婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

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第四十六話 救出

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「ヴァン――――!」
 
 叫び声がこの場を貫き、ヴァンの耳に届いた。
 ギュスターヴの声だった。
 
「殿下……?」
 
 剣戟が響く。
 
 大勢の人間が、この空間になだれ込んできたようだった。
 誰かの足がヴァンの身体を蹴飛ばし、痛みが走る。ヴァンは身を縮こまらせるしかなかった。

「ヴァンを、返せ!」

 ギュスターヴが、助けにきてくれたのだ。
 現実のものとは思えなかった。
 これは都合のいい夢ではないだろうか。

「どうして、王太子が自ら……!? ヴァンなんかを本気で愛しているとでも言うの!?」
「ヴァン『なんか』ではない。二度とそのような口を利くな!」

 ギュスターヴとミレイユの問答が聞こえる。

 ギュスターヴ自身が剣を手に闘っているのだろうか。
 お願いだから彼が怪我しませんように、と祈った。

「ちょっと、離しなさいよ!」

 ミレイユのキンキンとした声が、剣戟の合間に響く。
 捕らえられたのだろうか。
 
 やがて、場が静かになった。
 
「ヴァン……ッ! 無事か!?」

 優しく抱き起こされると同時に、彼の声に名前を呼ばれる。

 ヴァンの頭に被せられていたずた袋が、そっと取り払われた。
 目の前にいたのは、金髪碧眼の美しい男――――ギュスターヴだった。
 ヴァンは瞬きをして、彼を見つめた。

「ヴァン、良かった……っ!」
 
 安堵ゆえだろうか。はらはらと彼の眦から雫が溢れ出す。彼の瞳から零れ出した青玉のような涙が、頬を濡らした。
 
「ギュスターヴ、殿下……?」
 
 いつでも優雅に堂々としていた彼が、涙を零している。
 涙を流す彼の表情に、ヴァンは既視感を覚えた。彼が涙を流すのを見るのなんて初めてのはずなのに、初めてではない気がする。
 そのことに気が付いた瞬間、ヴァンの脳裏にある記憶が蘇った。
 
『ヴァンは優しいな、まるでそよ風みたいだ』
 
 幼い日の記憶。生垣でできた迷路の中。
 ギーと名乗った男の子は涙と鼻水の痕が残る顔でヴァンを見上げた。
 
 ヴァンははっきりと思い出した。ギーくんのその顔は、目の前のギュスターヴの顔と瓜二つであったことを。ヴァンはギーくんと彼が同一人物であることを確信した。
 それから、ギーくんとその後何を約束したかも思い出した。

 
「ヴァンは優しいな、まるでそよ風みたいだ」
 
 あの日。
 ギーくんは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で、ヴァンを見上げた。
 
 それから彼はこう口にしたのだ。
 
「……オレ、ヴァンとずっと一緒にいたい」
「え?」
 
 小さな彼の言葉に、胸がとくりと鳴る。
 
「オレ、ヴァンと結婚したい」
 
 彼が重ねて口にした言葉に、嬉しさが胸の内に広がるのを感じた。
 今まで誰にも認められたことのない人生の中で、初めて他人に認めてもらえた。その最初の体験だった。
 
「え、ぁ、あの、ごめん……僕は、その、もう、婚約者が……」
 
 嬉しかったのに、彼のプロポーズに応えられないことが苦しくて堪らなかった。
 他家との親交を結ぶために、人身御供のようにヴァンの将来は早々に捧げられていたのだ。だから七歳の時点で、既にミレイユとの婚約が決まっていた。
 
「オレ、ヴァンと結婚できないのか……?」
 
 ギーくんが再び泣き出しそうな気配になる。蒼い瞳が再び潤み出す。
 
「え、えっと、あの……!」
 
 彼を泣かせてしまわないように、ヴァンは必死に頭を巡らせる。
 
「もし僕の婚約したのがなくなることがあったら、その時は結婚しよう!」
 
 彼の手をぎゅっと握り、約束する。
 
「もし婚約者がいなくなったら……? 本当? オレたち、結婚できる?」
「うん、もしそうなったら結婚しよう! 僕も両親に頼んでみるから」
「……うん、約束!」
「約束だね」
 
 そうして二人は大事な約束を交わした。
 

 そうだ、あの時結婚の約束をしたんだ。ヴァンは思い出した。
 ギュスターヴとは初対面ではなかった。どうして今まで忘れていたのだろう。

 そこで、先ほどのミレイユの言葉を思い出す。
 父は自分に忘却魔術をかけたことがあると。

 きっと幼き頃のヴァンは、言葉通り両親に婚約を取り消せないか相談したのだろう。
 だが、両親は相談に乗るどころか記憶を消すことを選択した。
 ヴァンの大事な大事な記憶を。
 婚約を保つために、都合が悪いと考えたのだろう。だからって、思い出まで奪うなんて。
 
 それでも、こうして思い出すことができた。
 
「ギュスターヴ殿下……っ!」
 
 縄を解いてもらうと、ヴァンは真っ先に彼に抱き着いた。
 もう二度と彼から離れたりなどしない。そう心に誓いながら――――。
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