上 下
104 / 135
聖女と魔王と魔女編

護衛騎士は暗躍する6

しおりを挟む

 魔女というのは記録と記憶を継承していくものだ。継承前も継承後も繋がった、私、であることもおかしくはない。だから、意外と言えば意外だった。
 次代も記憶を継承していくなら、次も私である。そう思っていないということだ。
 私以外は私ではない、という認識がなければ魔王を残していくことを気にかけたりしない。

 ずっと一緒にいれるのと笑う人ではなくて良かった。その場合には、きっと、今の私をずっと維持し続けるために次代の意識や記憶なんてのを破壊していくだろうから。
 そんな呪いのような愛情ではなかった。

「それにしても……」

 つい口からこぼれた言葉の続きは言えなかった。
 怪訝そうにユリアが見上げてきたが、頭を撫でておしまいにした。
 今は魔女と別れて、部屋にいる。

 先に兄様のところに行ったはずのユリアがガチギレして私のところに駆け込んできたのだ。
 魔女も目を丸くして、行って行って、あとで話詰めようというくらいの剣幕だった。イリューやソランに太刀打ちできるわけもなく、素通しだったらしい。

「あいつらまとめて、麻痺させて箱詰めして森に捨ててきていいですかっ!」

 まとめて。

 兄様以外もやらかしたってことである。
 人を殺すも生かすもお手の物の薬師様相手に良い度胸だ。戦場や荒事ではお世話になるであろう相手でもあるのに。

 詳細を聞く前に、私は癒しを求めていますと目が据わった状態で言われ、急遽部屋に戻ってジニーとして膝枕をしている今現在。

 なんで? という話は、悪かったからごめんね、で、理由を教えて? と優しくお願いしてからの話だ。
 今は、その話をできそうにない。
 うーうーなにか唸っている。大丈夫? と囁くとびくっとしたから嫌なのかと思えばへにゃと笑うのもよくわからない。

「姫様は、どうしたいんです?」

「うん?」

「ウィリアム様とは婚姻されるのですか?」

「そっち? そうだなぁ。王族同士というのは都合が良いけど、しないと思うよ。
 王権が欲しいってわけじゃないけど、女王という立場は都合がよいところがある。なんかね、皇帝が変わったらしいんだよ」

 皇帝というのは、もう遠いような気もする失恋の相手である。
 もうどうでもいいといえるかは微妙で、でも、話題には出来るようになった。多少、動悸はするけど。これ以外に選べなかったけれど、罪悪感がひたひたと……。
 間違えていたとしても、側にいるのは無理だった。

「それならなおさら人妻のほうがよくないですか?」

「戦利品として奪いに来るかな」

「姫様、もしかして、ここで恩を売って、魔王と魔女を迎撃戦力に加えようとしてません?」

「後ろ盾には最適だろ?」

「……はぁ……。毒殺が必要でしたら、ご用意しますので魔女様とご相談ください。ちゃんと、わからないように急死させてあげますので」

「……うん」

 ユリアのやさしさだと思うけど、それ、どうなのかなぁ……。いざというときには、お願いするけど。

 私は私の大事なものを壊されても側にいなければいけないとは思っていない。
 もう一度というならば、全部捨ててからだ。

「で、なんで、怒ってたの?」

「あのですねぇ、侍女殿からもウィリアム様が素晴らしいことをお勧めしろと言われたんですよ」

「……はい?」

 懲りないというか、なんか、同情しかない。かわいそうに。たぶん、本人はあとで振られるの知っているぞ。なんなら結婚しないと思う。
 魔女の母を持ち、従妹が魔女で、子を持てばその子が女児なら次代の魔女だ。孫が魔女になるのも見るかもしれない。
 それも、資質があわなくても継承をされて壊れてしまうような魔女で。

 もし魔女が魔女であることを捨てるならば、負の連鎖ともいうべき短命は避けられるかもしれない。
 それでも、次を願う誰かがいる限り、いわれるであろう。その子を後継にと。

