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第四十二話 絶望、リセット案件
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一年と三ヶ月目。
あれから一ヶ月、フロアボスは出現しなかった。
ロベールも慣れて普段通りの日常を送れるようになった頃のことだった。
「フロアボスが出たぞー!」
その報せに緊張が走った。
「爺や!」
「ただいま用意を整えます」
ロベールと僕は慌ただしく準備を整えてすぐさま外に飛び出した。
外は初夏の陽気である。
冒険者たちは以前と同様、広場に集合していた。冒険者ギルドの建物が完成すれば、ギルドに集まるようになるだろう。
「フロアボスを見た者は!?」
「は、はい!」
見覚えのあるメイジの少年を含めた冒険者パーティが手を挙げる。今回はクライヴではなく彼らがフロアボスを目撃したようだ。
「どんなフロアボスだった?」
「ええと、腐った肉のような臭いがしたと思ったら、頭上から鳥の鳴き声が聞こえて、私たちは空を見上げたんです……!」
「え……?」
「そしたらそこに、大きな大きな鳥がいたんです!」
僕はゲームの中の世界が現実になった意味を分かっていなかったんだ。
「ほう、怪鳥のフロアボスか。アン、どんな作戦を立てる? ……アン?」
RTAというのはリセットありきだ。
最短でクリアできそうにない乱数を引いてしまった場合はリセットしてさっさと新しくやり直してしまうのだ。
そして僕の場合……序盤であるフロアボスが序盤で出現してしまった場合は、早々にリセットしてしまうのが常だった。
そのフロアボスの名は、ゾンビフェニックス。
「――――最悪だ」
序盤で出現したら死者多数続出確定の凶悪フロアボス、それがゾンビフェニックスだった。
RTAの途中で序盤で出現してしまったら必ずリセットするようにしている。
だが転生して現実になったこの世界では、リセット機能なんてものはない。
序盤だからステータスは低い。故にゴリ押しで倒すことは不可能ではない。だがその方法では必ず死者が続出するだろう。
死ぬのか? この冒険者たちが……戦士の男が、メイジの少年が、ソーサラーの女性が、クライヴが……みんな死んでしまう?
僕は目の前が真っ暗になった。
「アン……ッ!」
気が付いたら僕はベッドの上に寝かされていた。
僕は気絶してしまったのだろうか。
「アン、目が覚めたか」
ベッドのすぐ傍にロベールが座っていた。
ずっと僕の傍にいてくれたのだろうか。
「アンの書いた巻物を紐解いて、今回のフロアボスと思しき魔物のページを見つけてすぐに従者に書き写させて酒場に掲示した。それを読んでアンが気絶した理由も分かった」
「うん……」
この大変な時に気絶してしまったなんて情けない。
今回のフロアボスについてなるべく多くの事を伝えなければ。
「ゾンビフェニックスはアンデッドに堕した聖鳥。普通のアンデッドは光属性か火属性が弱点だけれど、ゾンビフェニックスは火属性は吸収して回復してしまう。だから光属性しか弱点はない。ただでさえ空を飛んでいて攻撃を当てづらいのに、冒険者たちのほとんどはまだレベルが低くて光属性の攻撃技を覚えていない……! 冒険者たちが育ってさえいれば何の問題もないが、この序盤では絶対に出ちゃいけないフロアボスなんだよゾンビフェニックスは……!」
駄目だ、並べれば並べるほど絶望的過ぎる。
絶対に死者が出てしまう。避けられない。
ゾンビフェニックスがたまたま低空飛行してきた瞬間を狙ってあまり効かないと分かっていながら普通の矢や魔術で攻撃する、そんな作戦しかないだろう。
低フロアで出てくる時はゾンビフェニックスはHP自動回復の能力を備えていない。それだけが救いだ。
クライヴも含め冒険者の大半が死んでしまうだろう。
その覚悟を決めるべきなのだろうか。
ゲーム内でのクライヴ死亡イベントのことを思い出す。
ゲーム内でもフロアボス討伐戦で下手を打てばクライヴは死んでしまう。そのせいでクライヴは全攻略対象の中で最も死にやすい攻略対象となっている。そのこともクライヴの人気に拍車をかける一要因となっている気がする。
つまり、ゲーム内ですらネームドキャラも容赦なく死んでしまうのだ。
ましてや現実と化したこの世界でなら言わずもがな。
奇跡など起きない。
「アン!」
不意にぎゅっと手が握られる。
ロベールが僕を真っ直ぐに見つめていた。
「君らしくないじゃないか。いつも自信に満ち溢れていて向こう見ずで後先考えずに突き進んでいく君はどうした!」
「で、でも……」
違うんだロベール、僕がいつも自信に満ち溢れていたのはゲームの中での知識があったからだ。絶対に失敗しないルートや方法を知っていたからだ。
でも、今回のこれは……このフロアボスが出現した時点で失敗なんだ。リセットするしかないんだ。
「諦めるな!」
ロベールはまるで僕の心の声が聞こえているかのように激する。
「もしかすれば今まで君が集めてきた知識では対処しようがない事態なのかもしれない、それでも諦めるな! 少なくとも私は諦めていないぞ、アン。私ですら諦めていないというのに君は諦めるのか!」
「ロベール……」
そうだ。そもそも僕は何故ロベールを一生の伴侶に選んだんだっけ。
ゲームの中とは違う、今までにない最善の手順があるんじゃないかと好奇心を抑えられなかったからじゃないか。
なら……対ゾンビフェニックスだってゲームの中ではできないような手が取れるんじゃないか?
