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第二十一話 もみじ肉、うまい!
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「魔王様、私が間違っておりました」
ニンゲンちゃんが旅立つのを見送ると、セバスチャンが何故か頭を下げてきた。
「まさか人間まで使役せしめてしまうとは。これを契機として強欲な人間どもを金の力で裏から操るのでございますね? 服が欲しいというのは口実に過ぎない……そのことを見抜けなかった私が浅はかでございました」
「え、あ、うん」
「魔王様は常に私の予想の上を行くお方。仕えることができて幸せでございます」
いや、無計画に可愛いから人間を捕まえて、服が欲しいから放しただけなんだけどな。
勘違いをわざわざ訂正するのも間抜けなのでそのままにしておくことにした。
それから十数日後。
ソラの傷はすっかり快癒し、リュウと一緒に元気に外を駆け回っていた。
「魔王様、今日は森の方で鹿を狩ってきました! 褒めて下さい!」
今日もリュウとソラは尻尾をわさわささせて戻ってきた。
最近では狩りは彼らがしてくれるので、セバスチャンは城の中での仕事に集中することが出来ている。
「よしよし、偉いぞ!」
彼らを犬扱いしていいものかと躊躇するが、喜んでくれるので頭を順に撫でてあげる。
ソラは最初は「ボクはいいです」と頭を撫でられるのを恥ずかしがっていたが、撫でると黒い尻尾がぶんぶん千切れるほど揺れるのでやっぱりソラもなでなでが嬉しいようだ。
同じブラックドッグでも性格にだいぶ違いがあることが分かってきた。
弟のリュウは太陽のように陽気で、常に大なり小なり尻尾を揺らしている。
対して兄のソラはクールで落ち着いているが、尻尾を見ると嬉しそうに揺れていることがある。
彼ら兄弟は自分の感情が尻尾に表れていることを自覚しているのだろうか。尻尾から感情が見て取れることを少し申し訳なく思ってしまう。
何せ彼らは犬や猫や人間とは違い、立派に魔力と知能を併せ持った魔法生命体なのだから。
戦闘スタイルにも違いがあるらしく、リュウは短剣の二刀流、ソラはロングソードの二刀流のようだ。いずれも刀身は黒い。
一度彼らの狩りを見させてもらったことがある。
彼らの俊足があれば野生動物を狩るのに弓矢などいらない。その足で獲物に追い付いて仕留めてしまうのだ。
上手いこと二人で追い込んで刃を獲物の首に突き立てる様は、集団で囲み獲物の首に食らい付く狼の狩りを思わせた。
「兄ちゃん、魔王様に褒められたよ嬉しい!」
頭を撫でられた興奮のあまり、リュウは兄に抱き着く。
そしてちゅっちゅと頬っぺたにキスをしている。
「りゅ、リュウ! こんなとこでやめろ!」
ソラはキスを避けようとしているが、その尻尾を見るとわさわさと揺れている。
「…………」
セバスチャンから見た俺の魂の色とやらもこのソラの尻尾のように分かりやすいのだろうか。
何だか感慨深い気分になってしまった。
彼らが鹿を獲ってきてくれたので今日はもみじ肉を食べれる。
その日の晩、セバスチャンが鹿のもも肉を蒸し焼きにしてくれた。
ローストビーフならぬローストベニソンである。
鹿肉のローストにかけるたれの為に玉ねぎの食糧地を作って、早速セバスチャンに活用してもらった。
何だか食べ物のためにばかり魔力を使っているような気がするが多分気のせいだ。
「魔王様。ローストベニソンの香草添えに玉ねぎのスープ。そしてオコメでございます」
俺の前に恭しく皿が置かれた。
ローストベニソンにはセバスチャンが採ってきた野草が添えられている。
思えばセバスチャンはご飯を食べられないのに、俺が食べられる野草の種類を把握しているなんて凄いことだ。
ロースト肉に視線を移す。
