25 / 84
第二十五話 ここで新婚旅行に行きます
しおりを挟む
魔物素材のオークションに参加するのは主に貴族や魔導の研究に邁進する高名な魔術師、それからグロスマン商会のような魔導具などを取り扱う大企業である。
爺やは何でもできるが流石に魔術の知識はないので、魔術師には変装しない方がいいだろう。だから爺やの変装は貴族か商人かの二択だ。
爺やは代々領主に使える従者を輩出するための貴族家出身である。
素材オークションに参加するような階級の貴族ではないのだが、変装するなら商人になるよりは上級貴族に化ける方が楽だということで、爺やには老貴族に化けてもらうことにした。
めかしこむと爺やはすっかり大貴族の老翁と化した。どこからどうみても隠居した後に娯楽でオークションに参加する優雅な老貴族そのものである。
「それにしても本当に爺やを潜入させて大丈夫なのか? そりゃ爺やが有能であることは私も知っているが」
ロベールが心配そうにしている。
ロベールもクラウセンで暮らしていた幼い頃は爺やにお世話をされているから、爺やには親しみを感じているのだ。
「ご心配には及びません。主の望みを果たすのが従者の役目でございます」
爺やはキリッと答える。
「そうか。ならいいが」
心配はいらない。
爺やはそれこそ何だってできるのだから。
出品者はオークション会場に行かなくてもいいが、見に行くこともできる。
どうせなら爺やの奮戦ぶりを見学する為に僕とロベールもオークションを見に行くことにした。
オークション会場まで行くには馬車でこの村から出てナルセンティアまで行き、ナルセンティアの都まで行ったら転移神殿に行ってそこから王都までワープする必要がある。
王都までワープするとこまでは爺やと一緒で、そこから先は別行動である。別々に会場に入らなきゃいけないからね。
ちなみに転移神殿とは領地の首都クラスに繁栄している街にだけ置かれている施設である。
安くない利用料を払うことで馬車ごと他の都に転移することができるのだ。前世で言えば飛行機代を払うくらいの出費で利用できる。
「まあ、思えばアンが領主に就任してから半年以上が過ぎた。一度くらい王都に旅行に行ってもバチは当たらんだろう。まさかオークションだけ見たらとんぼ返りするとは言うまい。観光してから帰るだろう?」
RTA走者としてはもちろんここは横に首を振らねばなるまい。
だが僕は考える前に頷いてしまっていた。
「うん、もちろん。ロベールとのデートだからね」
「デ……いやまあ、そうなるか。うむ、デートだな」
「……っ」
てっきり顔を赤くして照れるだろうと思っていたのに、意外にもロベールは肯定した。
その彼の反応が予想外で、逆に僕の方が顔が熱くなる。僕の肌の色だと顔が赤くなったらすごく目立つだろう。
明後日の方向を向いて顔色を隠しながら、僕は前世から変化しつつある自分を自覚した。
前世の記憶を取り戻した直後は、現実と化したゲームの中の世界をどう上手く攻略していくかということしか考えていなかった。
だが今は……この世界で生きていくことが大切になってきている。
僕の自我は変化しつつある。
いや、元に戻りつつあるのだ。
爺やは何でもできるが流石に魔術の知識はないので、魔術師には変装しない方がいいだろう。だから爺やの変装は貴族か商人かの二択だ。
爺やは代々領主に使える従者を輩出するための貴族家出身である。
素材オークションに参加するような階級の貴族ではないのだが、変装するなら商人になるよりは上級貴族に化ける方が楽だということで、爺やには老貴族に化けてもらうことにした。
めかしこむと爺やはすっかり大貴族の老翁と化した。どこからどうみても隠居した後に娯楽でオークションに参加する優雅な老貴族そのものである。
「それにしても本当に爺やを潜入させて大丈夫なのか? そりゃ爺やが有能であることは私も知っているが」
ロベールが心配そうにしている。
ロベールもクラウセンで暮らしていた幼い頃は爺やにお世話をされているから、爺やには親しみを感じているのだ。
「ご心配には及びません。主の望みを果たすのが従者の役目でございます」
爺やはキリッと答える。
「そうか。ならいいが」
心配はいらない。
爺やはそれこそ何だってできるのだから。
出品者はオークション会場に行かなくてもいいが、見に行くこともできる。
どうせなら爺やの奮戦ぶりを見学する為に僕とロベールもオークションを見に行くことにした。
オークション会場まで行くには馬車でこの村から出てナルセンティアまで行き、ナルセンティアの都まで行ったら転移神殿に行ってそこから王都までワープする必要がある。
王都までワープするとこまでは爺やと一緒で、そこから先は別行動である。別々に会場に入らなきゃいけないからね。
ちなみに転移神殿とは領地の首都クラスに繁栄している街にだけ置かれている施設である。
安くない利用料を払うことで馬車ごと他の都に転移することができるのだ。前世で言えば飛行機代を払うくらいの出費で利用できる。
「まあ、思えばアンが領主に就任してから半年以上が過ぎた。一度くらい王都に旅行に行ってもバチは当たらんだろう。まさかオークションだけ見たらとんぼ返りするとは言うまい。観光してから帰るだろう?」
RTA走者としてはもちろんここは横に首を振らねばなるまい。
だが僕は考える前に頷いてしまっていた。
「うん、もちろん。ロベールとのデートだからね」
「デ……いやまあ、そうなるか。うむ、デートだな」
「……っ」
てっきり顔を赤くして照れるだろうと思っていたのに、意外にもロベールは肯定した。
その彼の反応が予想外で、逆に僕の方が顔が熱くなる。僕の肌の色だと顔が赤くなったらすごく目立つだろう。
明後日の方向を向いて顔色を隠しながら、僕は前世から変化しつつある自分を自覚した。
前世の記憶を取り戻した直後は、現実と化したゲームの中の世界をどう上手く攻略していくかということしか考えていなかった。
だが今は……この世界で生きていくことが大切になってきている。
僕の自我は変化しつつある。
いや、元に戻りつつあるのだ。
84
お気に入りに追加
2,663
あなたにおすすめの小説
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。
cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。
家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。
mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】
別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる