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第四十九話 クラレゴ視点
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観念した私は、自分の推理とも言えない一足飛びの邪推を披露することにした。
「ええと、はい。私も最初にオコメの国についての情報を伝えたのが私でなかったら、王子の本質について何も気が付かぬまま今回の遠征を終えていたでしょう」
私が気が付いたきっかけは、王子が私が話した『オコメの国のお姫様』の何に惹かれたのかということだった。
魔王の顔を見るなり恍惚とした彼の様子を見て気が付いた。
王子は魔王の瞳の色に惹かれているのだと。
確かに私は魔王は、いやオコメの国の姫君は左と右で瞳の色が違うと話した。王子が話に聞いた『姫君』に夢中になったのはその直後のことだったと思う。
つまり王子が魔王に惹かれた理由は、彼の瞳の色が左右で違うから――――
「ええ、そうですね。サトルゥさんの瞳の色は確かに生きる神秘でした。ですが、それだけですか?」
オッドアイに惹かれているというだけでは彼を恐れる理由にはならない。
「もちろん、その先があります」
私は震えながら口を開いた。
ここから先は完全に証拠のないただの邪推である。
推理とは言えない。ただの闇雲な恐怖だ。
だがその恐怖が、的を射てしまったのだとしたら。
「私はそこで貴方に関する噂話を思い出しました。曰く、とても慈悲深く片足や片手を失くした者のための救貧院を建てたと」
「慈悲深いというのはともかく、そういった救貧院の建設のために私費を投じたのは事実です」
王子は柔らかく頷く。
彼のそういった微笑に当てられると、正体に気が付いた今でも彼が穏やかな人物のように見えてしまう。
出来過ぎた顔面というものは洗脳兵器になるものらしい。
あるいは王子の何気ない一挙手一投足が、細かな表情筋の動きが相手の警戒を解くための呪いのように作用しているというのか。
「貧しい者の中でも障害を負っている者が入れるように、入院の条件を片足や片手を失っている者ということにしたのでしょう」
「そうですね。救貧院を建てるための資金の大半を出したのは私なので、どういった者のための場所にするか決める権利が私には与えられました」
王子は鷹揚に頷いて認める。
「何故、『片足』や『片手』を失った者なのでしょう? いえ、噂話なので実際の条件がシンプルになって伝わっている可能性はあります。それでもその救貧院に実際にいるのは何かを『片方だけ』失った者ばかりなのでは?」
「…………」
今度は王子は肯定も否定もしなかった。
「貴方の周りを見ても、片足が義足の執事や片目に眼帯を付けた女中など、左右非対称の者ばかりです」
「つまり?」
王子は両眉をわずかに上げて続きを促す。
「それらの者と魔王……マオ―の共通点は明白です。それは左右非対称です。貴方は左右非対称なものに惹かれずにはいられないのです」
「……見事です」
王子の肯定の言葉に、私は全身からふっと力が抜けるような気がした。
「そうです、私は左右非対称なものに美を感じずにはいられないのです。それこそ、こうして欲望を抑え切れずこうして魔の草原の向こうまで来てしまうほどに」
王子は恍惚とした表情で語る。
その彼の表情はなお、清浄で清らかに見えた。
「だから救貧院を建てたというのも世間が言うように私が慈悲深いからとかではなく、自分の満足のためにやったのです。自分で建てた救貧院ならばしばしば視察に訪れても何の違和感もないですから。私はそうして美しい者を目にして心を潤しているのです」
滔々とした語り口はいっそ清々としていた。
「私のそうした性癖が恐ろしいという貴方の意見は悲しいですが、よく分かります。私のそうした密かな楽しみは到底世間一般に受け入れられるものではないと自分でもよく分かっておりますから」
王子は悲しそうに眉を下げる。
彼がそういった表情を浮かべると、まるで周囲の景色までもが一幅の絵画と化してしまったかのような感覚に襲われる。
彼の表情の一つ一つが劇的に絵になるのだ。
「いや……貴方の持つ業はそれだけではないはずです」
「はい? どういうことでしょう?」
王子は私の言葉にきょとんとした。
