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おまけ 投げ銭
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「愚弟、おもしろいことになったっすよ」
義理の姉がそう言って酔っぱらって帰ってきた。
冷たい目で見てもへらりと笑う。さらにどかっと隣に座って、ものすごく酒臭い。
土地の所有制限のある西都において、日本庭園を作ってしまうようなお屋敷に在住のお嬢様は、お嬢様に見えない。
猫耳付きのヤンキーみたいだった数年前。今は、不真面目会社員といった風情。
これがなんの間違いか義理の姉である。
原因は明瞭で、育児放棄の結果であるのだが。獣人族に割とありがちに結婚後に番が出てきて家を追い出されて揉めてと言うやつだ。
うちの場合には母親が獣人で、今は楽しく番と暮らしているらしい。父は迎えに行くからねぇと泣きながら東都に出稼ぎに行った。同じ都市にいると簡単な遭遇ですら流血事件になりかねないからだ。
それほどに番に対しての思い入れは強い。
半獣人というのは、存在しない。混血はしてもその性質は獣人である。稀に人として生まれることもあるらしいがほぼほぼ獣人である。
つまりは僕も獣人で、いつかは出会ってしまうかもしれないと恐怖を抱いている。怖くて怖くて引きこもって数年。
今は、義体系動画配信者をしている。
今、絶賛ナマ配信中。僕の義体はニッチだけど、それなりに人気はある。そこに義理の姉が入ってこようとしている。義体、義理の姉も作ってる。面白がって同系で。
「こら、画面入ってこようとしない。素ででてこないっ!」
「うちのかわいこちゃんをよろしくねーっ!」
「やめてーっ!
百合百合コールとかなげないでーっ!」
ふざけて義体にヘッドロックとかかけないでもげる。攻撃判定入ってる、ゲージが青から赤に……。
「……もげたじゃん」
「もげたね」
義体の胴と頭が泣き別れ。
「はぁい。今日の配信はおしまーい。あとで説教配信するのでよろしくね!」
生首が話す配信を終了した。
それと同時に投げ銭が積みあがっていく。
「あとでセーブデータ呼びなおして、直さなきゃ」
「元データに戻せばいいんじゃないっすか?」
「配信始まるまで微調整して新しいポーズも入れ込んでたんだよ」
「……それは悪かったっす」
しょげた義理の姉の猫耳が垂れている。可愛い……。じゃなくて。
「反省してる?」
「してる」
「じゃあ、あとで説教配信」
「げっ。じいさんにもばれるじゃないっすか」
「大丈夫。生配信も見てるから」
「……うげぇ」
そう呻いてぺたりと畳に崩れ落ちた。
「で、酔っ払いさん。なにが楽しいって?」
「黒玉の君が番を見つけた」
「ふぅん? 既婚じゃなかったっけ」
「そう。で、即振られてた」
「……は?」
「かかりちょーならやると思ったっす! 偉業を成し遂げた彼女に乾杯としたらば飲み過ぎたっす」
「はぁ。
……あれ? じゃあ、みっちょん、どうするんだろ」
「みっちょん?」
「黒玉の君の奥さん」
「しりあい?」
「義体がツボに入ったらしくて、定期的に結構な額を貢がれていて、リアルにあったことある」
「は? 姉さん聞いてない」
「言ってない」
きれいな人だったが、それだけだった。見た目は清楚で中身はエキセントリックだった。旦那様というより巨大猫と住んでいる私という感じであったので、離婚には応じるか少し微妙な気もする。
猫に埋もれる幸せを知っているかね? とやけに力説してきたし。
ちらりと義理の姉を見る。
この人も本性は猫系だ。もう一つの姿は直立歩行型猫。系統は三毛猫。
「姉さんを生贄に」
「なにその怖い単語」
「僕も生活かかってるからみっちょんの投げ銭なくなると困る」
「もうちょっと別の仕事するといいっすよ」
義理の姉がそう言って酔っぱらって帰ってきた。
冷たい目で見てもへらりと笑う。さらにどかっと隣に座って、ものすごく酒臭い。
土地の所有制限のある西都において、日本庭園を作ってしまうようなお屋敷に在住のお嬢様は、お嬢様に見えない。
猫耳付きのヤンキーみたいだった数年前。今は、不真面目会社員といった風情。
これがなんの間違いか義理の姉である。
原因は明瞭で、育児放棄の結果であるのだが。獣人族に割とありがちに結婚後に番が出てきて家を追い出されて揉めてと言うやつだ。
うちの場合には母親が獣人で、今は楽しく番と暮らしているらしい。父は迎えに行くからねぇと泣きながら東都に出稼ぎに行った。同じ都市にいると簡単な遭遇ですら流血事件になりかねないからだ。
それほどに番に対しての思い入れは強い。
半獣人というのは、存在しない。混血はしてもその性質は獣人である。稀に人として生まれることもあるらしいがほぼほぼ獣人である。
つまりは僕も獣人で、いつかは出会ってしまうかもしれないと恐怖を抱いている。怖くて怖くて引きこもって数年。
今は、義体系動画配信者をしている。
今、絶賛ナマ配信中。僕の義体はニッチだけど、それなりに人気はある。そこに義理の姉が入ってこようとしている。義体、義理の姉も作ってる。面白がって同系で。
「こら、画面入ってこようとしない。素ででてこないっ!」
「うちのかわいこちゃんをよろしくねーっ!」
「やめてーっ!
百合百合コールとかなげないでーっ!」
ふざけて義体にヘッドロックとかかけないでもげる。攻撃判定入ってる、ゲージが青から赤に……。
「……もげたじゃん」
「もげたね」
義体の胴と頭が泣き別れ。
「はぁい。今日の配信はおしまーい。あとで説教配信するのでよろしくね!」
生首が話す配信を終了した。
それと同時に投げ銭が積みあがっていく。
「あとでセーブデータ呼びなおして、直さなきゃ」
「元データに戻せばいいんじゃないっすか?」
「配信始まるまで微調整して新しいポーズも入れ込んでたんだよ」
「……それは悪かったっす」
しょげた義理の姉の猫耳が垂れている。可愛い……。じゃなくて。
「反省してる?」
「してる」
「じゃあ、あとで説教配信」
「げっ。じいさんにもばれるじゃないっすか」
「大丈夫。生配信も見てるから」
「……うげぇ」
そう呻いてぺたりと畳に崩れ落ちた。
「で、酔っ払いさん。なにが楽しいって?」
「黒玉の君が番を見つけた」
「ふぅん? 既婚じゃなかったっけ」
「そう。で、即振られてた」
「……は?」
「かかりちょーならやると思ったっす! 偉業を成し遂げた彼女に乾杯としたらば飲み過ぎたっす」
「はぁ。
……あれ? じゃあ、みっちょん、どうするんだろ」
「みっちょん?」
「黒玉の君の奥さん」
「しりあい?」
「義体がツボに入ったらしくて、定期的に結構な額を貢がれていて、リアルにあったことある」
「は? 姉さん聞いてない」
「言ってない」
きれいな人だったが、それだけだった。見た目は清楚で中身はエキセントリックだった。旦那様というより巨大猫と住んでいる私という感じであったので、離婚には応じるか少し微妙な気もする。
猫に埋もれる幸せを知っているかね? とやけに力説してきたし。
ちらりと義理の姉を見る。
この人も本性は猫系だ。もう一つの姿は直立歩行型猫。系統は三毛猫。
「姉さんを生贄に」
「なにその怖い単語」
「僕も生活かかってるからみっちょんの投げ銭なくなると困る」
「もうちょっと別の仕事するといいっすよ」
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