53 / 63
第五十三話 悪魔の目にも涙
しおりを挟む
「魔王様、どうかお考え直しを」
またいつもの夢だ、と思った。
夢の中の自分は紅と蒼のオッドアイを持つ男の足元に跪いている。
「人間の勇者に呼び出されて対話など……罠に決まっております!」
夢の中の自分は痛烈な想いで叫ぶ。
悲痛な想いが胸を劈くようだった。
「人間の中でも英雄と呼ばれる類の者は特に信用してはなりません。奴らは特別残虐な種類の人間で、人心を操ることに長けていながらその実あっけなく同族ですら切り捨てるのです。ましてや魔王様が向かえば絶対に裏切られます……!」
必死に訴えたが、目の前のオッドアイの壮年の男は安堵させるように微笑みかけてくる。
自分は美味しいものを食べたくて領土を拡げてきただけだ。
手っ取り早く戦を終わらせられる可能性があるなら、その可能性に賭けた方が良いと。
「魔王様、それならば私のためにお考え直し下さい。私は名付けによって魔王様と魂が繋がっております。もし魂の繋がっている魔王様が死ねば、私の魂も損傷するでしょう……それこそ、自我が崩壊するかもしれないほどに」
夢の中の自分は最終手段として自分を人質に取るような言動をする。
オッドアイの男はそれに迷うような素振りをするが――――最終的に首を横に振ったのだった。
*
「……っ!」
目覚めると既にベッドの中にはセバスチャンはいなかった。
一度くらい一緒に朝を迎えてくれてもいいのに、と思う。
本当に俺のことをただの主人として見ているんじゃなくて、愛しているというのならそれくらいしてくれたっていいじゃないか。
いや、俺は何を寂しがっているのだろう。
別にセバスチャンが俺に一方的に愛を向けていようとなんだろうと、どうだっていいじゃないか。
俺の方はセバスチャンのことをどうとも思っていないのだから。
そんな風に自分自身に反駁してみるが、少々無理があった。
どう考えたって、俺は寂しさを覚えていた。
隣に誰もいないベッドに。
そりゃだって、あんな風に愛してる愛してるって囁かれたら……抱かれてる時以外だってその言葉を聞きたくなる。
だからこの寂しさはセバスチャンのせいだ。セバスチャンの責任だ。
「魔王様、どうかされましたか?」
「ひょえっ!?」
気が付けばセバスチャンが音もなくベッドの脇に立っていた。
「魔王様の魂の色がいつになく憂鬱な色をしてらっしゃるように見えたので、音を立てないようにそっと近寄ってみたのです」
「分かってるなら忍び寄ってくるのやめてくれないか!?」
音を立てないように近寄って来るのは問題だが、彼の顔色は本当に心配そうに見えた。
「何か私に至らないところでもございましたか?」
「う……っ」
ここで『えっちした次の日の朝は一緒にベッドで寝ていて欲しい』とお願いできれば可愛いのだろう。
だがそれはセバスチャンがいないと寂しいと認めるようで……まるで俺の方がセバスチャンのことを好きみたいで、どうしても言えなかった。
「もしかして……懐妊したかもしれないと不安に?」
「え?」
彼の言葉に、昨晩の濃い情交を思い出す。
そういえば思い切り一番奥にナカ出しされて「子供ができちゃう」とか何とか喚いたような記憶が……。
「ち、違うっ、そんなことじゃない!」
子供が出来たかどうかなんて分かるワケないのに、昨晩の自分は一体何を言っていたのだろう。
今さらながらに恥ずかしくなってしまう。
「本当ですか? もしかして魔王様は私との子を望んでいないのではないかと……」
「そんなことないっ、大丈夫だからっ!!」
俺は慌てて彼の不安を遮った。
最初は子供なんて出来たら大変だと思っていたはずなのに、彼の憂いた顔を見たら咄嗟にそう答えてしまっていた。
「……それなら、良かったです」
彼はほっと胸を撫で下ろしたようにおずおずとした笑みを浮かべる。
「もしセバスチャンとの卵を産めたら、俺はちゃんと嬉しいから。なっ?」
彼の悲しむ顔をこれ以上見たくなくて、俺は彼の手を握って上目遣いに見つめたのだった。
「魔王様……!」
感極まったのだろうか、彼の目尻に光るものが見えたような気がした。
悪魔も涙を流すんだな。
またいつもの夢だ、と思った。
夢の中の自分は紅と蒼のオッドアイを持つ男の足元に跪いている。
「人間の勇者に呼び出されて対話など……罠に決まっております!」
夢の中の自分は痛烈な想いで叫ぶ。
悲痛な想いが胸を劈くようだった。
「人間の中でも英雄と呼ばれる類の者は特に信用してはなりません。奴らは特別残虐な種類の人間で、人心を操ることに長けていながらその実あっけなく同族ですら切り捨てるのです。ましてや魔王様が向かえば絶対に裏切られます……!」
