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百合好きな私

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 私の前に見えるのは国立マジカリア学園。

 校舎の外壁は真っ白で金色の装飾が取り付けれれて、屋根には大聖堂とかでよく見るツンツンがいくつか生えている。そんな校舎の右側と左側から二つの大きな塔が立っている。

(塔の中には部屋が入っているのかな?)

 この学園は、魔法の才能を持つ少年少女が入学し魔法を学ぶ専門学校だ。魔法を外で使うには国家資格が必要で、その取得が大きな目的なんだけれど、貴族の学生だけはこの学園で伴侶を見つけるのも目的みたい。

 私は今日からこの学園にかよい始める。このときを来る日も来る日も待ち望んでいた。大声とともに喜びを味わう。

「ついに来た! マジカリア学園!」

 私の名前はアユミ=エンジェル。十六歳の平民育ちだ。

 しかし、それはこの世界の話で、私は日本に住む普通のOLだった。

 仕事休みの日に一日中こもって乙女ゲーム『マジカルキャスト・ホワイト』――通称マジホワをプレイしていた。私は何度も攻略した、とあるルートを進めていたらいつの間にか意識が途切れていた。

 そして、私が目を覚ますと、知らない部屋の知らないベッドの上で寝ていた。いや、知らないというか知識としてその部屋を知っていた。何が起きたのか混乱したけれど、私は鏡を見て確信する。

 ……私は、マジホワの主人公になっていた。

 とても驚いたけれど、それは一ヶ月前のことで今はもう慣れた。人間は適応能力が高い生き物だと誰かが言っていたのを思い出す。上下が逆さまになったメガネで生活しても一週間で慣れるみたい。

 知識については、生活するのに必要な情報が入っていた。母親や街の知り合い、家やお店の場所、文字や文化などだ。しかし、主人公がどんな性格をしていて、どんな体験をしてきたのかは引き継がれていなかった。

 ……名前はアユミ=エンジェルだった。

 姓の『エンジェル』はゲームと同じだけど、『アユミ』は元の世界の名前だ。マジホワは主人公の名前を自由に付けられるけど、そのまま元の世界の名前が使われるのはなんかショック。

 主人公の全体の雰囲気は、かわいい系というよりかは明るい系だ。髪はミディアムの長さの赤毛でウェーブがかかっている。背は高くも低くもなくて、平均くらいかな。

 この世界の生活に慣れてきたころ、私がマジカリア学園に入学すると母親が教えてくれた。十分な魔力を持っていると診断されて入学を打診されたみたい。

 それを聞いて、私はとても嬉しくなった。

 理由は単純だ。

(ヴェネッサとノエルに会える!!)

 私が愛してやまないのは『百合』だ。

 百合漫画を読むのが特に多いけれど、評判の良い百合ゲームはプレイしていた。

 百合で特に好きなのは、真面目でクールな子が純粋無垢な子を弄んだり、仲良し同士の子たちが「彼氏できないねー」、「じゃあできたときのためにチューの練習しよっか?」ってなってもう引き返せなくなったり、同級生のオシャレな女の子に誘われて一緒にショッピングに行くようになってオシャレに興味を持ち出して、いつの間にかその子に見せるだけのために可愛い服を着ていることに気付いた無自覚ものとか、引きこもりの同級生の女の子のところに顔を出したら汚い部屋で生活していて掃除をしに毎日訪れるようになると、だんだんと一緒にいる時間が長くなって遂には同棲して果てにはムフフになっちゃうエチエチものとか、クラスメイトに片思いしている子がこの気持ちどうしようと悩みに悩んで気持ちを伝えてたら実は両思いで結ばれるハッピーものとか、優しい子に告白されて付き合ってみたけれど実はその子は独占欲が強くて、その子が根回ししていたのかいつの間にか友達から避けられるようになって、周りにはもうその子しかいなくなって、その子のことしか考えられなくなるブルーな話とか、同級生ものも、先輩後輩ものも、年の差ものも、姉妹ものも、同棲ものも……

 つまり百合の全てが好きです。

 そんな私がなんでイケメンたちとラブラブする乙女ゲームをやっていたのかというと……

 このゲームには『百合ルート』があるからだ。

 元々はSNSでマジホワを絶賛している百合仲間がいて、興味本位で買ってプレイしたらハマってしまった。なんというか、イケメンたちと恋愛するべきなのにそんな彼らを無視する優越感と、女の子同士でイチャイチャする背徳感もたまらなかったし、みんなきゃわわで最高だった。しかも、このゲームは主人公と女の子がつき合うだけでは終わらない。

 オール・キャラクター・カップリング・システム。

 ……そう、全てのキャラクター同士でカップリングを実現できるのだ。

 もちろん、性別の垣根を超えられる。

 私は女の子キャラのカップルを作っては堪能し、他の組み合わせを作っては悶えを繰り返していた。

 特に推してるのが、『悪役令嬢ヴェネッサ』と『クール令嬢ノエル』の組み合わせ。このカップリングが一番だった。

 ヴェネッサとノエルの関係は複雑で、それぞれが悩みを抱えているんだけれど、それを乗り越えて愛し合う関係を築けたときに、私は自然と涙を流しスタンディングオベーションしていた。

 そう、この学園で来てやることは一つ。

 『ヴェネッサ×ノエル』を成就させることだ。

 私は恋の、いや、百合のキューピッドとなり、彼女たちの幸せを勝手に導く。もし、ゲーム通りに事が運ぶ世界なら実現が可能だ。彼女たちのどちらかとくっつくことも考えたけれど選べないし、今の私は平民で彼女たちを不幸にするかもしれない。それに、リアルな話をすれば百合好きであれど私はノーマルだ。多分。

 ……なら、二人のことをくっつけるしかない。

 二人のカップリングを実現するのは少し難しいけれど、そこは私の熱意でどうにかするしかない。

 ……いや、どうにかする!

(ああ、神様。私をこの世界に連れてきてくれてありがとう! とても、とても感謝しています)

 膝を床に着けて手を合わせて私は神様に感謝していると……

『ねぇ、あの人なにかしら?』
『近づかないようにしましょう』

 不審な目で見られてしまった。

 妄想するだけでこれだ。本物の彼女たちを目の当たりにしたら、興奮して倒れてしまうかもしれない。気をつけないと……
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