ロベールの言葉によって僕の心に希望が灯るのを感じた。
あれから一ヶ月、フロアボスは出現しなかった。
ロベールも慣れて普段通りの日常を送れるようになった頃のことだった。
「フロアボスが出たぞー!」
その報せに緊張が走った。
「爺や!」
「ただいま用意を整えます」
ロベールと僕は慌ただしく準備を整えてすぐさま外に飛び出した。
外は初夏の陽気である。
冒険者たちは以前と同様、広場に集合していた。冒険者ギルドの建物が完成すれば、ギルドに集まるようになるだろう。
「フロアボスを見た者は!?」
「は、はい!」
見覚えのあるメイジの少年を含めた冒険者パーティが手を挙げる。今回はクライヴではなく彼らがフロアボスを目撃したようだ。
「どんなフロアボスだった?」
「ええと、腐った肉のような臭いがしたと思ったら、頭上から鳥の鳴き声が聞こえて、私たちは空を見上げたんです……!」
「え……?」
「そしたらそこに、大きな大きな鳥がいたんです!」
僕はゲームの中の世界が現実になった意味を分かっていなかったんだ。
「ほう、怪鳥のフロアボスか。アン、どんな作戦を立てる? ……アン?」
RTAというのはリセットありきだ。
最短でクリアできそうにない乱数を引いてしまった場合はリセットしてさっさと新しくやり直してしまうのだ。
そして僕の場合……序盤であるフロアボスが序盤で出現してしまった場合は、早々にリセットしてしまうのが常だった。
そのフロアボスの名は、ゾンビフェニックス。
「――――最悪だ」
序盤で出現したら死者多数続出確定の凶悪フロアボス、それがゾンビフェニックスだった。
RTAの途中で序盤で出現してしまったら必ずリセットするようにしている。
だが転生して現実になったこの世界では、リセット機能なんてものはない。
序盤だからステータスは低い。故にゴリ押しで倒すことは不可能ではない。だがその方法では必ず死者が続出するだろう。
死ぬのか? この冒険者たちが……戦士の男が、メイジの少年が、ソーサラーの女性が、クライヴが……みんな死んでしまう?
僕は目の前が真っ暗になった。
「アン……ッ!」
気が付いたら僕はベッドの上に寝かされていた。
僕は気絶してしまったのだろうか。
「アン、目が覚めたか」
ベッドのすぐ傍にロベールが座っていた。
ずっと僕の傍にいてくれたのだろうか。
「アンの書いた巻物を紐解いて、今回のフロアボスと思しき魔物のページを見つけてすぐに従者に書き写させて酒場に掲示した。それを読んでアンが気絶した理由も分かった」
「うん……」
この大変な時に気絶してしまったなんて情けない。
今回のフロアボスについてなるべく多くの事を伝えなければ。
「ゾンビフェニックスはアンデッドに堕した聖鳥。普通のアンデッドは光属性か火属性が弱点だけれど、ゾンビフェニックスは火属性は吸収して回復してしまう。だから光属性しか弱点はない。ただでさえ空を飛んでいて攻撃を当てづらいのに、冒険者たちのほとんどはまだレベルが低くて光属性の攻撃技を覚えていない……! 冒険者たちが育ってさえいれば何の問題もないが、この序盤では絶対に出ちゃいけないフロアボスなんだよゾンビフェニックスは……!」
駄目だ、並べれば並べるほど絶望的過ぎる。
絶対に死者が出てしまう。避けられない。
ゾンビフェニックスがたまたま低空飛行してきた瞬間を狙ってあまり効かないと分かっていながら普通の矢や魔術で攻撃する、そんな作戦しかないだろう。
低フロアで出てくる時はゾンビフェニックスはHP自動回復の能力を備えていない。それだけが救いだ。
クライヴも含め冒険者の大半が死んでしまうだろう。
その覚悟を決めるべきなのだろうか。
ゲーム内でのクライヴ死亡イベントのことを思い出す。
ゲーム内でもフロアボス討伐戦で下手を打てばクライヴは死んでしまう。そのせいでクライヴは全攻略対象の中で最も死にやすい攻略対象となっている。そのこともクライヴの人気に拍車をかける一要因となっている気がする。
つまり、ゲーム内ですらネームドキャラも容赦なく死んでしまうのだ。
ましてや現実と化したこの世界でなら言わずもがな。
奇跡など起きない。
「アン!」
不意にぎゅっと手が握られる。
ロベールが僕を真っ直ぐに見つめていた。
「君らしくないじゃないか。いつも自信に満ち溢れていて向こう見ずで後先考えずに突き進んでいく君はどうした!」
「で、でも……」
違うんだロベール、僕がいつも自信に満ち溢れていたのはゲームの中での知識があったからだ。絶対に失敗しないルートや方法を知っていたからだ。
でも、今回のこれは……このフロアボスが出現した時点で失敗なんだ。リセットするしかないんだ。
「諦めるな!」
ロベールはまるで僕の心の声が聞こえているかのように激する。
「もしかすれば今まで君が集めてきた知識では対処しようがない事態なのかもしれない、それでも諦めるな! 少なくとも私は諦めていないぞ、アン。私ですら諦めていないというのに君は諦めるのか!」
「ロベール……」
そうだ。そもそも僕は何故ロベールを一生の伴侶に選んだんだっけ。
ゲームの中とは違う、今までにない最善の手順があるんじゃないかと好奇心を抑えられなかったからじゃないか。
なら……対ゾンビフェニックスだってゲームの中ではできないような手が取れるんじゃないか?
ロベールの言葉によって僕の心に希望が灯るのを感じた。
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