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第六話 それから……え、プレゼント?

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 少しでも時間が惜しいのかフランツは店を畳むと、早速村を出ていった。これから最寄りの町を目指すのだろう。

 わざわざフランツを狙い撃ちしたのには理由がある。
 彼がグリーンヴィレッジにとって唯一無二の人材だからである。

 千載一遇の機会を目の前にして上がってしまった彼は有能なようには見えなかったろうが、普段であれば如才なく人々の間に入り込み絆を築いてしまうような愛想の良さがある。
 別にダンジョン村の商人に必要とされている能力は貴族を相手にしても緊張しないでいられる胆力とかではないからね。

 それに何より彼だけにある資質が人望である。
 彼はこの辺りの農村で顔が売れていて、人々から慕われている。グリーンヴィレッジに直接立ち寄ったことこそないものの、グリーンヴィレッジの村の者が何か入用の物を買いたい時には今日の僕たちのように彼が来る日に合わせて隣村を訪れて物品を購入しただろう。
 つまりグリーンヴィレッジの人間にも何人か顔見知りがおり、村民も「まあフランツさんが移住してくるならまあ許そうか」という気になってくれるだろうということだ。

 そしてこの付近で行商をやっている人間で店を持つほどの財力を持つのはフランツただ一人である。
 故に彼は唯一無二の人材なのだ。

 フランツには村民とその他の移住者との仲立ちをしてもらいたい。
 村民のよそ者への排他的感情を雑に放置すると決めた以上は、せめて水槽の水を綺麗に保ってくれる人材くらいは確保しておかなければ。
 僕は村人同士の諍いとかそういった問題に時間を費やすつもりは一切ないので、そういった問題はすべてフランツに丸投げするつもりである。
 がんばれ、フランツ。

「よし、これでこの村でやること終わり」
「なんだ。行商人に木札を託す為だけに来たのか。それだったら召使いに頼んでおけばよかったろうに」

 フランツが目的だったことを知らないロベールは拍子抜けしたように息を吐いた。

「ロベールが連れてきた従者だけじゃ人手が足りないからね」

 今も彼の従者たちは少ない人数で城の掃除を行い、毎食の料理を作ってくれててんてこ舞いである。
 別にフランツの勧誘が目的でなかったとしても、僕たちが直接動くべきだったように思う。

「そうだな、元々すぐ帰る予定だったからな。増員するようにナルセンティアに文を送っておこう」
「頼む」

 ロベールさえいてくれれば人手も金も思うがままだ、素晴らしい。彼は本当に頼りになる。

「しかし折角隣村まで来たのにこのままとんぼ返りというのも味気ない。少し待っていろ」

 なんて思っていたらロベールが馬を下りてどこかへ向かう。
 近くを通りがかった子供に話しかけにいったようだ。その子供は真っ赤に熟れたコケモモのような果物を両手いっぱいに抱えている。

「おい、金をやるからそれを一つ売れ」

 なんとロベールは金の力で子供から果物を一つ取り上げてしまった。ロベールから数枚の大銅貨を受け取った子供は目を輝かせている。
 一体何をやっているのだろうと戻ってきた彼を眺めていると、彼は馬上の僕にそのコケモモを投げ渡した。僕は手綱から手を離して受け取る。

「まったく田舎というのは不便なものだな。ここがナルセンティアであれば装飾品の一つでも買ったのだが」

 ロベールは僕の方を見ずに自分の馬に乗り込みながらぼやく。

「え……つまり、僕への贈り物ってこと?」
「ふんっ」

 彼は答えなかったが、よくよく見れば耳が薄く色づいていた。
 胸の鼓動が熱くなるのを感じながら、僕は赤い果実の表面を袖で拭いて齧り付いた。
 ……甘酸っぱい味が口の中に広がった。
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