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第二十七話 クライヴ視点 調子が狂う

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「速く倒せたのなんのって、その後の素材回収にでっかい角を斬る方がよっぽど時間がかかったくらいでよぉ!」

 隣のテーブルの戦士の男が酒場の女将に上機嫌で自慢しているのが聞こえる。
 その戦士の男の視線がオレの方に向く。

「ほらクライヴ、お前ももっと飲めよ」
「ああ」

 オレはフロアボスを討伐して気分が高揚している冒険者たちに誘われて酒場で飲んでいるところだった。
 酒場に入りきらずこの寒い中酒瓶を抱えて広場で飲んでいる冒険者までいる。
 まあ今日くらい羽目を外したってバチは当たるまい、とオレは木製のジョッキを傾けた。

「何というか……不思議だよなぁ」

 同じテーブルのシーフの男がぽつりと呟いた。

「何がだ?」
「いや、何だ。そりゃフロアボスを倒した日はどこもお祭り騒ぎだがよぉ。この村はそれだけじゃない」
「あ、それ何となく分かる」

 大きな胸のソーサラーの女が同意する。

「どういう意味だ?」
「うーんと、上手く言えねえが……」
「一体感、かしら。垣根を越えた感じ」
「ああ」

 言われて何となく腑に落ちる。
 今回の討伐の成功はオレたち全員の成果だ。そんな誇らしい感覚がどこかにある。今までこんな感覚を抱いた経験があっただろうか。
 フロアボスの討伐時には全冒険者が協力するのはどこのダンジョンも同じだが、何となく今回は今までと違った。

「領主様が作戦なんて考えてくれるのも初めてだった。しかもそれが的確だなんて驚きだ……」
「今まではパーティがそれぞれ勝手に考えて勝手に動くのが当たり前だったもの」

 酒に強い様子のソーサラーの女が蒸留酒を呷りながら頷く。

「そっか。それが一体感の正体かな。なんか……この村なら普段ダンジョンに潜っている時も他の冒険者と協力できそうだなって気がする」

 普通、通常時のダンジョンで他のパーティと遭遇したら緊張が走るものだ。たいていの場合は友好的に挨拶を交わしてすれ違うだけだが、やろうと思えば相手に攻撃を仕掛けて素材や宝を奪うことだってできる訳だ。ダンジョンの中で殺せば魔物に殺されたものだと皆思うから。
 ダンジョン攻略中に魔力切れを起こしたり解毒薬を持って来なかったのに毒にかかったりした時に他のパーティに協力を求められたら多いに助かるが、そういう風に弱っている時ほど悪い人間は裏切る。
 それがもしこの村では本当に冒険者同士で協力ができるなら――――それは大きな武器となるだろう。

「それにしても領主様って本当に可愛い顔をしてると思わない?」

 ソーサラーの女が意味ありげに片眉を上げる。

「あたし、領主様の愛妾に立候補しようかしら」

 彼女の発言は普通であれば眉を顰められるようなものではない。貴族の結婚は政略結婚であり、愛人との恋愛こそが本物の愛だからだ。
 だから彼らの間柄も愛のない政略結婚だろうとオレも最初は思っていた。

「やめておけ。領主様はフィアンセにゾッコンだからな」

 軽く肩を竦めてジョッキを傾ける。

「あら。クライヴがなんでそんなことを知ってるの?」
「そりゃ、遠目に姿を見かけただけでも分かる。領主様の視線は常にフィアンセの方を意識している。視線を気取られないようにしてるのが微笑ましいほどだ」
「ふぅ~ん、随分二人のことをよく観察してるのね」
「観察してるというほどのことじゃない。あの二人は面白いから何となく目で追ってしまうだけだ」

 ソーサラーの女の顔がだんだんとニヤニヤとしたものになっていく。
 シーフの男はいつの間にか酔い潰れて寝ていた。下戸の癖に周りのはしゃいだ雰囲気に流されて飲むからだ。

「なるほど。二人のことを応援してるって訳ね」
「応援とか別にそういうアレじゃない」

 オレの返事に女はくすっと笑う。

「良かった。クライヴって『オレはソロ主義者だ』とか言ってどこか壁を作ってるイメージだったけど、ちゃんと他人と交流する気のある人なのね」
「なんでオレの性格の話になる」

 この村の空気は調子が狂う。
 飄々とした態度で躱して、大事なところには他人を踏み入らせない。あれ以来そういうスタンスで生きてきたはずなのに、この村ではうっかり他人に気を許してしまいそうだ。

 仲間を失ったあの日から、ずっとソロで生きると決めたはずなのに。
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