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第四十三話 希望が芽生える

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 着替えて執務室に向かうと、そこにはクライヴとエーミールの姿があった。

「何故一体二人が?」
「アンが気絶している間にできることがないかと私も考えたのだ。思えば私はアンにばかり色んなことを任せ過ぎていた。だが私には知識も知恵もない。だから私にできることと言えば、他人に意見を請うことだけだった」
「つまり、ロベールが二人を呼んでくれたんだ。……ありがとう」
「わ、私は何も出来ていない」

 素直にお礼の言葉くらい受け取っておけばいいのに。
 でもロベールもロベールなりに自分の無力を痛感したのだろう。

「領主様、目が覚めたのか良かった」
「朗報です、お二方。討伐に使えそうな魔導具デバイスがないかどうか我が商会の魔導具デバイス一覧をクライヴ様に見てもらっていたのですが、見つかりました!」
「本当か!」

 執務机の椅子に腰かける間すら惜しく、僕は後ろからその一覧表とやらを覗き込もうとする。……背が足りずに覗き込めなかった。
 普通にエーミールが手渡してくれたので一覧表を目にすることが出来た。

「この表の、ここの魔導具デバイスです」
「ヒーラーボール?」

 指で示されたその魔導具デバイスの名を読み上げる。

「ええ、回復魔術を中に封じ込めた玉です。開発された当初は僧侶がいないパーティでも回復魔術が使えるようになる、がコンセプトでした。ですが実際に売り出したところ『そんな高いものを買わなくても薬草で事足りる』と全然売れずに、在庫が大量に残っております」
「アンデッドには回復魔術でダメージを与えられる……昔、オレの仲間だった僧侶が言ってたのを思い出したんだ。この玉を矢にでも括り付けて当てれば玉が破裂して敵に回復魔術をかけられるだろう」

 エーミールとクライヴの言葉に希望が膨らんでいくのを感じた。
 僧侶の使う本当の回復魔術はふわふわと漂うように対象者を包み込むので、空を飛ぶゾンビフェニックスには当てられない。だがボールの中に詰まっているのなら当てられる!

「でかした! それならいける!」
「ですが、一つだけ問題がございます」

 エーミールがカチャリとメガネをかけ直す。

「この在庫があるのが王都の本店なのです。どんなに急いでも取り寄せるのに丸五日はかかるでしょう」
「五日……いや、大丈夫だ。五日ならばまだフロアボスは上がってこない。だから早く取り寄せてくれ。金に糸目は付けない」
「かしこまりました!」

 エーミールはダッシュで執務室から出ていった。
 すぐさま本店に連絡を入れに行ったのだろう。
 その後ろ姿を見送りながらクライヴが零す。

「いいのか? 討伐開始までの時間が伸びると、その分タイムリミットが近づいてくる。万が一の時この村から逃げるための時間が短くなるんだぞ」

 クライヴの言う万が一の時とは、討伐に失敗した時だ。
 その時は第二陣を送り込むか逃げるかだが、この寂れた村に第二陣の冒険者たちなどいない。逃げる一択だ。

「大丈夫。絶対に討伐を成功させてみせる」

 僕はもう絶対に諦めたりしない。
 だってこの世界に生きているのだから。

「……ふぅん。いい顔になったじゃねえか」

 ニヤリとクライヴが笑った。

「よし、アン。他に何か討伐に向けて備えられることはないか」

 ロベールが訪ねてくる。
 僕は考えてみる。ゲームではできない、現実だからこそ打てる手は何かないだろうか。もっと発想を自由にするんだ……!

「高レベルの僧侶を他の場所から呼ぶとか、何か……」
「高レベルの冒険者ならもっと成長したダンジョンに潜った方が儲かるからな。わざわざこんな辺鄙な村に来てくれるかどうか」

 ロベールの焦ったような呟きをクライヴが否定する。

「高レベルの僧侶……?」

 そうだ、いるじゃないか。
 この村には高レベルの僧侶が一人だけいる!

「それだ!」

 僕はロベールの手を取ると、執務室を飛び出し、そのままの勢いで城の外へと飛び出した。

「お、おい、どうしたアン! せめて行先だけでも教えてくれないか!」
「教会だよ教会! イザイアがいるじゃないか!」

 腹黒神父、イザイア。
 彼こそがこの村唯一の高レベルヒーラーだ!
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