異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

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第三十九話 慈悲深く優しい領主様だと?

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 十三ヶ月目。また春がやってきた。
 これで丸一年だ。

 慈悲深く優しい有能な領主様!
 最近、そんな視線を村民から向けられているのをヒシヒシと感じるのだ。
 流石の僕もそんな期待を裏切れずに笑顔を向けるなどの対応を取ってしまう。
 それを見て隣のロベールが満足げに頷くのだ。むうう。

「ボニー様からのご報告によりますと、冒険者たちが現在の最深層に到達しそうだそうです」
「えっ、もう!?」

 存外に早い進捗に僕は驚いた。
 一体なんでまたそんなに早く進んでいるのだろう。

 ダンジョンというのはフロアボスを倒すことで階層が増えていくのだ。次のフロアボスを倒すまで今より深いフロアに潜ることができない。
 現在の最深層まで辿り着くことで、ある程度の時間が経つとフロアボスが出現する。
 そのある程度の時間というのが安定しない。最深層に辿り着いた翌日にフロアボスが出てくることもあれば、一年間もの間出現しないこともある。
 だから次のフロアボスが発生するのはもうすぐのことかもしれないし、数ヶ月以上時間がかかるかもしれない。

「とりあえず村の皆にフロアボスの出現がもうすぐかもしれないことを告知しておくとしよう。それにしても何でそんなに早く探索が進んでるんだ?」
「実のところ、冒険者たちの間では協力体制が築かれているそうなのです。互いに協力し合ってダンジョンを潜っているので早く探索が進んでいるのだとか」
「へー……なんでだろ」

 僕はきょとんと首を傾げる。
 僕は特に何もしてないのに。

「ボニー様がそこのところを聞いて回ったそうです。何でもフロアボス討伐の時の協力や数回に渡る講義で冒険者たちの間に連帯感が生まれ、普段の探索でも協力体制を築くことに成功したのだそうです。主にクライヴ様が主導して行ったのだとか」
「クライヴが?」

 ゲームの中のクライヴはそんなリーダーシップのある奴だったろうか。
 ゲームの中のクライヴは好感度を上げれば主人公には心を開く。そしてソロ探索主義者になったきっかけの出来事を教えてくれるのだ。
 どうやらこの世界のクライヴは主人公の助けがなくても冒険者仲間たちに心を開くことができているらしい。
 その事実に僕はちょっぴり安堵した。

 ともかく、グロスマン商会から買った拡声魔導具デバイスでフロアボスの出現が近いかもしれないことを村全体に報せ、酒場にもその旨を掲示した。
 これで道具屋が回復アイテムを多めに用意したり、例によってグロスマン商会が属性アイテムを用意したり……など、それぞれがフロアボスの出現に備えてくれることだろう。
 冒険者たちも今の内にアイテムを買い込もうとしているようだ。

 今度のフロアボス討伐も犠牲者ゼロで突破するぞ!

___________________________________________________

十三ヶ月目 領主アントワーヌ・クラウセン
ダンジョン:19Fまで踏破
領地の設備:城、宿屋×2、酒場、武器屋、防具屋、道具屋、水車小屋、グロスマン商会支店等々、パン屋、鍛冶屋、教会
領地の繁栄度:それなりのダンジョン村。人口も増えてきた。
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