婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

文字の大きさ
上 下
34 / 55

第三十四話 初代国王と精霊神

しおりを挟む
 今日はモールト教授の授業がある日だ。
 ヴァンは楽しみで昨夜なかなか寝つけなかったくらいだ。
 寝つけないので、どうせならと勉強をしようとしたらフィリップに叱られてしまった。

「さて、ヴァンくんはこの国の建国神話は知っているかね?」

 授業が始まると、モールト教授はまずこう尋ねてきた。
 
「もちろんです、諳んじることすらできますよ!」

 ヴァンは、はきはきと答えた。
 建国神話は、孤児たちに何度も読み聞かせたものだ。
 だから、暗記している。

「ほお、それは頼もしい。なら、せっかくなら語ってもらおうかね」

 建国神話を語ることになってしまい、緊張を覚える。
 だが、間違ったりはしないはずだ。大丈夫。
 
 ヴァンは深呼吸をしてから、口を開いた。
 

 むかしむかし、ずっとむかしのこと。
 
 とても精霊に愛された一人の青年がいました。その青年は、眉に白い毛が生えていたことから白眉の君と呼ばれていました。
 すべての精霊が白眉の君を愛していました。白眉の君は精霊の姿を目にすることができました。白眉の君以外には精霊が目に見える者などおりませんでした。
 
 精霊の長たる精霊神までもが白眉の君を愛していました。精霊神は火、水、風、土の四つの大精霊を引き連れていつも白眉の君のもとを訪れていました。精霊神は白眉の君を愛するあまり、他の精霊を寄せ付けないようにしようとしたこともありました。白眉の君はそんなことをしないようにたしなめ、精霊神はそれを反省したのです。
 
 ある日、白眉の君は病弱な弟のために、森に分け入って薬草を探しに行きました。
 白眉の君は不運にもそこで魔物に襲われてしまいました。
 
 精霊神が大精霊たちを伴って白眉の君の元に向かいましたが、時すでに遅く彼は命を失っていました。
 精霊神は嘆き悲しみ、白眉の君の死体に向かってかがむと、唇をつけてふうっと息を送りこみました。精霊神は自らの魂を送りこんだのです。
 
 精霊神の魂の半分を吹きこまれた白眉の君は生き返りました。
 けれども魂の半分を失った精霊神は、もはや神ではいられなくなったのです。
 精霊に生き返らせてもらったことは決して誰にも言ってはいけないよ、白眉の君にそれだけ言い残すと精霊神は姿を消してしまいました。
 
 数年後、見すぼらしい姿の男が白眉の君の前に姿を現しました。
 白眉の君は彼を一目見ると家に招待して、パンと服をあげ家に住まわせてあげました。
 
 男は意外にも賢い人間でした。パンと服と住処をくれた礼に白眉の君に何度も知恵を授け、白眉の君はついには国を興し国王となったのです。
 
 白眉の君と男はやがて愛し合うようになり、五人の子を授かりました。五人もの子を授かっても、男の見た目は変わらず、老いる様子はありませんでした。けれども白眉の君はそれを不審に思わず、何も言わなかったのです。
 
 なぜなら白眉の君は、男の正体を最初から知っていたからです。男の周囲を漂う四つの大精霊たちの姿が見えていたのですから。大精霊たちが付き従うのは精霊神だけです。
 
 精霊たちは彼らの血を引く五人の子も愛しました。
 五人の子は十四人の孫を作り、四十三人のひ孫ができ……やがてエスプリヒ王国の貴族全員が、白眉の君とかつての精霊神の血を継ぐ者となったのです。
 だから今では、エスプリヒのすべての貴族を精霊が愛しているのです。


「素晴らしい、完璧だよ」

 ヴァンが語り終わると、モールト教授は静かに拍手した。

「君には語り部の才能もあるようだね」
「いえ、そんな大げさな」

 モールト教授の誉め言葉に、照れた表情を見せる。
 
 それにしても改めて建国神話を思い起こすと、新たに感じることがある。

「おそらく初代国王は、最初の子供を授かる時に大精霊の祠を作ったのでしょうね」

 大精霊の祠が作られたのは、「あなたがたの大事な精霊神を大切にしますよ」という、初代国王から大精霊たちへのメッセージだったのかもしれない。子孫である我々までその恩恵に与れるなんて、大精霊たちの愛情深さが窺える。
 
「それにしてもこの建国神話に関して、前々から感じていた疑問があるのですが……」
「おや、何かね?」

 こんなくだらないことを質問してもいいものやら、と迷いながらも聞いてみることにした。

「白眉の君は『精霊に生き返らせてもらったことは決して誰にも言ってはいけないよ』と約束させられましたよね。でも、この話が後世に伝わってしまったということは、白眉の君は結局誰かに言ってしまったのではないでしょうか?」

 ミストラル家では、こんなどうでもいい質問に答えてくれる人はいなかった。
 答えてくれないどころか、叱られたものだ。
 でもモールト教授相手ならば、呆れられることはあっても、怒られることはないはないのではないか。

 ヴァンは他人を信用することを、覚え始めていた。

「いい質問だね」

 期待した通り、モールト教授は笑顔で応えてくれた。

「それは近年出てきた資料で事情がわかっていてね、白眉の君が没した後に十四人の孫の一人が、彼の日記を読んで知ったという説が非常に有力になっているのだよ」
「へー、そうなんですか!?」

 学問の世界も、日進月歩らしい。埃をかぶった本しか読めなかったヴァンには知りえなかったことに、目を丸くする。

「つまり、『言う』のはダメでも『書く』のは大丈夫だったってことなんですね」
「精霊神は『言うこと』しか禁じなかったからねえ。精霊との約束というものは、非常に契約書的なものなんだね」

 なんて、二人は意見を交わし合った。
 学問の世界にほんの少しでも触れられたような実感を覚え、非常に楽しいひと時だった。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!

竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。 侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。 母が亡くなるまでは。 母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。 すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。 実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。 2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

処理中です...