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推しからお部屋をもらいました

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 二階の客間の一つをいただくことになりました。
 鍵は渡されていて、合い鍵がないときちんと説明されました。しかし、魔導師なら別に鍵がなくても侵入出来るのでは? という疑問を思わず聞こうとしてしまいました。
 返答が怖いのではないかと聞かずに済ませたあたしは偉いと思います。

 比較的使っていなかった部屋とは言われましたが、雑然とはしています。用途不明品しかないというのでしょうか。
 倉庫代わりに使われるくらい客が来ない家だったんでしょうね。なぜ、倉庫を造らなかったんでしょう?
 ……それとも倉庫もいっぱいなのでしょうか? 恐ろしい想像をなかったことにしました。地下とか何かありそうですよね。

 エンドレスお片付けなんてごめんです。

 さて、昼食後の色々があったあとに二階に上がってお片付けにいそしむことになりました。
 ここも紙類が多いというか、火事になったらこの家、大変じゃないですかね? って総量なのではないでしょうか。
 魔導師が歴代住んでいたというのは、書きかけの呪式メモの量からわかる気がします。謎の機械の回収は大きな箱に入れることになりました。
 手袋を渡され、直接触れないように注意するようにと言われています。

 メモなどを纏めている途中で、気がつくと中断しているクルス様を見ていると微笑ましい気持ちになります。声をかけずにいることにしました。

 無意識なのかも知れませんが、メモや本を見ながら小さく旋律を口ずさんでいるんです。穏やかで優しいものが多いようですが、時々アップテンポだったりするのが侮れません。
 声が良いというのはここに来て初めて知ったことでした。

 これならいつまでも聞いていたい気がします。
 ちょうど良いBGMと思って片付けを続行できます。自分の部屋になるところですからね。

 夕方くらいには一段落つけられました。明日には筋肉痛になりそうです。不要品は廊下に出されていますが、そのまま捨てるわけにもいかないので明日以降処分するそうです。
 放っておくとそのままになりそうな予感しかしませんので、きっちり明日言おうと思います。
 面倒と言われそうな気もしますが、そう言っていたら地層が増えるだけです。

 床の掃除なども含めるとまだまだしたいところはありますが、とりあえずベッドの準備だけはきちんとしました。寝る場所は大事です。

 さて、このあたりになってくるとちょっとぎこちないのも解消されてきました。無言で作業っていうのが良かったのでしょう。

 しかし、すぐに別の問題で困ったのですけど。
 着替えがない問題がここで発覚しました。身一つでやってきたので当たり前なんですが、なぜ気がつかなかったんでしょうか。
 そして、女物の服なんてこの家にはないんですよ。なくて良かったような気もするのは邪念ですかね。

 結果敵にクルス様がものすごく迷いながら部屋着を貸してくれました。比較的新しく、洗濯済みと言われていましたが……。
 部屋では煙草を吸っているのか少し匂いがありました。えー、クルス様の匂いとか思う自分が死にたくなるくらい恥ずかしかったです。
 ええ、本気で変態かと。

 夕食後、部屋に戻るまで身悶えるのを我慢したあたしは偉いと思います。大事そうに抱えていたのは目撃されてしまったと思いますが……。
 その後に別の問題を思い出し、ひっそり部屋を抜け出して洗い物をしてきました。
 さすがに下着の話は、出来ません。

 それから着替えてみたんですが、やはり男性ということもあって大きかったです。それほど大柄のようには描かれていなかったんですが、目測で言えば180近くはあるみたいです。あたしが160ちょっとなので、そのくらいの身長差な感じがします。

 ほのかに苦いような匂いに混じるのはハーブを数種混ぜたようなもの。日本的な煙草とは概念からして違いそうな感じがします。
 妙に落ち着く匂いではあるのですが、違和感があるといいますか。

 ヘビースモーカーと言われていたのに、あたしの前では全く吸わないんですよね。起きてからずっと。その前には吸っていたのか、匂いはしたんですけど。
 そんなに吸わなくて我慢出来るモノなんでしょうか?

 良い匂いですけどね。
 この世界に来なければ知れなかったことでしょうし。

 たった半日なのに、新しく知ったことでいっぱいです。ああ、日本にいる現実のあたしが目覚めないでしょうか。
 どう考えてもこの状況は。

「無理」

 ごろごろとベッドを転がりながら口からこぼれました。推しが同じ屋敷にいるのですよ。襲いにいっていい?
 部屋着なんて借りなければ良かったんです。
 最後の一押しされちゃったような気さえしてきます。匂いで色々思い出しちゃうじゃないですかっ!

 いやいやいや、そんな対象ではありません。
 冷静になりましょう。そんな時の深呼吸です。すーはーとしていれば落ち着いた錯覚になります。

 遠くから幸せを願っていますっ! 誰か彼を幸せにしてあげてくださいっ!
 うん、これが正しいんです。

 やはり、物理的に触れる距離というのはやばいですよ。理性ががりがりと削られている音さえ聞こえるようです。
 その上、すこぉし、見られている感じが違うのはわかるんですよね……。
 まあ、男性ですし、こんな森に引きこもってればとは思いますけど。

 そんな顔していると襲いにいきますよ?
 おっと理性がお休みしてますね。ここにきてから結構お休みですけどね。理性。

 ……襲いたいとか考えてますけど、実行なんて不可能なのはわかってます。一瞬で卒倒しそうです。
 妄想力だけはたくましくて困りますね……。

 今は色々あって舞い上がっているので、落ち着いたら後悔するようなことは慎みたい所存です。
 今日だけでもなかなかに色々ありましたよ?
 それ以上? 現実的にですか? いやー、そんなのって。

「むーりーっ」

 転がりすぎてベッドから落下しました。
 痛いやら恥ずかしいやら。もそもそと元の場所に戻ります。今度は枕を抱くことにします。少し正気になった気がします。

 それから少しして、扉を叩かれました。
 二階からドシンと音がしたら、さすがに心配されますか……。

「はい」

「なにかあったか?」

「……いえ、寝相が悪くて」

 扉を開ける勇気はありませんね。なにせ相手もきっとパジャマですし。そうでなくても部屋着でしょうから。
 色気にやられます。

「それならいい。おやすみ」

「……おやすみなさいっ!」

 ああ、クルス様におやすみなさいってっ! きゃーっと転がりたいですが、先ほどのことを考えると身悶えるしかありません。
 ……本当に明日から生きていけるんでしょうか。
 別な意味で死にそうなんです。
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