44 / 84
第四十三話 希望が芽生える
しおりを挟む
着替えて執務室に向かうと、そこにはクライヴとエーミールの姿があった。
「何故一体二人が?」
「アンが気絶している間にできることがないかと私も考えたのだ。思えば私はアンにばかり色んなことを任せ過ぎていた。だが私には知識も知恵もない。だから私にできることと言えば、他人に意見を請うことだけだった」
「つまり、ロベールが二人を呼んでくれたんだ。……ありがとう」
「わ、私は何も出来ていない」
素直にお礼の言葉くらい受け取っておけばいいのに。
でもロベールもロベールなりに自分の無力を痛感したのだろう。
「領主様、目が覚めたのか良かった」
「朗報です、お二方。討伐に使えそうな魔導具がないかどうか我が商会の魔導具一覧をクライヴ様に見てもらっていたのですが、見つかりました!」
「本当か!」
執務机の椅子に腰かける間すら惜しく、僕は後ろからその一覧表とやらを覗き込もうとする。……背が足りずに覗き込めなかった。
普通にエーミールが手渡してくれたので一覧表を目にすることが出来た。
「この表の、ここの魔導具です」
「ヒーラーボール?」
指で示されたその魔導具の名を読み上げる。
「ええ、回復魔術を中に封じ込めた玉です。開発された当初は僧侶がいないパーティでも回復魔術が使えるようになる、がコンセプトでした。ですが実際に売り出したところ『そんな高いものを買わなくても薬草で事足りる』と全然売れずに、在庫が大量に残っております」
「アンデッドには回復魔術でダメージを与えられる……昔、オレの仲間だった僧侶が言ってたのを思い出したんだ。この玉を矢にでも括り付けて当てれば玉が破裂して敵に回復魔術をかけられるだろう」
エーミールとクライヴの言葉に希望が膨らんでいくのを感じた。
僧侶の使う本当の回復魔術はふわふわと漂うように対象者を包み込むので、空を飛ぶゾンビフェニックスには当てられない。だがボールの中に詰まっているのなら当てられる!
「でかした! それならいける!」
「ですが、一つだけ問題がございます」
エーミールがカチャリとメガネをかけ直す。
「この在庫があるのが王都の本店なのです。どんなに急いでも取り寄せるのに丸五日はかかるでしょう」
「五日……いや、大丈夫だ。五日ならばまだフロアボスは上がってこない。だから早く取り寄せてくれ。金に糸目は付けない」
「かしこまりました!」
エーミールはダッシュで執務室から出ていった。
すぐさま本店に連絡を入れに行ったのだろう。
その後ろ姿を見送りながらクライヴが零す。
「いいのか? 討伐開始までの時間が伸びると、その分タイムリミットが近づいてくる。万が一の時この村から逃げるための時間が短くなるんだぞ」
クライヴの言う万が一の時とは、討伐に失敗した時だ。
その時は第二陣を送り込むか逃げるかだが、この寂れた村に第二陣の冒険者たちなどいない。逃げる一択だ。
「大丈夫。絶対に討伐を成功させてみせる」
僕はもう絶対に諦めたりしない。
だってこの世界に生きているのだから。
「……ふぅん。いい顔になったじゃねえか」
ニヤリとクライヴが笑った。
「よし、アン。他に何か討伐に向けて備えられることはないか」
ロベールが訪ねてくる。
僕は考えてみる。ゲームではできない、現実だからこそ打てる手は何かないだろうか。もっと発想を自由にするんだ……!
「高レベルの僧侶を他の場所から呼ぶとか、何か……」
「高レベルの冒険者ならもっと成長したダンジョンに潜った方が儲かるからな。わざわざこんな辺鄙な村に来てくれるかどうか」
ロベールの焦ったような呟きをクライヴが否定する。
「高レベルの僧侶……?」
そうだ、いるじゃないか。
この村には高レベルの僧侶が一人だけいる!
「それだ!」
僕はロベールの手を取ると、執務室を飛び出し、そのままの勢いで城の外へと飛び出した。
「お、おい、どうしたアン! せめて行先だけでも教えてくれないか!」
「教会だよ教会! イザイアがいるじゃないか!」
腹黒神父、イザイア。
彼こそがこの村唯一の高レベルヒーラーだ!