これが演技だとしたら、大した役者だ。
私はある恐ろしすぎる一つの想像をしている。
意を決して、その"想像"を口にすることにした。
「ええと、はい。私も最初にオコメの国についての情報を伝えたのが私でなかったら、王子の本質について何も気が付かぬまま今回の遠征を終えていたでしょう」
私が気が付いたきっかけは、王子が私が話した『オコメの国のお姫様』の何に惹かれたのかということだった。
魔王の顔を見るなり恍惚とした彼の様子を見て気が付いた。
王子は魔王の瞳の色に惹かれているのだと。
確かに私は魔王は、いやオコメの国の姫君は左と右で瞳の色が違うと話した。王子が話に聞いた『姫君』に夢中になったのはその直後のことだったと思う。
つまり王子が魔王に惹かれた理由は、彼の瞳の色が左右で違うから――――
「ええ、そうですね。サトルゥさんの瞳の色は確かに生きる神秘でした。ですが、それだけですか?」
オッドアイに惹かれているというだけでは彼を恐れる理由にはならない。
「もちろん、その先があります」
私は震えながら口を開いた。
ここから先は完全に証拠のないただの邪推である。
推理とは言えない。ただの闇雲な恐怖だ。
だがその恐怖が、的を射てしまったのだとしたら。
「私はそこで貴方に関する噂話を思い出しました。曰く、とても慈悲深く片足や片手を失くした者のための救貧院を建てたと」
「慈悲深いというのはともかく、そういった救貧院の建設のために私費を投じたのは事実です」
王子は柔らかく頷く。
彼のそういった微笑に当てられると、正体に気が付いた今でも彼が穏やかな人物のように見えてしまう。
出来過ぎた顔面というものは洗脳兵器になるものらしい。
あるいは王子の何気ない一挙手一投足が、細かな表情筋の動きが相手の警戒を解くための呪いのように作用しているというのか。
「貧しい者の中でも障害を負っている者が入れるように、入院の条件を片足や片手を失っている者ということにしたのでしょう」
「そうですね。救貧院を建てるための資金の大半を出したのは私なので、どういった者のための場所にするか決める権利が私には与えられました」
王子は鷹揚に頷いて認める。
「何故、『片足』や『片手』を失った者なのでしょう? いえ、噂話なので実際の条件がシンプルになって伝わっている可能性はあります。それでもその救貧院に実際にいるのは何かを『片方だけ』失った者ばかりなのでは?」
「…………」
今度は王子は肯定も否定もしなかった。
「貴方の周りを見ても、片足が義足の執事や片目に眼帯を付けた女中など、左右非対称の者ばかりです」
「つまり?」
王子は両眉をわずかに上げて続きを促す。
「それらの者と魔王……マオ―の共通点は明白です。それは左右非対称です。貴方は左右非対称なものに惹かれずにはいられないのです」
「……見事です」
王子の肯定の言葉に、私は全身からふっと力が抜けるような気がした。
「そうです、私は左右非対称なものに美を感じずにはいられないのです。それこそ、こうして欲望を抑え切れずこうして魔の草原の向こうまで来てしまうほどに」
王子は恍惚とした表情で語る。
その彼の表情はなお、清浄で清らかに見えた。
「だから救貧院を建てたというのも世間が言うように私が慈悲深いからとかではなく、自分の満足のためにやったのです。自分で建てた救貧院ならばしばしば視察に訪れても何の違和感もないですから。私はそうして美しい者を目にして心を潤しているのです」
滔々とした語り口はいっそ清々としていた。
「私のそうした性癖が恐ろしいという貴方の意見は悲しいですが、よく分かります。私のそうした密かな楽しみは到底世間一般に受け入れられるものではないと自分でもよく分かっておりますから」
王子は悲しそうに眉を下げる。
彼がそういった表情を浮かべると、まるで周囲の景色までもが一幅の絵画と化してしまったかのような感覚に襲われる。
彼の表情の一つ一つが劇的に絵になるのだ。
「いや……貴方の持つ業はそれだけではないはずです」
「はい? どういうことでしょう?」
王子は私の言葉にきょとんとした。
これが演技だとしたら、大した役者だ。
私はある恐ろしすぎる一つの想像をしている。
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