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無計画的犯行

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「うん。結婚しよう」

 あっさりと承諾された。まあ、これは決まっていたことを言葉にした程度のことでしかないかもしれないが。
 あっさりすぎないだろうか。
 ルーベンス様は顔が赤いままに困り顔ではある。

「でも、俺からも言うから」

 しばし待ってもなにもなかった。

「いまじゃない。
 色々準備してたんだよ」

 ああ、だから、予告してほしいという話になるわけか。
 ルーベンス様、かなり気まずそう。

「一週間くらい待って」

「はい。お待ちしてます」

 大人しく答えれば苦笑された。

「それはそれとして、完済おめでとう。お祝いでもしようか」

「ありがとうございます。おいしいもの食べたいですね」

 照れくさくなって余計なこと言った。そこまで察しているのか微笑ましいものを見るかのような視線が痛い。

 ルーベンス様が先に立ち、私に手を差し伸べる。その手を握ることも慣れてしまったような気がする。
 その手を握って立ち上がる。

 そして、そのまま、引き寄せられた。

「一緒にいることを選んでくれてありがとう」

「どういたしまして」

 棒読みになったのは両頬に手を添えられたせいで。動揺しまくりの自分が相手の目に映ると言うのは相当近いというわけで。
 そのまま近づいて。

「……そこは違うのでは?」

 思わず突っ込んでしまった。そう言う雰囲気だったでしょ。
 なのに頬にキスされた。

「理性の自信がなくなった。母の居城じゃなければよかった」

 心底残念そうに言うので深い追及はやめておいた。そういえば、後で覚えてろとか言われたような……。

 その夜はお祝いだった。
 うちにもついにお嫁ちゃんがとラント夫人が感動しているし、姉様が姉様にと妹様がご機嫌だった。それはいいんだけど、なぜか、私はハーレム状態で囲まれていた。
 ルーベンス様は苦い顔でそれを見てたが、最終的にアイリスは俺のだから、貸してあげるなんて負け惜しみをいっていた。
 ええと、負け惜しみでいいのかな?

「大事にしなさいよ。姉様と喧嘩したら姉様の味方するから」

「そうよ。
 一人で独占もしちゃいけないからね」

 酔っぱらった妹様たちはそう言ってた。
 小姑問題はなさそうではある。

「息子をよろしくね。悪いことしたら、言ってね。この子のほうを追い出すから」

 姑問題もなさそうだけど、それでいいのか。一応は家業を継ぐ一人息子なのでは?

「妹も母さんも嫌になったら、出て行っていいからね。
 俺と二人暮らししよう。どこでもきっと楽しい」

 そのルーベンス様からはあっさり家を捨てる宣言食らった。
 薄々知っていたけど、この家族、私に対する気持ちが重くないだろうか。そこまで好かれるチートはないはずなんだけど。

「よろしくお願いします」

 全方位に曖昧な返事をしておいた。どこにも角を立てないの大事。家族だとより喧嘩になりやすい。私が原因で喧嘩とか。乾いた笑いがでてきそうである。
 それぞれに都合の良いように解釈されたようで幸いだ。

 話題は昔のルーベンス様の話などに移っていき、可愛い話をいくつか聞いた。本人は嫌そうではあるが、幼児なルーベンス様はそれはそれは可愛らしかったらしい。
 あとで絵もみせてくれるそうだ。とても楽しみである。

 そんな楽しいお祝いは、早めの時間に切り上げられた。一応、みんな明日仕事がある。お祝いがあって遅刻というのも許してもらえそうだが、ちゃんとしているほうがいいだろう。
 酔っぱらってゆらゆらとした足取りの私をルーベンス様は支えてくれた。甘ったるい何かというより要介護という感じである。

「飲み過ぎはよくないよ」

「はぁい。大失敗したことがあるので、今後自重します」

 酔っぱらって転んで死んだことがこの世界に来たきっかけである。もう一度死んでももう生き返りも入れ替えもないだろう。
 命は大事にしたい。

 今日は帰宅せずにお城に泊まることになっていた。
 私がこの城に滞在するときの部屋は決まっている。アイリスちゃんのお部屋だから好きにしていいわよと言われていたが、あまり変えていない。
 まだ、家族でもないという遠慮はあった。

 部屋の扉の前に来るとルーベンス様は少し迷っているようだった。
 いつもは部屋に入ることはない。入口まで。

「入ります?」

「やめておくよ。おやすみ」

 そういう彼を引き留めた。怪訝そうに見返されて、なんでもないと言いそうになった。
 恥ずかしすぎる。しかし、酒の勢いというのも大事だった。

 彼に今日のうちに言っておきたかったことがあったのだ。自由になった今日だから、言えること。

「好きです」

 黙った。どちらかと言えば固まった。

「一度も言えなかったなと思いまして。じゃあ、おやすみなさい」

 失敗したかと早口にまくしたてて私は扉に手をかけた。部屋に戻ってしまえば、ベッドの中で反省会ができる。
 早く部屋の中に逃げたい。
 しかし判断は遅かったようだ。

「ずるい」

 背面からの壁ドンに酔いも醒めてきた。

「ねぇ、アイリス。俺、すごい我慢してきたんだ。わかってないよね。
 だから、わからせてあげるよ」

「きょ、今日はご遠慮しますっ!」

 腰砕けになるような低音ボイスで耳元で囁かないでっ! 今までの彼は本気じゃなかったっ!

「……来週、楽しみしてるといいよ」

 死刑宣告のように聞こえたのは気のせいということにしよう。
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