ロースト肉自体に下味として岩塩が擦り込まれ、ざく切りにした玉ねぎと醤油を混ぜたたれをかけ、それを薄切りにしてもらった。
どうせなら料理酒や砂糖などもっと色々なものをたれに混ぜ込みたかったが、ないものはないので仕方ない。
「いただきます」
俺はフォークを手に取り、ロースト肉の一切れを口に運んだ。
肉を噛み締めると、じわりと口の中に赤身肉の旨味が溢れ出す。
初めて口にした鹿肉は意外にも癖がなく、さっぱりして感じられた。
「美味しい……!」
思わず呟いた。
ざく切りにした玉ねぎが口の中でシャキシャキする。
玉ねぎの辛味がローストベニソンのあっさり具合とマッチしている。
それからスープを口にする。
こちらはたれに使われた玉ねぎとは違って、加熱された玉ねぎの甘味が染み出ていた。
味付けはいつもの塩である。
素材の味がふんだんに感じられるのはいいが、いささか飽きてきた。
「セバスチャン。明日は鹿肉を煮込んで出汁を取ったスープを作ってみてくれないか」
「はっ、かしこまりました」
肉から出汁を取ったスープ、いわゆるコンソメスープが作れないだろうか。
鹿肉から取った出汁が美味いのかどうか知らないが、やってみて損はないだろう。
コンソメの灰汁を取り除くには卵白が必要なそうだが、この際透き通ったスープでなくて構わない。美味い物が食えればそれでいい。
ローストベニソンに舌鼓を打ちながらバジルに似た味の野草を口にしたり、ご飯を食べたりして完食した。
最近なんだか大食いになってきた気がする。セバスチャンの料理が美味し過ぎるからかもしれない。
「魂の色を拝見するまでもなく、大満足と顔に大書してありますね」
にこにことセバスチャンが声をかけてくる。
「うん。夕食も美味しかったよ、ありがとうセバスチャン」
「もったいないお言葉です」
時折えっちなちょっかいをかけてくるのは玉に瑕だけど、セバスチャンは本当に有能で料理も上手い働き者だ。
彼がいなければここでの生活は成り立たなかっただろう。
セバスチャンが傍にいてくれることを幸運に感じた。
ニンゲンちゃんが旅立つのを見送ると、セバスチャンが何故か頭を下げてきた。
「まさか人間まで使役せしめてしまうとは。これを契機として強欲な人間どもを金の力で裏から操るのでございますね? 服が欲しいというのは口実に過ぎない……そのことを見抜けなかった私が浅はかでございました」
「え、あ、うん」
「魔王様は常に私の予想の上を行くお方。仕えることができて幸せでございます」
いや、無計画に可愛いから人間を捕まえて、服が欲しいから放しただけなんだけどな。
勘違いをわざわざ訂正するのも間抜けなのでそのままにしておくことにした。
それから十数日後。
ソラの傷はすっかり快癒し、リュウと一緒に元気に外を駆け回っていた。
「魔王様、今日は森の方で鹿を狩ってきました! 褒めて下さい!」
今日もリュウとソラは尻尾をわさわささせて戻ってきた。
最近では狩りは彼らがしてくれるので、セバスチャンは城の中での仕事に集中することが出来ている。
「よしよし、偉いぞ!」
彼らを犬扱いしていいものかと躊躇するが、喜んでくれるので頭を順に撫でてあげる。
ソラは最初は「ボクはいいです」と頭を撫でられるのを恥ずかしがっていたが、撫でると黒い尻尾がぶんぶん千切れるほど揺れるのでやっぱりソラもなでなでが嬉しいようだ。
同じブラックドッグでも性格にだいぶ違いがあることが分かってきた。
弟のリュウは太陽のように陽気で、常に大なり小なり尻尾を揺らしている。
対して兄のソラはクールで落ち着いているが、尻尾を見ると嬉しそうに揺れていることがある。
彼ら兄弟は自分の感情が尻尾に表れていることを自覚しているのだろうか。尻尾から感情が見て取れることを少し申し訳なく思ってしまう。
