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第二十八話 王配教育開始
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ヴァンの王配教育を担当してくれる教授が決まった。
遂に王配教育が始まるのだ。
今日はその初日だ。大学から招聘された教授がヴァンの部屋に呼ばれて来た。
「イェレミアス・モールトと申します。未来の王配陛下とお目見えが叶い、幸甚の至りでございます」
見事なシルバーグレーの髪を後ろに撫でつけた紳士然とした初老の男が、腰を折って恭しく挨拶する。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
ヴァンもお辞儀をし返しながらも、目が点になってしまう。
モールト教授の周囲には、一種類の精霊の気配しか感じられなかったからだ。
「そう、吾輩を加護する精霊は塔の精霊一つのみでございます」
驚きの視線を感じ取ってか、彼はにこりと目を細めた。
「も、申し訳ありません! 貴族の方で加護が一つの方は、珍しくて……!」
「謝罪なされる必要はございませんよ。吾輩はしがない男爵位の家の出でして、位が低いと加護の少なさも注目されないものです。幸いにして財力だけはございましたので吾輩は学問の道に邁進することができ、こうして加護の数が関係ない世界で生きております」
「加護の数が関係ない世界……」
モールト教授の言葉に、ヴァンは目を見張った。
加護の数が関係ない世界、そんなものが存在するだなんて想像すらしなかった。
塔の精霊は人の造り出した物が好きな精霊だ。だから塔の精霊が好むのは物作りが好きな人、あるいは学問を多く修めた賢人だと言われている。
モールト教授にぴったりの加護だ。
「もちろん王配陛下のように位の高い方ですと、吾輩とは違っていろいろと気苦労がありでしょう」
モールト教授もまた、ヴァンの精霊の加護の数を感じ取っている。
ヴァンは胸の内に安堵が広がっていくのを感じた。モールト教授のことを理解者だ、と思えたからかもしれない。
「王配陛下だなんて、やめてください! モールト教授にはいろいろと教えてもらうことになるのですから、教授の方が立場が上、生徒の僕は下です! 敬語も使わなくて大丈夫です!」
「ふむ。そういうことなら、甘えさせてもらって口調を崩させてもらおうかね」
ヴァンがお願いすると彼は口調を崩してくれた。
「それでは、早速講義を開始しようか」
王配を務めるにはありとあらゆる教養が必要だ。
国内外の地理、歴史。主たる文学作品。魔術理論。古語。同盟国の言語。優雅な立ち振る舞い。テーブルマナー……エトセトラエトセトラ。
それらをヴァンは学ばなければならない。
「ではまず、精霊魔術理論の基礎から知識の程度を確認させてもらうとしよう」
「はい」
どんな質問が来るのかと、身構える。
「精霊からの加護を得ている者は、その加護の力を物体に付与して魔術道具を生成することに長けている。この類の魔術は、精霊魔術の中でも付与魔術に分類される。ここまではいいかな?」
「はい」
既知の知識だったが、木札に書き取っていく。
「付与魔術について質問しようか。精霊の加護は武器に付与すれば攻撃用の魔術を帯び、身に着ける物に付与すれば、防御用の魔術を帯びる。たとえば君の風の加護を剣に付与すれば風属性の魔術で攻撃する魔剣ができ、服にでも付与すれば風から身を守る魔術が付与される。では、花の精霊の加護によって防御魔術を付与した時の効能は?」
ヴァンはほっと息を吐いた。
思いの外簡単な質問だったからだ。簡単な質問から、ヴァンの知識レベルを測っているのだろう。
「花の精霊は花を司っている精霊というイメージがありますが、実際には生物全般を司っています。生物のなす害から身を守る……つまり防毒の効能があります」
「ご名答」
モールト教授が、満足げに頷いた。
「付け加えると、生物による毒ではなく人の化合した毒から身を守るには、塔の精霊の加護を付与する必要があります。そうですよね?」
「よく勉強しているね。では大地の精霊の防御魔術は?」
これもわかる。ヴァンは安心して口を開く。
「大地の精霊は土の精霊と混同されがちですが、土の精霊の加護とは違い土属性の魔術から身を守るのではなく、大地そのものからの攻撃から身を守る……つまり落下による衝撃を打ち消します」
「完璧だ。基礎知識については大丈夫そうだね。では、次に行こうか」
ヴァンは次々にさまざまな分野に関して、あらゆるレベルの質問を投げかけられた。