「何故一体二人が?」
「アンが気絶している間にできることがないかと私も考えたのだ。思えば私はアンにばかり色んなことを任せ過ぎていた。だが私には知識も知恵もない。だから私にできることと言えば、他人に意見を請うことだけだった」
「つまり、ロベールが二人を呼んでくれたんだ。……ありがとう」
「わ、私は何も出来ていない」
素直にお礼の言葉くらい受け取っておけばいいのに。
でもロベールもロベールなりに自分の無力を痛感したのだろう。
「領主様、目が覚めたのか良かった」
「朗報です、お二方。討伐に使えそうな魔導具がないかどうか我が商会の魔導具一覧をクライヴ様に見てもらっていたのですが、見つかりました!」
「本当か!」
執務机の椅子に腰かける間すら惜しく、僕は後ろからその一覧表とやらを覗き込もうとする。……背が足りずに覗き込めなかった。
普通にエーミールが手渡してくれたので一覧表を目にすることが出来た。
「この表の、ここの魔導具です」
「ヒーラーボール?」
指で示されたその魔導具の名を読み上げる。
「ええ、回復魔術を中に封じ込めた玉です。開発された当初は僧侶がいないパーティでも回復魔術が使えるようになる、がコンセプトでした。ですが実際に売り出したところ『そんな高いものを買わなくても薬草で事足りる』と全然売れずに、在庫が大量に残っております」
「アンデッドには回復魔術でダメージを与えられる……昔、オレの仲間だった僧侶が言ってたのを思い出したんだ。この玉を矢にでも括り付けて当てれば玉が破裂して敵に回復魔術をかけられるだろう」
エーミールとクライヴの言葉に希望が膨らんでいくのを感じた。
僧侶の使う本当の回復魔術はふわふわと漂うように対象者を包み込むので、空を飛ぶゾンビフェニックスには当てられない。だがボールの中に詰まっているのなら当てられる!
「でかした! それならいける!」
「ですが、一つだけ問題がございます」
エーミールがカチャリとメガネをかけ直す。
「この在庫があるのが王都の本店なのです。どんなに急いでも取り寄せるのに丸五日はかかるでしょう」
「五日……いや、大丈夫だ。五日ならばまだフロアボスは上がってこない。だから早く取り寄せてくれ。金に糸目は付けない」
「かしこまりました!」
エーミールはダッシュで執務室から出ていった。
すぐさま本店に連絡を入れに行ったのだろう。
その後ろ姿を見送りながらクライヴが零す。
「いいのか? 討伐開始までの時間が伸びると、その分タイムリミットが近づいてくる。万が一の時この村から逃げるための時間が短くなるんだぞ」
クライヴの言う万が一の時とは、討伐に失敗した時だ。
その時は第二陣を送り込むか逃げるかだが、この寂れた村に第二陣の冒険者たちなどいない。逃げる一択だ。
「大丈夫。絶対に討伐を成功させてみせる」
僕はもう絶対に諦めたりしない。
だってこの世界に生きているのだから。
「……ふぅん。いい顔になったじゃねえか」
ニヤリとクライヴが笑った。
「よし、アン。他に何か討伐に向けて備えられることはないか」
ロベールが訪ねてくる。
僕は考えてみる。ゲームではできない、現実だからこそ打てる手は何かないだろうか。もっと発想を自由にするんだ……!
「高レベルの僧侶を他の場所から呼ぶとか、何か……」
「高レベルの冒険者ならもっと成長したダンジョンに潜った方が儲かるからな。わざわざこんな辺鄙な村に来てくれるかどうか」
ロベールの焦ったような呟きをクライヴが否定する。
「高レベルの僧侶……?」
そうだ、いるじゃないか。
この村には高レベルの僧侶が一人だけいる!
「それだ!」
僕はロベールの手を取ると、執務室を飛び出し、そのままの勢いで城の外へと飛び出した。
「お、おい、どうしたアン! せめて行先だけでも教えてくれないか!」
「教会だよ教会! イザイアがいるじゃないか!」
腹黒神父、イザイア。
彼こそがこの村唯一の高レベルヒーラーだ!
53
お気に入りに追加
2,637
あなたにおすすめの小説
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜
紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。
ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。
そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
時々おまけのお話を更新しています。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる