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第六十一話 ちまちました共同作業
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一年と十ヶ月目。結婚式まであと二ヶ月。
ロベールと僕はテーブルに向かい合って一緒にチクチクと針仕事をしていた。
「あっ」
間違えて自分の指に針を刺してしまった。
刺してしまった場所からぷくりと血が膨れ出す。
「見せてみろ」
「うー」
針を刺してしまった指を彼に差し出す。
その指を彼がぱくりと口に咥えた。
「ひゃっ」
迷いなく指を咥えられ、なんだかえっちな気分になってしまう。
間違いなく彼はそんなこと意識してないから、赤面がバレないようにしなければ。
何故僕たちがチクチクと針仕事などに精を出しているかと言えば、それは結婚式に関する厄介な風習のせいであった。
男女が結婚する場合、どちらがどちらの家に入るかなど明白だ。男の方が婿入りする場合など特殊な場合に限られる。
だが男同士の結婚だとどちらがどちらの家に入るのか、はっきりと示さねばならないらしい――――現代日本で生きた記憶からするとそんな必要なくない?と思うが。
別に女装してドレスを着る必要はない。どちらも純白のタキシードを着用する。だが婿入りする方はヴェールだけは被らなければならないらしい。
そういうわけで、僕が被るためのヴェールにチクチクと二人で刺繍を施しているところであった。
「ほら、血が止まった」
やっと彼が指を放してくれた。
「あ、ありがとね」
僕はたどたどしく礼を言って針仕事に戻る。
本来ならば僕一人でヴェールの刺繍を完成させねばならないが、間に合うわけもないのでロベールが手伝ってくれているのだ。
ロベールはこういう細かい作業が得意なようで、すいすいと進めていっている。
まあ、彼が刺繍してくれたヴェールを被れるのだと思えばこの風習も悪くはない。
「君も形式上はナルセンティアの人間になるのだから、情勢について話しておこう」
ロベールが手元に視線を落としたまま話し出す。
僕はこくんと頷いて話を聞く。
「ナルセンティアには厄介な朋友がいる。それがガルテレミだ」
「厄介な朋友?」
ガルテレミは知っている。
ナルセンティアと同じく国王派の領地だ。
「ああ。同じ国王派であるものの、ナルセンティアとガルテレミの仲は良好とは言い難い。ガルテレミが国王派についたのはナルセンティアと戦になりたくないからだと言われている。直接戦えばナルセンティアが勝つのは明白だからな」
「ほうほう」
明白とまで言えるとは、ナルセンティアは相当戦争に強いらしい。
「それが最近ナルセンティアについてコソコソと嗅ぎ回っている怪しい奴らがいるらしくてな。どうもガルテレミの手の連中ではないかということになっている」
「なるほど?」
僕には話を聞きながら細かい作業を進めるだけの器用さがなく、さっきからちっとも進んでいない。
「どうにもガルテレミはナルセンティアがクラウセンを吸収してさらに大きな領地になったことが気に食わないようだ。だからアンも気を付けることだな」
「そんなこと言われたって、こんな片田舎じゃ関係ない話でしょ?」
「まあそれはそうだが。一応念には念をだ」
ロベールの手によってヴェールにどんどんと草花の紋様が刺繍されていく。
「逆にナルセンティアと関係がいいのはどこ?」
「ああ、それはだな……」
彼からぽつぽつと話を聞きながら僕らは刺繍に励んで冬を過ごしたのだった。
ロベールと僕はテーブルに向かい合って一緒にチクチクと針仕事をしていた。
「あっ」
間違えて自分の指に針を刺してしまった。
刺してしまった場所からぷくりと血が膨れ出す。
「見せてみろ」
「うー」
針を刺してしまった指を彼に差し出す。
その指を彼がぱくりと口に咥えた。
「ひゃっ」
迷いなく指を咥えられ、なんだかえっちな気分になってしまう。
間違いなく彼はそんなこと意識してないから、赤面がバレないようにしなければ。
何故僕たちがチクチクと針仕事などに精を出しているかと言えば、それは結婚式に関する厄介な風習のせいであった。
男女が結婚する場合、どちらがどちらの家に入るかなど明白だ。男の方が婿入りする場合など特殊な場合に限られる。
だが男同士の結婚だとどちらがどちらの家に入るのか、はっきりと示さねばならないらしい――――現代日本で生きた記憶からするとそんな必要なくない?と思うが。
別に女装してドレスを着る必要はない。どちらも純白のタキシードを着用する。だが婿入りする方はヴェールだけは被らなければならないらしい。
そういうわけで、僕が被るためのヴェールにチクチクと二人で刺繍を施しているところであった。
「ほら、血が止まった」
やっと彼が指を放してくれた。
「あ、ありがとね」
僕はたどたどしく礼を言って針仕事に戻る。
本来ならば僕一人でヴェールの刺繍を完成させねばならないが、間に合うわけもないのでロベールが手伝ってくれているのだ。
ロベールはこういう細かい作業が得意なようで、すいすいと進めていっている。
まあ、彼が刺繍してくれたヴェールを被れるのだと思えばこの風習も悪くはない。
「君も形式上はナルセンティアの人間になるのだから、情勢について話しておこう」
ロベールが手元に視線を落としたまま話し出す。
僕はこくんと頷いて話を聞く。
「ナルセンティアには厄介な朋友がいる。それがガルテレミだ」
「厄介な朋友?」
ガルテレミは知っている。
ナルセンティアと同じく国王派の領地だ。
「ああ。同じ国王派であるものの、ナルセンティアとガルテレミの仲は良好とは言い難い。ガルテレミが国王派についたのはナルセンティアと戦になりたくないからだと言われている。直接戦えばナルセンティアが勝つのは明白だからな」
「ほうほう」
明白とまで言えるとは、ナルセンティアは相当戦争に強いらしい。
「それが最近ナルセンティアについてコソコソと嗅ぎ回っている怪しい奴らがいるらしくてな。どうもガルテレミの手の連中ではないかということになっている」
「なるほど?」
僕には話を聞きながら細かい作業を進めるだけの器用さがなく、さっきからちっとも進んでいない。
「どうにもガルテレミはナルセンティアがクラウセンを吸収してさらに大きな領地になったことが気に食わないようだ。だからアンも気を付けることだな」
「そんなこと言われたって、こんな片田舎じゃ関係ない話でしょ?」
「まあそれはそうだが。一応念には念をだ」
ロベールの手によってヴェールにどんどんと草花の紋様が刺繍されていく。
「逆にナルセンティアと関係がいいのはどこ?」
「ああ、それはだな……」
彼からぽつぽつと話を聞きながら僕らは刺繍に励んで冬を過ごしたのだった。
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