婚約破棄されるなり5秒で王子にプロポーズされて溺愛されてます!?

野良猫のらん

文字の大きさ
上 下
16 / 55

第十六話 当然の扱い

しおりを挟む
 赤面してしまっていること自体が恥ずかしくて、ヴァンは話題を逸らすことにした。
 
「あのっ、それより聞きたいことがあるのですけど」
「なんだい? ヴァンの聞きたいことならば、何でも答えてあげよう。大精霊の祠についてまだ聞きたいことが?」

 ヴァンは首を横に振る。
 
「そうではなくて、さっきの会話の中で出てきたことです。僕は確かに孤児院で子供たちに読み書きなどを教えていましたけれど、どうしてそれを殿下がご存知なのですか?」
 
 先ほどの国王夫妻との会話の中で出てきたことである。
 ヴァンが休日に孤児院で慈善活動を行っていたことを、どうして彼が知っているのだろうか。
 
「……」
 
 彼は笑顔のまま、すいっと顔を逸らした。
 
「殿下、答えて下さい!」
 
 ヴァンは頬を膨らませて促す。
 
「その、実を言うと諜報員に君の周辺を調査させていたのだ……その諜報員というのはフィリップのことなのだが。秘密裏に君のことを探るようなことをして、すまなかった」
 
 ギュスターヴは気まずそうに告白した。
 ずっと後方に控えてヴァンたちを見守っていたフィリップが、にこりと微笑む。彼は諜報活動も得意らしい。
 
「そうだったのですか。殿下は一方的に僕のことを知っていたのですね」
 
 新たな事実が判明したが、そうだったとしても彼がヴァンに惚れた理由は依然として明らかにはならない。別に身の周りや今までしてきたことに惚れる要素があるとは思えないからだ。
 孤児院で慈善活動している人など、いくらでもいるのではないだろうか。
 
「ギュスターヴ殿下、ヴァン様。従僕の身でありながら口を差し挟む無礼をお許し下さい」
 
 それまで静かにしていたフィリップが発言する。
 
「フィリップさん、どうしたのですか?」
「本当のところ婚約と同時にヴァン様の居を城に移すように殿下が命じたのは、その事前調査の結果がきっかけなのでございます」
「フィリップ……!」
 
 ギュスターヴが目を尖らせるが、フィリップは涼しい顔で受け流す。
 いつも笑顔のギュスターヴも、こういう表情ができるのだなとびっくりしてしまった。
 
「調査の結果、ミストラル家はヴァン様の身を預けておく場所としてはその……あまり相応しくない。殿下はそのように判断されたのでございます」
「相応しくない?」
 
 意外な言葉にきょとんとする。
 確かに婚約が決定するなり王城に越すのは急だとは思ったが、王配教育などがあるからだろうと思っていた。まさか相応しくないなんて評価が下されていたとは、露とも思わなかった。
 一体、どこが相応しくなかったというのだろう。
 
「それはそうだろう、あの家の者は全員ヴァンのことを軽んじている。夫人は茶会に出掛ければ長男を持ち上げてヴァンを貶し、当主はヴァンと目を合わせようともしない。あろうことか召使いたちまで主人に影響されて、ヴァンに気安い態度を取っている。あのようなところにいれば、ヴァンの精神にどんな悪影響が出ることか……!」
 
 ギュスターヴは眉を吊り上げ、怒りを滲ませる。
 フィリップは随分と詳しく調べ上げたらしい。ヴァンが家でどう扱われているかまで知っているなんて。
 初めてみた怒りの表情に、ヴァンは目をぱちくりとさせる。
 
「はあ、それがどうかしましたか?」
 
 ヴァンには彼がなぜ怒っているのか、理解できなかった。
 
「だって兄は、父とまったく同じく風と氷と空気の精霊に加護されていますし。僕が風の精霊からしか加護を受けていなかったせいで、母は平民と不貞でもしたのではないかと疑われたんですよ」
 
