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おかえりなさい。
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「おかえりなさい」
と玄関で言ってみたのですが、ものすごい驚いたような表情だったんですけど、なんですかね。
「ただいま。問題はなかった?」
クルス様がコートを脱いで、変わったところに気がつきました。
よく見れば、あちこちおかしいですね。
「なにかありました?」
「面倒に巻き込まれた。だから、魔導協会は嫌なんだ」
クルス様の露骨に不満と言いたげな表情が珍しい気がします。まあ、服を赤に染められたらそんな顔にもなるでしょうか。
全部というよりコートで隠れていなかった部分がそのまま綺麗に染まっています。靴もなんだか可愛らしげな水玉模様みたいでした。
色自体は透明感のある赤で良い色だとは思うのですけど。
クルス様は先に着替えてくると言うので、見送りました。ああ、髪の一部も赤くなってますね……。何事なんでしょうか。
とりあえずは、荷物を運びましょう。食料と思われるものだけ先に収納しておくことにします。
トマトにナスにアスパラとブロッコリー、それからキャベツ。
ちなみに全てっぽいものとつきます。色味が少々違うのですよね。白いナスは日本でも見た気がします。ジャガイモや玉葱、人参とかは在庫はそれなりにありましたから今日は買ってきてないようです。
以前あったのとは別のタイプのチーズが二つ。一つはクリームチーズ系ですかね。もう一つは殴ったら痛そうです。ウィンナーと言うよりヴルストと表現したくなるようなものが色違いで三本ずつ。
紙包みの中はちょっと不明ですが、お肉ですかね?
このあたりは保冷ボックスのようのものにいれられています。簡易的に温度を維持する魔動具を組み込んであるそうです。
「あ、パスタ」
前にこんなのありませんか? と話していたんです。形状はショートパスタとマカロニの中間くらいでした。
でも、今日は卵はありません。少ししょんぼりしてしまいますが、お願いしたわけでもありませんし、次はお願いしてみましょう。
カルボナーラが呼んでいた気がしたのですけど……。
パン類は今日はライ麦風の茶色系の素朴な感じでした。これはこれで味わい深いものです。
大体片付け終わったころにはクルス様はダイニングに顔を出しました。
「……本当にひどい目にあった」
ぼやくほど嫌だったんですね。よく見れば指先も赤がついてます。
「お茶でもいれますから、少し休んでください」
「悪いな。協会に入ってすぐ、呪式をぶっかけられた」
「……それってかけられるものなんですか?」
「虹色(プリズム)は光を使って魔法を使う一派なんだが、あれはバケツにいれた水をかけるような勢いだったな」
……バケツ一杯の魔法ってなんでしょうね。
理解しがたいです。クルス様は眉間にしわを寄せているあたしを笑ってましたけどね。
「感覚的なものだから、同派でなければ説明しがたいんだが、呪式を見ると色として認識するらしい。それで、形を作って使う、らしい」
「絵を描くみたいに、ですか?」
「と主張している。ただ、俺には別の音に聞こえるから相互理解は難しいな」
この世界の魔法、思ったよりめんどくさそうです。そこまでの興味はないのでいいのですけど。
しかし、そうですか。
クルス様は呪式は音として聞こえているのですね。
ちょっとお話ししなければいけませんね。予定を変更して、自分の分のお茶もいれました。
あたしはいつも座る椅子が決まっています。クルス様は時々に応じて向かい側だったり、隣だったりするんです。
……今日は隣に座りたい気分らしいですね。
あとから座るときにこれが困るんです。
わざとらしく、一つ開けるのも向かいにすわるのも何か違う気がして、いつもの椅子に座るのです。微妙な葛藤に彼は気がついてないでしょうね……。
「問題がちょっとあったみたいです」
ことりとマグカップを置いてから切り出しました。
「なんだ?」
クルス様がすぐに飲まずに温かいマグカップを両手で包むところがちょっと可愛い感じがします。外は寒かったってことなんでしょうけど。
あたしはテーブルの上に無造作に置かれたメモを指さします。先ほどまでなかったので、今、クルス様が書いたのだと思います。
