俺魔王だけど、悪魔の執事に溺愛されてたくさんエッチなことされて美味いもんたらふく食わされてます

野良猫のらん

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第六十二話 クラレゴ視点

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 悪魔の国の食べ物を食べたら二度と戻って来られなくなるという説を聞いたことがあるような気もするが、そんなことは全然なかった。
 それどころか、昨日もそれはそれは不思議な美味い食べ物を食わせてもらった。
 一グラムの値段が金一グラムと同等と言われる胡椒をふんだんに使った、いわば金を直接振りかけているような法外な料理だ。
 だがその美味さを味わえば誰も「もったいない」などとは口にできないだろう。金を振りかけるのと同等の散財をしてでも価値のある美味さだった。

 魔王城で一晩休ませてもらい、翌日荷台いっぱいに米俵を積んで私たちは王都を目指して出発した。

「ケダキナも久しぶりに仲間に会えて嬉しかったろう?」

 私の相棒、ケダキナに声をかけると彼はぶるると鼻を鳴らした。
 きっとイエスという意味だろう。

 街灯もない、舗装もされていないただただ人と馬の足が踏み均しただけの道を行く。
 草原がずっと続いているだけなので、道が険しいところは特にない。
 道がぬかるんでいる時に車輪が嵌まったりしないよう気を付ければいいだけだ。

 夜になれば当然暗くなる。
 そうなれば野宿の時間だ。いくら平らな草原とはいえ、暗い中を無理して進んでも良いことはない。

「ケダキナ、よりかからせてくれよ」
「ぶるるっ」

 駄目元で頼んでみたのだが、彼は冗談じゃないとばかりに首を横に振った。ケダキナの隣で寝れたら暖かそうなのだが……まあ、寝返りを打たれたら潰されそうだからな。
 私は荷台の米俵をどかし、横になれるスペースを作ると、毛布をかけて寝た。
 野外でもすぐに寝れるのは行商人には大事なスキルだ。
 私はさほど時間をかけず眠りに落ちた。

「ヒヒーンッ!」

 嘶きが静寂を劈いた。
 ガバリと身を起こすと、目の前に黒い影が迫っていた。
 黒い人影は手に光を反射するものを持っている。

「うわっ!?」

 それは刃物が放つ反射光だと気づいた瞬間、脊髄反射で身を翻した。

 命を狙われている。一体、何故。
 心当たりはありすぎるほどにある。
 例えばネズィル王子の気が変わってやっぱり私を始末する気になったのだとか。
 米の貿易が上手くいってほしくない者がいるのだとか。
 米が高く売れると思って奪おうとしているのだとか。エトセトラ、エトセトラ……。

「うわぁ、わあぁぁぁ~!!」

 理由が分かろうが分からなかろうが、私には逃げ惑うことしかできない。
 刺客もしくは野盗の刃が閃き、身体を掠める。

 ついにもんどりうって尻餅をつき、追い詰められる。
 もう駄目だ、と思った瞬間だった。

「ケダキナ!」

 ケダキナが私と刺客の間に割り入る。

「駄目だ、殺される!」

 ケダキナが死んでしまう、と必死に手を伸ばした。
 その時、彼の身体が光に包まれる。

「――――オレのおっさんに手を出すな!」

 光が収まると、そこには美しい白銀の髪をした青年が立っていた。
 ケダキナの毛の色とまったく同じの。

「ケダ、キナ……?」

 ケダキナは身長ほどもあろうかという巨大斧で刺客の刃物を受け止めていた。
 彼はジリジリと押し返していき、遂には刺客の刃が弾かれる。

「っ!」

 刺客は劣勢を悟ると、素早く闇の中に身を翻す。
 そのまま見えなくなってしまった。

「た、助かったのか……?」

 訳が分からない中、ただそれだけは理解できた。

「ああ、近くに気配は感じない」

 ケダキナの代わりに現れた青年が周囲の様子を窺い、ふっと力を抜いた。

「お前は、お前はケダキナなのか?」
「ふん」

 彼は答えず、代わりに鼻を鳴らした。
 恐らくはイエスという意味だろう。
 その態度で彼がケダキナであることを確信した。

「何故人間になったのかは分からないが、とにかく助けてくれてありがとう。ちょっと引っ張ってくれないか、腰が抜けてしまって」

 彼に向かって手を伸ばす。
 パシン。
 その手が叩かれた。

「勘違いするな、別にお前のために助けたワケじゃない! 魔王様から与えられた任務を遂行できなくなると困るからだ!」

 そう宣言すると、ケダキナは腰を抜かしている私を無視してさっさと元の馬の姿に戻り、地面に腰を下ろして目を閉じてしまった。

 そんなぁ、トホホ。
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