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第三十話 融けない雪

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 道中色んな街に泊まることができて非常に参考になった。
 最初にグリーンヴィレッジに来た時も点々と街に泊まって来たわけだけど、前世の記憶を思い出してからだと街が違って見えた。
 非常に参考になった。色んな街を見て回った経験をダンジョン村の発展に活かそう。

 何日もかけて僕らはようやくナルセンティアの首都に入った。
 僕らはそのまま転移神殿へと向かう。
 僕があまりナルセンティアにいい感情を抱いていないことを考慮してくれているのだろう。この都は素通りするのだ。

 ここから爺やの乗っている馬車とは別行動である。
 今まで爺やの馬車の方に乗っていたロベールの従者が僕たちの馬車に乗り込んでくる。爺やの馬車には老貴族を装っている爺やの従者役の振りをする従者だけ残して出発である。

「うわぁ、転移神殿って結構大きいんだね」
「そりゃ馬車ごと入れなければならないからな」

 実際に転移神殿を見たのはこれが初めてだった。
 見た目が特殊な僕はあまり旅行とか連れて行ってもらえなかったから。
 綺麗なものを見ると壊したくなる危険な人が外にはいるんだって。

 神殿前に立つ受付に身分を確認され料金分の銀貨が入った革袋を渡すと、市壁の門のように巨大な鉄扉がするするとせり上がって開く。
 御者が馬車を進めさせ、僕らは馬車ごと神殿の中に入っていった。

 転移神殿の中は特に何も置かれていないだだっ広い空間となっている。
 その代わり床と天井に大小さまざまな複雑に絡み合う魔法陣が描かれていた。床の魔法陣が馬車が通り過ぎたくらいで消えないように彫られた上で溝に染料を流し込まれているようだ。

 部屋の四隅に魔術師が待機している。転移魔術を行使してくれる魔術師たちである。
 転移術士は高給取りで、魔術師たちの憧れの職だと聞いたことがある。
 ダンジョンに潜る魔術師たちはいつかは大きな街の市民権を買って、そこで転移術士に就職するのが夢なのだ。

 ちなみに今の転移神殿は反対の派閥の領土へは転移できないようになっている。

 転移神殿の中央で馬車が停止する。
 魔術師たちが一斉に両手を掲げる。転移魔術を行使し始めたのだ。
 馬車の周りが光に包まれる。
 そして……特に何も変化しなかった。

「?」

 疑問に思っていたら四隅にいた魔術師たちが声を上げる。

「王都へようこそ!」
「え、もう転移したの?」

 どうやら転移神殿の内装が全く同じだから転移したことに僕がまったく気が付かなかったらしい。
 横を見るとロベールが笑いを堪えていた。

「ふふっ、初めて転移神殿に来た時の私とまったく同じ反応だな」

 ロベールも最初は同じ反応をしたらしい。
 彼も同じだったならまあいいか、と僕は笑われたことを許したのだった。

 転移神殿に入ってくる馬車とぶつからないように、入口と出口は分かれている。そのまま前進すれば出口から出れる。

 馬車が転移神殿から出ると、確かに入る前と景色が違った。

 美しい街だった。
 真っ白の綺麗な壁の建物が並んでいる。建物にはいくつものバルコニーが並び、そのどれもが彫刻の施された優美な手摺りをしていた。
 石畳が綺麗に敷かれた地面には薄く雪が積もっている。
 その雪がまるで元々白の建物で統一されたこの街にさらに白粉を塗ったようで、街は純白そのものだった。

「この季節の王都はまた格別だな」

 ロベールが窓の外を見てほう、と感嘆の息を吐く。彼の息が白く宙にたなびく。

「王都は冬でなくとも白く美しい。その様を指して誰かが言った。『融けない雪の都だ』、と」

 ロベールが窓から視線を離して僕を振り向く。

「まるでアンのようじゃないか。私も思ったことがあるのだ、アンは永遠に融けない雪の結晶のようだと」

 彼が微笑む。
 その優しげな微笑に、とくりと胸が熱くなった気がした。

「……ロベールは詩人だね」

 頬が熱くなっていることを自覚して、さりげなく顔を逸らす。
 いつもは僕に揶揄われて狼狽えてる癖に、不意打ちでそういうことをさらりと言ってくるんだからズルい。ロベールの癖に。

「ん? あ、ああ」

 もしかしたら彼も僕が赤面していることに気が付いて気恥ずかしくなったのかもしれない。二人の間には静寂が落ちた。
 そこでさらに畳みかけないのがロベールがロベールたる由縁だろう。

 同乗している僕らの従者が気まずそうだった。
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