ヴァンの実力を測り終わると、次は不足している知識の詰め込みが始まった。
遂に王配教育が始まるのだ。
今日はその初日だ。大学から招聘された教授がヴァンの部屋に呼ばれて来た。
「イェレミアス・モールトと申します。未来の王配陛下とお目見えが叶い、幸甚の至りでございます」
見事なシルバーグレーの髪を後ろに撫でつけた紳士然とした初老の男が、腰を折って恭しく挨拶する。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」
ヴァンもお辞儀をし返しながらも、目が点になってしまう。
モールト教授の周囲には、一種類の精霊の気配しか感じられなかったからだ。
「そう、吾輩を加護する精霊は塔の精霊一つのみでございます」
驚きの視線を感じ取ってか、彼はにこりと目を細めた。
「も、申し訳ありません! 貴族の方で加護が一つの方は、珍しくて……!」
「謝罪なされる必要はございませんよ。吾輩はしがない男爵位の家の出でして、位が低いと加護の少なさも注目されないものです。幸いにして財力だけはございましたので吾輩は学問の道に邁進することができ、こうして加護の数が関係ない世界で生きております」
「加護の数が関係ない世界……」
モールト教授の言葉に、ヴァンは目を見張った。
加護の数が関係ない世界、そんなものが存在するだなんて想像すらしなかった。
塔の精霊は人の造り出した物が好きな精霊だ。だから塔の精霊が好むのは物作りが好きな人、あるいは学問を多く修めた賢人だと言われている。
モールト教授にぴったりの加護だ。
「もちろん王配陛下のように位の高い方ですと、吾輩とは違っていろいろと気苦労がありでしょう」
モールト教授もまた、ヴァンの精霊の加護の数を感じ取っている。
ヴァンは胸の内に安堵が広がっていくのを感じた。モールト教授のことを理解者だ、と思えたからかもしれない。
「王配陛下だなんて、やめてください! モールト教授にはいろいろと教えてもらうことになるのですから、教授の方が立場が上、生徒の僕は下です! 敬語も使わなくて大丈夫です!」
「ふむ。そういうことなら、甘えさせてもらって口調を崩させてもらおうかね」
ヴァンがお願いすると彼は口調を崩してくれた。
「それでは、早速講義を開始しようか」
王配を務めるにはありとあらゆる教養が必要だ。
国内外の地理、歴史。主たる文学作品。魔術理論。古語。同盟国の言語。優雅な立ち振る舞い。テーブルマナー……エトセトラエトセトラ。
それらをヴァンは学ばなければならない。
「ではまず、精霊魔術理論の基礎から知識の程度を確認させてもらうとしよう」
「はい」
どんな質問が来るのかと、身構える。
「精霊からの加護を得ている者は、その加護の力を物体に付与して魔術道具を生成することに長けている。この類の魔術は、精霊魔術の中でも付与魔術に分類される。ここまではいいかな?」
「はい」
既知の知識だったが、木札に書き取っていく。
「付与魔術について質問しようか。精霊の加護は武器に付与すれば攻撃用の魔術を帯び、身に着ける物に付与すれば、防御用の魔術を帯びる。たとえば君の風の加護を剣に付与すれば風属性の魔術で攻撃する魔剣ができ、服にでも付与すれば風から身を守る魔術が付与される。では、花の精霊の加護によって防御魔術を付与した時の効能は?」
ヴァンはほっと息を吐いた。
思いの外簡単な質問だったからだ。簡単な質問から、ヴァンの知識レベルを測っているのだろう。
「花の精霊は花を司っている精霊というイメージがありますが、実際には生物全般を司っています。生物のなす害から身を守る……つまり防毒の効能があります」
「ご名答」
モールト教授が、満足げに頷いた。
「付け加えると、生物による毒ではなく人の化合した毒から身を守るには、塔の精霊の加護を付与する必要があります。そうですよね?」
「よく勉強しているね。では大地の精霊の防御魔術は?」
これもわかる。ヴァンは安心して口を開く。
「大地の精霊は土の精霊と混同されがちですが、土の精霊の加護とは違い土属性の魔術から身を守るのではなく、大地そのものからの攻撃から身を守る……つまり落下による衝撃を打ち消します」
「完璧だ。基礎知識については大丈夫そうだね。では、次に行こうか」
ヴァンは次々にさまざまな分野に関して、あらゆるレベルの質問を投げかけられた。
ヴァンの実力を測り終わると、次は不足している知識の詰め込みが始まった。
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