それは落ちていたものとは比べものにならない密度で書かれています。
ピアノに似た音が旋律を奏でます。途中から連弾のようになっていくのです。少し音が足りないような気もするのですが、途中からだからでしょうか。
「このメモを見ると音が聞こえます」
「……は?」
かなり、間が開きましたね。クルス様にしても予想外だったんでしょう。
そうでなければ、こんな紙の整理任せたりしないですよね。読めない、聞こえないと思っていたから。
「落ちていたプレート類もそう言えば音が聞こえてました。幻聴かなぁと……」
「過去、素養があったものはいない。だから、余計な興味を持たないように説明しなかったんだが……」
完全に裏目にでましたね。話をすればわりと早めに発覚していたでしょう。まあ、あたしもあまり興味なく、魔法的な話はしようとは思わなかったので、どちらが悪いという話ではないのでしょうけど。
クルス様はそのまま考え込んでいるようなので、その隙にお茶を飲むことにしました。朝や晩は冷え込むようになってきたので、温かいものが恋しい気がします。
冬服とかも準備しなければいけないのでしょうか。雪とか降らないところだといいのですが。
それにしても、クルス様の髪、かなり赤くなってますね。色の境目がグラデーションになっているので違和感なく、綺麗といえば綺麗です。でも、別人みたいで少しどきりとします。
「声に出さないで見るように」
考えがまとまったのかクルス様はそう言って、紙に何かを書かれました。相変わらず謎文字ですね。こう、文字同士がくっついていたりするのです。図形みたいなのもの加わると何が何だか。
「聞こえますね。ええと」
「口に出さない」
慌てたように手で口を押さえられました。間にあったカップが揺れています。倒れなくて良かったとかぼんやり考えて。
……何事もなかったように離れましたけど、心底びっくりしました。
「参ったな。リビングも出入り禁止な。ここは片付いてきているから全部終えてしまおう」
「わかりました。じゃあ、洗濯物取り込んできますね。そろそろ、暗くなってきそうですし」
お互いが妙に早口だったのは、気にしない方が良さそうです。想定外の何かがあるとこう、色々ありますよねっ!
手の感触が妙に生々しいというか……。
いえ、気にしすぎです。
ちなみにお外はまだ明るいです。明らかに部屋を逃げ出す口実なのですが、気がつかれていないことを祈ります。
かさばる洗濯物を片付けたり、馬の様子を見に行ったりしている間に少々落ち着いてきた気がします。
夕食のころには魔導協会であったことの顛末を聞いたり、町の様子などを聞いて普通にしていたと思います。
あまり具合が悪いとは思っていなかったですが、翌日、熱が出ました。
と玄関で言ってみたのですが、ものすごい驚いたような表情だったんですけど、なんですかね。
「ただいま。問題はなかった?」
クルス様がコートを脱いで、変わったところに気がつきました。
よく見れば、あちこちおかしいですね。
「なにかありました?」
「面倒に巻き込まれた。だから、魔導協会は嫌なんだ」
クルス様の露骨に不満と言いたげな表情が珍しい気がします。まあ、服を赤に染められたらそんな顔にもなるでしょうか。
全部というよりコートで隠れていなかった部分がそのまま綺麗に染まっています。靴もなんだか可愛らしげな水玉模様みたいでした。
色自体は透明感のある赤で良い色だとは思うのですけど。
クルス様は先に着替えてくると言うので、見送りました。ああ、髪の一部も赤くなってますね……。何事なんでしょうか。
とりあえずは、荷物を運びましょう。食料と思われるものだけ先に収納しておくことにします。
トマトにナスにアスパラとブロッコリー、それからキャベツ。
ちなみに全てっぽいものとつきます。色味が少々違うのですよね。白いナスは日本でも見た気がします。ジャガイモや玉葱、人参とかは在庫はそれなりにありましたから今日は買ってきてないようです。
以前あったのとは別のタイプのチーズが二つ。一つはクリームチーズ系ですかね。もう一つは殴ったら痛そうです。ウィンナーと言うよりヴルストと表現したくなるようなものが色違いで三本ずつ。
紙包みの中はちょっと不明ですが、お肉ですかね?
このあたりは保冷ボックスのようのものにいれられています。簡易的に温度を維持する魔動具を組み込んであるそうです。
「あ、パスタ」
前にこんなのありませんか? と話していたんです。形状はショートパスタとマカロニの中間くらいでした。
でも、今日は卵はありません。少ししょんぼりしてしまいますが、お願いしたわけでもありませんし、次はお願いしてみましょう。
カルボナーラが呼んでいた気がしたのですけど……。
パン類は今日はライ麦風の茶色系の素朴な感じでした。これはこれで味わい深いものです。
大体片付け終わったころにはクルス様はダイニングに顔を出しました。
「……本当にひどい目にあった」
ぼやくほど嫌だったんですね。よく見れば指先も赤がついてます。
「お茶でもいれますから、少し休んでください」
「悪いな。協会に入ってすぐ、呪式をぶっかけられた」
「……それってかけられるものなんですか?」
「虹色(プリズム)は光を使って魔法を使う一派なんだが、あれはバケツにいれた水をかけるような勢いだったな」
……バケツ一杯の魔法ってなんでしょうね。
理解しがたいです。クルス様は眉間にしわを寄せているあたしを笑ってましたけどね。
「感覚的なものだから、同派でなければ説明しがたいんだが、呪式を見ると色として認識するらしい。それで、形を作って使う、らしい」
「絵を描くみたいに、ですか?」
「と主張している。ただ、俺には別の音に聞こえるから相互理解は難しいな」
この世界の魔法、思ったよりめんどくさそうです。そこまでの興味はないのでいいのですけど。
しかし、そうですか。
クルス様は呪式は音として聞こえているのですね。
ちょっとお話ししなければいけませんね。予定を変更して、自分の分のお茶もいれました。
あたしはいつも座る椅子が決まっています。クルス様は時々に応じて向かい側だったり、隣だったりするんです。
……今日は隣に座りたい気分らしいですね。
あとから座るときにこれが困るんです。
わざとらしく、一つ開けるのも向かいにすわるのも何か違う気がして、いつもの椅子に座るのです。微妙な葛藤に彼は気がついてないでしょうね……。
「問題がちょっとあったみたいです」
ことりとマグカップを置いてから切り出しました。
「なんだ?」
クルス様がすぐに飲まずに温かいマグカップを両手で包むところがちょっと可愛い感じがします。外は寒かったってことなんでしょうけど。
あたしはテーブルの上に無造作に置かれたメモを指さします。先ほどまでなかったので、今、クルス様が書いたのだと思います。
それは落ちていたものとは比べものにならない密度で書かれています。
ピアノに似た音が旋律を奏でます。途中から連弾のようになっていくのです。少し音が足りないような気もするのですが、途中からだからでしょうか。
「このメモを見ると音が聞こえます」
「……は?」
かなり、間が開きましたね。クルス様にしても予想外だったんでしょう。
そうでなければ、こんな紙の整理任せたりしないですよね。読めない、聞こえないと思っていたから。
「落ちていたプレート類もそう言えば音が聞こえてました。幻聴かなぁと……」
「過去、素養があったものはいない。だから、余計な興味を持たないように説明しなかったんだが……」
完全に裏目にでましたね。話をすればわりと早めに発覚していたでしょう。まあ、あたしもあまり興味なく、魔法的な話はしようとは思わなかったので、どちらが悪いという話ではないのでしょうけど。
クルス様はそのまま考え込んでいるようなので、その隙にお茶を飲むことにしました。朝や晩は冷え込むようになってきたので、温かいものが恋しい気がします。
冬服とかも準備しなければいけないのでしょうか。雪とか降らないところだといいのですが。
それにしても、クルス様の髪、かなり赤くなってますね。色の境目がグラデーションになっているので違和感なく、綺麗といえば綺麗です。でも、別人みたいで少しどきりとします。
「声に出さないで見るように」
考えがまとまったのかクルス様はそう言って、紙に何かを書かれました。相変わらず謎文字ですね。こう、文字同士がくっついていたりするのです。図形みたいなのもの加わると何が何だか。
「聞こえますね。ええと」
「口に出さない」
慌てたように手で口を押さえられました。間にあったカップが揺れています。倒れなくて良かったとかぼんやり考えて。
……何事もなかったように離れましたけど、心底びっくりしました。
「参ったな。リビングも出入り禁止な。ここは片付いてきているから全部終えてしまおう」
「わかりました。じゃあ、洗濯物取り込んできますね。そろそろ、暗くなってきそうですし」
お互いが妙に早口だったのは、気にしない方が良さそうです。想定外の何かがあるとこう、色々ありますよねっ!
手の感触が妙に生々しいというか……。
いえ、気にしすぎです。
ちなみにお外はまだ明るいです。明らかに部屋を逃げ出す口実なのですが、気がつかれていないことを祈ります。
かさばる洗濯物を片付けたり、馬の様子を見に行ったりしている間に少々落ち着いてきた気がします。
夕食のころには魔導協会であったことの顛末を聞いたり、町の様子などを聞いて普通にしていたと思います。
あまり具合が悪いとは思っていなかったですが、翌日、熱が出ました。
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