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第三十四話 セバスチャンの嫉妬!?

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「パックに抱き着かれた瞬間、随分と感情が揺らいでいらっしゃったようですが……浮気ですか?」
「えっ?」

 セバスチャンの目は笑っていなかった。
 冷ややかな視線が突き刺さる。

「いやそのっ、今のは急なことだから驚いただけで、全然別にそういう意味ではないぞ!」

 思わず言い訳してしまったが、浮気だなんてまるで俺たちが付き合っているみたいなことを言う。
 確かに交わったことは何度もあるが、あれはただの魔力補給ではないのか。
 まさか交わった経験があるだけで面倒くさい女のように俺のことを自分の物だとでも思っているのか。
 いやまさか。悪魔族の彼に限ってそんな貞淑観念とは無縁のはずだ。
 俺たちはただの主従……だよな?

「本当ですか?」
「本当だよ」
「じゃあ、私が抱き着いたら同じくらいドキリとしていただけますか?」

 セバスチャンがしょんぼりとした顔で俺を見つめてくる。

 セバスチャンは確かに虎視眈々と隙あらば魔力補給してこようとする。
 だが魂の色から読み取っているのか、俺にその気がない時は一切モーションをかけてこない。
 その態度がむしろ事務的にすら感じていた。

 そんな彼が眉を八の字にして不安げな様子を露わにしてくるなんて。
 一体どうしたのだろうセバスチャンは。

「そんな顔しなくても、ドキドキするよ」

 セバスチャンに抱き着き、背伸びをして自分より高い位置にある彼の頭を撫でてやる。
 彼の身体と密着した心臓がどくどくと鼓動する。

「っ」

 頭を撫でられて彼の暗褐色の頬がほんのり赤く染まったように見えた。
 彼がこんなに可愛い顔をするだなんて知らなかった。

「セバスチャンもパックみたいに自由に抱き着いてきていいんだぞ?」
「いえ、しかし……」
「別にハグくらいなら気分じゃない時も怒らないから」

 彼の頭を撫でながら伝える。
 もしかしたら彼は自分の忠誠心に従って俺が気分じゃない時は触らないと誓っているのかもしれないと思ったのだ。

「わ、私が好きにハグしても……!?」
「俺が吃驚したりどきっとしたりするのもセバスチャンのご飯になるんだろ? 好きなタイミングでハグしていいから」

 彼の肩に顔を埋め、気恥ずかしさに火照った顔を隠す。

「だからもう嫉妬しなくていいだろ、な」

 恐らくだがきっとこういうことだろう。
 セバスチャンはもっと俺を誘ったりしたいけど、忠誠心により自制して俺の魂の色がその気になっている時だけちょっかいをかけることにしていたのだろう。
 だからパックが自由にハグして、俺がそれにドキッとしたのを見て羨ましいと思ったのだろう。
 セバスチャンの様子が変だったのはきっとそうだ。
 別に俺を自分のものだと思っているとかそういうことではない、だろう。

「嬉しいです、魔王様」

 セバスチャンが俺の背に手を回して抱き締めてくる。
 彼の手の感触に胸が鼓動する。
 彼の嬉しそうな笑顔に、俺までほわりと胸の内が暖かくなるような気がした。

 そしてセバスチャンがこう囁く。

「それでは魔王様、寝室に……」
「魂の色見えてるだろ。そんな気分じゃない」

 危うくベッドの中まで連れ込まれるところだった。
 危ない危ない。
 まったくセバスチャンは油断も隙もあったものじゃない。

 それにしても好きな時にハグしていいと許可したのは早まったかもしれない。
 なんてたってセバスチャンは不思議な色気があるから、そんな彼に抱き着かれたらついつい意識してまうかもしれないから……。
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