 彼は、そんなの望まないだろう。
 そう考えると彼も王には向いていない。

「しかも、なんかズタボロで。それを治す方の身にもなってください。お薬ぶちまけて包帯巻いといてと命じてきました」

「……あー、それは、私のせいかも? いや、魔女?」

「犯人のウィリアム殿には、嫌味言っておきました。どうせなら殺せ」

「お手数をおかけしました」

「ジニーは悪くない。うん、デート3回で許す」

 二回も増えた。全然許す気ない。
 じゃあ、ユリアに会えたら聞いておこうと思っていたことを聞いておこう。これまで二人きりで誰にも聞かれないという状況はなかったんだ。

「じゃあ、もう一回デートするから、質問に答えて欲しいな」

「なんですか?」

「蘇生薬はいくつあるの?」

 ユリアの笑顔が凍った。鎌をかけてみただけだったんだけど、当たりだったっぽい。

「そ、そそんなにないですよ。ええ、こう、材料が集まっちゃったんです。ほら、魔物のせいですって」

「そこまで聞いてない」

「ううっ」

 魔物に王城を襲われたときの被害はそれなりにあった。死体はちゃんと埋葬している。しかし、場合によっては傷ばかりで判別できないものもあった。そういう問題もあって、全員家族に戻すこともできず集団葬をしたんだ。もし、そこから一部拝借してもバレないだろうし、気がつくなら私以外いない。
 協力者はイーサン様とローガンあたりだろう。怪しまれずに埋葬に入り込める、もしくは、人のいないときに作業できるものは限られる。そのうえ、これを知られるのはまずい。ほかの誰かを関与させるのも危なすぎるから当人がやったに違いない。

 ため息が出てくる。人が大人しく女王様をやっているのになにを遊んでいたんだか。

「持ってる?」

「一つはあります。残りは王都に。
 アイザック様が、アレだから用意しておいてってイーサン様がおっしゃって、今後作れるかわからないからってついでに量産しちゃったんです」

 ついでで、量産しないでもらいたい。
 アイザック兄様対策で作ったなら仕方ない。いっぱいできたのもまあ、見なかったことにしよう。役に立たないわけではない。

「蘇生率は?」

「期待値で7割です。不具合なくというのならば、4割を切ります。そこは無理させてるのでどうにもなりません」

 そこはきちんと明瞭に答えたもののユリアはすぐに涙目になり、嫌いになっちゃいますかぁと泣きついてくる。

「いやいや、大丈夫だから」

 帰ったら、あの二人には話(じんもん)をしなければいけない。

「それならいいです」

 けろっとした顔で言ってのけたユリアも尋問いるかな?

「……で、兄様のところは大丈夫なの?」

 本来、ユリアが向かった理由についてようやく聞けた。長い遠回りしたものだ。

「鎮痛剤追加しておきましたので、そっちのブツは大丈夫ですよ」

「それならいいけど。
 どこから解決したものかな。私がいなくても、先々代関係は兄様が取り押さえて……いや、無理か」

 手加減し損ねて逃がすか、やりすぎるかの二択な兄様に任せてはいけない。ウィリアムは咄嗟の判断に信用が置けない。顔見知りどころではなく、古くからの知り合いかもしれないからだ。
  無関係な私がしたほうがいい。立ち合いは必要ではあると思うけど。これも処断によっては、後々引きずりそうだ。

「夜に罠はって、朝方までには片付けて、朝から人探し、なんて忙しいんだろ」

「……あの、ジニー?」

「なにかな」

「なんかいい笑顔ですけど、嫌な予感が」

「うん。ちょっと用があるから、また、姫様変わって」

「いやですーっ!!!」

 渾身の拒否をユリアは可愛いとか、頑張ってる偉いもっと頑張ってと篭絡するのには少し骨が折れた。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

処理中です...