俺魔王だけど、悪魔の執事に溺愛されてたくさんエッチなことされて美味いもんたらふく食わされてます

野良猫のらん

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第六十話 アスプ視点 ③

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 まずはドラゴンに気づかれないように彼の元へと向かう。
 するするするする、音を立てないように移動するのはお手の物だ。
 物陰を選び、ドラゴンの視線がよそを向いている隙に少しずつ移動していく。

 そしてようやく、彼のすぐ傍まで辿り着くことができた。
 見ると尾羽が倒れてきた木と地面の間に挟まれてしまったようだ。

(おい)

 そっと彼の視界に入る。

「ピュイ……ッ!?」

 悲鳴をあげようとした彼の顔に慌てて尾を巻き付けて嘴を塞いだ。
 彼が落ち着いた頃を見計らってそっと尾を外していく。

「……?」

 助けてくれるのか、とでも言いたげに彼が見上げてくる。
 その視線に向かってこくりと頷いた。

 わたしは自分の考えを地面に尾の先っぽで絵として描き記す。
 自分の考えではジュリアンが形態変化して鹿の身体に翼の生えた姿になれば、自然に挟まれた尾羽も抜けるはずだ。あるいは人型にポリモーフしたっていい。
 彼がそれをしないのは、身体が大きくなってドラゴンに見つかってしまうからだろう。
 だが、二人で力を合わせれば見つかっても勝てるとは言えないが逃げ出す隙ぐらいは作り出せるはずだ。
 なにせ魔界の境界までそう遠くはないのだから。

 ジュリアンは地面に描かれた絵に視線を注がせる。
 それから、しっかりとわたしと目を合わせてこくりと頷いた。

 作戦決行だ。

 彼の身体が光を放ち、彼は鹿に翼が生えたペリュトンというモンスターの本来の姿に戻る。
 わたしはするすると彼の身体を登り、長い首に身体を巻き付ける。

「キシャ―ッ!」

 それと同時に、ドラゴンがこちらの存在に気が付いた。
 ドラゴンは胸を膨らませ、首を真っ直ぐにする。
 炎のブレスを吐く予兆だ!

 ジュリアンが翼を広げ、地を蹴る。
 瞬間、ごうと今までわたしたちがいた場所を炎のブレスが焼き焦がす。

 間一髪、わたしたちの身体は空に浮いていた。
 力強く彼が翼を羽ばたかせる度、ぐんぐんと上に上がっていく。

 わたしはくいっと顎をしゃくってドラゴンの方を指し示す。
 彼はわたしの意図を察すると、ドラゴンに向かって真っ直ぐに飛翔した。
 風を切って矢のようなスピードでドラゴンに飛びかかる。
 ブレスを吐いたばかりで動けないドラゴンが振り返ったその時には、わたしたちは目の前まで迫っていた。

 魔力を一か所に集中させる。
 そして――――わたしは額の第三の目を開いた。
 アスプの、眠りの瞳を。

「――――ッ!?」

 ドラゴンの二つの眼はもろにわたしの第三の瞳を直視してしまった。

「…………ッ」

 ドサリ。
 眠りに就いたドラゴンはその場に倒れた。

 今のうちだ、わたしの魔力ではドラゴンを長い間昏倒させることはできない。
 わたしを乗せたジュリアンは一目散に魔界の境界線目指して逃げ飛んだのだった。



「でかしたぞ、アスプ!」

 魔界に戻ると、ポリモーフしたジュリアンが事情を魔王様に伝えてくれた。

「よくジュリアンを助けてくれた!」
「ええ、もしジュリアンが死んでいたら魂の繋がった魔王様にダメージが伝わっていたことでしょう。危ないところでした」

 魔王様もセバスチャン様も褒め称えてくれた。

「それにしてもそんな近いところにドラゴンなんて……」
「魔王様、焦ってはなりませんよ。討伐の準備ができるまで近づかないようにするのも手です。なにせ魔界の陣地内には入ってこれないのですから」
「ああ、それもそうだな」

 今はとてもじゃないがドラゴンなんて討伐できそうにない、という結論に達したようだった。

「さて、そんなことよりもアスプには褒美を与えないとな」

 魔王様のこの言葉にわたしは顔を上げ、目を輝かせる。

「魔王様、褒美とはまさか名付けのことですか?」
「そうだともセバスチャン、アスプの功績にはそれが相応しいだろう?」
「……異論はありません。魔王様と魂の繋がったジュリアンを助けたアスプは魔王様の命の恩人と言っても差支えありませんから」

 それを聞いた瞬間、手があるならば両手を叩いて飛び上がりたいほどの喜びに見舞われた。

「そういうワケでアスプ、君に名前を付けたいと思うがいいかな?」

 わたしはこくこくと頷いた。

「アスプ、汝に名を授けん。汝の名は――――シルヴェスター」

 シルヴェスター。
 わたしの名前はシルヴェスター。
 魂に刻み込まれたような感覚。

 それと同時に身体が光を放つ。
 光が収まると、視線が随分と高い位置に変わっていた。

「手、手がある……!」

 まず最初に自分に手があることが驚いた。

「シルヴェスター、鏡あるよ」

 魔王様が姿見を指し示す。
 わたしはそちらを見た。

 切り揃えられた長髪に、切れ長のブルーアイ。
 細身の長身。
 そして前髪の下に瞼を閉じた第三の瞳があるのが見えた。
 これがわたしのポリモーフした姿か……。

「イケメンになったね、シルヴェスター」

 最早魔王様の言葉は耳に入らなかった。
 だってわたしは言葉を話すための声帯を手に入れたのだから。
 わたしはジュリアンに向き直る。

「シルヴェスター、良かったね」
「ジュリアン……」

 一歩、距離を詰めるとわたしは彼に手を伸ばす。

「ジュリアン、わたしは貴方が好きだ」
「ひょえっ!?」

 彼の華奢な身体に手を伸ばし、巻き付ける。

「どうかわたしの番になってはくれまいか?」
「ひょ、ひょええ……っ!?」

 彼の耳が真っ赤になっている。
 彼も喜んでくれているのだ、と嬉しくなる。

「これからはずっと一緒にいよう、ジュリアン……っ!」
「あわ、あわわわわ……」
「ジュリアン?」

 そこでわたしはセバスチャン様に両手を引き剥がされてしまった。

「シルヴェスター、貴方は自分の種族がジュリアンの天敵だということを忘れないように」

 見るとジュリアンは泡を吹いて気絶してしまっていた。

「そ、そんな……!」

 わたしの想いが彼に届くまでまだまだかかりそうなのであった。
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