 父が自分そっくりな長兄のことばかり可愛がって兄には笑顔を見せていたことは、仕方のないことのように思われる。不貞を疑われた母が、ヴァンのことを可愛く思えなかったのも無理はない。
 
「ミストラル家は代々風の精霊の加護を受けている家系なので、僕はかろうじて父の子と認められたのです。なのでミストラル家の一員として認められただけでもありがたいし、兄の方が何においても優先されるのは当たり前のことなんです」
 
 彼に言い聞かせるように説明する。
 長男を優先するなんて、貴族社会どころか農家でも行われていることなのではないだろうか。彼はごく普遍的な事柄のどこに腹を立てているのだろう、何を考えているのか相変わらず読めない人だなとヴァンは思った。

 もちろん、自分が出来損ないでなければもう少し両親に可愛がってもらえただろうなと思う。でもそうではなかったのだから、家での扱いは当然のことなのだ。
 
「……そういうところだ。だから私は一刻も早く、君をミストラル家から引き離したかったんだ」
「はあ、そうですか」
 
 相も変わらず彼の感情が理解できず、ヴァンは首を傾げる。
 いつも人形のように笑顔を浮かべているかと思えば、変なタイミングで怒り出すのだから、変な人だ。
 こんな人のことが理解できるようになる日は、果たしてやって来るのだろうか。
 
 要領を得ないまま、ミストラル家に関する話は終了したのだった。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!

竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。 侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。 母が亡くなるまでは。 母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。 すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。 実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。 2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。

【完結】悪妻オメガの俺、離縁されたいんだけど旦那様が溺愛してくる

古井重箱
BL
【あらすじ】劣等感が強いオメガ、レムートは父から南域に嫁ぐよう命じられる。結婚相手はヴァイゼンなる偉丈夫。見知らぬ土地で、見知らぬ男と結婚するなんて嫌だ。悪妻になろう。そして離縁されて、修道士として生きていこう。そう決意したレムートは、悪妻になるべくワガママを口にするのだが、ヴァイゼンにかえって可愛らがれる事態に。「どうすれば悪妻になれるんだ!?」レムートの試練が始まる。【注記】海のように心が広い攻(25)×気難しい美人受(18)。ラブシーンありの回には*をつけます。オメガバースの一般的な解釈から外れたところがあったらごめんなさい。更新は気まぐれです。アルファポリスとムーンライトノベルズ、pixivに投稿。

異世界で王子様な先輩に溺愛されちゃってます

野良猫のらん
BL
手違いで異世界に召喚されてしまったマコトは、元の世界に戻ることもできず異世界で就職した。 得た職は冒険者ギルドの職員だった。 金髪翠眼でチャラい先輩フェリックスに苦手意識を抱くが、元の世界でマコトを散々に扱ったブラック企業の上司とは違い、彼は優しく接してくれた。 マコトはフェリックスを先輩と呼び慕うようになり、お昼を食べるにも何をするにも一緒に行動するようになった。 夜はオススメの飲食店を紹介してもらって一緒に食べにいき、お祭りにも一緒にいき、秋になったらハイキングを……ってあれ、これデートじゃない!? しかもしかも先輩は、実は王子様で……。 以前投稿した『冒険者ギルドで働いてたら親切な先輩に恋しちゃいました』の長編バージョンです。

タチですが異世界ではじめて奪われました

BL
「異世界ではじめて奪われました」の続編となります! 読まなくてもわかるようにはなっていますが気になった方は前作も読んで頂けると嬉しいです! 俺は桐生樹。21歳。平凡な大学3年生。 2年前に兄が死んでから少し荒れた生活を送っている。 丁度2年前の同じ場所で黙祷を捧げていたとき、俺の世界は一変した。 「異世界ではじめて奪われました」の主人公の弟が主役です! もちろんハルトのその後なんかも出てきます! ちょっと捻くれた性格の弟が溺愛される王道ストーリー。

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

処理中です...