何せ彼らは犬や猫や人間とは違い、立派に魔力と知能を併せ持った魔法生命体なのだから。
戦闘スタイルにも違いがあるらしく、リュウは短剣の二刀流、ソラはロングソードの二刀流のようだ。いずれも刀身は黒い。
一度彼らの狩りを見させてもらったことがある。
彼らの俊足があれば野生動物を狩るのに弓矢などいらない。その足で獲物に追い付いて仕留めてしまうのだ。
上手いこと二人で追い込んで刃を獲物の首に突き立てる様は、集団で囲み獲物の首に食らい付く狼の狩りを思わせた。
「兄ちゃん、魔王様に褒められたよ嬉しい!」
頭を撫でられた興奮のあまり、リュウは兄に抱き着く。
そしてちゅっちゅと頬っぺたにキスをしている。
「りゅ、リュウ! こんなとこでやめろ!」
ソラはキスを避けようとしているが、その尻尾を見るとわさわさと揺れている。
「…………」
セバスチャンから見た俺の魂の色とやらもこのソラの尻尾のように分かりやすいのだろうか。
何だか感慨深い気分になってしまった。
彼らが鹿を獲ってきてくれたので今日はもみじ肉を食べれる。
その日の晩、セバスチャンが鹿のもも肉を蒸し焼きにしてくれた。
ローストビーフならぬローストベニソンである。
鹿肉のローストにかけるたれの為に玉ねぎの食糧地を作って、早速セバスチャンに活用してもらった。
何だか食べ物のためにばかり魔力を使っているような気がするが多分気のせいだ。
「魔王様。ローストベニソンの香草添えに玉ねぎのスープ。そしてオコメでございます」
俺の前に恭しく皿が置かれた。
ローストベニソンにはセバスチャンが採ってきた野草が添えられている。
思えばセバスチャンはご飯を食べられないのに、俺が食べられる野草の種類を把握しているなんて凄いことだ。
ロースト肉に視線を移す。
ロースト肉自体に下味として岩塩が擦り込まれ、ざく切りにした玉ねぎと醤油を混ぜたたれをかけ、それを薄切りにしてもらった。
どうせなら料理酒や砂糖などもっと色々なものをたれに混ぜ込みたかったが、ないものはないので仕方ない。
「いただきます」
俺はフォークを手に取り、ロースト肉の一切れを口に運んだ。
肉を噛み締めると、じわりと口の中に赤身肉の旨味が溢れ出す。
初めて口にした鹿肉は意外にも癖がなく、さっぱりして感じられた。
「美味しい……!」
思わず呟いた。
ざく切りにした玉ねぎが口の中でシャキシャキする。
玉ねぎの辛味がローストベニソンのあっさり具合とマッチしている。
それからスープを口にする。
こちらはたれに使われた玉ねぎとは違って、加熱された玉ねぎの甘味が染み出ていた。
味付けはいつもの塩である。
素材の味がふんだんに感じられるのはいいが、いささか飽きてきた。
「セバスチャン。明日は鹿肉を煮込んで出汁を取ったスープを作ってみてくれないか」
「はっ、かしこまりました」
肉から出汁を取ったスープ、いわゆるコンソメスープが作れないだろうか。
鹿肉から取った出汁が美味いのかどうか知らないが、やってみて損はないだろう。
コンソメの灰汁を取り除くには卵白が必要なそうだが、この際透き通ったスープでなくて構わない。美味い物が食えればそれでいい。
ローストベニソンに舌鼓を打ちながらバジルに似た味の野草を口にしたり、ご飯を食べたりして完食した。
最近なんだか大食いになってきた気がする。セバスチャンの料理が美味し過ぎるからかもしれない。
「魂の色を拝見するまでもなく、大満足と顔に大書してありますね」
にこにことセバスチャンが声をかけてくる。
「うん。夕食も美味しかったよ、ありがとうセバスチャン」
「もったいないお言葉です」
時折えっちなちょっかいをかけてくるのは玉に瑕だけど、セバスチャンは本当に有能で料理も上手い働き者だ。
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