異世界転生した僕、実は悪役お兄様に溺愛されてたようです

野良猫のらん

文字の大きさ
上 下
15 / 84

第十五話 攻略対象その二、登場です

しおりを挟む
「初めまして。私、グロスマン商会のエーミール・キルンベルガーと申します」

 六ヶ月目。教会の建設が進んでいる時のことだ。
 青髪をしっかり後ろに撫でつけ、この世界では高価なメガネをかけた営業マン、いや商人が城にやってきた。
 商会というのは雑に言うと前世の世界でいうところの大企業といったところか。

 そうか、もうこのイベントが起きる時期かと時の速さを実感する。
 エーミール・キルンベルガーは第二の攻略対象である。
 クライヴが赤担当とすれば、エーミールはクールな青担当である。怜悧な瞳がメガネによりさらに眼光が鋭くなっている。

 まあ攻略対象だからどうということはない。
 ごく普通に接するだけだ。

「グロスマン商会というと、魔導具デバイスを専門に取り扱っているところだな」

 彼の差し出す『名刺』を受け取る。
 名刺には彼の名前と所属が記されており、つるつるとした材質でやや分厚い。

「ご存知でしたかクラウセン様。いかにも我が商会では魔導具デバイスを扱っております。その名刺も魔導具デバイスになっていまして、私に一言ほどの簡単なメッセージを送ることができるようになっております」

 エーミールは僕をクラウセン様と呼び、くいと黒縁メガネに手を添えた。クラウセンとは領地の名前であり僕の名字である。

 どうやらこの名刺は名刺であるのと同時に携帯のような機能があるらしい。いや形状やメッセージの容量からすると携帯よりポケベルに近いだろうか。
 よく見ると小さなボタンが付いている。このボタンを押してメッセージを入力するのだろう。

「安い物ではないだろう、もらってしまっていいのか?」

 ロベールも魔導具デバイスの名刺を受け取り、エーミールに尋ねた。

「勿論でございます。何かご用命の際はその名刺を通していつでもお申し出ください」

 エーミールのメガネがきらりと光を放った。
 領主に顔を売ったついでにいつでも注文が入るかもしれないとなれば、この名刺をただでくれてやるだけの見返りはあるといったところだろうか。
 恐らくだがこの名刺は誰にでも渡している訳ではないはずだ。間違いなく僕たちが領土を持っている貴族だから渡しているのだ。あるいはダンジョン村の経営者だから、だろうか。

「それでは早速ですが今日私がクラウセン様を訪ねた目的に関してお話しいたします」

 目的に関しては知っているからスキップしたいが、それでは話が進まない。大人しく聞くことにする。

「我々はこのグリーンヴィレッジにグロスマン商会の支店を設立したいのです」

 エーミールは真剣な眼差しで口を開いた。

「具体的な内容を三つのポイントに分けてお話ししたいと思います。一つ目は具体的に村にどのような建築物を建てたいと考えているのか。二つ目は我が商会が支店を設立することでこの村にどのようなメリットがあるのか。三つ目は開店後どのような商品を扱うつもりであるかでございます」

 エーミールは空中に映像を照射する魔導具デバイスを立ち上げながら淀みなく説明する。
 ロベールはこのような魔導具デバイスを目にしたことがないのか、驚きに目を見張っている。
 僕の執務室はあっという間に大企業の会議室めいた雰囲気を醸し出す。
 こうしてエーミールのプレゼンテーションが始まった。

 映像を照射する魔導具デバイス、その名もワードポインターで説明された内容を以下にまとめる。

 ポイント1 建築物について
・店舗となるグロスマン商会グリーンヴィレッジ支店を建てます。
魔導具デバイスを作成する職人が働く工房を建てます。
・支店の従業員や職人の寝泊まりする住居、社員寮を建てます。
・彼らが食事をする為の食堂、グロスマン食堂を建てます。この食堂は社員割引はありますが部外者も利用できます。

 ポイント2 メリット
・ダンジョン探索に役立つ様々な魔導具デバイスを売ります。
・生活に役立つ魔導具デバイスも売ります。
・大人数で移住しきちんと税を納めるつもりなので税収が上がります。

 ポイント3 メインの商品
・ダンジョン内で通信が出来るイヤリング
(違うフロアにいると通信不可)
・呪い除けの指輪などの耐性リング
・オートマッピングブレスレット
・小型ランタン
・その他多数

「このイヤリングに関しましてはもちろんダンジョンの外でも使用できます」
「ほう……」

 ロベールが興味を示す。
 彼の思考が透けて見えるようだ。内緒で買って僕にプレゼントしようと思っているのだろう。
 エーミールもそれを察知したのか、きらりと目を光らせる。
 この場で考えがバレていないと思っているのはロベールだけだ。

「さて、説明は以上です。質問はございますか?」
「丁寧な説明ありがとう。質問は特にない。グロスマン商会の支店設立についてロベールと前向きに検討しようと思う。だから、そうだな……また三日後に訪ねてきてくれたら結論を伝えよう」
「ありがとうございます」

 エーミールは綺麗な礼をして踵を返す。
 そのエーミールの後をロベールが追い、部屋から出ていく。
 イヤリングを購入させろと伝える為だろう。恐らくエーミールは三日後にイヤリングの現物を持って現れるに違いない。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...