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第五話 白馬の王子様
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一週間が経ち、とうとう王太子がヴァンを迎えにやってくる日が来た。
朝からメイドたちが、ヴァンの荷物の最終確認をしている。
「お坊ちゃま、こちらはいかがされますか?」
メイドの一人が指し示したのは、部屋の隅に積まれたキャンバスとイーゼルだった。
ミストラル家のメイドは未だにヴァンのことをお坊ちゃまと呼ぶ。何もできない子供のように思われているのだ。
「……もう使わないので、積まなくて大丈夫です」
「そうですね、お城でお絵描きなどしている暇などないでしょうから」
ヴァンが答えると、メイドは大きく頷いた。
そんなやり取りをしている時だった。
「お坊ちゃま、王太子殿下が参られました!」
別のメイドが急ぎ伝えに来る。
転げるように急いで家の外に出ると、白馬が引く真っ白な馬車が邸宅の前に止まっているのが見えた。
「あんなに綺麗な白馬が……」
まさに白馬の王子様だ、と頬が熱くなった。
白馬がいくら貴重な存在だといっても、王太子ならば白馬くらいいくらでも持っているだろう。だが、こうして自分が白馬で迎えられる日が来るなんて思ってもみなかった。
雪のように白い馬車から、あの王太子がゆっくりと降りてくる。今日の彼は前髪をすべて後ろに撫でつけ、長い金髪を三つ編みにして後ろに垂らし、純白の装いに身を包んでいた。まるで、一足先に花婿衣装を着込んだかのようである。
彼は慌ててまろび出てきたヴァンの姿を目にすると、にこりと目を細めた。
「……っ!」
思わず心臓が大きく鼓動するのを感じる。
着飾った彼は零れ出るような色気を纏っていた。眦の垂れた蒼い瞳に、目尻のラインとは逆の形を描く眉。甘いマスクでありながら意志の強そうな表情。改めて見るに、彼は絶世の美男子だった。
ミストラル家の門番が門を開けると、ギュスターヴは確かな足取りでヴァンの前まで歩む。
「ヴァン・ミストラル殿を、我が伴侶として迎えに上がった」
ヴァンとほぼ同時に玄関まで出てきた父を見据え、ギュスターヴははっきりと宣言した。
堂々たる態度も、白馬を引く馬車も彼のきちんとした装いも、すべて「ヴァンを尊重する」というメッセージのように感じられた。そんなに立派に扱ってもらう理由など、何一つないのに。
彼は間違いなく、ヴァンを娶るつもりなのだ。
ヴァンは、縮こまって姿を消したくなった。自分がギュスターヴに娶られるだなんて、何かの間違いだとしか思えない。
ヴァンの荷物を御者がメイドから受け取り、馬車に積んでいく。大した量ではないそれを積み終え、ギュスターヴとヴァンの二人を乗せて馬車は出発した。
朝からメイドたちが、ヴァンの荷物の最終確認をしている。
「お坊ちゃま、こちらはいかがされますか?」
メイドの一人が指し示したのは、部屋の隅に積まれたキャンバスとイーゼルだった。
ミストラル家のメイドは未だにヴァンのことをお坊ちゃまと呼ぶ。何もできない子供のように思われているのだ。
「……もう使わないので、積まなくて大丈夫です」
「そうですね、お城でお絵描きなどしている暇などないでしょうから」
ヴァンが答えると、メイドは大きく頷いた。
そんなやり取りをしている時だった。
「お坊ちゃま、王太子殿下が参られました!」
別のメイドが急ぎ伝えに来る。
転げるように急いで家の外に出ると、白馬が引く真っ白な馬車が邸宅の前に止まっているのが見えた。
「あんなに綺麗な白馬が……」
まさに白馬の王子様だ、と頬が熱くなった。
白馬がいくら貴重な存在だといっても、王太子ならば白馬くらいいくらでも持っているだろう。だが、こうして自分が白馬で迎えられる日が来るなんて思ってもみなかった。
雪のように白い馬車から、あの王太子がゆっくりと降りてくる。今日の彼は前髪をすべて後ろに撫でつけ、長い金髪を三つ編みにして後ろに垂らし、純白の装いに身を包んでいた。まるで、一足先に花婿衣装を着込んだかのようである。
彼は慌ててまろび出てきたヴァンの姿を目にすると、にこりと目を細めた。
「……っ!」
思わず心臓が大きく鼓動するのを感じる。
着飾った彼は零れ出るような色気を纏っていた。眦の垂れた蒼い瞳に、目尻のラインとは逆の形を描く眉。甘いマスクでありながら意志の強そうな表情。改めて見るに、彼は絶世の美男子だった。
ミストラル家の門番が門を開けると、ギュスターヴは確かな足取りでヴァンの前まで歩む。
「ヴァン・ミストラル殿を、我が伴侶として迎えに上がった」
ヴァンとほぼ同時に玄関まで出てきた父を見据え、ギュスターヴははっきりと宣言した。
堂々たる態度も、白馬を引く馬車も彼のきちんとした装いも、すべて「ヴァンを尊重する」というメッセージのように感じられた。そんなに立派に扱ってもらう理由など、何一つないのに。
彼は間違いなく、ヴァンを娶るつもりなのだ。
ヴァンは、縮こまって姿を消したくなった。自分がギュスターヴに娶られるだなんて、何かの間違いだとしか思えない。
ヴァンの荷物を御者がメイドから受け取り、馬車に積んでいく。大した量ではないそれを積み終え、ギュスターヴとヴァンの二人を乗せて馬車は出発した。
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