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第四十三話 服をプレゼントしてもらった!
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「ああ……なんて美しい左右非対称だ……」
俺に会うなり、王子は恍惚と溜息を吐いた。
騎士たち全員を城の中に入れることはできない。
王子と側仕えと文官と、護衛の騎士数名だけを城に入れた。
俺はマントで身体を隠して王子と相対している。
そして王子は俺の顔を見るなり、感嘆の溜息を吐いたのだった。
一体何だコイツは。
王子は見た目は良かった。
金髪がふわふわとしていて穏やかな面差しで、ゴールデンレトリーバーを彷彿とさせた。
人間でも王族ともなれば高級感が出てくるものらしい。
王子の側仕えの一人がどうやら義足のようなのが珍しいなと思った。
俺は王子とそのお付きたちを俺の執務室に通した。
王子たちの他にこの部屋にいるのは俺とセバスチャンとニンゲンちゃんだけだ。
リュウたち配下には会議室に待機してもらっている。
「あ、名前を名乗りもせずに不躾にお顔に見惚れてしまいました。大変申し訳ありません」
王子がはっと謝罪する。
「はじめまして、私はネズィル・アツァ=フストニーネと申します。イヨケフスト王国の第一王子でございます」
ネズィルと名乗った王子は綺麗な礼をした。
「貴方のお名前を聞かせてもらっても?」
「俺は……」
名乗ろうとして、自分には名前がないことに気が付いた。
魔王は魔王だ。魔王に名付けする者はいない。
「俺は、サトルだ」
迷った末に日本人だった頃の名を名乗った。
「サトルゥ? 変わった響きの名だ……とても美しいと思うよ」
王子は恍惚として俺の名を繰り返した。
王子の台詞に俺は眉根を寄せる。
「そんな風に口説き文句のような言葉を囁かれる謂われはない。俺は男だし、何より俺たちは初対面だろう?」
王子の態度はまるでこちらに一目惚れしたかのようだったが、ニンゲンちゃんの話によれば会う前から俺に惚れていたのだという。
一体なぜ俺なんかに執着するのだろう。
「えっ、男?」
王子は言われて初めて気が付いたかのようにまじまじと俺の顔を見つめた。
ニンゲンちゃんが何故だか気まずそうに視線を逸らしている。
「ああ、確かに言われてみればそのようにも見えますね。失礼いたしました。貴方のお噂を耳にした私が勝手に勘違いしていたようです。確かに言われてみれば女性だとは聞かなかったような気もします……」
彼は俺のことを女性だと勘違いしてここまで来たらしい。
なんというトンマだろう。
だがそれにしては王子の顔に失望の色は見えなかった。
俺が男であることは失恋の材料にはならないとばかりに。
「貴方はそちらのクラレゴさんに衣服を依頼していたとお聞きしました。貴方に最高級の服を用意したくて、私がそれをここまで持って参りました。どうぞお受け取り下さい」
王子が一歩下がり、代わりに王子の側仕えが俺の前に跪く。
片脚が杖先のような銀の義肢になっている老爺だ。
美しい彫刻が彫られた薄い衣装箱を跪いた姿勢から高く掲げるように差し出される。
俺はこくりと頷くと、セバスチャンが受け取った。
「早速着替えてきても?」
王子のことは謎だったが、新しい洋服のことはずっと楽しみにしていたのだ。
俺はそわそわと衣装箱を見やりながら尋ねた。
「もちろんです」
王子は朗らかに許可してくれた。
俺は執務室の隣の寝室に、衣装箱を手にしたセバスチャンと共に移動した。
「魔王様、私が着付けいたします」
箱を置いたセバスチャンが静かに声をかけてくる。
「鏡の前にどうぞ」
姿見の前に立つと、セバスチャンが手早くマントを脱がす。
それから肩紐で結ばれているだけのチュニックもすぐに脱がせてしまう。
下着も履いていない俺はあっという間に一糸まとわぬ姿になってしまった。
「……っ」
隣の部屋に王子たちがいるのに、こうして素裸でセバスチャンと二人きりのこの状況にインモラルなものを感じる。
「魔王様、期待して下さっているところ悪いのですが隣に人間どもがいるので今は駄目ですよ」
「き、期待なんかしてない!」
つい魂の色に出てしまったらしい。
かっと頬が熱くなる。
「今はこれで我慢して下さい」
背中に唇の感触を感じた。
「ん……っ」
吸われる感触に吐息が漏れ出た。
きっと朱い痕が出来ていることだろう。
「ふふっ」
彼が笑みを零す。
