られたら帰ってきていい

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 手紙については。

 弟からの新しい拠点での生活に追われて目的を見失うなよと嫌にリアルな忠告がありました。ついでに彼女出来たなんて余計な報告はいりません。
 兄は息子可愛いという話のついでに、甘えたり頼ったりするようになんて向いてない忠告を書いてます。
 兄嫁さんは、息子可愛い(以下略)と経済基盤大事なんてことが書いてありましたが、夫婦仲大丈夫ですか? クライシスきてませんか?
 ここで甥っ子の可愛い手形がありました。かわいい。

 父は頑張れで、母はきちんと捕まえろ、でした。

 そして皆の文面の最後に、振られたら帰ってきていいという旨記載されています。
 ……ええ、どこにも泣くところはありませんでした。もう、がっくりです。そうですよね、二度と会えないとかいう話ではなく外国に行ったくらいじゃこのくらいの手紙ですよ。
 しかももう会えないとかになっても両親はあのくらいな気がします。

 あたしがいなくても日本は平和です。

 そして、思ったんですよ。

 これで帰ったら、振られて帰ってきたと見なされるって。

 ふざけんなよ、店長もどきっ!

 ……おっと、荒ぶる何かが漏れてきそうですね。
 そうですね。連絡手段やらなにかがあれば、帰らなくても良いかも知れません。戻すなら転移前に戻せ、駄神とか思ってはいけませんね。

 わかりました。前向きに検討します。チートとやらも期待すればいいんですよね。お望みのままに作れます、なんてあるんですから魔法系ですか。
 いつか帰還魔法つくってやりますよ。それで一時帰国すれば、万事解決。

 あたしに好きな人を追いかけて外国暮らししそうなバイタリティはないのですが、身内をどうだまして認識を変えたのでしょう。
 それも大変な仕事のようにも思えますけど。

 さて、完全に戻る気持ちにはなっていませんが、その方面に傾いたのならば申告すべき事があるのですよね。

 この世界を知っていることをお伝えしないといけないでしょうね。
 長くいるならきっとボロがでてきます。今もなにか失言していないとも限りませんし。

 ……でも推しとかいうのは隠したいのですが、言い訳しようがない気がするのですよ。

 いきなりクルス様に言うのってものすっごいハードル高いです。そもそも嫌われたり、気持ち悪いとか思われたりしないでしょうか……。
 いえ、それでも、何かあったら介入しますけど。ああ、でもそのためには、力が必要ですか。本末転倒になりそうな感じがしますね。

 そうならないためには、なにか、相談相手が欲しいですよね。クルス様のことをよく知っている人。

 ……いま、都合良くもう一人います。
 あちらからお話ししていきましょう。

 部屋を出て階段を下り廊下を覗けば、ゲイルさんとクルス様がなにか話をしていたようでした。階段を下りる音はそれなりにしますから、気がついていたようです。

「もう、大丈夫ですか?」

「今日の所は、これでおしまいだ。ちょっと空調と光量を変更したから、嫌だったらディレイに言ってくれ」

 答えてくれたのはゲイルさんです。
 クルス様はあたしの視線を避けるみたいにうつむかれて、少々驚きました。そこからさらに背を向けられたので、え、ええっ! みたいな気分になります。
 今まで、そんな事されたことないのですが。
 動揺が隠しきれず、ゲイルさんが苦笑してます。

「夕食が遅くなりそうで悪いな」

「それはいいんですけど。
 あ、ゲイルさんにお渡ししたいものがあるのです」

 一瞬、クルス様の行動について聞こうかと思ったのですが、ぐっと堪えました。本人を前に聞く勇気はさすがにありませんし、都合は良かったのです。

「なに?」

「リリーさんが残していた諸々をご本人に渡していただきたいのです。開封したら、夫婦の危機になりますよ?」

 釘だけは刺しておきます。あとはどうなるかは知りません。
 ゲイルさんは神妙な顔で肯いてますけど。
 これで、ゲイルさんを連れ出す理由が出来ました。元々渡す予定でしたし。

 あたしはゲイルさんだけを連れてリビングの方へ、クルス様は外を見てくると出て行きました。

「ど、どうしたんですかっ! あんな態度取られたことなかったんですけどっ!」

 部屋に入った途端にそう問いただしてしまいました。
 親しかったら肩をつかんで揺さぶってましたね。
 ゲイルさんの苦笑にいらっとします。八つ当たりかもですが、でも、ですね。何か言ったかしたんじゃないかと思います。

「いや、つついたつもりはなかったんだ。余計な事を言ったとは思う」

「表面上、穏やかにやっているので、あまりつつかないでいただけると……」

 なにを言ったんですか。
 ゲイルさんをじっと見ても緩く首を横に振られたので、言わないつもりらしいです。
 むっとした気分のまま目的のものを彼に押しつけます。

「はい! これ、リリーさんにきちんと渡してくださいね? 黒歴史だと思うので開けないでください」

「……逆に気になるんだけど」

「ゲイルさんに向けた書きかけラブレター、真夜中のテンション、です」

 意地悪な言いようですが、いじわるな気分だったので仕方ないです。
 ゲイルさんには絶句されました。中身に偽りはありません。あたしは熱烈ですね……とそっ閉じしました。

 いったい何歳であれ書いたんでしょう。

 ゲイルさんはそれを見てため息をつきました。中身の想像がついたんですかね?

「なんか言いたげだな」

 どう話を切り出したかちょっと迷っていたら逆に聞かれてしまいました。

「……あたしが、なにか、してしまったのでしょうか」

「いや、そーゆーのじゃない。ただ、その理由の不明な好意ってのに、ちょっと困惑はしている」

「一目惚れとかじゃダメですかね」

「本人に言えよ。胡散臭そうに見られるだけだろうけどな」

 でしょうね。
 段々、曖昧にしてるところ見破られている気がしてます。よく見られているということにもなるのでしょうか。
 そして、ゲイルさんもそれは違うと思っているようです。

「俺から話ししなきゃならんとか意味わかんねぇ」

 ゲイルさん、なぜに頭を抱えたのでしょう?

「お嬢さんさ、どこまで何を知ってんの?」

 おや、あたしが話したいことが向こうからやってきましたよ?
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