必死に訴えたが、目の前のオッドアイの壮年の男は安堵させるように微笑みかけてくる。
自分は美味しいものを食べたくて領土を拡げてきただけだ。
手っ取り早く戦を終わらせられる可能性があるなら、その可能性に賭けた方が良いと。
「魔王様、それならば私のためにお考え直し下さい。私は名付けによって魔王様と魂が繋がっております。もし魂の繋がっている魔王様が死ねば、私の魂も損傷するでしょう……それこそ、自我が崩壊するかもしれないほどに」
夢の中の自分は最終手段として自分を人質に取るような言動をする。
オッドアイの男はそれに迷うような素振りをするが――――最終的に首を横に振ったのだった。
*
「……っ!」
目覚めると既にベッドの中にはセバスチャンはいなかった。
一度くらい一緒に朝を迎えてくれてもいいのに、と思う。
本当に俺のことをただの主人として見ているんじゃなくて、愛しているというのならそれくらいしてくれたっていいじゃないか。
いや、俺は何を寂しがっているのだろう。
別にセバスチャンが俺に一方的に愛を向けていようとなんだろうと、どうだっていいじゃないか。
俺の方はセバスチャンのことをどうとも思っていないのだから。
そんな風に自分自身に反駁してみるが、少々無理があった。
どう考えたって、俺は寂しさを覚えていた。
隣に誰もいないベッドに。
そりゃだって、あんな風に愛してる愛してるって囁かれたら……抱かれてる時以外だってその言葉を聞きたくなる。
だからこの寂しさはセバスチャンのせいだ。セバスチャンの責任だ。
「魔王様、どうかされましたか?」
「ひょえっ!?」
気が付けばセバスチャンが音もなくベッドの脇に立っていた。
「魔王様の魂の色がいつになく憂鬱な色をしてらっしゃるように見えたので、音を立てないようにそっと近寄ってみたのです」
「分かってるなら忍び寄ってくるのやめてくれないか!?」
音を立てないように近寄って来るのは問題だが、彼の顔色は本当に心配そうに見えた。
「何か私に至らないところでもございましたか?」
「う……っ」
ここで『えっちした次の日の朝は一緒にベッドで寝ていて欲しい』とお願いできれば可愛いのだろう。
だがそれはセバスチャンがいないと寂しいと認めるようで……まるで俺の方がセバスチャンのことを好きみたいで、どうしても言えなかった。
「もしかして……懐妊したかもしれないと不安に?」
「え?」
彼の言葉に、昨晩の濃い情交を思い出す。
そういえば思い切り一番奥にナカ出しされて「子供ができちゃう」とか何とか喚いたような記憶が……。
「ち、違うっ、そんなことじゃない!」
子供が出来たかどうかなんて分かるワケないのに、昨晩の自分は一体何を言っていたのだろう。
今さらながらに恥ずかしくなってしまう。
「本当ですか? もしかして魔王様は私との子を望んでいないのではないかと……」
「そんなことないっ、大丈夫だからっ!!」
俺は慌てて彼の不安を遮った。
最初は子供なんて出来たら大変だと思っていたはずなのに、彼の憂いた顔を見たら咄嗟にそう答えてしまっていた。
「……それなら、良かったです」
彼はほっと胸を撫で下ろしたようにおずおずとした笑みを浮かべる。
「もしセバスチャンとの卵を産めたら、俺はちゃんと嬉しいから。なっ?」
彼の悲しむ顔をこれ以上見たくなくて、俺は彼の手を握って上目遣いに見つめたのだった。
「魔王様……!」
感極まったのだろうか、彼の目尻に光るものが見えたような気がした。
悪魔も涙を流すんだな。
3
お気に入りに追加
1,634
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
市川先生の大人の補習授業
夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。
ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。
「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。
◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC)
※「*」がついている回は性描写が含まれております。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる