28 / 55
第二十八話 王配教育開始
しおりを挟む
ヴァンの王配教育を担当してくれる教授が決まった。
遂に王配教育が始まるのだ。
今日はその初日だ。大学から招聘された教授がヴァンの部屋に呼ばれて来た。
「イェレミアス・モールトと申します。未来の王配陛下とお目見えが叶い、幸甚の至りでございます」
見事なシルバーグレーの髪を後ろに撫でつけた紳士然とした初老の男が、腰を折って恭しく挨拶する。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
ヴァンもお辞儀をし返しながらも、目が点になってしまう。
モールト教授の周囲には、一種類の精霊の気配しか感じられなかったからだ。
「そう、吾輩を加護する精霊は塔の精霊一つのみでございます」
驚きの視線を感じ取ってか、彼はにこりと目を細めた。
「も、申し訳ありません! 貴族の方で加護が一つの方は、珍しくて……!」
「謝罪なされる必要はございませんよ。吾輩はしがない男爵位の家の出でして、位が低いと加護の少なさも注目されないものです。幸いにして財力だけはございましたので吾輩は学問の道に邁進することができ、こうして加護の数が関係ない世界で生きております」
「加護の数が関係ない世界……」
モールト教授の言葉に、ヴァンは目を見張った。
加護の数が関係ない世界、そんなものが存在するだなんて想像すらしなかった。
塔の精霊は人の造り出した物が好きな精霊だ。だから塔の精霊が好むのは物作りが好きな人、あるいは学問を多く修めた賢人だと言われている。
モールト教授にぴったりの加護だ。
「もちろん王配陛下のように位の高い方ですと、吾輩とは違っていろいろと気苦労がありでしょう」
モールト教授もまた、ヴァンの精霊の加護の数を感じ取っている。
ヴァンは胸の内に安堵が広がっていくのを感じた。モールト教授のことを理解者だ、と思えたからかもしれない。
「王配陛下だなんて、やめてください! モールト教授にはいろいろと教えてもらうことになるのですから、教授の方が立場が上、生徒の僕は下です! 敬語も使わなくて大丈夫です!」
「ふむ。そういうことなら、甘えさせてもらって口調を崩させてもらおうかね」
ヴァンがお願いすると彼は口調を崩してくれた。
「それでは、早速講義を開始しようか」
王配を務めるにはありとあらゆる教養が必要だ。
国内外の地理、歴史。主たる文学作品。魔術理論。古語。同盟国の言語。優雅な立ち振る舞い。テーブルマナー……エトセトラエトセトラ。
それらをヴァンは学ばなければならない。
「ではまず、精霊魔術理論の基礎から知識の程度を確認させてもらうとしよう」
「はい」
どんな質問が来るのかと、身構える。
「精霊からの加護を得ている者は、その加護の力を物体に付与して魔術道具を生成することに長けている。この類の魔術は、精霊魔術の中でも付与魔術に分類される。ここまではいいかな?」
「はい」
既知の知識だったが、木札に書き取っていく。
「付与魔術について質問しようか。精霊の加護は武器に付与すれば攻撃用の魔術を帯び、身に着ける物に付与すれば、防御用の魔術を帯びる。たとえば君の風の加護を剣に付与すれば風属性の魔術で攻撃する魔剣ができ、服にでも付与すれば風から身を守る魔術が付与される。では、花の精霊の加護によって防御魔術を付与した時の効能は?」
ヴァンはほっと息を吐いた。
思いの外簡単な質問だったからだ。簡単な質問から、ヴァンの知識レベルを測っているのだろう。
「花の精霊は花を司っている精霊というイメージがありますが、実際には生物全般を司っています。生物のなす害から身を守る……つまり防毒の効能があります」
「ご名答」
モールト教授が、満足げに頷いた。
「付け加えると、生物による毒ではなく人の化合した毒から身を守るには、塔の精霊の加護を付与する必要があります。そうですよね?」
「よく勉強しているね。では大地の精霊の防御魔術は?」
これもわかる。ヴァンは安心して口を開く。
「大地の精霊は土の精霊と混同されがちですが、土の精霊の加護とは違い土属性の魔術から身を守るのではなく、大地そのものからの攻撃から身を守る……つまり落下による衝撃を打ち消します」
「完璧だ。基礎知識については大丈夫そうだね。では、次に行こうか」
ヴァンは次々にさまざまな分野に関して、あらゆるレベルの質問を投げかけられた。
ヴァンの実力を測り終わると、次は不足している知識の詰め込みが始まった。
遂に王配教育が始まるのだ。
今日はその初日だ。大学から招聘された教授がヴァンの部屋に呼ばれて来た。
「イェレミアス・モールトと申します。未来の王配陛下とお目見えが叶い、幸甚の至りでございます」
見事なシルバーグレーの髪を後ろに撫でつけた紳士然とした初老の男が、腰を折って恭しく挨拶する。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
ヴァンもお辞儀をし返しながらも、目が点になってしまう。
モールト教授の周囲には、一種類の精霊の気配しか感じられなかったからだ。
「そう、吾輩を加護する精霊は塔の精霊一つのみでございます」
驚きの視線を感じ取ってか、彼はにこりと目を細めた。
「も、申し訳ありません! 貴族の方で加護が一つの方は、珍しくて……!」
「謝罪なされる必要はございませんよ。吾輩はしがない男爵位の家の出でして、位が低いと加護の少なさも注目されないものです。幸いにして財力だけはございましたので吾輩は学問の道に邁進することができ、こうして加護の数が関係ない世界で生きております」
「加護の数が関係ない世界……」
モールト教授の言葉に、ヴァンは目を見張った。
加護の数が関係ない世界、そんなものが存在するだなんて想像すらしなかった。
塔の精霊は人の造り出した物が好きな精霊だ。だから塔の精霊が好むのは物作りが好きな人、あるいは学問を多く修めた賢人だと言われている。
モールト教授にぴったりの加護だ。
「もちろん王配陛下のように位の高い方ですと、吾輩とは違っていろいろと気苦労がありでしょう」
モールト教授もまた、ヴァンの精霊の加護の数を感じ取っている。
ヴァンは胸の内に安堵が広がっていくのを感じた。モールト教授のことを理解者だ、と思えたからかもしれない。
「王配陛下だなんて、やめてください! モールト教授にはいろいろと教えてもらうことになるのですから、教授の方が立場が上、生徒の僕は下です! 敬語も使わなくて大丈夫です!」
「ふむ。そういうことなら、甘えさせてもらって口調を崩させてもらおうかね」
ヴァンがお願いすると彼は口調を崩してくれた。
「それでは、早速講義を開始しようか」
王配を務めるにはありとあらゆる教養が必要だ。
国内外の地理、歴史。主たる文学作品。魔術理論。古語。同盟国の言語。優雅な立ち振る舞い。テーブルマナー……エトセトラエトセトラ。
それらをヴァンは学ばなければならない。
「ではまず、精霊魔術理論の基礎から知識の程度を確認させてもらうとしよう」
「はい」
どんな質問が来るのかと、身構える。
「精霊からの加護を得ている者は、その加護の力を物体に付与して魔術道具を生成することに長けている。この類の魔術は、精霊魔術の中でも付与魔術に分類される。ここまではいいかな?」
「はい」
既知の知識だったが、木札に書き取っていく。
「付与魔術について質問しようか。精霊の加護は武器に付与すれば攻撃用の魔術を帯び、身に着ける物に付与すれば、防御用の魔術を帯びる。たとえば君の風の加護を剣に付与すれば風属性の魔術で攻撃する魔剣ができ、服にでも付与すれば風から身を守る魔術が付与される。では、花の精霊の加護によって防御魔術を付与した時の効能は?」
ヴァンはほっと息を吐いた。
思いの外簡単な質問だったからだ。簡単な質問から、ヴァンの知識レベルを測っているのだろう。
「花の精霊は花を司っている精霊というイメージがありますが、実際には生物全般を司っています。生物のなす害から身を守る……つまり防毒の効能があります」
「ご名答」
モールト教授が、満足げに頷いた。
「付け加えると、生物による毒ではなく人の化合した毒から身を守るには、塔の精霊の加護を付与する必要があります。そうですよね?」
「よく勉強しているね。では大地の精霊の防御魔術は?」
これもわかる。ヴァンは安心して口を開く。
「大地の精霊は土の精霊と混同されがちですが、土の精霊の加護とは違い土属性の魔術から身を守るのではなく、大地そのものからの攻撃から身を守る……つまり落下による衝撃を打ち消します」
「完璧だ。基礎知識については大丈夫そうだね。では、次に行こうか」
ヴァンは次々にさまざまな分野に関して、あらゆるレベルの質問を投げかけられた。
ヴァンの実力を測り終わると、次は不足している知識の詰め込みが始まった。
286
お気に入りに追加
3,280
あなたにおすすめの小説
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話
屑籠
BL
サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。
彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。
そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。
さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

ゲーム世界の貴族A(=俺)
猫宮乾
BL
妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません
冨士原のもち
BL
前世でやっていたゲームに酷似した世界。
美貌も相まって異名をつけられるほど強くなったミチハは、人生がつまらなくなった。
そんな時、才能の塊のようなエンを見つけて弟子にしようとアプローチする。
無愛想弟子×美形最強の師匠
※ムーンライトノベルズにも投稿しています

ある国の皇太子と侯爵家令息の秘め事
きよひ
BL
皇太子×侯爵家令息。
幼い頃、仲良く遊び友情を確かめ合った二人。
成長して貴族の子女が通う学園で再会し、体の関係を持つようになった。
そんな二人のある日の秘め事。
前後編、4000字ほどで完結。
Rシーンは後編。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。
くまだった
BL
新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。
金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。
貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け
ムーンさんで先行投稿してます。
感想頂けたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる