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第九話 反逆者を捕らえます

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「思うに領主がダンジョンの入口が何処にあるのかも把握してないのは色々と不味いと思う。ということでロベール、頼んだ」

 早朝、僕は叩き起こしたロベールに頼んだ。

「何故私が!? 君がいけばいいだろう! 第一こんな朝早くからでなくともいいだろう!」
「か弱い僕にダンジョンの入口なんて見に行かせる気か。ロベールには護衛が付いているだろう。それにこの時間じゃなくちゃいけないんだ。ボニーに案内を頼んだからね」
「確かに君に行かせる訳にはいかないが、もうちょっとこう……」

 ロベールはぶつくさと不機嫌そうにしながらも支度を調えて向かってくれた。それでも突然の頼みを聞いてくれるのは僕の事を愛してくれてるからだと考えてしまってもいいのかな。ふふ。

 昨晩のうちに伝えておくこともできたが、なるべくロベールを不機嫌な状態にさせておきたくて早朝に叩き起こしていきなり頼むことにしたのだ。

 後は彼が帰ってくる頃には"事件"を連れて帰って来てくれるだろう。



「処刑だ処刑! 不埒な反逆者の末路は処刑と決まっているッ!」

 しばらくしてロベールが大騒ぎしながら戻ってきた。
 ロベールの護衛が青い顔した老人と若い男を後ろ手に手首を掴み引っ立てている。ロベールの後を付いてくるボニーも一緒に真っ青な顔になっていた。

「アン、こいつらを処刑する、いいな!?」
「一体何があったんだロベール、説明してくれ」

 もちろん僕は何が起こったのか知ってるのだが、あえて尋ねた。

「りょ、領主様……! どうか父と兄を助けて下さい、二人とも魔が差しただけなんです!」

 蒼白な顔でボニーが訴える。
 引っ立てられてきたこの老人と若い男はボニーの父と兄なのだ。つまり老人の方は現村長である。

「私と案内役のボニーはアンに頼まれた通り、ダンジョンの入口を見に行った。このグリーンヴィレッジと隣村との間の道に分かれ道があり、その分かれ道の先にダンジョンがある。その分かれ道に差し掛かった時だった。私は見たのだ、こやつらが分かれ道の看板に細工をしているのを……!」

 ロベールは息を荒げて村長とボニーの兄を指さす。
 従者たちが持ってきた縄によって彼らは縛り上げられているところであった。

「ほう、細工?」

「そうだ。『←こちらダンジョン』『こちらグリーンヴィレッジ→』と示している看板を逆にしていたのだ! これは重大な反逆行為だ!」

 これで村長らが何をしたのかははっきりとした。
 僕は彼らがこの犯行を犯すことを知っていて、それを目撃できる時間帯にロベールたちを行かせたのだ。

「は、反逆行為だなんて大げさな。わしはただ、冒険者のやつらがダンジョン目当てにわしの村に来るんだったら、直接ダンジョンに行きゃぁいいじゃあないかと思っただけで」

 村長は媚びるようにぎこちない笑顔を僕に向けてくる。正直気持ち悪い。

「なるほど理解した、それで看板を入れ替えたのか」
「ええ、ほんの些細な……」
「――――それは確かに重罪だな」
「……へ?」

 村長とボニーの兄の顔はポカンとしたものになる。

「分かってないのか? お前らのしたことは殺人未遂に等しい」
「は、ひぇ、さ、殺人なんてそんな大それたこと……!」

 まだ彼らは理解していないようだった。
 そこで僕にしては珍しく時間を消費して丁寧に説明してやることにする。

「一旦村に寄って装備を整え宿屋で休みパーティを組んでからダンジョンに挑もうと思っていた冒険者が直接ダンジョンに足を踏み入れることになってしまったらどうなる。下手すれば死人が出るだろう」

「いや、しかしそれは……」

「それだけではない。村に訪れるのは冒険者だけではないのだ。ダンジョン村特需に沸く村で商売をしようとやってくる商人、仕事を求めてやってくる者……様々だ。そんな者らが入れ替えられた看板を見てダンジョンの方へ行ってしまったらどうなる? その時たまたま入口から湧いて出てきた魔物に襲われたら?」

「…………」

 村長は完全に黙り込んでいる。
 やっとこさ自分の仕出かしたことの罪深さを思い知ったようだ。
 僕に言われるまで自分のしたことで死人が出るかもしれない可能性に思い至りすらしてなかったのかもしれない。
 やれやれ、学がないというのは哀しいことだ。
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