見えない場所に二人だけが知っている印が付いている。
その事実にとくりと胸が鼓動した。
俺に会うなり、王子は恍惚と溜息を吐いた。
騎士たち全員を城の中に入れることはできない。
王子と側仕えと文官と、護衛の騎士数名だけを城に入れた。
俺はマントで身体を隠して王子と相対している。
そして王子は俺の顔を見るなり、感嘆の溜息を吐いたのだった。
一体何だコイツは。
王子は見た目は良かった。
金髪がふわふわとしていて穏やかな面差しで、ゴールデンレトリーバーを彷彿とさせた。
人間でも王族ともなれば高級感が出てくるものらしい。
王子の側仕えの一人がどうやら義足のようなのが珍しいなと思った。
俺は王子とそのお付きたちを俺の執務室に通した。
王子たちの他にこの部屋にいるのは俺とセバスチャンとニンゲンちゃんだけだ。
リュウたち配下には会議室に待機してもらっている。
「あ、名前を名乗りもせずに不躾にお顔に見惚れてしまいました。大変申し訳ありません」
王子がはっと謝罪する。
「はじめまして、私はネズィル・アツァ=フストニーネと申します。イヨケフスト王国の第一王子でございます」
ネズィルと名乗った王子は綺麗な礼をした。
「貴方のお名前を聞かせてもらっても?」
「俺は……」
名乗ろうとして、自分には名前がないことに気が付いた。
魔王は魔王だ。魔王に名付けする者はいない。
「俺は、サトルだ」
迷った末に日本人だった頃の名を名乗った。
「サトルゥ? 変わった響きの名だ……とても美しいと思うよ」
王子は恍惚として俺の名を繰り返した。
王子の台詞に俺は眉根を寄せる。
「そんな風に口説き文句のような言葉を囁かれる謂われはない。俺は男だし、何より俺たちは初対面だろう?」
王子の態度はまるでこちらに一目惚れしたかのようだったが、ニンゲンちゃんの話によれば会う前から俺に惚れていたのだという。
一体なぜ俺なんかに執着するのだろう。
「えっ、男?」
王子は言われて初めて気が付いたかのようにまじまじと俺の顔を見つめた。
ニンゲンちゃんが何故だか気まずそうに視線を逸らしている。
「ああ、確かに言われてみればそのようにも見えますね。失礼いたしました。貴方のお噂を耳にした私が勝手に勘違いしていたようです。確かに言われてみれば女性だとは聞かなかったような気もします……」
彼は俺のことを女性だと勘違いしてここまで来たらしい。
なんというトンマだろう。
だがそれにしては王子の顔に失望の色は見えなかった。
俺が男であることは失恋の材料にはならないとばかりに。
「貴方はそちらのクラレゴさんに衣服を依頼していたとお聞きしました。貴方に最高級の服を用意したくて、私がそれをここまで持って参りました。どうぞお受け取り下さい」
王子が一歩下がり、代わりに王子の側仕えが俺の前に跪く。
片脚が杖先のような銀の義肢になっている老爺だ。
美しい彫刻が彫られた薄い衣装箱を跪いた姿勢から高く掲げるように差し出される。
俺はこくりと頷くと、セバスチャンが受け取った。
「早速着替えてきても?」
王子のことは謎だったが、新しい洋服のことはずっと楽しみにしていたのだ。
俺はそわそわと衣装箱を見やりながら尋ねた。
「もちろんです」
王子は朗らかに許可してくれた。
俺は執務室の隣の寝室に、衣装箱を手にしたセバスチャンと共に移動した。
「魔王様、私が着付けいたします」
箱を置いたセバスチャンが静かに声をかけてくる。
「鏡の前にどうぞ」
姿見の前に立つと、セバスチャンが手早くマントを脱がす。
それから肩紐で結ばれているだけのチュニックもすぐに脱がせてしまう。
下着も履いていない俺はあっという間に一糸まとわぬ姿になってしまった。
「……っ」
隣の部屋に王子たちがいるのに、こうして素裸でセバスチャンと二人きりのこの状況にインモラルなものを感じる。
「魔王様、期待して下さっているところ悪いのですが隣に人間どもがいるので今は駄目ですよ」
「き、期待なんかしてない!」
つい魂の色に出てしまったらしい。
かっと頬が熱くなる。
「今はこれで我慢して下さい」
背中に唇の感触を感じた。
「ん……っ」
吸われる感触に吐息が漏れ出た。
きっと朱い痕が出来ていることだろう。
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見えない場所に二人だけが知っている印が付いている。
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