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番外編

ギュスターヴの想い 第三話

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 ヴァンの王配教育が開始された。

 しばしの間ヴァンとの予定を最優先するために横に追いやっていた執務の数々を、筆頭側仕えのセバスチャンが嬉々として持ってくるようになった。「怠け者だとヴァン様に幻滅されたくはないですよね?」とばかりに。
 もちろん、サボるつもりなどない。ヴァンに呆れられないように、一生懸命に仕事に励んだ。

 そのうち、ヴァンが無理をしているとフィリップから連絡が届くようになった。
 ヴァンは勉学をがんばりすぎているらしい。

 あまりにも真面目なのだ。
 そういうところも好きだが、心配だ。
 無理がすぎるようだったら私を呼ぶように、とフィリップに指示して様子を見ることにした。
 
 それから数日して、すぐさま呼び出された。
 ヴァンはフィリップと取り決めた決まりを破ったらしい。
 これは静観しておけない。

 ギュスターヴはヴァンの元へと向かい、身体を大事にしてほしいと静かに言い聞かせた。
 理解してくれただろうか。
 それだけでは心配だと、ギュスターヴはヴァンに気分転換してもらうことにした。

 勉強禁止と言い渡して、視察に連れ出した。
 かつてギュスターヴが寄進をして建てられた救貧院だ。
 自分の名前にあやかってギュスターヴ救貧院という名なのが気恥ずかしいが、孤児院で慈善活動をしていたヴァンならば、馴染んでくれるのではないだろうか。
 正直、ヴァンに救貧院を見てもらって感心してもらいたかったという欲がなかったかと言えば、嘘になる。
 それでも、視察に行ったことでヴァンは肩の力が抜けたように見えた。

 少しして、婚約指輪が完成した。
 互いに指輪をはめ合いながら、ギュスターヴはヴァンに過去を打ち明けた。
 かつて加護無しと呼ばれていた過去を。
 辛かった思い出の中で、ヴァンと出会った日のことだけが燦然と輝いている。

 ヴァン、君は私を変えてくれたんだ。ギュスターヴは心のうちで呟く。
 その後加護が発現したのも、きっとヴァンと出会ったおかげなのだとギュスターヴは考えていた。
 ヴァンのおかげで、今の自分がある。

 ヴァンはギュスターヴの手を握り、祈った。
 するとどうだろう。
 婚約指輪に、風の精霊の加護が付与されたではないか。

 思わず手が震えるほど、婚約指輪から大きな力を感じた。
 これこそは、ヴァンの愛の大きさだと感じた。
 
 ならば自分も、全力で愛を返さねば。
 ギュスターヴは、ヴァンの手を握り返し包み込んだ。
 自らを加護する精霊の名を一つ一つ呼び、どのような悪からもヴァンを守ってくれるように頼んだ。
 すべての加護が一つ残らず、ヴァンの婚約指輪に間違いなく付与されていく感覚があった。

 ヴァンが大変に恐縮するので、茶目っ気を出してお礼にキスをしてくれと言ってみた。
 軽口が過ぎただろうか。
 ヴァンは顔を赤くさせて、俯いてしまった。赤面は非常に可愛らしいが、幻滅されてしまったかもしれない。
 己の軽口を呪いかけたその瞬間、今度はヴァンがくっと顔を上げた。目を閉じたまま。

「な……っ!?」

 思考が止まった。

 これは一体どういうことだろうか。
 まさか、キスしていいという意味なのだろうか。
 解釈を間違えているのではないか。

 ヴァンの唇が、やけに艶やかに見える。
 吸い込まれるように、ギュスターヴは唇を寄せた。

 唇同士が重なり合った瞬間、軽い音を立てて眼鏡がぶつかった。
 ヴァンの大事な眼鏡を歪ませないよう、そっと取り払って口づけを続ける。
 ヴァンの唇を軽く食んで、味わう。ヴァンの唇はほのかに甘い気がした。

 唇に、彼の呼吸を感じた。
 彼が軽く口を開いたのだと察して、ギュスターヴは固まった。
 さらにその先に進んでしまっていいというのか?

 躊躇いながらも、ギュスターヴは唇の合間に舌を挿し入れた。
 舌先に、直接彼の粘膜が触れている。
 彼の舌先を捕まえ、愛おしさをこめて軽く吸った。すると縋るように彼の手が掴んできて、胸が熱くなる。
 
 このまま、一つになってしまいたい。
 だがまだ婚約中だ。そこまでは許されない。

 ギュスターヴは理性を総動員して、口を離した。
 あとほんの少し待てば、彼と閨を共にできるようになる。
 その時まで、この熱く滾る気持ちはとっておこう。

 ギュスターヴは近い将来に思いを馳せたのだった。
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